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女性2人から1人選ぶとしたら…

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1 

アン子はいつも通り縄張りという名のスタートラインに、やや猫背で立っていた。

ケータイをいじっているわけでも、化粧直しをしてるわけでもない。

そもそもアン子はケータイを持ってない。化粧もしない。

ただ俺の事をずーっと待っているわけだ。

「オス」

と呼びかけると、黙って俺の袖を少し引っ張って歩くのが俺らの通学の中継地点だ。

俺とアン子は幼稚園から小、中、高校生までずーっとクラスも一緒だった超幼馴染。

神のサイコロは連続的な数字でも叩き出す事ができるのかって感じだ。

ちょっと驚いただろ?もし俺が志望大学を言おうものなら、鼻息荒く受験を頑張り、俺の大学に着いてくるはずだ。

まぁまだ高1だからそんなの考えてもいないけどな。

そんなわけで2人、今日もいつも通りの朝、そして道───

だったんだが。

校門のそばで男共に囲まれた女が何やら騒いでいる。

喧噪を通り抜けようと集団に混じると、囲んでいたマイルドヤンキー風な男が怒鳴り散らかしてきた。

「なんだぁおめぇ」

「お前こそ誰よ」

ヤンキー達に囲まれた女が負けじと叫ぶ。同じ制服なのに、金髪…だと?

こういうやからは脳が足りないので交渉なんて無理だ。俺に吹っ掛けてきた奴の襟首をしっかり持ち、得意の一本背負いをかました。奴は受け身も知らないので、モロに背中にダメージが入ったようだ。ヤンキー共は3人いて、1人はこいつ、1人は逃亡し、残りの1人は金髪の彼女にボコボコにされ伸びていた。

「すごーい!あんな技どうやったらできるのぉ⁉」

「ウチの家が空手道場なんだ」

金髪娘は近づくといい匂いがした。シャンプーの匂いか?まさか香水なんて付けてないよな…。アン子は俺の袖をまたつかみ、茫然と後ろに立っていた。

「目の色が違うじゃん!カラコンで変えてるの?」

「いや天然だ」

この目のせいで、俺がどれだけ苦境に立たされた事か…いや今は語るまい。

「すご~い!かっこいいね!」

金髪の目がハートとジュエルに変わっていく。

金髪ははしゃいでたが、後ろにいたアン子を見て笑顔が消え、死んだ魚のような目をした。

「そんで、後ろの座敷童ざしきわらしみたいなの誰?まさか彼女とか言わないわよね…」

アン子は完全に俺の背中に張り付いて隠れた。

「こいつはアン子…って呼んでるが本名は亜暗ああんっていうんだ。こんな名前つけた親父に蹴りかましたいが、すでにもうこの世にいない」

「ふーん。で?君の名前は?」

「俺は響介」

「私は学校イチのアイドル金城きんじょうすみれよ!金髪を生徒会に認めさせた、この実力派アイドルッ」

初めて見る不思議なポーズをしながら咆哮する金髪に対し、

「お、おう…」

としか反応出来なかった。続けて金髪娘は、

「今日からすみれと響介は特別な関係になりまーす!どや座敷童?」

アン子はただただ震えながら、今日初めての言葉を発した。

「ざしきわらしって何なのん…?」

「ぐぐれ!ぐぐれよ」

「ぐ…ぐぐるって何なん…?」

呆れ顔でツンとしたすみれは、もういいわという顔で、

「じゃあまたねオッドアイ君v」

と言って投げキッスをした。短めのスカートが揺れる。アイドル級でないと投げキッスはできないであろう今日日。

だめだ。何かまたおかしい事が起こり始めている。暗雲が脳をかき乱す。


幼稚園から小、中、高校まで毎回起こるこの想いは、メトロノームにも似たシーソーゲーム。

そこにはずっとアン子がいた。

これからの色んな事を思うと、赤い方の眼が疼き、コメカミ辺りから頭痛がしてきた。

2 

今日は朝から気分が良くなかった。そう、あの件だ。

授業が耳にはいってこない。頭痛はよく起こる。しかしアン子が頭痛薬を常備していたのでその度に飲んでいた。

そんなこんなでやっと昼になった。アン子は早く屋上へ行こうとばかりに袖を引っ張る。

毎日、屋上でアン子が作ってくれた弁当をたべるのだが…今日のはパンチが効いている。

4分の3がソーセージと肉団子、4分の1がご飯、それと申し訳程度のたくあん。

俺が焦っていると、屋上のドアが激しく開いた。例の『すみれ』とか言ってた金髪娘だ。

「オッドアイ君ー!やっと見つけたよ」

駆けつけた金髪に俺が、じと目でつぶやく。

「なんでここが分かった?」

「君のクラスメイトに聞いたわけ!」また謎のポーズを決めている。

しかし謎のポーズより、手にもってる風呂敷の方に目がいってしまう。

「これ、1流の料理人とビデオチャットして作った、超三段御前!」

風呂敷を取るとやたら分厚い3段重が出てきた。

「もちろん食べてくれるわよね?」

アン子は俺の袖を強めに引っ張りながらお弁当を差し出してくる。

すみれの豪華弁当を食べるか、アン子のいつも通りの弁当を食べるか。

悩み抜いて、頭から湯気がでてしまい、思わず立ち上がって咆哮してしまう。

「あっはは!どっちの弁当も食べてやるよ!」

2人分の拍手に見送られ、とにかくフードファイターのように俺は食いまくった。

その結果───────────

腹はパンパンになり、5時間と6時間目の記憶は飛び、放課後はトイレから出てこれなくなった。

すみれは完食したのに満足したのか次は1段にすることを約束し、アン子はトイレで心配そうに待っているのだった。

トイレで俺は色々考えた──────

朝飯は抜きで、屋上で毎日2つの弁当を平らげないといけない、多分夕食も抜きにしないとな…このどうしようもない気持ちはどういう解決へと結びつけられるのだろうか。

桜が咲くころには抜本的改革をしなきゃな。

トイレから出てきた俺にアン子が反応し、袖を引っ張りながら帰路についた。



昼。相変わらず俺は学校の屋上で、弁当2つをがっついていた。

朝食と夕食を抜いてきたので、凄く美味かった。ペロリといけた。

すみれの弁当のクオリティーが高いのは確かに認めざるをえなかった。

しかし長年アン子の弁当に舌が慣れているのも事実。

甲乙つけがたいな…

そう思いながら空の弁当箱を眺めてると、隣のすみれが

「ねぇ響介クン、『らぁいん』教えてよ!」

「はぁ?夜中寝てる時にメッセージ送ってくるんじゃないだろうな?」

「大丈夫だからv早く交換しよ!ね?」

アン子が胸元をみせながら近づいてくる。アン子は自分の弁当をモグモグしながら

「らぁいんって何なん?」

「えー!こいつスマホもってるくせに、らぁいん入れてないわけ~?」

俺がフォローする。

「アン子、スマホ持ってないんだ」

「『らぁめん』と違うん?」

「ちげーよ!!!!!!!」

すみれは思わず立ち上がった。

「あーもうホントイラつくわーこの座敷童」

そう言いながらも、らぁいんの交換をすませると

「ふふ大収穫vまたねー」

上機嫌で屋上のドアへと消えていった。

「アン子、らぁいんはメッセージを交換したり無料通話したりもできるスマホアプリなんだ」

「そうなん、うちも使いたいん!」

「そうだなぁ、じゃあ1万8千円くらいのスマホ買って、低速SIM付けてアン子にあげよう」

「本当なん?最高なん」

珍しくクネクネ踊り出す、そんなアン子の家は貧しく父が消えて母と一緒に過ごしていた。だが家賃が無い事だけは救いだ。

俺は踊りをみながらつい笑ってしまう。

そんなアン子に、やはり安息感を感じてしまうのだった。


4 

「ほら、SIM入りケータイ買ってきてやったぞ」

俺からの超スペシャルなアン子へのプレゼントだ。ちなみに俺も全く同じ機種で18000円だがキビキビ動いている。

「すごいのん!」

「横にあるココを押すと電源が入るだろ、そしたら何でも使えるアプリをダウンロードできるぞ。最初はやっぱり『らぁいん』からだ。これで無料通話とメッセージ送れるな」

アン子はただただ不思議そうにケータイを見ている。

「あと自宅にwifiルータ。電源に入れるだけのヤツな。これで自宅では高速で動くぞ」

「よくわからないけど、革命なの!」

またアン子は不思議な踊りを踊り始める。どうしてもこの踊りがツボにはいってしまう。

スマホはクセになりがちで、いきなり初めて渡してよかったのだろうかと悩ましい感覚におちいっていた時。

「らぁいん入れたの!」

素早い適応力。早速俺とアン子で連絡先を紐づける。そんな中丁度すみれからメッセージが来た。

(オッドアイ君、今どこ?)

