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ウェディングパーティ編
SS:衣装選び
しおりを挟む本多本家での結婚式が終わると、次はウェディングパーティの準備が始まる。
今日は、準備の中でも1位2位を争うメインの衣装選びをする。
まだ1月なので衣装を決めるにはやや早いのだが、結婚式での衣装選びが楽しくなかった酒田の母は、慶介のウェディングパーティの衣装選びを一緒にしたいとせがんで来た。
ダメと言っても聞き分けてくれない母親に「これ、最終的には乱入して来るわ。」と、酒田が対策に頭を悩ませていたので「別に一緒でも構わないよ。」と言ってやれば、苦渋の決断と言わんばかりの顔で謝っていた。
車に乗った瞬間から酒田の母はマシンガントークで慶介に自分が考える素敵な2人の衣装を語り、レンタルショップには一番乗りして受付の店員に自分の息子達の自慢を始める。
カウンセリングシートを作る時も慶介の隣りに座って「すみませんが、そちらの席は新郎の方に座っていただきますと助かります。」と言われてしまう有様。
好みの服を絞り込む際に、慶介がウェディングドレスのパンツタイプを除外したら「それは良くないわ。一度は着てみないと良いか悪いかがわからないでしょう?」と言って「母さんが決めないでくれ。」と酒田を怒らせた。
また、写真を見ながら好みを絞込こむ際には自分の好みから外れると「えぇ、それ素敵なのに」といちいち口をはさんできて、ついに酒田がプッツンした。
「母さん、黙ってて。」
「あら、こういうのは他の人に言われて気づくこともあるでしょう?」
「ええ、そうですねッ!でも、慶介は違うから。黙って。」
「わかったわよ。慶介さん、これ良いわよ。カラバリに青があるもの。慶介さんは青系が似合うわよね。」
「母さんッ!もぉッ、後藤さんなんとかして。」
酒田はまるで子どものように『もう一人の父』とも呼ぶ酒田の母の左腕、後藤に助けを求めた。
また、その『後藤さん』の呼び方に、ほんのちょっと「お父さん」ぽいイントネーションが入っていたのが、可愛いくて慶介はニヤける。
「はいはい、梨花子さん。追い出される前に止めましょう。もしくは、ウェディングドレスの試着をさせてもらいましょうか?」
「あら、出来るかしら?」
「ダメだと言われたら、本当にレンタルしてしまえば良いのですよ。さて、一応、旦那様に電話して聞いてみますので黙っててあげてくださいね。」
「ええ、わかったわ。」
そこからはパッタリと喋らなくなった母親に酒田はいかり肩を降ろし、慶介は「現代のオメガは無自覚にワガママ」と言うやつを初めて理解した気がした。
どうやら許可が降りたらしい酒田の母が店員に案内されて女性向けウェディングドレスの試着に行くと、他に客が居ないこともあって、シーンとした妙な静けさが残った。
ある程度の絞り込みをしたあとは実際に試着だ。
同性婚にも対応していると謳っているショップなので新郎衣装が種類豊富で華やかさがあり、慶介はどれを着てもよく似合っていた。
ところが、酒田がどれを着てもいまいちなのだ。冗談で紋付袴を着たら一番似合っていたので、和装にするべきか?と諦めムードになった時、一瞬、席を外していた永井がスーツの入った袋を持って現れた。
「これは俺の私物のスーツだ。着てみろ。」
少しお洒落な生地のスーツだった。
たしか、前のオリンピックで金メダルを取った時、パーティのお呼ばれで着ていたような記憶がある。
試着室から出てきた酒田を見たら永井の言わんとしたことがわかる気がした。
「あ、ちゃんと似合ってんね~。」
「はぅ、勇也かっけぇ。」
「ふーん・・・肩周りが余ってるし、腹回りはちょっとキツイか。あとは、まぁ、丈がダボつくのは当たり前か。4cmくらい折ってみろ。」
永井は悪い点ばかり指摘してそう言うがさっきまで試着していた、「野暮ったい」か「パツパツ」だったものに比べればスッキリと体にフィットした今のスーツは格段に差を感じるカッコ良さだ。
「これは?」
