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27. 手紙
しおりを挟む俺がここに来てから五年が過ぎた。
だが、その間一度も手紙を出していない。
俺の婚約者でもないリンジーに手紙を出せる訳もなく、出すとしても何を書けばいいのか分からない。
俺の親兄弟には、死んだら連絡してもらうように手配してある。
だから、それでいいと思っていた。
夏ももうすぐ終わりを告げる。そして、秋になり、また冬が来る。
砦での生活なんて、それほど代わり映えするものでもない。敵が来れば戦い、追い払うだけ。
後は、村長夫妻の娘になった姉妹の様子を見に行くぐらいだ。
けれど、それも最近ではあまり行っていない。
俺の自惚れかもしれないし、キースが揶揄っているだけなのかもしれない…。
そう思っていたのに…。
いつからだろうか?リゼの俺を見る眼に恋情が宿るようになったのは…。
気付いたのは、一昨年の“豊穣祭”だった。
その年の豊穣祭は、シャロが想いを寄せている少年から誘われて祭りに出掛けてしまったと言うから、リゼと俺の二人だけで祭りに出掛けた。
最初は緊張しているだけだと思っていた。あまり眼を合わさないし、眼が合えば俯いている。
けれど、会話が途切れたり、少し離れた位置にいる時など、視線を感じて彼女の方を見れば、切なげに俺の事を見詰めていたように感じた。
それでも…気の所為だと思ったのだ。
そして去年、村長と話をしていた時に、「婚約者はいるのか?」、「心に決めた相手がいるのか?」と聞かれた。
俺は「いない。」と答えた。
リンジーの事は、“心に決めた相手”と言えなくもないが、俺にとって彼女はそれ以上の存在だったからだ。
村長は、「いない。」と答えた俺に「リゼをどう思っている?」「リゼと夫婦になるつもりはないか?」等と言われた。
曖昧な言動をして、勘違いさせたら悪いと思った俺は、「そんなつもりは無い」「そんな事は考えた事も無い。」「リゼの事は、妹としか思えない。」と、はっきり言ったつもりだった。
けれど村長は、「初めはそうでも、そのうちに情が育つ。」「毎日、二人で過ごせばそれなりの関係になるのでは?」などと言い出すようになったのだ。
そして、もうすぐ“豊穣祭”がやって来る。
リゼから誘われ、村長からは「よろしく頼む。」と言われている。
ただ、村長の妻だけは、複雑な表情をしていたのが気になった。
~~~~~
どうしたものか…と悩んでいたある日、それ は届いた。
司令官、ヨーゼフ・バーミンガムに呼ばれ、司令官室に赴いた俺は、彼から手紙を渡された。
俺の消息を尋ねる手紙と一緒に、司令官のところに届いたらしい。
その場で読みたい気持ちを抑え、大急ぎで部屋に戻って封を開けた。
取り出した便箋から、彼女の懐かしい香りがした。
胸が締め付けられ、騒めく。
思わず、彼女を抱き締めるみたいに便箋を胸に抱き締めた。
リンジー!今すぐ君に会いたい!
けれど、そんな事が出来る訳は無い。俺は彼女に拒絶されたのだから…。
彼女が王都を去ったあの日も、俺は彼女と話をするつもりだった。
なのに彼女は、俺に何も言わずに去ったのだ。
俺は、例え彼女が一生歩けなくても、結婚したかった。それが無理でも、せめて彼女の傍にずっと居たかった。
けれど、彼女は…それを許さなかった…。
それでも…諦めたくなかった。
彼女の傍に戻る為に、俺は強くなりたかったのだ。
そして、彼女の傍に戻る事が出来たならば、二度と離れない。
そう誓った。
けれど、俺は彼女からの拒絶に怯えている。そして彼女を失う事にも…。
だから、手紙を読むのが怖かった。
彼女の身に何かあったのだろうか?
それとも、誰かと結婚してしまったのだろうか?
悪い想像しか出来ない。
だが、読まない訳にはいかない事も分かっている。
意を決して、便箋に書かれた文字を眼で追う。
そこには…
“あなたに会って話したい事があるから来て欲しい。”と書かれていた。
俺は頭を悩ませた。
喜んでいいのか、悲しんでいいのか…
彼女に会える事は嬉しい。が、その後どうなるのか分からない。
あの時彼女を護れなかった事を詰られるのは覚悟の上だからいい。
拒絶される事も、なんとか耐えられるかもしれない。
問題は、二度と彼女に会えなくなる事が恐ろしいのだ。
ばくばくと心臓が、不安を煽るように嫌な音をたて、便箋を持つ手が震える。
だが、逃げたくなくて、諦めたくなくて、足掻く事に決めた。
彼女の傍に居る為に…。
俺は部屋を出ると司令官室に向かった。
~~~~~
俺は王国騎士団の警備隊に所属している訳ではなく、傭兵や平民と同じく、志願して入ったので、いつでも辞める事が出来る。
そして、砦の責任者である司令官から許可はもらった。
司令官室を出たその足で、キースの元を訪れた。
俺の話を聞いた彼は、「俺も行く!」と言うが速いか司令官室へと駆けて行った。
そんな彼の背中を、呆然と見送った。
が、我に返った俺は他にも世話になった礼と別れを言っておきたい人達の所に向かった。
その後、部屋で旅支度をしながら、司令官の言葉を思い出していた。
遠い親戚である彼の耳にも、俺がここへ来た経緯は入っていたらしく、「騎士として逃げずに立ち向かえ。」と言われた。
砦で任務に就いている仲間達には礼と別れを告げた。
後は、村長の所に行き、礼と別れを告げる事は勿論、リゼの事にもケリをつける。
そして、どんな結果になろうとも、再び彼女に会うのだ。
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