しょうもないメッセージである。俺は返した。

「アン子の自宅」

そう書くとすみれからのメッセージが途絶えた。

「SIM代は俺がカネ出すから、普通の電話は極力さけてくれよ?」

「らぁいんバイトとか、らぁいん証券とか、色々あるのんな~」

「株の運用はお前じゃ無理だろ。バイトならいいかもしれないが…」

「ゲームまであるん!」

「やるのは自由だけど課金はしないでくれよ?俺がカネ払ってるんだからな」

「無料でやるの!」

こうしてアン子の初スマホ&無線wifiデビューは華々しく始まった。

アン子特製弁当も中学から高校まで毎日かなり食べてるから、そのお返しだ。

アン子が普通のJKになるための「お勉強」とでも言っておこう。

そうして時間も忘れるほど夢中になって、帰る頃にはすっかり夜になっていたので、ライトを付けて自転車で帰るのだった。

5 いきなりデート

夜になって夕食は抜き、風呂に入って髪を乾かしていると、俺のスマホからピロン♪とメッセ―ジが届いた。

ケータイのアン子からの写真だ。暗闇の中、アン子がドアップで映っている。正直ぞくっと来た。何なんだこれは…カメラテストでもしてるんじゃなかろうか。

そしてらぁいん通話が来る。

「なんであんな写真送ってきたんだ?びっくりしたぞ正直」

「ちゃんとアン子映ってなかったん?」

「ドアップすぎだ!もうちょっとケータイを離して撮ってくれ」

また写真が送られてくる。今度は調子いいみたいだ。ホッと安堵する。
離れてそのままスマホにれていってくれ。頼むから。

アン子の家はローン完済済みなので、家賃はなかった。

「またどこかでスマホも講座したいから、今度ファミレスでもいこうぜ」

「ファミレス…」

貧乏なアン子は言った事がなかった。ネカフェも怖くて入れない。

「でも有難うなの!ハート無限大なのん!」

「もうちょっと落ち行け。な。」

「丁度すみれからメッセージだ」

(今後2人でデートしよv座敷童は不可)

やれやれまいったなぁ。

「すみれちゃんからなの?」

「ああ…デートしてくれってさ」

「それは裏切り行為なん!許しがたい暴挙なん!」

しかしすみれとショッピングしたりご飯たべたりすることを想像すると、悪くもない。

「アン子にもプレゼント上げるから、1回だけどうしても無理か?もちろん1番はアン子だし」

「プレゼンントもらえるん?」

「ああ!服とかコスメとか色々な!」

アン子はしばらく考えたあげく、

「きょーすけとの仲は不動だと信じてる。だからいってもいいのん」 

ホッとした。すぐすみれにOKを送る。

最初のデート、どうなるかな~?

「いま超絶眠いんでアン子の部屋に泊ってもいい?」

「もちろんなん!」

そう言うとアン子は2階へ駆けていった。

6 

アン子は2階で来客用の布団を用意して待っていた。

この子は一見怯えてるようで、とても気遣いの良い子だ。

「じゃあ俺もスマホいじりながら寝るわ。サンキュー」

「ユアウェルカムなの。おやすみ」

そうして、あっという間に朝になった。今日はすみれとデートの日だ。
何を着ていけば分からないのでとりあえずネクタイだけ外して、制服姿でいいかと俺は思った。

「朝ご飯、食べないのん…?」

今日は休みの日なので朝ごはん食べてもいいだろう。

「いただきますっ!」

ご飯とみそ汁、漬物と冷やっこ。シンプルだがこれが美味い。

「ごっそさん!」

そう言って玄関まで走った。心配そうに見ているアン子だったが、

「大丈夫、何にもないよ。すみれと外歩くだけだから」

そういって俺は止めていた自転車を走らせた。


待ち合わせに行くと、すみれが帽子と綺麗なワンピース姿で、思わず見惚れてしまった。

「オッドアイ君、座敷童はいないわよね?」

「いないよ。」

「じゃあ行きましょ」

腕を組んで歩きだす。

「なんで制服なの?」

「そこは突っ込まないでくれ…」

彼女が気品あふれる口調で言った。

「今日はクレープが食べたいわ」

クレープか…周囲を見回しても見当たらない。その代わりケバブの露店があった。

「ケバブ屋があるから食おうぜ!」

「けば…なんですって?」

渡されたケバブは、すみれが見た事もないキャベツと肉が挟まっているパン?のようなもので、外側にソースがかかっている。

「これに激辛ソースかけるのがいいんだよな~」

すみれは一口頬張ってみた

「からぁーっ」

ケバブはすみれの手から滑らせて下に落っこちてしまった。

「もったいない!」

即、地面から拾って、

「はい!」

と手渡そうとしたが、

「いらないわよ、そんな辛いの」
「美味いのになぁ…」

俺がケバブを2つ食べていると、すみれはとある場所を指差し、

「あそこのショッピングモール行こうよ!」

そういうと組んでた腕を引っ張って走ると、ケバブを食べていた俺は息苦しくなりながら、モールに2人は消えていった。

その後ろに怪しい影をまといし者がいたが、2人は知るすべもなかった。

7 


俺とすみれは腕組みしながらウィンドウショッピングを楽しんでいた。

どれも綺麗だが高価で、手が出ない品ばかりだった。俺はケバブの残りを腹に入れてから、

「すみれ、悪いけど俺の財布からは買えない物ばかりだぞ?」

「私はカードで支払いするからいいの。それよりケバブ代がまだだったわね。はい千円」

俺は素直に千円受け取った。

「ああこの服いいわぁ…」

一着にすみれが見惚れている。

「どう?私に似合うと思う?」

「ちょっと大人向けな服だけど、すみれなら似合うんじゃないかな」

「ホント?じゃあ買っちゃおうかしら。両親からちゃんと貰ったクレジットカードだから問題はないとは思うけど…」

「すみれのウチは金持ちなんだな」

「両親は財産を増やす目的でポートフォリオを組んで不労所得を得ているの」

「ポート…何?まあいいや買っちゃえば?」

そしてすみれはお店に入り、すぐ戻って来た。

「買っちゃった!あとで着てる所らぁいんで送るね!」

「おう」

「あとブランド物のバッグも欲しいのよねー。うん、バッグは重要。プリガリの明るい色のバッグが欲しいの」

「それいくらするんだ?」

「35万くらいかな」

さらっとすみれは言ったが、次元が違い過ぎる。35万あればエコバッグ買うぞ俺は。

「バッグはまた今度買ってくれ。あとプルガリのサイトもあるから、そこで買えばいい」

「そうね。でも実物見るのは大事よ」

まあ言いたい事は分かる。俺もネットのフリマサイトでパンツを買ったら、Mサイズで全然着れなかった苦い思い出がある。

「そろそろランチにしましょうか。プルガリ本店のランチコースにしましょう」

「いやいやいや…待ってくれ、俺は牛丼屋か日安屋でいいんだぞ?」

「さ、もうすぐだから行きましょう。でもドレスコードがあるから、ネクタイ買ってあげるね」

何だこの感じ。もう今日は朝から昼過ぎまで、白黒の輪が頭の中でぐるぐると回っている。

怪しい影も絶賛徘徊中。

こうしてすみれとのデートは続いてゆく。

8 

俺とすみれは、プルガリのレストランで食事中だ。

コースなんだが、一口だけで終わってしまう料理ばっかり運んでくる。全然腹が満たされない。

「すみれ、いつもこんな場所で食事してるのか?」

「まぁ、気分転換に来る事がおおいわね。」

やっとメインディッシュがきた。ビーフステーキだ。思い切り口に運び、がっつく。

隣の貴婦人が俺を見て、まあなんという子でしょうと言わんばかりにハンカチで口をふさぐ。

肉を食い終わった時、入り口で何やらもめてる光景に目を配った。

「…お子様だけの来店はちょっと…」

「お子様じゃないん!高校生なの!」

近づいてみると、店員に吹っ掛けてるのはアン子だった!

