異世界ならチハたんでも無双できる説!!

清川ダイト

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 昔、ある国に九七式中戦車という戦車があった。

 その戦車は全長5.55 m、全幅2.33 m、前高2.23 m、重量は14.8t、主砲は57mm砲で、時速38㎞で戦場を駆け回る、とある国での主力戦車であった。そして九七式中戦車は、各地の戦場で敵軍を蹂躙し、次々と敵戦車を撃破していった――

 ――はずだった――。

 時の流れは残酷で、すでに他国の戦車は九七式中戦車よりも全長が、全幅や、前高や、重量や、主砲が、速度が、そして数など全てにおいて勝っていたのだ。よって九七式中戦車は蹂躙されるのではなく、蹂躙される側となってしまったのだ。

 ある島の戦闘で、九七式中戦車が米国の戦車に総攻撃をした時があった。その時、敵陣に向けて全速突撃する九七式中戦車は乗員の技量もあってか、放った砲弾は敵戦車にほぼ百発百中で命中した。だが悲しいかな、九七式中戦車から放たれた砲弾は壁にボールを当てているかの如く弾かれた。しかし敵戦車の砲弾はいとも簡単に九七式中戦車の装甲を貫通し、破壊していった。

 この、悲しくも主力戦車である九七式中戦車の通称は【中戦車チハ】。愛称は【チハたん】である。

__________

 とある12月の初旬、俺はいつも通り仕事をこなしている。

「────っと、もう昼か」

 画面に11:20と表示されている。歳をとると時間の経過は早いようで、8:30にパソコンを起動させたのがついさっきのようだ。

 俺は松村暦矢《まつむられきや》、39歳、男、独身、会社員。そこそこ有名で頭の良い大学を卒業後から17年間、毎日与えられた仕事をこなしている。俺自身が言うのもなんだが、かなり有能で大事な人材となっていると思う。

「暦矢先輩。お疲れ様ッス!」

 隣の席から「う~ん」と体を伸ばしている、後輩の田中太郎に声を掛けられる。今年になってやっと? なのかどうか分からないが──初めての部下ができた。

 田中は今年入社してきた新入社員で、入社したての時は何を言ってもカミカミでら俺が怖かったのか──俺自身が言うのもなんだが、結構イケてる顔していると思うんだけどな……──彼が自分から声をかけてくる事はなかった。だが……

「暦矢先輩今日もラーメン食べるんすか? たまには他のも食べましょうよ~」

 入社して8ヶ月も経ったら流石に慣れたようで、今や話すのがめんどくさいぐらいずっと話すし、話しかけてくる。

 なれるって恐ろしいな~……。おかげで、家に帰っても誰も居ない生活にも慣れたよ……。

「はぁ~……」

「……? どうしたんすか? あ、もしかして仕事終わってませんでした?」

 机に散乱してる資料やらを片付けながら──若いと恋愛のチャンスあるから分からんだろ、この気持ち……──と、既に彼女持ちらしい田中に心の中で愚痴を言う。けれど、もう俺はリア充がどうとか言うような年齢じゃないし、結婚した時は作り笑顔で──いやいや……心から祝ってやろう……。

 そんな思考を巡らせつつパパパッと支度を終えて席を立ち、いまだ片付けをしている田中の肩を「トンッ」と叩いて言う。

「お前が奢ってくれるんなら、ラーメン以外食べてやるよ」

 オフィスビルから出て、向かい側にあるコンビニに向かうために横断歩道を渡る。田中は余程俺におススメの飯を食べさせたいのか、それとも自慢したいのか田中の足取りは早い。

 ──俺最近はよく自炊するようになったけど、それまではずっとコンビニ飯だったから大体わかるんだぞ!──。

 謎の対抗心を抱きつつ、俺達が横断歩道を渡っているとどこからかこんな声が聞こえてきた。

「車避けろっ……!!」

 とっさに右を見ると俺達二人にむかって車が突っ込んで来ているのが見えた。今すぐ避けないと轢かれてしまう。だが田中は左の方を見ていたらしく、反応が遅れた。

「くっ……!!」

 避けるのでは間に合わないと判断した俺は、車に背中を向ける形で田中を庇う。そして、背中に何かが触れたと感じた瞬間、すさまじい衝撃とともに俺は意識を失った。

__________

 意識が覚醒し始めた。思考も回るし、体温も暖かい。

──よかった、死んでなかった!

