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甘さ
しおりを挟む「な、何故俺まで...」
狼狽える碓氷に、小さくガッツポーズをする石井、そんな碓氷と石井を視線で殺しそうな若王子。
一体何が...。
「3学年の先生が全員抜けてしまいますが、夏休み中なので大丈夫でしょう。まだ先のことですが、頭の片隅に置いといてくださいね。では、今日の会議はこれでおしまいです。お疲れさまでした」
あの、教頭...詳しくお話を聞かせて頂けないでしょうか...、あわよくばもう一度考えさせて頂けないでしょうか...。
「姫神せんせ~、一緒に修学旅行の下見に行けるの楽しみですね!」
「え...え...」
「ね!」
「はい...」
帰りの車の中、私はぶつぶつと文句を言っていた。
「なーんでよりによって3学年なのかなー、こちとら受験生を抱えてるっていうのにさー」
「断ればよかったじゃないですか」
「考え事してて聞いてなかったんだよ...気づいたらこうなってたの...」
はああ、と頭を抱え込んだ私に彼は可笑しそうに笑う。
「なんです?考え事って」
君のことだよ、なんて言えるわけが無い。
結局モヤモヤも解消されないし、修学旅行の下見にも行かなきゃいけないし...本当、憂鬱。
「もしかして昨日のこと?」
「昨日?途中からほぼ何も覚えてないよ...」
「それは残念だ。昨日の主任は可愛かったですよ...若王子先生だけのものになります!って言ってくれたし」
「嘘つくな」
オンボロアパートの駐車場に停車して貰い、シートベルトを外す。
「送ってくれてありがとう。若王子くんも、気を付けて帰るんだよ。」
鞄とジャケットを持ち助手席の扉に手をかけると、彼が私の腕を咄嗟に掴んだ。
「待って...」
振り向けば、そのままぎゅう、と抱き締められ、息をするのも忘れてしまう。
「ごめん...まだ、離れたくない...」
掠れた声が鼓膜を震わせ、彼の甘ったるい匂いに目眩がした。
若王子を振り解けない自分の甘さや、意思の弱さに、また頭を悩ませるのであった。
ーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
で...
「ありがとうございます...すみません、時間貰っちゃって...」
「全然いいよ」
何故私はこんなことをしているんだ...!!
化学準備室。
ダンボールが積み重なり、死角になった場所で膝を抱えて座る姫神 政宗35歳。
決してストーカーをしている訳でも、若王子のことが気になっている訳でもない。
なんと言ったらいいかなぁ、やっぱり女子生徒と男の先生が個室で2人はまずいだろうし?
何かあった時のための用心棒って奴?
もう一度言うが、決っっっして若王子のことが気になっている訳ではない。
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