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25.ラフレシア・カーバイト⑤
目の前にいる最近入ったばかりだという侍女から、ライアン様が明日の午後にニアとお茶会をすると報告された。
この侍女は、仮面を被った男の言う“あのお方”がこの邸に潜り込ませた侍女らしい。
まだ幼さの残るその侍女は、青い顔色で小刻みに震えながら目の前に立っている。
「わかったわ。下がっていいわよ。」
そう言うと、俯いたままボソボソと失礼しますと言って部屋から出て行った。
暗い女ね。
そう思ったけど、“あのお方”とやらの駒らしいから私には関係無いけど。
でも、ライアン様が私に隠れてコソコソとあの女と会うつもりだったなんて。
でも、あなたの思うようになんてさせるものですか!
子供の頃、熱心にプロポーズしてくれたのに他の女に惚れるなんて馬鹿にしてるわ。
そう。この時の私はライアンを愛してしまっていたのだと思う。
だって、彼と並んで歩いていると誰もが羨む。その羨望の眼差しにゾクゾクするほど高揚したわ。
それに次期辺境伯の彼と結婚すれば私はその夫人。
何処からどう見ても完璧な人生が待っているのよ。
だからこのままあの女と結婚なんてさせない!
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
そして私は待ち伏せする事にした。
あの女に思い知らせてやるわ。
あなたにライアンは勿体ないって。
そして、今度は私が傷付いたライアンを慰めてあげるの。
真面目な彼は、婚約者に遠慮して私に気持ちを向けられないだけ。
婚約者がいなくなれば彼も自分の気持ちに正直になれる筈。
でも本当にここまで私が思い描いた通りに上手くいくなんて!
ほらね。やっぱり私とライアンが愛し合うのが正しいのよ。
「最後の思い出におでこにキスして。」
こんな陳腐な手に引っ掛かるなんて。
おかげで、キスしたところを見せつける事ができたわ。
△▽△▽△▽△▽△
合同訓練が始まってからは、毎日彼の隣に。
訓練に参加したと言っても、後方の安全な場所で訓練の様子を見ているだけ。
ちょっと退屈だったけど仕方ないわよね。
ただ困った事に、魔石入りの袋をあの女の荷物に紛れ込ませるつもりだったのに、中々その機会がなく今日まで持ち歩く羽目に…。
なんて思っていたら、魔獣が出たらしいわ。
こんな場所から早く離れたいのに、ライアンが前方に行くって言い出した。
え?嘘でしょ?何考えてんのよ!
けど、皆前方に行くなら私一人ここに置いて行かれるの?
冗談じゃないわ!
そう思ったけど仕方なく、嫌々ながらも一緒に移動した。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
「何よあれ……。」
ライアンと一緒に前方に移動したら、見たこともない大きさの魔獣が先ほど相手にしていたよりも強そうな魔獣達を従えている。
一気に血の気が引いた私はライアンに早く逃げようと言って彼の袖を掴んで引っ張った。
なのに、動きもせずチラリと袖を見ただけですぐに前方に視線を戻した。
一刻も早くここから逃げたい!
けれど、何処に魔獣が潜んでいるかわからない中を一人で逃げるなんて無理!
なのにライアンが信じられない言葉を口にした。
「俺もこの場に残る。」
「ライアン!!ダメよ絶対にダメ!!あなたは司令官なのよ。死ぬなんて赦されないわ!」
「だから残るんだ。タリス、彼女を頼む。」
「嫌ッ!!あなたの身に何かあったら生きていられない!!」
縋り付いてそう言ったのに私を引き剥がし、
「ラフレシアを頼む。」
そう言ってタリスに私を押し付けた。
な、何で……?
私の身を優先せず、振り向いてもくれない彼に憎しみが湧く。
そして、彼の視線の先にいるあの女、カレドニアの姿を見て魔石の存在を思い出した。
そうだわ、これを使って魔獣に襲わせれば!
助けるのが無理だとわかれば、ライアンは私と逃げてくれるし、魔獣達が魔石に引き寄せられている間に逃げる事ができる。
懐の中の皮袋の封印に手を掛け、剥がそうとした。
腕を強く引かれ、懐から封印の剥がれた皮袋が落ちる。
「…え?…」
魔獣達が私を目掛けて押し寄せてくるのが見えた。
「ヒ、ヒィーッ!!」
私の喉から引き攣れた悲鳴とも言えない音が出た。
「ラフレシア!!」
ライアン!!
彼の姿が目に入ったその時、氷を浴びせられたようなゾクッ!とした感じがした。
「ラフレシア!」
「ライアン!!」
次の瞬間、
「あ"あ"あ"ぁぁぁッ!!」
「ニアーッ!!」
彼が振り返ったのに釣られて振り返った私は、すぐ近くにいる魔獣と目が合った。
ニヤリと笑う魔獣。
その足元に、魔獣に踏みつけられた誰かが転がっていている。
ライアンの隣にモーリス卿が来ると同時に、私の肩に重みが増した。
「早く行け!」
「…。」
見ればライアンがグッタリしている。
私とタリスとで彼を抱えて逃げる羽目に…。
何で私がこんな……!!
重いのよ!
ムカつく!
でも、これでここから逃げ出せる!
逃げ出せる事に喜んだ。
そして、あの女を婚約者の座から引きずり下ろせる。
ライアンを見て、彼が自分を優先した事に口元が緩むのを抑えられなかった。
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*いつもお読みいただきありがとうございます。
*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます!
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