「アン子、なんでここに…!」

「ずっとデート現場をついてきたの」

やれやれである。仕方がないので、すみれを呼んで店を出た。

「何でここに座敷童がいるわけ?」

すみれの態度が急変する。

「追いかけてたん。」

すみれはタクシーを呼んだ。

「あんたたちは恋人同士なわけ?今日のデートは最後でつまずいたわ。座敷童と一緒に帰ればいいじゃない」

そう言って、タクシーに乗り込み一人で行ってしまった。

「何で俺たちについて来たんだ?」

「不安だったん」

はぁ…とため息しか出なかった。

「俺らはタクシー代もないから、歩いて帰ろう」

俺とアン子は超幼馴染だ。そんなアン子を助けてあげなきゃと思い、親がやってる空手道場に入門したんだ。それはもう恋愛とはまた違った何かである。

「あそこの唐揚げ食べ放題の店に行くん!お金ならウチもってるん!」

確かに魅力的だ。しかし、

「アン子、本当にお金あるのか?」

「ウチ、今バイトしてるん」

「マジでか!どこでだ」

「怖かったけどネットカフェ。コンビニは背が低すぎて断られたん!」

「よし、じゃあ唐揚げいこうか!」

そこで2人とも腹いっぱい唐揚げを食べた。

「やっぱりアン子を守らなきゃな!」

「守ってほしいの!」

それからは寄り道もせずに帰宅した。アン子がネカフェで働いている姿を想像して思わず笑ってしまった。

9 

次の日の授業前の朝の時間。

俺はオッドアイというだけで、何人も女子たちにラァイン交換を迫られる。

人間は中身で勝負だろ!目の色違うだけで惚れられても困るので、お断りする。

俺のラァインのリストはアン子と金髪にしか教えてない。よく見ると金髪から写真が来ていた。

無駄に広い金髪の部屋の写真が送られてきた。どう反応すれば良いか分からない写真だ。

豪華な夕食の食事を写してる写真もあった。だから何?としか思えない。

「キョースケ!」

金髪が勢いよくクラスの中に入ってくる。

「見たよ」

「どうだった?」

「特に何も…」

「あんな広い部屋写してあげたんだから感謝しなさいよ!」

「望んだ写真じゃないからな…お前が何食べてるかも関心ないし」

アン子は黙って行く末をじっと眺めていた。

「まだまだ写メ送るからね!二度言うけど感謝しなさいよ!」

そう言い捨ててクラスから出ていった。周りの女子からは、学園内ナンバー1アイドルである金髪と仲むつまじいのかと思われているようだ。

「うちも写メ送ってるのん!」

アン子の写メは顔のアップだらけだが、生存確認として受け取っている。


10

「きょーすけ!また何か食べにいくの!」

一緒に登校していると、アン子が興奮気味に叫んだ。

「バイトで今月12万ももらったの!だからまたおいしい場所いくのん」

「12万っていったら大金じゃないか。待てよ日中は学校だから…夜勤してるのか?」

「夜勤なんなー」

「おい18歳未満は夜勤できねーんだぞ?いいのか?」

「内緒でバイトしてるん」

「おいおい…まあいいや、となり街にでも行って探すか」

そこへ横から黒スーツを着たヤツが足早に通り過ぎていったが、対して気にもしなかった。

教室の椅子に座ると、アン子はおいしいお店をスマホで検索している。

(もうスマホを高速で学び、使い倒してるのか…)

