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懲りない男
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その少し前から 七穂からは小夜子に聞いたのか、時々メールが入るようになった。
涼はそれを無視せず目を通した。話し合いについてはなにも書かれていない。ただ、平凡な日々のことだけが短く書かれていた。
今日は同期と食事をした、とか。
先輩に叱られた、など。
ため息がこぼれた。
これを聞いてくれる誰かが彼女の傍にいてくれればいいのに、とさえ思った。
男の酷さを自分自身で思い知った。
――七穂が可哀相だとは思う。だが、もう、それだけだという事実を涼は実感した。
だから、そのか細い彼女を追い返すことは出来なかった。
付き合う前の七穂が思い起こされる。
他人に流される弱いところがある彼女。涼はそんな彼女を心配していたことを。
「話し合いに来たの」
その日、由多花が帰る前日の夕方、いきなり訪れた彼女のその言葉を涼は信じた。
確かに、彼女には納得してもらう以外なかった。
そもそも、いきなり連絡を絶った己も悪いのだ。
外に出ようとしたとき、七穂がいきなり倒れた。
「大丈夫…。貧血。少し休めば…」
「いつから!?」
「体重が急に減っちゃったからね…。中で休んでもいい…?」
涼は拒むことは出来なかった。
そのまま、結局 話し合いにはならなかった。
食事の用意をし、彼女をどこに寝かせるかで悩んだが書斎は仕事用のパソコンがあるので入れたくない。結局自分のベッドルームにした。
ベッドに横にならせ、食べやすい食事を持ってきて、今日はこのままここに泊まれと促した。
七穂は、はい、と素直に頷く。明日、小夜子に迎えに来てもらおう、と思いそのまま涼は仕事に集中した。
早朝、七穂はまだ寝ているようだった。
一仕事終え、疲れた涼は少しの間 仮眠をとるつもりでリビングのソファに横になる。
眠りは人の気配で中断された。
そこには、酷く青ざめた由多花が立っていて、いつの間にかキッチンに七穂がいた――。
……失敗したのだ、また涼は。
由多花に一瞬でも自分のことを考えていなかっただろうと言われて虚を突かれた。
取り返しのつかないことをしたのだと知った。
それでも、七穂を放ってはおけず、病院に連れて行ったら入院が必要だと言われた。
駆けつけた彼女の母親に殴られ散々になじられたが、涼はそれを当然と受け止めた。
一番堪えたのは由多花の涙だった。
二人で待ち合わせた店で食べられない、と一言 言って、彼女は泣いて席を立った。
殴られた涼の頬に手を伸ばしてくれる子だ。
傷つけられたのは自分なのに、相手のことを思いやれるような優しい子だ。
なのに、バカな涼は相変わらず、彼女に言葉を伝えられない。
ハッキリとした拒絶が怖い。
きっと、彼女はその優しさを受け止めてくれる男といるのが一番いい。
わかっていても、今日も涼は会いたいと どうしようもないメールを送る。
結局、松岡涼はいつもなにも変わらない。バカな子供のままなのだ。
愛している、という言葉を、聞いてもらえる資格もない。
それが、愚かな、松岡涼という男の所詮――すべてなのだ。
雨が降ればいいのに。
そうすれば、ひどく悲しくなって、きっとまた思い切り泣けるだろう。
そう由多花は思ったが、その日も快晴だった。
「雨不足で農家が困るんだから…」
真夏のアスファルトは残虐非道な照り返しで、由多花の顔をジリジリと焼く。
そろそろ沙菜が着くころだ、と由多花は携帯を見る。
不動産屋に寄ろうかとも思ったが、とりあえず沙菜がホテルの部屋に直接来るので、今日は泣かずに済むとも思えないから二人で食べるケーキを買いに出た。買ったケーキを手に提げて駅前に戻る。
すると、沙菜から電話が入った。ああ、着いたのかな、と思いコールに出た。
電話の向こうの沙菜の声。それは、本当に友達だと思う言葉を発した。
「ちょっと、由多花! フロントで由多花の部屋番号聞いている女の人いるんだけど、知り合い!? なに、あの人生の勝者!」
「――おう、親友。……て、ええええ!?」
小夜子さんがなんで!?
小走りにホテルに飛び込むと 本当にフロントに松岡さんの妹、小夜子さんがいた。
彼女はあの金に近い髪をショートにしていて、さらにカッコ良さに磨きをかけていた。松岡さんは彼女が男ではないことに感謝すべきだ。
由多花がそんなことをボヤッと考えていると、沙菜が先に由多花を見つけて腕を引っぱる。
「ね、誰? なんか、さっきから由多花のこと探しているみたいなんだけど…」
「あ、不審な人じゃないよ。松岡さんの妹さん」
あー、と間延びした声を上げた沙菜が彼女の気を引いたのか、彼女はすぐ由多花を見つけた。
そして、カツカツとヒールの音を響かせ 近づいてきた。
そしてその美貌の面を白くして言った。
「…由多花さん、兄がどこに行ったか知らない!?」
――は…?
……言った意味がよくわからない……。
由多花はもう一度、うすぼんやりと、はぁ? と答えた。小夜子さんは焦れたようにもう一度言う。
「だから…、兄が、また…いなくなったのよ…!」
――…ま…た?
