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後悔
しおりを挟む「...せんせ、怪我してない?大丈夫?」
20分程度でシャワーから戻ってきた彼は、また私の周りをウロウロ。
「うん、大丈夫...って髪の毛ちゃんと拭かないと、風邪ひいちゃうよ?」
肩に掛けられたタオルで神崎の代わりに頭を拭いてやると、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐ様嬉しそうに口角を上げる。
「好き」
ぐぬぬ...か、かわいい...。
「っ、わかったから。さ、料理運んで。一緒に食べよ」
神崎に料理を運んで貰い、一緒に食卓を囲む。
「いただきます」
いつも豪勢な食事をしているであろう神崎に、私の料理はお気に召していただけるだろうか。
ナイフとフォークをかなり使い慣れているようで、肉を切り分ける姿はとても様になっている。
綺麗に切り分けた肉を口に運ぶ姿に、ドキドキした。
ーーー誰かに料理を振る舞うなんて、いつぶりだろう。
新婚の頃は結構作ってたっけ...、料理に凝りだしたら「私より料理上手になっちゃうじゃない!」って怒ってたな...。
そう言いながらも「美味しい」って笑ってくれた彼女が懐かしい...あの時がどれだけ幸せだったか、今更思い出しても過去に戻ることは出来ない。
「美味しい」
目の前で目を細めながら笑う彼を見て、何だか無性に涙が出そうになった。
今までどれだけ辛いことがあっても家族の前で弱音を吐くことも、涙を流すこともなかった。
離婚したことにより、両親と妻側の両親に怒鳴られて殴られたこともあった。
自分だって悲しい思いをしていたのに、そんな時でさえ床に額を押し付けて謝り、歯を食いしばって耐えた。
それなのに、彼にただ一言「美味しい」と言われただけで涙を堪えることが出来そうにないのは、どうしてだろう。
「先生...どうした?今にも泣きそうな顔して...」
わざわざ椅子を隣まで持ってきて座り直した彼は、大きな手で私の頭を撫でながら強く抱き締めてきた。
大きな身体。
いつも使ってるシャンプーの匂いと、神崎の匂いが混ざった...落ち着く香り。
「ごめん...昔のこと、思い出しちゃって...」
「そっか...」
抱き締められた状態だと、どれだけ神崎が悔しそうな顔をしていたか、見ることは出来ない。
「俺だったら先生にこんな悲しそうな顔させないのに...」
ただ、その声音や、抱き締める力の強さで「ああ、彼は本当に、私にこんな顔をさせたくないんだろうな」と思った。
身体をゆっくりと離した彼は、いつもの無表情を崩し眉尻を下げている。
君はなんて、辛そうな顔をしているんだ。
「先生、泣かないで...」
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