隣のクラスの金髪少女の所に黒スーツの男が入ってきて、何やらささやいている。

「…探偵にやらせなさい」

黒スーツの男はうなずくと、早々と教室を後にした。


休み時間もアン子は検索をしているので、

「いい店あったか?」

と投げかけてみる。

「…んじゃ」

「ん?」

「もんじゃ焼き食べ放題にいきたいん!」

「ははっ!もんじゃ焼きなら安いもんだ。俺も金出せるぜ」

「となり街に1件あるん!そこ行くのん‼」

「了解」

俺らは放課後、一端自宅に帰ってから再び合流した。

アン子はいつも通りの私服に帽子を被っている。

俺はジーパンと柔らかい長そでの黒いシャツ。

「じゃあ行こうか!」

隣駅であっと言う間に駅に到着した。

アン子がGPSを使って、スマホを見ながらもんじゃ焼きの店まで向かう。

「もんじゃの焼き方わからないん。」

「俺が教えてやるよ

もんじゃ店にはいる所を怪しい人物が写真を撮ったが、気づきもしなかった。

「まず、周囲に土手を作ってだな…真ん中に液体を流し込むんだ」

「液体が溢れちゃうの」

「多少漏れても、へらを使って慎重にだな…」

俺のもんじゃ焼き講座を経て、いい感じの所でへらで具を運び、食べてみる

「うまい!うまいの!」

「俺ももんじゃ焼きは好物だから、また来ようぜ」

飲み物はセルフになってるが、2人とも水を選んだ。

「今度はもち&牛肉入りのもんじゃにしたいの」

何とも言えない触感がクセになる。


「食べ放題だから好きなの選ぼう」

これだけたべて2人3000円だった。実にリーズナブル。

「きょすうけ、あと寄りたい所あるの」

「どこだ?」

「帽子屋。新しい帽子にしたいの」

「ああいいぜ。」

「GPSでお店も分かってるの」

これはデートではなく、意味通りお互いの買い物に付き添ってるだけ。

敵が現れたら、速攻で沈める為のボディーガードってとこだ。

帽子屋は広く、俺も1つ欲しい所だった。

「これがいいのん」

こんもりした帽子を持ってきた。今被っている帽子とよく似ている。

「新しい帽子がいいの!」

会計を済ませ店をあとにする。

「昨日言った唐揚げ食べ放題の店、また行こうなの」

確かにもんじゃはおいしいが、腹持ちが悪い。

「よしいくか!オプションでタルタルソールも付けるぜ」

その時も黒い影が何やら撮影をしていたが、全く気が付かなかった。

11 

次の日の朝。

授業前の朝から、すみれがクラスに現れて、写真を響介の机にバラまいた。

「これは…昨日の…」

アン子も見つめている。金髪は得意気に言った。

「昨日は座敷童と楽しくデートしてたみたいね」

「デートじゃない!…そういう感覚じゃない…」

「帽子も買ったりして、これがデートでなくて何なの?」

響介は弁解しようとしたが、金髪にさえぎられた。

「幼馴染はしょせん幼馴染。そこには母性本能はあっても、愛は無いわ」

痛いところを刺される。言葉を無くしてると、

「ま、あきらめてまたデートしましょうね。座敷童は死ね‼」

そう言うと教室のドアをピシャンと閉めた。

俺とアン子は茫然としていたが、アン子が少し笑いだす。

「フフ…そんなに嫉妬する事だったのん?」

「そうらしいな。写真写してるくらいだから」

「今度またもんじゃ焼きたべるん!餅チーズも餅牛肉もまだ食べて無かったの!」

「ああ。行こう」

そう言いながら考えた。幼馴染は恋愛感情に発展しないのだろうか。

幼稚園時代から、確かにお守をしている感覚で一緒にいたのは事実だ。そこには恋愛というにはまた違った感情が壁になっている。

そして1時間目の授業が始まった。

12 ジェットコースター

「オッドアイ君!またデートでもしましょうか」

「俺はアン子ともんじゃ焼き食べにいくんだぜ?」

「そんなしょうもない食べ物でなくて、もっと美味しいものを食べません?ふかひれスープとか北京ダックもいいわね」

休み時間に教室に入ってきた金髪は自信たっぷりの様子だ。

「そうだ!今度の土日を使って不二急ハイランドに行かないか?」

「え…ジェットコースターですの?」

「おや、学園イチのお嬢様には無理かなー?」

「べ、べつに平気ですけど?」

「じゃあ本当に行くか!幽霊屋敷が恐いんだこれが」

「失礼しますわ!」

金髪は青ざめて逃げ帰ってしまう。俺より机が1つ前にいたアン子も、

「不二急いきたいの!」

アン子は平気らしかった。

なんだか3人デートみたいな感じになるなぁ。まああの感じだと金髪は悩んでるはずだ。

その時はアン子と2人でジェットコースターに乗ろうじゃないか。

とりあえず今日はもんじゃ焼きを食べにいこう。

金髪はまた、黒いスーツの男を呼び出した。

「これから不二急ハイランドの下見にいくわよ。授業なんてサボってもリカバリできるから」

昼休みのお弁当タイムに今日は金髪は来なかった。まあアン子の弁当だけで問題無しだからいいけど。

こりゃよっぽどジェットコースターが苦手らしい。当日が楽しみだ。

12

今日も、昨日行ったもんじゃ焼き屋でたらふく食べていた。

「餅チーズが最高なの!」

90分食べ放題で、元をとるべく色んな種類を選んではがっついていた。

その間、会話もないので俺も無言でもんじゃを焼いていた。

そこへ金髪が店に乱入してきていた。店員や俺らもびっくりしている所に、

「不二急には絶対行かないわよ‼」

その一言だけを言いにこちらへ来たってわけか。ご苦労なことだ。

ひょっとして、今日授業をボイコットして不二急に行ってみたのもかもしれない。あの性格ならそうする可能性は高い。

アン子はアン子で夢中でもんじゃを焼いている。我関せずといった具合だ。足りないのか、2つ同時焼きしている。

不二急の件はお釈迦になりそうだ。今考えると行く人数は奇数じゃないと寂しい思いをしてしまう(2人ペアの座席が多いので)。
となると、3人で行ける場所なんてどこにも…

そんな時すみれから、らぁいんメッセージが届いた。

「グァムへ行きましょう。本当ならパラオかハワイに行きたいけど、金曜の夕方発ので月用朝に帰ってこなくちゃいけないから!」

ぼーっと見てみたが、アン子に聞いている。

「アンコ、グァムに行った事があるか?」

「ガムなら噛んだことあるのん」

南の島か…ひろい海で泳ぎたいな…しかし2人ともパスポートを持ってない。

「アン子、2人でパスポート取りに行こう」

「なんでなん?」

「日本から脱出できる証だ」

俺はラァインのメッセージで、

「俺とアン子がパスポート取るまで待ってくれ!」

と返信する。

3人で堪能する光の海!想像するだけで涼しい気分になる。

13

「何でパスポートひとつ持ってないわけ?」

金髪は授業前から神経質そうに言った。

「パスポートできるの期間は長いのよ!…まぁ待ってあげるけどね、一緒に行くんだし。」

「アン子もいくのん」

「お前は来なくてよし!」

そう言うとピリピリしながら教室を出ていった。

「アン子もパスポート取って、一緒に行こう。な?」

「南の島楽しみなん」

そう言って、いつもの謎ダンスをやっている。

先生がクラスに入ると、謎ダンスは強制終了する。

「担任が遅刻したので、1時間自習!」

生徒側は皆、歓喜に包まれた。

アンコが席を近づけさせて、

「キョースケ、お互いにクイズやるのん」

「クイズなら得意だぞ!俺からな!パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?」

…アン子は思案しながら、

「すみれが作ったパン…」

何かリアルだな…。まあいい。

「アン子の番だぞ」

「クロロホルムで人を眠らせるのか可能か?」

よくハンカチにクロロホルムを使って女性の口をふさいでるシーンをいっぱい見てる。

「イエス!」

アン子は口を3のようにさせて、

「ぶっぶぅ~~!」

「なんでだよ!」

「相当量のクロロホルムを吸引させないとダメなの~はい次」

俺は悩んだあげく
「オッドアイよりも凄いのを何という?」

「ダイクロイック・アイ」

アン子は即答で答えた。こいつは並みじゃない。次はアン子の番だ。

「お酒に睡眠薬を一錠混ぜて昏睡させることはできるか?」

う~ん難しいけど、1錠くらいなら別にヘーキじゃないのか?

「ノー!」

「ぶっぶううぅ~~3」

「えっ可能なのか?」

「ロヒプノール」だと10人中8~9人は意識を失うの」

「何でそんな事知ってるんだよ…」

「もう1回いくの!睡眠薬とお酒で自殺はできるか…」

「まてまてまってくれ‼なぜお前のクイズはそんなに暗いんだ!」

「キョースケは死にたくなったりしないのん?」

「俺はない!」

「ウチはあるの…父親が去っていった時とか…」

「忘れちまえそんな事!クズのヤツなんてよ!それより、今俺すげー腹減ってんだ。俺の弁当くれないか?」

「バレ」ないのん?」

「一番後ろだからバレないさ。さぁ早く」

「ほれ、なの」

弁当をもらい、教科書で隠しながら食べる。

相変わらずミートボール祭りである。嫌いじゃないからいいけどさ。他の栄養取らないと倒れてしまいそうだ…。

5分で食べてから、容器をアン子に返す。

「ごっそさん」

アン子は無言で弁当箱をバッグに入れた。まんざらでもない顔をしている。

「パスポートは休日はやってないからなあ。学校に遅れてもいいから申請してこようか!」

「任せるの。なんなら今日行ってもいいの…」

「今日?」

聞き返した途端、アン子は眠ってしまっていた。バイトとかけ持ちで疲れているのだろう。

そして4時限目まで顔を上げる事はなかった。

14

「ランチタ~~イム!」

すみれはなぜかタンバリンを鳴らしながら俺の教室に入って来た。

「ふぅわふぅわふうううう!」

やたら上手にタンバリンを使い鳴らしている。

「今日のランチは、うなぎ!」

「ウナギ…だと…⁉」

「さあ座敷童はほっといて屋上行きましょ」

俺はなかなか起き上がらないアン子をちょっと気にしながら、すみれの意のままに屋上へと連れていかれた。


屋上。

すみれの弁当を開けると、なんと2匹分のウナギがドーンとその迫力を見せていた。

「海外産のもんじゃないわよ、国内産天然のものだから!」

うなぎをひと口食べてみる。

「うまい!美味すぎるぞこれ!」

「もちろんよ」

すみれも自分用の弁当を開けて食べ始めた程、俺はすでに半分を食っていた。

モグモグしながら訪ねてみる。

「お前は何で『俺』なんだ?イケメンならほかにもたくさんいるだろ?」

「そうね。強さ、優しさ、フェイス、全てを備えているからよ。」

「俺は幼稚園から、小、中、高校までこんな感じだった。そして勝者はいつだってアン子だったんだ。だが…」

金髪は黙って俺の言う事を聞いている。

「アン子とは何て言うか…好きを超越してるんだ…すみれは確かにすごい。だから高校生になった俺はメトロノームのように今、感情がフラフラしてる」

「まだ高1だし、最後は本能のままに決めなさい…」

そうしてウナギの場所だけを食べた弁当を置いてきぼりにして、

「グァム楽しみだわ」

そう言ってすみれは屋上ドアを開け、去っていった。

「この弁当の残り、俺がかたずけんのかよ!」


15

クラスに戻ると、アン子はまだ寝ていた。

さすがに気になり、揺すぶってみた。

「アン子、アン子!」

やっとアン子は反応した。

「うえあ…何時間寝てたの?」

「かなりの時間寝てたぞ」

「本当なん」

「バイトで無理してるんじゃないのか?」

「…否めないの…」

「バイトのシフト、少し減らした方がいいぞ」

「…アドバイス感謝なん」

アン子はそう言うと、お昼終わりなのに弁当を食べ始めた。

「教科書で隠せよ」

黙々とミートボールを口に入れている。

何とか食べ終えたアン子は、またすぐ眠りに入ってしまった。今日はこりゃダメそうだ。だが最後の授業が終わるとすぐ目を覚まし、一緒に帰ったのであった。

16

アン子が働いてるネカフェを一度見てみたかった俺は、夜にその場所まで自転車をこいで偵察してみる事にした。

中に入ると、

「いらっしゃいませ~」

服装はスタパみたいだ。どうやらカウンターでは無いらしい。

俺は個室を選んで2階に移動したその時!