「スポーツ選手とか体格が良い人向けの店でオーダーしたやつだ。本多さんと水瀬さんも同じ店でオーダーしてる。たしかこのメーカー、タキシードとモーニングも作ってるはずだから、オーダーしろ。」
「それ、ここに来る前に言って欲しかったんだが?」
「お揃いが良いとか言ってた慶介を納得づくで諦めさせるためだ。と、言うわけで、慶介。諦めがついたか?勇也に似合うのは黒のタキシードだよ。よし、次は慶介の服選ぶぞ。」
お揃いに同じ黒のタキシードを着て2人並んだらどこぞのスタッフに見えたし、白のタキシードでは華やかさが足りない。華やかさのある別のタキシードを着ても、いまいちペア感が足りない。と悩んでいたら、酒田の母親が試着遊びから帰ってきたこともあってチョイスがタキシードからウェディングパンツドレスに移行していく。
パツパツの黒のタキシードを着た酒田に並んでお似合いになる衣装を探して試着を繰り返し、結局、一同が納得したのは、胸元にレースのついたビスチェタイプに、パンツは7分丈のスキニー。それだけではシンプルな白い服であるここに、この衣装をウェディングドレスたらしめている襟付きのジャケットを羽織る。
このジャケットは腰元から布が足されて大きく広がり、裾は引きずる程に長い、後ろから見ればAラインドレスのようにも見える。
前から見たら今日も着けているゴツい八万ロックのネックガードが良く映えるカッコいい花嫁になった。
ショップの定員も「実はそのカッコいいパンツドレスを着こなすのは難しくて、使用回数まだ2回なんです。もしモデルになって撮影させてくれるなら3割引の値引きをします。」とまで言われて、これに決定か?という空気になった時、唐突に後藤さんがわざとらしく大きな声でどこかに電話をかけた。
「ネットでそちらのお店のサイトを見まして、タキシードを作っていらっしゃるとか?ーーええ、そうです。写真では黒しかありませんでしたが色は選べませんか?ーーええ、はい。ーーなるほど、デザインは選べないが布が選べるんですね。なら、白も?ーーああ、そうなんですね、検討させていただきます。ありがとうございます。失礼します。」
皆がポカーンとする中、後藤さんはにっこり笑顔を見せて、「だ、そうですよ。勇也。」と言った。
酒田が「よくわからない」と言いたげな顔をしている。まぁ、酒田以外のみんなも同じように首を傾げているのだが・・・。
すると、ニッコリ顔だった左腕は、スッと表情をなくして言った。
「勇也、欲を出すなら番持ちらしく強引に傲慢さを出しなさい。さっきから鼻の下を伸ばすばかりで、ろくすっぽ番を褒めも煽てもしない。周りの雰囲気で決めさせるような主体性のない欲なら、番の望むようにさせるのが度量というものでしょう。補佐に徹するか、番持ちらしくなるか、どっちかにしなさい。」
「・・・はい。」
唐突な説教に慶介は意味を理解できなかったが、永井は「その通りだ。」と言わんばかりに顎をやや上げて酒田を見下ろし、吉川も腕を組み「うんうん。」とうなずく。
その中、酒田の母は微笑みを絶やさない。
「慶介、ごめん。どうしたいか教えてくれ。」
休憩スペースで慶介は酒田と2人だけで話し合った。
そして、出した結論は、タキシードをオーダーメイドしてお揃いで着ることにした。
後日、オーダーメイドスーツの店に行った。
流石に今度は、酒田の母はいない。
店員とよくよく相談して、試着も重ね、決まった衣装は、酒田が瑠璃紺色のタキシードに同色のシルクのカマーバンド。
慶介は白のタキシードに薄群青色の蝶ネクタイとカマーバンド調ベストにした。
仮縫いを試着して最終的なチェックをした時は、その出来栄えに感動した。
正統派タキシードよりも華やかさを足したデザインで、白が似合わなかった酒田の色を黒ではなく瑠璃紺色にして慶介の小物の青色系統を揃えたことからペア感もしっかりと出て、なかなかの一品である。
たった一日しか着ないのでもったいない気もするが、あの時、諦めてウェディングパンツドレスにしなくて良かった。と心から思いつつ、後藤さんに感謝した。
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