【改稿版】それでも…

雫喰 B

文字の大きさ
27 / 60

27. 手紙

しおりを挟む

    俺がここに来てから五年が過ぎた。
    だが、その間一度も手紙を出していない。
    俺の婚約者でもないリンジーに手紙を出せる訳もなく、出すとしても何を書けばいいのか分からない。

    俺の親兄弟には、死んだら連絡してもらうように手配してある。

    だから、それでいいと思っていた。

    夏ももうすぐ終わりを告げる。そして、秋になり、また冬が来る。

    砦での生活なんて、それほど代わり映えするものでもない。敵が来れば戦い、追い払うだけ。
    後は、村長夫妻の娘になった姉妹の様子を見に行くぐらいだ。

    けれど、それも最近ではあまり行っていない。
    
    俺の自惚れかもしれないし、キースが揶揄っているだけなのかもしれない…。

    そう思っていたのに…。

    いつからだろうか?リゼの俺を見る眼に恋情が宿るようになったのは…。

    気付いたのは、一昨年の“豊穣祭”だった。

    その年の豊穣祭は、シャロが想いを寄せている少年から誘われて祭りに出掛けてしまったと言うから、リゼと俺の二人だけで祭りに出掛けた。

    最初は緊張しているだけだと思っていた。あまり眼を合わさないし、眼が合えば俯いている。
    けれど、会話が途切れたり、少し離れた位置にいる時など、視線を感じて彼女の方を見れば、切なげに俺の事を見詰めていたように感じた。

    それでも…気の所為だと思ったのだ。

    そして去年、村長と話をしていた時に、「婚約者はいるのか?」、「心に決めた相手がいるのか?」と聞かれた。

    俺は「いない。」と答えた。
    リンジーの事は、“心に決めた相手”と言えなくもないが、俺にとって彼女はそれ以上の存在だったからだ。
    
    村長は、「いない。」と答えた俺に「リゼをどう思っている?」「リゼと夫婦になるつもりはないか?」等と言われた。

    曖昧な言動をして、勘違いさせたら悪いと思った俺は、「そんなつもりは無い」「そんな事は考えた事も無い。」「リゼの事は、妹としか思えない。」と、はっきり言ったつもりだった。

    けれど村長は、「初めはそうでも、そのうちに情が育つ。」「毎日、二人で過ごせばそれなりの関係になるのでは?」などと言い出すようになったのだ。

    そして、もうすぐ“豊穣祭”がやって来る。
    リゼから誘われ、村長からは「よろしく頼む。」と言われている。

    ただ、村長の妻だけは、複雑な表情をしていたのが気になった。

~~~~~

    どうしたものか…と悩んでいたある日、  は届いた。

    司令官、ヨーゼフ・バーミンガムに呼ばれ、司令官室に赴いた俺は、彼から手紙を渡された。

    俺の消息を尋ねる手紙と一緒に、司令官のところに届いたらしい。

    その場で読みたい気持ちを抑え、大急ぎで部屋に戻って封を開けた。

    取り出した便箋から、彼女の懐かしい香りがした。
    胸が締め付けられ、騒めく。
    思わず、彼女を抱き締めるみたいに便箋を胸に抱き締めた。

    リンジー!今すぐ君に会いたい!

    けれど、そんな事が出来る訳は無い。俺は彼女に拒絶されたのだから…。
    彼女が王都を去ったあの日も、俺は彼女と話をするつもりだった。

    なのに彼女は、俺に何も言わずに去ったのだ。

    俺は、例え彼女が一生歩けなくても、結婚したかった。それが無理でも、せめて彼女の傍にずっと居たかった。

    けれど、彼女は…それを許さなかった…。

    それでも…諦めたくなかった。

    彼女の傍に戻る為に、俺は強くなりたかったのだ。
    そして、彼女の傍に戻る事が出来たならば、二度と離れない。

    そう誓った。

    けれど、俺は彼女からの拒絶に怯えている。そして彼女を失う事にも…。
    だから、手紙を読むのが怖かった。

    彼女の身に何かあったのだろうか?
それとも、誰かと結婚してしまったのだろうか?

    悪い想像しか出来ない。
    だが、読まない訳にはいかない事も分かっている。
    意を決して、便箋に書かれた文字を眼で追う。

    そこには…

    “あなたに会って話したい事があるから来て欲しい。”と書かれていた。

    俺は頭を悩ませた。
    喜んでいいのか、悲しんでいいのか…
    彼女に会える事は嬉しい。が、その後なるのか分からない。
    あの時彼女を護れなかった事を詰られるのは覚悟の上だからいい。
    拒絶される事も、なんとか耐えられるかもしれない。
    問題は、二度と彼女に会えなくなる事が恐ろしいのだ。

    ばくばくと心臓が、不安を煽るように嫌な音をたて、便箋を持つ手が震える。

    だが、逃げたくなくて、諦めたくなくて、足掻く事に決めた。
    彼女の傍に居る為に…。

    俺は部屋を出ると司令官室に向かった。