アン子が部屋から出てきた。

「よおアン子」

「なっ…何なん?」

制服を着たアン子は貴重だ。レアだ。

「どんな事してるんだ?」

アン子がモジモジしながら言った。

「帰っていったお客の部屋をかたづける仕事なん」

「それって一番大変な仕事じゃん。分かった仕事を続けろ」

そう言って俺は1階フロアに足を運んだ。

「お帰りですか~」

裏からタバコくさいお姉ちゃんがやってきた。

「おい、亜暗を仕事や色んな部分でわざと無理させたりしたら、どうなるか分かってんだろうな?」

そう言うと指をバキバキと鳴らす。

「はっハイ…!」

首もバキバキ鳴らすと、ネカフェを後にした。アン子の過去のいじめは少なくはなかった。その時は毎回、俺がそのつど盾になった。

これで少なくとも、いじめは起きないだろう。闇の中を自転車の光が煌々と流れていった。

17

俺とアン子は学校をさぼって、グァムに行くためのパスポートを作りに行っていた。

「アン子、パスポートに使う写真撮ったか?」

「まだなのん」

駅前に写真撮影のボックスを見つけたので、早速アン子の写真を撮った。

「ははっずいぶん固い表情だな」

「緊張したのん」

そして俺たちは無事パスポートを申請し、その帰り道。

「アン子、今月のバイト代いくらだった?」

「シフト減らしたから8万くらいなの」

「それでもいいな。俺もバイトするかなぁ」

「キョースケはガソリンスタンドが似合ってるの。今すぐ乙4取るの」

「乙4?資格か?」

「あ、でも18歳にならないと使えないから意味ないの」

「資格に興味ないなぁ俺は。乙4もってたとしても上がる時給は+100円くらいだろ」

でもガソリンスタンドは悪くない。今度面接に行ってみようか。

とにかくパスポート10年分取ったから、これで3人でグァムへ行ける。

アン子は…水着なんて持ってないだろうな。

俺はトランクス型のを1つ持っていたっけ。

「とにかく腹減った。唐揚げ食いにいこうか」

「唐揚げ以外の選択肢ないのん?」

「もんじゃは腹にたまらないからなぁ」

「待ってスマホで検索するのん…」

アン子はすでに俺のあげたSIMを返して、ギガ数の高いSIMを使っていた。

「ケーキ食べ放題!行きたいの!」

「ケーキぃ?」

「行くのん!」

半ば無理やり袖をつかまれて、ケーキ屋さんに向かった。

甘いものは嫌いじゃないが、お腹いっぱいまで耐えられるか疑問だ。

結局ケーキ屋さんでアン子はお腹いっぱいになるまで色んな種類のケーキをむさぼり食っていた。

「モンブランが一番なの!」

18

俺らの方から金髪のクラスに入り、パスポートの件を報告すると、

「はあぁ…なんで亜暗まで行こうとしてるの?呼んだ記憶ないんだけど?」

「アン子が行かないなら俺もいかない」

金髪は暴れたいのを必死に我慢している風だった。

「はあぁ…どうやら、しょうがないってやつね」

「じゃそういう事で」

俺らは早々とクラスから離れた。金髪は悔しそうにうなだれている。

俺のクラスに戻ると聞いてみた。

「アン子お前水着もってるのか」

「1着だけもってるん」

そう聞いて安心する。

透き通る綺麗な海で早く泳ぎたいぜ!

「今日は唐揚げ食べ放題行くん?」

「あのなあ。無駄遣いはよくないぞ?まあ金入ったら使いたい気持ちはわかるけど、ランチ2食分食ってるからな」

「別にキョースケになら、いいの」

「また食べ放題の店見つけたら、迷わず行こう!」

「さがしとくの!」

そう言うと、授業開始の音がした。

19

俺の隣のクラスにいる金髪は、今日もクラスで偉くモテていた。男女に囲まれて騒いでいる。

「すみれさん、今度浅草にあるかき氷屋いきませんか?」

「その職人を屋敷に呼んで食べさせてくれるなら、食べてもいいわよ」

「すみれさん、今彼氏とかいないんですか?」
「さぁどうかしら?」

開いたドアから、俺とアン子は眺めていた。

「すごい囲まれてるの…」

「さ、俺たちは戻って午後の授業だ」

俺たちはグァムに行くことしか今は考えてない。今週の週末に行く予定なんだが、どうも実感がわかずにいた。

一応、両親に許可は取った。アン子は母親がめったに家に帰ってこないので許可は取れずにいたが、心配すんなとだけ言った。

「パスポートは身分証明書にも使えるから、大事にするんだぞ」

「わかったの!」

俺らが教室に戻ると、謎のシャッター音がした。何だ?

