【本編完結】ベータ育ちの無知オメガと警護アルファ

リトルグラス

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結婚式編

結婚式編:その前に

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 2度目の挑戦であり、慶介の大学人生、最後のチャンスだった司法書士試験は残念ながらダメたった。

 他の人なら、来年の大学4年の夏もまた挑むのであろうけど慶介は来年の夏はウェディングパーティがあるし、その後のヒートでは避妊薬をやめて妊娠する予定なので、慶介の司法書士試験への挑戦は今年の夏で一旦休止になる。


「けっこう、自信あったのになぁ。」

 今は、落ちた慶介の慰め飲み会をしている。
 メンバーは酒田と水瀬の伯父夫夫、吉川の5人。

「司法書士も狹き門だから、仕方ないよ。次、頑張ろうね。」

 慶介を司法書士へと焚き付けた、いや、追い立てた張本人の水瀬の伯父が慶介のグラスにサングリアを注ぎながら言った。
 サングリアは慶介のお気に入りで、今日のために自分でワインにオレンジとリンゴをたくさん漬け込んで作ったサングリアだった。「祝いの酒になるはずだったのに」と、思いながらチビリと飲んだ。


 初めての手作りながら悪くない出来栄えに気を良くしながらチビチビ飲みがグビグビ飲みになると、酒田から「1Lしか作ってないんだから大事に飲めよ。」とクギをさされた。

 慶介は酒に弱くはない。そこそこ飲める方だ。
 時間をかければこの1Lのサングリアも自分一人で飲めるだろう。とはいえ、サングリアを独り占めする気はないのだが、皆、気を使ってサングリアには手を出さない。
 酒田と吉川はビールを飲み、伯父夫夫はハイボールを飲んでいる。

「また、次。って言うけど、次はいつ挑戦できるんだよ。来年は結婚式で、その後、子どもだろ?10月のヒートで妊娠したら9ヶ月後の・・・6,7月に出産で、そのあと子育てしてたら・・・はー、絶対忘れる。無理ー。」

 責任を感じるのか酒田の表情は苦い。

 慶介はこの約2年で男オメガの妊娠と出産に対して勉強し、野本の2人目の妊娠と出産というお手本を見て恐れや忌避感はなくなった。
 けれど、子どもはやっぱり早いのでは?と思ってしまうのは、ベータ社会の感覚で「就職して、貯蓄が溜まったら結婚して、また貯金してそれから子ども」という人生設計がどうしても頭から抜けないからだろう。
 大学でベータと接する時間が長くなったから余計にベータ寄りの考えに偏ってしまうのだ。

「酒田は子ども欲しいって希望あんの?」
「ぉ、4人は欲しい・・・。」
「じゃあ、最短で5年後かぁ~。」
「5年後?!俺、28やん。そこから就職活動かよ?!」
「そのまえに司法書士試験やね。」

 ケケケと、吉川が意地悪そうに笑う。

「おや、信隆くんは6人作らせると言っていたよ?」
「オメガが2人欲しいんですって。」

 水瀬の伯父夫夫がにこやかに言うが、内容はよろしくない。
 あのクソ親父、オメガが2人産まれるまで産ませるつもりだ。絶対そうだ。


 慶介が10月には子どもを作ることになったのも信隆の意向でそうなった。
 酒田は「司法書士の試験に合格してからで良いよ。」と言ってくれたのに、信隆が「そんなものは後にしろ。」と言ってスケジュールの変更を許さなかった。


「6人?!さらに伸びたね。俺の警護、どうなんのかな?就職?常駐?」
「基本は就職だろう。司法試験受けるんだろ?受かる受からないは別にしても、信隆さんが吉川ほどの優秀なやつを遊ばせておくわけないと思うぞ。」
「やっぱそうなるよね~。シッターになりたかったなぁ。」

 吉川は本多家と並ぶバース社会の名家、吉川家の一族だ。

 吉川家はアルファ至上主義からの脱却が早かった分、一族の人数が多い。当然抱えるオメガの数も多けりゃ子どもも多いので養うために金がいるということで、吉川家の余った補佐アルファたちはベータ社会にでて「稼いで来い」と言われるらしい。
 吉川も稼ぎ手として期待されているが、本人は「ATMにはなりたくない」と遅い反抗期の真っ最中。と酒田が分析していた。


「子どもを産むのは慶介くんにしかできませんけど、子育てなら私達がするので心配はいりませんよ。」

 水瀬の伯父、貴一きいちさんの番は男オメガのつきさん。御年71歳のおじいちゃん。この家では「水瀬の伯父」と「水瀬のおじさま」で呼び分けされている。
 出産経験は1回しかないけれど、それでも、慶介にとってはオメガについての相談相手であり、慶介が歴史の勉強でのらりくらりと逃げ続けたオメガ暗黒時代を知る生きた教師。
 今は重岡と2人で家政夫の役割を担当していて、慶介の子どもが産まれた後は筆頭ベビーシッターになる予定でもある。子どもを大変楽しみにされていて、育児の勉強もされている。

「そうだよ。産むだけ産んで、子育ては僕らがして、慶介くんは社会に復帰・・・いや、出発、かな?して、好きなように生きるというのも有りなんだよ?」
「それに、仕事に遅い早いはありません。やる気と根気があれば何歳からでも働けます。」
「お、司法書士試験の最高齢合格者79歳だって、イケるイケる。若い頃に勉強したことは忘れないって年寄り達が言ってた。」

 前向きに励まされるけど、慶介の気持ちはささくれたままだ。
 ツマミのポテトサラダを乗せたクラッカーを大口開けて一口で食べる。市販のポテトサラダにブラックペッパー多めでカリッと炒めたベーコンを乗せているからジャーマンポテト感がある。

「そんなこと、言われても今年合格しておきたかったよな。憂いなく、結婚式と出産に向き合いたかったんだろ?」
「うん・・・。」

 さすが、酒田は分かってるぅ~。と茶化したかったのに、涙がにじんで鼻声で返事するだけになってしまった。
 さらに頭を撫でられたので、叩き落とすように振り払う。

「ガチ泣きするからやめろ。」
「慶介が泣いたって誰も嫌な気持ちになんかならない。面倒くさいとか思わないから泣いても大丈夫だ。」

 机に肘をついて顔を手で覆う慶介に酒田はハンカチを差し出しながら振り払われた手でもう一度頭を撫でた。
 ポタポタっと机に涙が落ちたのを慶介はサッと手で隠すように拭いたら、酒田がハンカチを突き出してきたので諦めてハンカチを顔に押し付けた。


「ほほう~?普通、アルファは番の泣き顔を見せたがらないものだけど、酒田は見せるんだなぁ。」
「ああ、こういう所で慶介が気持ちを発露できることの方が重要なんだ。だから、吉川、ーー茶化すな。」
「あ、はい。」










***

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