――…ま。
――ま、
――ま つ お か あ あ あ あ あ !!
涼はそれを無視せず目を通した。話し合いについてはなにも書かれていない。ただ、平凡な日々のことだけが短く書かれていた。
今日は同期と食事をした、とか。
先輩に叱られた、など。
ため息がこぼれた。
これを聞いてくれる誰かが彼女の傍にいてくれればいいのに、とさえ思った。
男の酷さを自分自身で思い知った。
――七穂が可哀相だとは思う。だが、もう、それだけだという事実を涼は実感した。
だから、そのか細い彼女を追い返すことは出来なかった。
付き合う前の七穂が思い起こされる。
他人に流される弱いところがある彼女。涼はそんな彼女を心配していたことを。
「話し合いに来たの」
その日、由多花が帰る前日の夕方、いきなり訪れた彼女のその言葉を涼は信じた。
確かに、彼女には納得してもらう以外なかった。
そもそも、いきなり連絡を絶った己も悪いのだ。
外に出ようとしたとき、七穂がいきなり倒れた。
「大丈夫…。貧血。少し休めば…」
「いつから!?」
「体重が急に減っちゃったからね…。中で休んでもいい…?」
涼は拒むことは出来なかった。
そのまま、結局 話し合いにはならなかった。
食事の用意をし、彼女をどこに寝かせるかで悩んだが書斎は仕事用のパソコンがあるので入れたくない。結局自分のベッドルームにした。
ベッドに横にならせ、食べやすい食事を持ってきて、今日はこのままここに泊まれと促した。
七穂は、はい、と素直に頷く。明日、小夜子に迎えに来てもらおう、と思いそのまま涼は仕事に集中した。
早朝、七穂はまだ寝ているようだった。
一仕事終え、疲れた涼は少しの間 仮眠をとるつもりでリビングのソファに横になる。
眠りは人の気配で中断された。
そこには、酷く青ざめた由多花が立っていて、いつの間にかキッチンに七穂がいた――。
……失敗したのだ、また涼は。
由多花に一瞬でも自分のことを考えていなかっただろうと言われて虚を突かれた。
取り返しのつかないことをしたのだと知った。
それでも、七穂を放ってはおけず、病院に連れて行ったら入院が必要だと言われた。
駆けつけた彼女の母親に殴られ散々になじられたが、涼はそれを当然と受け止めた。
一番堪えたのは由多花の涙だった。
二人で待ち合わせた店で食べられない、と一言 言って、彼女は泣いて席を立った。
殴られた涼の頬に手を伸ばしてくれる子だ。
傷つけられたのは自分なのに、相手のことを思いやれるような優しい子だ。
なのに、バカな涼は相変わらず、彼女に言葉を伝えられない。
ハッキリとした拒絶が怖い。
きっと、彼女はその優しさを受け止めてくれる男といるのが一番いい。
わかっていても、今日も涼は会いたいと どうしようもないメールを送る。
結局、松岡涼はいつもなにも変わらない。バカな子供のままなのだ。
愛している、という言葉を、聞いてもらえる資格もない。
それが、愚かな、松岡涼という男の所詮――すべてなのだ。
雨が降ればいいのに。
そうすれば、ひどく悲しくなって、きっとまた思い切り泣けるだろう。
そう由多花は思ったが、その日も快晴だった。
「雨不足で農家が困るんだから…」
真夏のアスファルトは残虐非道な照り返しで、由多花の顔をジリジリと焼く。
そろそろ沙菜が着くころだ、と由多花は携帯を見る。
不動産屋に寄ろうかとも思ったが、とりあえず沙菜がホテルの部屋に直接来るので、今日は泣かずに済むとも思えないから二人で食べるケーキを買いに出た。買ったケーキを手に提げて駅前に戻る。
すると、沙菜から電話が入った。ああ、着いたのかな、と思いコールに出た。
電話の向こうの沙菜の声。それは、本当に友達だと思う言葉を発した。
「ちょっと、由多花! フロントで由多花の部屋番号聞いている女の人いるんだけど、知り合い!? なに、あの人生の勝者!」
「――おう、親友。……て、ええええ!?」
小夜子さんがなんで!?
小走りにホテルに飛び込むと 本当にフロントに松岡さんの妹、小夜子さんがいた。
彼女はあの金に近い髪をショートにしていて、さらにカッコ良さに磨きをかけていた。松岡さんは彼女が男ではないことに感謝すべきだ。
由多花がそんなことをボヤッと考えていると、沙菜が先に由多花を見つけて腕を引っぱる。
「ね、誰? なんか、さっきから由多花のこと探しているみたいなんだけど…」
「あ、不審な人じゃないよ。松岡さんの妹さん」
あー、と間延びした声を上げた沙菜が彼女の気を引いたのか、彼女はすぐ由多花を見つけた。
そして、カツカツとヒールの音を響かせ 近づいてきた。
そしてその美貌の面を白くして言った。
「…由多花さん、兄がどこに行ったか知らない!?」
――は…?
……言った意味がよくわからない……。
由多花はもう一度、うすぼんやりと、はぁ? と答えた。小夜子さんは焦れたようにもう一度言う。
「だから…、兄が、また…いなくなったのよ…!」
――…ま…た?
――…ま。
――ま、
――ま つ お か あ あ あ あ あ !!
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