「君と亜暗君はお昼に消えるけど、つきあってるのかな?」

「誰だお前」

「じょ、冗談きついなぁ。同じクラスの山田わかるかな?」

「付き合ってるとしたら、何だ?」

「うちの写真部は日々スクープ求めてるんだけど、ご理解いただけたかな?」

俺は山田のカメラを奪って言った。

「俺らを写真部に取り上げるなら、このカメラぶっ壊すからな?」

「了解したの伝わるかな?」

カメラを渡すと自分たちの席に戻った。

「素直に聞くけど、アン子の家はTVあるのか?」

「無いけど、スマホでなんでも見れるし分かるの!」

今はスマホで何でもできるし、俺もTVはあるけど見ていなかった。アン子もどっぷりスマホにはまってるようだ。

「ウチ、ネットで色んな物買ってるの」

「無駄遣いしないって言っただろ」

「グァムで使うドーナツ型の浮き輪とかも買ったのん」

「まあ、それぐらいはいいけど高価なものは買うな。約束な」

そうこう言ってるうちに、午後の授業のチャイムが鳴った。

20

グァムへ行く当日。

俺たちは軽めの荷物を手に、学校の授業中に金髪とも合流し、こっそりエスケープした

「車を校庭横につけてあるから、それに乗るわよ」

車に乗ると、黒いスーツの男がジュースのようなものを金髪に渡した。すぐに金髪は飲み始める。

「何飲んでいるんだ?」

「ハックのミルクシェーク。庶民の飲み物で数少ない、好きな飲みものの1つよ」

「あっそ」

「2人とも荷物少ないわね」

アン子は下着と水着とタオルしか荷物がなかった。俺も似たようなもんで、軽い荷物で差し支えなかった。パスポートも2人で確認し合った。

「私の荷物は車のバックに詰め込んでいるから」

2泊3日の旅行なのに、どんな荷物持ち込んでるのか。

車で無事、空港に着いた。黒服は金髪のおっきなケースを代わりに持っていた。

3人はマスク姿で広いロビーに辿り着いた。

「やっば、時間ないわ、飛行機に乗るわよ」

「飛行機初めてなん!」

アン子は久しぶりに喜んでいる。まあ俺も俺で乗るのが初めなので胸が高まっていた。

パスポートを見せ、荷物検査を終えて飛行機内に乗った。

「何で鉄のかたまりが飛べるん?」

「…なんでだろうな。分からん」

「ちょっと!なんで2人で座ってるわけぇ?チビはこっちの席よ!」

無理やりアン子を引きはがし、代わりに金髪が俺の隣に座る。アン子は不思議そうに窓を眺めていた。

金髪は俺と腕組みしながら、

「楽しみねぇ!ビーチで財布を取られなくないから、あのチビに留守番しててもらおうかしら」

「留守番は俺とアン子でローテーションする」

金髪は少しムッとしたが、腕を組んでまた上機嫌に戻った。

機内の食事も済ませ、数時間かけてグァム島に到着した3人。早速カラッとした熱さに2人は興奮していた。

「カラッとしてるから、熱くても気持ちいいなぁ」

「早速タクシーでホテルに行きましょうか」

ホテルは海のすぐ前にある豪華なホテルだった。

まんざらではない顔をした金髪は、

「1日目はビーチだけど2日目は自由行動でいきましょうか。シュノーケリングしたり、銃を売ったり、おみやげ屋を回ったり」

「本物の銃が撃てるのか」

「キョースケなら撃てるでしょうね」

俄然胸張りで金髪は続けた。

「電話連絡は、らぁいん通話にしましょうか。夜前だから、早速ホテルの部屋へゆきましょう」

部屋に入るなりアン子がベッドに飛び込んだ。

「こんなフカフカなベット初めてなの!」

「子供みたいな事しないでくれる?」

金髪はゴツイ荷物を開けて、色々と探し物をしている。

いいホテルかどうかは、ベットで分かる。

俺もベッドへ腰を沈める。なかなかいい感触だ。

「夕食があるから、いくわよ」

「明日はビーチだなぁ。楽しみだぜ」

「ウチも楽しみなん!」

夕食は肉料理と多種多様なフルーツがいっぱい並んでいる。

「フルーツばかりだな…俺は肉料理をいただくか」

アン子はパイナップルにかじりついている。金髪は色んなフルーツを少しだけ取って、上品に食べていた。

「こりゃ美味いや。あとはゆっくり寝れるな」

俺はフルーツに見向きもせず、肉料理をおかわりしまくって、満足していた。

「満足なの!」

アン子はフルーツを食べて満腹になったようだ。

「もう少し大人っぽく食べる事はできないの?全く…」

金髪はハンカチで口周りを綺麗にしていた。

部屋に戻ったあとは、アン子はスマホをいじっていた。金髪は明日に備えてすぐ眠りについた。

俺はというとベッドのせいか、なかなか眠れず右に左に身体を動かしてはみたが一行に眠れない。

しょうがなくホテルに備え付けたシャワーを浴びて気分転換し、またベッドに戻ると眠気が襲ってきた。

22

今日は、いよいよビーチに行って海水浴を楽しむ1日だ。

「もう着替えた?」

そう言う、すみれはビキニ姿で、結構攻めてる感じなので正直美しい。ナンパが心配になるほどだ。

俺はトランクスのような、特に面白くない恰好だ。

「アン子はどうだ、着替えたか?」

アン子は学校のスク水だった…胸の辺りに自分の名前が書いてある。

「ぎゃははっ何その恰好!超~受けるんだけど!」

水着が無いなら言ってくれたら買ってやるのに…。

「ドーナツ型の浮き輪で安全なの!」

確かに今も浮き輪を装着している。

「スク水はほっといて、早くビーチに行きましょう?」

「3人で行くんだ!」

俺はアン子の手を引いて、そう言った。

外は晴天で、カラっとした熱さだ。すみれはビーチパラソルを借りる為、お金を出していた。

俺がその借りたパラソルを立てると、日陰ができた。

すみれが、日焼け止めクリームを塗りながら言った。

「私がまずここにいて荷物を見てるから、2人とも海水浴を楽しみなさい」

すみれらしくない譲歩をしてきた。

「じゃあ行ってくるぜ!」

「行くのん!」

水がとにかく綺麗だ。大洗海岸のようなドブとは全く違う。

「冷たいのん!」

そう言ってアン子はゆっくり前に進んでいく。ドーナツ型の浮き輪なので、おぼれる事は無いだろう。

俺は【ここまで】という浮き輪まで一気にクロールした。水の中に入ると、トロピカルな魚が沢山泳いでいる。

アン子が俺がいる場所まで迫ってきていたので、

「ダメだアン子!ここまできちゃあ」

そう言ってアン子の浮き輪を押しながら泳ぐ。

「最高に気持ちいいの!」

アン子はのんびりしながら言った。

「浅瀬まできたら、浮き輪はずしてもいいの?」

「浅瀬だけにするならいいぞ」

俺が言う前にアン子は浮き輪を外していた。大丈夫なのかおい。死人は出したくなかった。

「もぐるとすごく気持ちいいのん!」

ビーチからすみれの大声が聞こえる。次の留守番はアン子らしかった。


今日は、いよいよビーチに行って海水浴を楽しむ1日だ。

「もう着替えた?」

そう言う、すみれはビキニ姿で、結構攻めてる感じなので正直美しい。ナンパが心配になるほどだ。

俺はトランクスのような、特に面白くない恰好だ。

「アン子はどうだ、着替えたか?」

アン子は学校のスク水だった…胸の辺りに自分の名前が書いてある。

「ぎゃははっ何その恰好!超~受けるんだけど!」

水着が無いなら言ってくれたら買ってやるのに…。

「ドーナツ型の浮き輪で安全なの!」

確かに今も浮き輪を装着している。

「スク水はほっといて、早くビーチに行きましょう?」

「3人で行くんだ!」

俺はアン子の手を引いて、そう言った。

外は晴天で、カラっとした熱さだ。すみれはビーチパラソルを借りる為、お金を出していた。

俺がその借りたパラソルを立てると、日陰ができた。

すみれが、日焼け止めクリームを塗りながら言った。

「私がまずここにいて荷物を見てるから、2人とも海水浴を楽しみなさい」

すみれらしくない譲歩をしてきた。

「じゃあ行ってくるぜ!」

「行くのん!」

水がとにかく綺麗だ。大洗海岸のようなドブとは全く違う。

「冷たいのん!」

そう言ってアン子はゆっくり前に進んでいく。ドーナツ型の浮き輪なので、おぼれる事は無いだろう。

俺は【ここまで】という浮き輪まで一気にクロールした。水の中に入ると、トロピカルな魚が沢山泳いでいる。

アン子が俺がいる場所まで迫ってきていたので、

「ダメだアン子!ここまできちゃあ」

そう言ってアン子の浮き輪を押しながら泳ぐ。

「最高に気持ちいいの!」

アン子はのんびりしながら言った。

「浅瀬まできたら、浮き輪はずしてもいいの?」

「浅瀬だけにするならいいぞ」

俺が言う前にアン子は浮き輪を外していた。大丈夫なのかおい。死人は出したくなかった。

「もぐるとすごく気持ちいいのん!」

ビーチからすみれの大声が聞こえる。次の留守番はアン子らしかった。

すみれが俺の手を引き、海に入っていく。すみれってこんなに胸大きかったっけ?脱いだらスゴイ系だな。まぁ着ててもすごいが。

アン子はビーチパラソルの影で買ったソフトクリームを食べていた。ちゃんと財布を守ってくれるか心配だ。

「つめたっ」

すみれは浅瀬に入ると、俺へ水をあびせられた。かわりに水をかけかえす。まるで彼女とデートしているみたいで不思議な感じだ。

どうしても胸を見てしまう…。ビキニが外れそうな水着を着てるからかも知れない。

女性は男が見ている所が分かる。

「すみれの胸に興味ある~?」

いかん、視線がバレバレだ。

「そんな水着着てるすみれが悪い!」

「どんなビキニしてても勝手でしょ!」

そう言いながらビーチボールを投げつけた。

「水がきれいだなー。こんな所いつも来るのか?」

「時々ね。でも最高のストレス解消よ!」

そう言いいながらビーチボールを渡す。

「金持ってるやつって、うらやましいな」

「私にするなら、一生お金には困らいわよ」

「『するなら』って…はっきり言ってアン子は幼馴染ってだけだしなぁ~」

「そこまで気が付いたら、もうわかるでしょ?」

ふと沖を見ると、ソフトクリームを食べ終えたアン子がこちらへ手振っている。

「アン子が呼んでるぞ」

「無視していいんじゃない?もっとあそびましょうよ」

「アン子を置いとくのは色々まずいんだぞ」

