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0.プロローグ
しおりを挟む一刻も早くこの国から離れなければ!
馬に何度も鞭を入れ、腕に俺の体とハーネスで繫いだニアを抱えて最短ルートで国境を目指す。
愛馬であるハルバードには酷な事をしている。わかってはいるが速度が落ちる度に、心の中で詫びながら何度も鞭を入れた。
だが、一刻の猶予も無い状況を考えれば仕方がない。
腕の中のニアを見るが、さっきよりも状態が悪くなっているのは明らかだった。
固く目を閉じ苦悶の表情を浮かべ、額は汗で濡れて髪の毛が張り付いている。
身の安全の為に彼女の体はシーツでぐるぐる巻きにされ所々血が滲んでおり、舌を噛まないように結び目のある布で猿轡を噛ませている。
どれ程の時間、馬を走らせていたかわからないが、今のところ追っ手の姿は見えない。
だが国境を封鎖されるのも時間の問題だろうが、その前に何としても国境を越えなければならない。
国境さえ越えれば、彼女の叔母が嫁いだフロイデン王国だ。
如何にバンデッドがアルゴン皇国の皇帝と雖も手出しできない。
軍事力や経済力では今やフロイデン王国の方が上だからだ。
バンデッドが皇位に就いてからアルゴン皇国の国力は目に見えて低下していった。
漁色家の彼は自分の周りに侍らす女漁りに勤しむばかりで国政に関しては家臣達に丸投げした結果、皇宮内は腐敗の一途を辿りあっという間に傾いた。
あまつさえ、あの女の甘言に乗り、ニアをその毒牙に掛けようと……。
あの女は、有りと有らゆる毒をニアに向けた。
中でもあの女がその人生の最後に作り出した毒は最悪だった。
そしてその毒はあの女の願いを叶える事に……。
解毒薬は無い。
ニアの顔色は悪く、更に状態が悪くなっているのが見て取れた。
時間も無い。
クソッ!
そろそろ国境の筈……。
「見えた!!」
目の前に国境の石垣が目に入る。
大人の肩ほどの高さがあるそれをニアを抱えたまま飛び越える。
「…ハルバード良くやった…ありがとう……。」
暫く進んだ後、少し速度を落とし首筋を撫でてやった。
其処からは人目につかないように馬を走らせ、山沿いの旧街道伝いに進むと山の方に向かう細い道があった。
自国でもそうだが、大抵はその道の先に猟師小屋があったりする。
なので、その細い道に入って行くと猟師小屋があった。
ハーネスを外し、ニアを背に乗せたまま馬から降りると小屋の裏手にある井戸から水を汲み上げてハルバードの鼻先に置いた。
桶に顔を突っ込んでザバザバと水を飲む愛馬の背からニアを降ろすと鍵が掛かっている小屋の扉を蹴破り中に入る。
小屋の中を見渡すと簡素なベッドがあったのでその上に彼女を寝かせると猿轡を外しその場に座り込んだ。
悪夢に魘されるように顔を顰めるニア。
息遣いは荒く指先が白くなるほど服の胸元を掴み、苦しげに時折首を左右に振る。
そんな彼女の姿を見て頭を抱えた俺に、彼女は泣きながら「お願い……し…まう前…に殺して!!」と苦しそうな息遣いの中、苦悶の表情で叫んだ。
「殺…せる訳なんて…無いだろっ!!」
俺には二つの選択肢しかなかった。
彼女の願い通り殺すか、この先愛する女から一生憎悪されるか。
答えなんて決まっている。
俺にはニアを殺すなんて無理だ。
だがもう一刻の猶予も無い。
だから……。
俺はフラフラと立ち上がりニアの方に重い足を引き摺るように歩いて行った。
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