 きっと今、俺のいる病室には田中や親がいるだろう。おそらく俺は生死を彷徨っていたのだろうし、みんなに心配や迷惑をかけてしまっただろうから、元気に起きてやろう。

「くしゅんっ……!!」

 突然寒気に襲われくしゃみが出る。体に風が当たっているようで、それも冷房なのかとてつもなく冷たい。

 ──ここの病院は12月にもなってまだ冷房つけてるとかありえんやろと、そんな思考を巡らせていると、俺はある違和感に気づく。

 体に当たる風は、まるで直接俺の体に当たっているかの如く繊細かつ冷ややかだ。そして長くもなく短くもない俺の髪が、妙に滑らかにかつ大きく流れているようだ。そして、あるべき所に無く、ないべき所にあるのが分かってきた。風の当たり方が明らかに違うのだ。

 ──なんか物凄い嫌な予感がするっ……!

 まさか……まさか……いやそんな……と、心の中で葛藤しつつ恐る恐る目を開ける。

 分厚く傷だらけだった俺の手は、いまや可憐に美しい手になっている。それこそ女性のような可憐で細い指が集まった手……。

 その手を背中に動かすと、それはまた長く滑らかな髪がある。ろくに手入れしてない俺の髪よりも滑らかかつ柔らかく、それこそ女性のような髪……。

 視線を足に移すと、太く屈強だが毛がぼうぼうで、脱毛なんかしたこともなかった俺の足は、いまや毛は無くなり、真っ白い素肌をあらわにしている。それこそ女性のようなシュッとした足……。

 いやそれよりも先に見えたのは──ふっくら膨らんだ胸……!?

「はぁっ!?」

 驚きのあまり声に出した声音こわねも、元々そこそこ男前な低い声だったのに、今や透き通り滑らかな美しい声音こわねになっている。いや、今はそんな事を考えている場合では無いことを、素肌を撫でる風が教えてくれた。

「ふ、服きてないし……」

 幸い付近に人はいないから誰にも見られることはないのだが……。

 そういえば俺、女性の全裸姿なんか見たことなかったな……。しいていえばガキの時に妹を風呂に入れた時ぐらいだ。あの時は大変だっなぁ~。妹まだ1、2歳ぐらいだったから全く言うこと聞いてくれなくて服着せるの無茶苦茶大変だったな~……。

「………………」

 そういえば俺、なんで女になったんだ? たしか車に跳ねられて……気づいたらこんな姿に……転生したのか!?

「………………」

 どれだけ現実逃避をしても、やはり現実は変わらない。転生できたのは割と嬉しいが、転生した姿性別に問題がある。

──せめて服ぐらい用意してほしかった……。

 名も知らぬ、そして本当に存在するのかすら分からない神に文句を言いつつ、俺は今後どうするかを考える。

 とりあえずの目標として、この開放された我が身を隠す衣類を見つけなくてはならない。手に入れれるとしたら町かどこかで調達しなければならないが……、

──…………恥ずかしすぎるわ……。

 前世でも他人に自分の全裸姿見せるなんて酒飲んでてもやらないし、そもそもそんなシチュエーションなどなかった俺には(ほとんど皆そうだと思うが)かなりのハードルだ。しかしこれほどまでに緊張するだろうかというくらい、心臓がバクバクしている。おそらく今、俺の顔は真っ赤に赤面しているだろう。いや、解決策があるのでは? そうだ、別に全裸で町を徘徊する必要などないのだ。適当に木とか草とか葉っぱやらで重要区画を隠していれば──

「──ッ…………!!」

 ──いやダメだ……!! それも恥ずい……!!

 考えれば考えるほど心臓の鼓動は高まり、顔も赤くなっていく。

 どうしたんだ俺!? これくらいの事なら他人の目なんか気にせず、感情の一切ない表情で行けば簡単にすむ事ではないか! 。…………もしかしたら姿形だけでなく、心まで女に!?

「と、とりあえず周りを確認するか!」

 危うく最悪の予測をしそうになり、現実逃避的な形で周囲を確認するために歩く。

 目の前に公道のようなものがあるものの、そんな整備された道を堂々と進む胆力と精神力など無く、その道にそって森の中を進んでいく。

 左手には広い平原、右手には深い森が広がっている。肌に直接草木が触れるため、ものすごくくすぐったいしかゆい。早いとこ服を調達せねば……。

 そんなことを考えていると、素足が何かに当たった。

「いたっ……! って……なんだこれ」

 最初は木かと思ったが、全体を見た時あからさまに違うことに気づく。

「戦車!?」

 履帯に車体、砲塔に短めの砲身。あからさまに戦車である。ことに、そこそこなミリオタである俺は何の戦車かもわかる。

「なんだチハか……」

 皆のアイドルチハたんが俺の目の前にあった。まぁ対して珍しいわけでも無いし、服がない現状どうでもいいやと先を急…………、

「…………は?」

 俺は今更ながらにこの異常さに気付いた。

「な……なんで異世界に戦車あるんだ?」
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