そう言って俺はクロールして沖砂へと泳いだ。すみれは残念そうに沖に泳いだ。

アン子がなかなか帰って来ないので、少し不安になった俺は叫んでみる。

「アン子ーーっいるかーーー」

「いるけど溺れそうなのー!」

アン子の所在を視認した俺は、クロールですっ飛んでアン子を半分抱えた。

「だから言っただろう、深い所へ行くなって」

「違うの流されたのん…」
「戻るぞ」

アン子は砂浜で城作ってたほうが安全だ。

しかしアン子ほどの体重で、『抱えて走る難しさ』を知る。ダイバーはやはりすごい。

「もう帰ろうか」

「うんなー」

2人は部屋を取っているホテルに向かった。食事もしたいがまずは部屋だ。

部屋に戻ると、部屋のすみに体操座りで心のしぼんだ、すみれがいる。

「どうしたんだ?」

「…じゃないもん」

「何だって?」

「私悪者じゃないもん!」

そう言って泣き出した。

「すみれが謝れば、悪役じゃない。でも謝らないなら悪者だな」

「誰が謝るか…」

俺とすみれはジーっとすみれを見つめる。

「……ごめん」

「聞こえないなぁ」

「だからごめんって言ってるでしょう!わかった?小豆洗い」

やれやれと服に着替えていると、

「キョースケ、日焼けしてるのん!」

本当だ。特に肩が真っ赤になっている。

「私は日よけ止め塗ってるからこの通りよ?」

誰も聞いてない。食事に行くみたいな事を話し合っている。

すみれはまだ水着のままだったのでTシャツを1枚着てキョースケの後を追った。

「グァムと言えばアメリカ!アメリカといえばステーキ!」

「ステーキ食べるのん?」

「ごめんすみれ、お金出してくれないか!」

そう言って俺は土下座した。

「ま、まぁ土下座までさせたんだからいいわよ、カードも持ってるし」

「ありがとなの!」

「キョースケだけにおごりたいんだけど?」

「アン子も土下座しろ土下座」

アン子もキョースケと同じように土下座した。

通りがかったアメリカ人が、

「オー、ジャパニーズ・ドゲザ‼」

と笑って向こうへ消える。

「分かった、分かったから普通にして恥ずかしいから」

「ありがとう!存分にゴチになります!」

「なの!」

そう言ってはしゃぎながら、ホテル内にあるステーキ店に入ってゆくのだった。

3人はステーキ屋ではしゃいでいた。今日の旅以来、いつ食べられるかわからない代
物である。ステーキが来て最高潮に達した。

「上手いが固ぇーなこの肉」

俺はフォークで持ち上げてかぶりついていた。

「なかなか切れないん…」

アン子はまず肉を切る事自体、苦戦中である。

「だから柔らかい肉を頼めばよかったのに」

すみれは柔らかい肉を心得ていたので、ナイフとフォークでお上品に食べていた。

「前もって教えてくれよ~そういうことは」

「本当はね、牛肉より豚肉の方が栄養価が高いの知ってる?だから医者は豚肉を…」

2人はすみれのうんちくも耳に入ってこず、肉と格闘していた。

何とか平らげると、お腹が物理的に膨らんでいる。

「満足だ」

「…なの」

「なかなか美味しかったじゃない」

すみれはハンカチで口周りを拭いている。

「明日の予定を言おう!」

俺は仕切りだした。

「俺は午前中は銃を撃ちにいく。そのあいだ2人は良い場所にパラソルを立てて、泳いでいてくれ」

「えー私はキョースケと同行したいんだけどぉ」

「すみれは銃を撃てないだろ!すみれはいい姉貴になって、アン子と荷物を見ててくれ」

「しょうがないわねぇ…。全くもう」

「よし決まった!宿に戻ろう!ゴチになります!」

「ますの~」

そんな下らない話をしながら宿に戻った。すみれはTシャツを脱ぐと水着になる。

「着替えるから2つ目の部屋にいきなさい!」

2人は素直に隣の部屋に入って待っていた。

するとすみれはパジャマ姿でやってきた。

「キョースケ用のパジャマもあるわよ。じゃあそういう事で私とキョースケは同じ部屋で寝るから、チビは隣の部屋で寝なさい」

アン子は心配そうに俺をみつめたので、

「大丈夫、ただ寝るだけだから。また明日にな」

腹がいっぱいになったからだろうか。眠気が襲ってきて、そのままベッドに包まれながらそのまま眠りに入ってしまった。

「…スケ」
「…ョ―スケ」

「はっ!」

俺はすみれに揺さぶらされて目が覚めた。

上半身がはだかである。

「きゃーっ」

すみれは顔を覆ったが、中指のスキマから覗き込んでいた。

暑いから無意識のうちに脱いだんだと思う。

「すぐ着替えるから、すみれも着替えたら?」

「そうね」

アン子がウチの部屋に入って来た。

「ベッドがフカフカ過ぎて、よく寝られなかったのん…」

アン子はあまり眠れてないようだ。

「じゃあ俺はタクシーで射撃場に行くから、お前らはパラソル頼んだぞ!」

「はーい、なのん」

「チビのおもりね…困ったわ」

俺が射撃場につくと、「コンニチワ」と日本語ペラペラなアメリカ人がサポートしてくれた。
耳をふさぐイヤフォンのようなものを装着し、銃を撃った時のリコイル(反動)を抜
く姿勢などを学んだあと、とうとう本物の射撃が始まった。

1発撃つと勢いで銃が上に吹っ飛びそうになった。

「リコイルヲ、ヌク、シセイヲ、タイセツニ」

2、3発撃つとブレもなくなり、射撃精度も格段に上がった。

「ナイス!」

素直に銃を撃てた事に感動し、もう1セット追加した。

ビーチではすみれが泳ぎ、アン子がアイスクリームを食べながらパラソルにちょこんと座っていた。

思いっきり泳いで充分堪能したすみれは、アン子に、

「今度はあんたが泳ぎなさい」

アン子は砂浜に行き、何やら砂浜を掘り出している。すみれは日陰でボーっとしてい
る。かなり時間をかけて掘ったあと、アン子はすみれの所まできて、

「すみれ、ちょっと来るの」

「なによ」

手を引かれるまま、すみれはついていくと、アン子は穴にすみれを押してハマらせた。顔だけが見えた状態で、今度はアン子が砂をかけて顔だけの状態にした。

アン子は目隠しをし、棒を持ってこちらにふらふらやってくる。

「ちょ、ちょっと何しているの?」

アン子は声のする方へ、ゆっくりとだが確実にすみれの方へやってくる。

「あぶない!あぶないから」

そこへアロハシャツの護衛2名がすみれを引き上げる。

アン子は目隠しを取ってホテルに逃げ出した。

「あ~~ん~~こぉ~~‼」

追いかけるように走っていった。

パラソルに誰もいない状態になったとたん、グラサン姿の男がバッグに手を入れガサゴソしてる。

その後ろから頭に拳銃を突きつけて、

「ゲラップ・ヒア」

そういうと男は慌てて逃げていった。危ないところだったが、今日買ったモデルガンが早速役に立った。


今日も3人は例のステーキ店で騒いでいた。

「銃を撃つのは姿勢が大事なんだ、こういう感じで…」

「今日のステーキ、柔らかいの!」

「レアを頼んだからよ」

「ホントだ、嚙み切れるぜ」

「レアは上質なお肉にしかできないのよ」

またもや、すみれのウンチクを無視され2人は黙々と食べた。

「今度いつ食えるか分からないからな、味わって食うぜ」

「もう夜には東京なんだな」

…そう言うと、みんな黙った。

「面白かったから、よかったのん!」

「すみれ様様だな」

「もっと言って!賞賛しなさい」

「パスポートはもう持った?空港までちゃんともってろよ!」

3人はパスポートを出し合った。

「よし、飛行機乗るか!」

「おー!」

こうして長いようで短いグァム旅行は最高の土産話を連れて飛行機が飛び立った。

飛行機の機内ですみれとアン子は爆睡していた。相当疲れたのだろう。

俺は起きていたので、機内食を食べたが味気なく感じた。

窓を見ても真っ暗で何も見えない。俺も寝ようかなと思っていた時、

「間もなく成田空港へ到着します。シートベルトを…」

もう着いたのか。思ってた以上に早い。

俺はすみれとアン子を起こした。

「もうすぐ到着だぞ」

「ふぇ…そうなの?」

「ううんなん…」

飛行機を降りた3人は、パスポートを提出して、検査済みのバッグを引きずりながら護衛に、これ持っていきなさいという感じで大き目のバッグを渡した。

「はあぁ疲れたわねぇ」

「家に帰って2度寝するん」

俺はお土産を買うのを忘れてしまった。これは痛い。急いで飛行機に乗り込んだからだ。

すみれはタクシーチケットを渡して、
「タクシーでそれぞれ家まで行きなさい…」
そういっていの一番に護衛車に乗って去ってしまった。俺たちもせっかくだしタクシーチケットを使い、直帰で家に戻った。
俺はすがすがしい気持ちでいっぱいだった。土産話も充分『土産』だろう。
夜のタクシーでそんな事を考えながら、思わずにやついてしまった。

いつもの月曜の朝。アン子は家の前でいつものようにキョースケを待っている。

「オス!アン子も日焼けしたなぁ」

「皮が剥がれて痛いの…」

「これじゃ海水浴でサボったのバレバレだな」

「しょうがないの…」


案の定担任に金曜サボった事で怒られた。ただただ頭を下げるしかなかった。

1限が終わると、山田がやってきてパチパチを写真をとられた。

「日に焼けてるね。2人海水浴でも行ったのかな?」

「関係ねーだろ」

「スクープはいつも足で稼ぐしかないのはわからないかな?」

「前にも行ったろ?俺たちに関わらないと」

「気になるんだけどダメかな?」

アン子は肩の日焼けで痛みを感じている。やはりアン子も日焼け止めクリームを塗るべきだった。

そんな俺も日焼けした、特に鼻が痛かゆい。

すみれがやってきて日焼けしてる2人を見て、

「ちょーダサ~!クリーム塗っておけばよかったのにね~」

「泳いでる時はクリーム効果ないだろ」

「ま、そうね。じゃあお昼は屋上でね!」
そう言ってご機嫌に帰っていった。
楽しい思い出を思い出して、二ヤついてると、
「そんなに授業が楽しみか響介」

先生に言われると、真顔に戻った。

それにしても、もうあんな楽しい時間は無いだろうな…

そう思うと者悲しかったが、夏休みの旅行に期待しよう!それと俺もバイトしなくちゃな!