~~~~~

    俺は王国騎士団の警備隊に所属している訳ではなく、傭兵や平民と同じく、志願して入ったので、いつでも辞める事が出来る。

    そして、砦の責任者である司令官から許可はもらった。
    司令官室を出たその足で、キースの元を訪れた。

    俺の話を聞いた彼は、「俺も行く!」と言うが速いか司令官室へと駆けて行った。
    そんな彼の背中を、呆然と見送った。

    が、我に返った俺は他にも世話になった礼と別れを言っておきたい人達の所に向かった。

    その後、部屋で旅支度をしながら、司令官の言葉を思い出していた。
    遠い親戚である彼の耳にも、俺がここへ来た経緯は入っていたらしく、「騎士として逃げずに立ち向かえ。」と言われた。

    砦で任務に就いている仲間達には礼と別れを告げた。
    後は、村長の所に行き、礼と別れを告げる事は勿論、リゼの事にもケリをつける。

    そして、どんな結果になろうとも、再び彼女に会うのだ。
    
    

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!

若松だんご
恋愛
「キサマとはやっていけない。婚約破棄だ。俺が愛してるのは、このマリアルナだ!」 婚約者である王子が開いたパーティ会場で。妹、マリアルナを伴って現れた王子。てっきり結婚の日取りなどを発表するのかと思っていたリューリアは、突然の婚約破棄、妹への婚約変更に驚き戸惑う。 「姉から妹への婚約変更。外聞も悪い。お前も噂に晒されて辛かろう。修道院で余生を過ごせ」 リューリアを慰めたり、憤慨することもない父。マリアルナが王子妃になることを手放しで喜んだ母。 二人は、これまでのリューリアの人生を振り回しただけでなく、これからの未来も勝手に決めて命じる。 四つ違いの妹。母によく似たかわいらしい妹が生まれ、母は姉であ、リューリアの育児を放棄した。 そんなリューリアを不憫に思ったのか、ただの厄介払いだったのか。田舎で暮らしていた祖母の元に預けられて育った。 両親から離れたことは寂しかったけれど、祖母は大切にしてくれたし、祖母の家のお隣、幼なじみのシオンと仲良く遊んで、それなりに楽しい幼少期だったのだけど。 「第二王子と結婚せよ」 十年前、またも家族の都合に振り回され、故郷となった町を離れ、祖母ともシオンとも別れ、未来の王子妃として厳しい教育を受けることになった。 好きになれそうにない相手だったけれど、未来の夫となる王子のために、王子に代わって政務をこなしていた。王子が遊び呆けていても、「男の人はそういうものだ」と文句すら言わせてもらえなかった。 そして、20歳のこの日。またも周囲の都合によって振り回され、周囲の都合によって未来まで決定されてしまった。 冗談じゃないわ。どれだけ人を振り回したら気が済むのよ、この人たち。 腹が立つけれど、どうしたらいいのかわからずに、従う道しか選べなかったリューリア。 せめて。せめて修道女として生きるなら、故郷で生きたい。 自分を大事にしてくれた祖母もいない、思い出だけが残る町。けど、そこで幼なじみのシオンに再会する。 シオンは、結婚していたけれど、奥さんが「真実の愛を見つけた」とかで、行方をくらましていて、最近ようやく離婚が成立したのだという。 真実の愛って、そんなゴロゴロ転がってるものなのかしら。そして、誰かを不幸に、悲しませないと得られないものなのかしら。 というか。真実もニセモノも、愛に真贋なんてあるのかしら。 捨てられた者同士。傷ついたもの同士。 いっしょにいて、いっしょに楽しんで。昔を思い出して。 傷を舐めあってるんじゃない。今を楽しみ、愛を、想いを育んでいるの。だって、わたしも彼も、幼い頃から相手が好きだったってこと、思い出したんだもの。 だから。 わたしたちの見つけた「真実の愛(笑)」、邪魔をしないでくださいな♡

閨から始まる拗らせ公爵の初恋

ボンボンP
恋愛
私、セシル・ルース・アロウイ伯爵令嬢は19歳で嫁ぐことになった。 何と相手は12歳年上の公爵様で再々婚の相手として⋯ 明日は結婚式なんだけど…夢の中で前世の私を見てしまった。 目が覚めても夢の中の前世は私の記憶としてしっかり残っていた。 流行りの転生というものなのか? でも私は乙女ゲームもライトノベルもほぼ接してこなかったのに! *マークは性表現があります ■マークは20年程前の過去話です side storyは本編 ■話の続きです。公爵家の話になります。 誤字が多くて、少し気になる箇所もあり現在少しずつ直しています。2025/7

処理中です...