妖精王の祝福は男性妊娠〜聖紋に咲く花は愛で色づく〜

リトルグラス

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19 ルール

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 玄関でアレクレットの父を見送り、鍵を締めて振り返ったクラウディオは『うーん、困った』と言いたげな顔をしていた。

「どうかした?」
「・・・シングルで子どもを作る計画、父親には話してないんだな」
「そんなの無理だよ。気持ちは理解してくれるだろうけど、子どもを作る前の今だったら流石に止められる」
「そりゃそうだよな・・・」

 『う』に濁点が着いたような声を上げながら、のそのそと廊下を歩くクラウディオ。まるで必要経費が予算を超えてしまったために金策を考えているような姿に見えた。
 何か困ったことがあるなら相談してほしくて『僕に出来ることある?』と尋ねたが『じゃあ、コーヒー淹れて』とあしらわれてしまった。
 ソファに頭まで預けてもたれ、深い溜め息をつく様子から考え事に集中させてあげようと思い、インスタントではなくドリッパーでコーヒーを入れて出したら『香りがぜんぜん違う』と眉間からシワが消えた。


 買い物デートの計画もあったが、今日までの2週間はクラウディオが片付けで忙しく時間を作れなかったので、結局デートはしていないし、同棲生活のルール作りも出来ていない。
 先ほど聞かされた父からのアドバイスを参考に二人は話し合いをした。

 まず、揉め事の一番であるお金のルールは、この家がクラウディオの実家であることから家賃が不要な分、生活費などの共同利用分は共通口座に30万づつ入れて、その金額や使い方については細かく文句を言わない、とした。
 次に掃除の当番と分担は、ゴミ収集日の把握やゴミを集める作業などを含むゴミ出しはクラウディオ、掃除は最低でも週に一回アレクレットが書斎を除く全てを担当することになり、気になった場所はその都度、気になった人がやる。ということになった。
 そのほか、ネットで『ルームシェアするなら決めるべきルール』を参考に、貴重品はダイヤル式ボックスで保管しよう。物の貸し借りはしない。各自室には不必要に出入りしない。家で酒を飲まない。などの細かいルールを決めていく。

「あと、決めておくべきルールは、来客か。とりあえず、人を呼ぶのは無しにして欲しい。泊めるのも」
「あ、もしかして父さんが来たのもダメだった・・・?」
「いや、あれは引越し作業で来てくれたわけだし。そういうのじゃなくて、友達を呼んで遊ぶとか、そういうの」
「僕の父さんが尋ねてくるのは、セーフ?」
「毎週来るとかはちょっと・・・月に一回程度で、長居をしなければって感じかな。聞くってことは、何かあるのか?」
「ううん。もう一人の父さんが職場で貰った野菜とか果物を持って来ることがあるんだ」
「そういうのはいいよ。俺も、研究仲間とかが急に荷物取りに来る事があると思う」
「オッケー」

 クラウディオがキーボードを叩き、決まったことや話した内容を文字として記録する。のちのち、言った・言わないの議論になったときのためである。

「アレクレットは何か希望ないのか?」
「僕、自炊したいんだよねぇ。一人暮らしの時は張り合いがなくてやめちゃったけど、料理するのは嫌いじゃないし、外食の味ってやっぱり飽きちゃうから。だから、キッチン使いたいんだけど、良いかな?」

 タンッとエンターキーを叩いたクラウディオが顔を上げた。

「良いに決まってる。ってか、何でそんな事聞くんだ?」
「キッチン綺麗すぎだからだよ。僕、キッチン掃除は月に一回するかしないかだから、使い終わったらピカピカにしないといけないタイプだったらどうしようって思って・・・」
「じゃあ、キッチン掃除はアレクレットの担当で、俺にとって目に余るようなら言って、その時の掃除はアレクレットがする。ってのはどう?」

 そのルールは少し了承しかねる。汚したら汚した人が掃除をするというのは当然のルールのような気もするが、料理の恩恵はクラウディオも受けるはずなのに、と思ってしまった。でも、料理をしたいと言ったのはアレクレットなわけであるから、キッチン担当になるなら掃除も然り。

「うーん・・・じゃぁ、判定は甘めでお願いします」

 納得がいっていないアレクレットをみて、クラウディオは不満の温床になると思い、妥協点を探った。

「そのご飯ってさ、俺の分も作ってもらえたりするのか?」
「もちろん、そのつもりだけど?」

 パッと表情が明るくなったクラウディオにアレクレットは、父からされた『自分の当然と相手の当然は違う』というアドバイスの意味を理解した。
 きっとクラウディオは自分の分が用意されるとは思っていなかった。逆に言えばアレクレットは相手の了承も得ずに勝手にご飯を作ろうとしていたことになる。

「なら、食べたあとの片付けは俺がやるよ。ただ、俺、料理したことないし、コップ1つでも食洗機にかけるから、洗い方教えてくれ」
「うん!」
「キッチン掃除の頻度については様子見でいいか? 料理でキッチンがどれくらい汚れるのか知らないんだよ」
「分かった。それじゃあ、ご飯を作る日・作らない日の確認とか、要る・要らないの連絡とか決めよう。クラウディオは朝ご飯って食べる?」
「ほぼ必ず、近所のカフェでモーニング食べてる」
「もしかしなくてもクラウディオって全部外食? 食費ヤバそう・・・」
「まぁ、生活費のほとんどが食費かな? 研究所でバイトしてるけど、それだけじゃ足りなくて食費のために塾講師のバイトしてるよ」
「朝食と夕食作るだけでも食費、三分の一くらいは減ると思うよ」
「マジか。塾のバイトやめれるかな」
「塾の先生、嫌なの?」
「嫌。クソめんどくせぇ」



 そんな感じで話し合っていたら、あっという間に夜になり夕飯はデリバリーピザを食べ、アレクレットは最後に本来の目的のことを確認した。

「クラウディオ、僕らの同棲はどこをゴールにする?」
「は? どういう意味だ?」
「だって、僕らが同棲するのは結婚のためじゃなくて、聖紋を完成させるためだろ? 僕としては妊娠できたら解消かなって考えてたんだけど」
「・・・あー、それについては・・・・・・」

 クラウディオは腕を組み天井を仰いだ。
 最初は苦笑いのような表情だったのが、だんだん真剣な顔にかわり小さなため息でうつむいたあと長考タイムにはいった。
 目を閉じて深呼吸を二度三度しても終わらない様子から、アレクレットはゴミを片付けたり飲み終わったコップをサッと洗ってから食卓に戻った。
 唇を噛んだり、開いた口を再び閉じてしまったり、三度ほど言い淀んでクラウディオがやっと言葉にしたのは、

「妊娠については、一旦保留にしてもいいか? 孕ますとなったら、やっぱ、責任感じる・・・」

 すごく残念だけど、仕方がない。と思ったし、真面目に考えてくれるところには素直に好感が持てる。

「とりあえず、同棲のゴール設定は、聖紋の模様を完成させる事と色を赤くする方法を見つける事。この二つが達成できたら、再度、話し合いをさせて欲しい」
「うん・・・。あの、なんか、ごめんね。僕が──」

 クラウディオは手を上げてアレクレットの言葉を遮った。

「付き合うって言わせたのも、同棲するって言い出したのも俺だ。全部、分かった上だ。アレクレットが謝ることはない」







***


次の更新は月曜日の6:50です。










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