アン子は完全に教科書で隠れながら、机に突っ伏して唸っている。

アン子は弁当を用意してくれたんだろうか。ちょっと不安になった。

お昼。俺は屋上で待っていると、すみれとアン子が弁当を持ってやってきた!

「なぁすみれ。夏休みもどこかへ連れってってくれよ」

弁当を食べながら、俺はすみれに頼んでみた。すみれは考えながら、

「そうねぇ…次行くとしたらハワイかパラオでしょうね」

「なに⁉」

パラオは『最後の楽園』と言われてる最高に綺麗な海がある場所だ。

すみれは続ける。

「パラオへの直行便は無かったんだけど、少し前に直行便ができたのよ」

「パラオかー。行きたいなぁ~」

アン子は分からず自分の弁当をモグモグしている。

「ハワイはほとんど日本語が当たり前のように飛び交っているから、あまり海外旅行

してる感じがしないようね」

「じゃあパラオ!」

「グァムよりもいい海があるのん?」

「透き通って下が見えるくらいよ」

「すごいのん!いきたいのん」

すみれは呆れながら

「あのねぇ。パラオは世界最後の楽園って言われてて、2泊3日するだけでもすごいお金がいるのよ」

「すみれなら問題ないんじゃないのか?」

「まぁそうだけど…キョースケと一緒の時間が増えるなら、行ってもいいわよ」

「…構わないけど、アン子もいくからな?」

「慣れたからいいわよ、もう。それより一緒の時間を増やしてくれるんでしょうね?」

「わかったわかったから、行こうぜパラオ」

がぜん夏休みが楽しくなった!

「飛行機に乗る時間がハンパないから気をつけてね」

「すみれは行った事があるのか」

「もちろんよ。パスポート無くさないでね」

すみれの目がハートマークになっている。アン子は不安でキョースケを見るが、

(安心しろ)

俺はアイキャッチでアン子を理解させる。

「パラオは本当、最高の場所よ!夏休みだから思いっきり遊びましょう!…でもアン子、あんた変なトラップ作ったら容赦しないわよ」

アン子はキョースケの背中に隠れた。

「本気だからね!」

(暑いなぁ…)

授業中。俺はテキストを、うちわ代わりにあおいでいた。しかし来るのはぬるい風だ。

グァムのようなカラッとした熱さが恋しかった。あの海を体験したら、学校のプールにはもう入れない。

だるくてうなだれていたが、先生からチョークが飛んできた。

やっと昼休みになった。俺は2人分の弁当を食べながら言った。

「最近、俺体重が上がってるんだ。どうしたらいい?」

2人は答えに戸惑う。

「まあ筋トレはしてるからいいけどさ。食事が偏っているんだ」

「そんなのパラオの海で泳げば何とかなるわよ」

すみれは慌ててフォローした。アン子は黙って自分の弁当と格闘中。

「次はアン子にも水着買ってやるからな」

「私の水着は~?」

「お前は水着持ってるじゃないか。俺は夏休み期間はバイトするつもりだから」

「どんなバイト?」

「コンビニかガソリンスタンドかな」

「似合ってるわよ。ウチの車を洗車したらバイト代あげるけど?」

「すみれにこれ以上『おんぶにだっこ』じゃだめだ。俺がなんとかする」

「ウチもバイトしてるのん!」

「涙ぐましい努力だわ」

「あー早く夏休みにこねぇかなぁ。学校によってはクーラーのある学校があるんだぜ?うちおかしくね?」

「辛抱しましょう」

2個目の弁当を平らげた俺は3人で屋上のドアへ向かっていった。


相変わらず教室は暑かった。セミが鳴いているので扉を閉める。そうすると風も入らず、さらに暑くなるのであった。

「先生クーラー入れていただけませんか」

生徒の1人が先生に直談判すると

「今は無理だ。耐えろ」

と一蹴された。そういう先生も汗だくだった。

まだ夏休みまでは遠い。早く夏休みに入ればパラオに行けるのに。


そんな事を思ってると、頭に小粒のようなものが当たった。

なんだろう。どうやら斜め前にいるアン子が投げつけたらしい。

チョコなのだが、暑さのせいでドロドロになっている。

わざとなのか天然なのかは分からない。なんとか透明な袋を開けて

口に頬張る。

甘さで頭が少し冴えてきた。

そんな訳で、やっと4時限目が終わった。
俺は例によって2人分のお弁当を食べながら呟いた。

「あー早く夏休みにならないかなぁ」

屋上は風が吹くと気持ちいいのだが、風が無いと太陽にさらさせている。

「早くパラオ行きたいのん!」
アン子も楽しみにしているようだった。

「夏休みはまだ先よ。それよりアン子はバイトしてるんだって?」

すみれがアン子に訊ねた。

「ネカフェでバイトしてるのん!」

「へぇ…キョースケもバイトするの?」

「ああ、その予定だ」

「どこでやるの?」

「考え中なんだが、ガソリンスタンドか、コンビ二か、ブザーバックスか…」

「ブザーバックス、いいじゃない!制服がいいわよね」

「じゃあブザーバックスから面接行ってくるわ」

俺は初バイトなので正直緊張してるのだが、表にはださずにいた。

「あーブザーバックスで抹茶フラぺチーノ飲みたいわぁ」

すみれは扇子センスを使って仰いでいる。

アン子は汗1つかいていない。平気なのだろうか。

2つ食べ終わった俺は、

「よーしバイト頑張るぞ!」

今から燃えて来たが暑さには負けるようにフラフラとドアに向かっていった。

食べ終わった残りの2人も、着いていくようにドアへ向かった。

響介は学校が休みの日曜を使って、飲料店ブザーバックスの面接に行ってきた。

緊張でカクついている。こんなんで大丈夫なのか?

ブザーバックスには色んな種類がある。全部覚えられるのか。

行かなきゃ始まらない。足を運んで裏口から入ってゆく。

面接は女性1人だけだった。まず言われたのは、

「あら?目の色が違うわね。コンタクト?」

言われ慣れているので、

「天然です」

「あらそうなの、めずらしいわね。まず座って」

「はい」

俺は事務用の椅子に座る。

「まずどうして、うちを選んだの?」

いきなりマズイ質問が来た。俺は考えてから、

「俺…いや私はこちらの飲み物が大好きでして…それで仕事したくなりました。」

いきなり大嘘をついてしまった。

「何のメニューが好き?」

「あの…抹茶フラペチーノですね」

「そう。あと女性店員が多いけど大丈夫?」

「問題ないです」

「高校生だからバイトは初めて?」

「初めてですね」

女性は立ち上がった。

「以上で面接を終わります。結果は携帯でお知らせします。」

「ありがとうございました!」

意外と早い面接だった。これは落ちた系かなぁ…。

誰かと話したいので、アン子が就業中のネカフェに寄った。

「バイト面接行ったのん?」

「ああ。行ってきた。短かった」

「ウチも短かったのん」

「そうなのか?」

「ダイジョブ、自信持つのん!」

そう言われてネカフェにいる俺は安堵《あんど》した。

アン子だって頑張ってるんだ。俺だって負けないぜ!

ポジティブにとらえた俺は、そのまま自転車で家路についた。

学校が休みの日。俺はクーラーの効いた部屋で涼んでいた。

もう1歩も外に出たくない。夏休みが始まる前からこれだから困る。

するとケータイが鳴った。多分アン子かすみれだな。しかしらぁいんからではなく、

普通の通話からだった。見た事もない番号だ。

「はい」

「ブザーバックスの鈴木です。」

「あっはいどうも」

「面接の結果、採用が決まりましたのでお知らせにあがりました」

「本当ですか!」

「では早速明後日の夕方16時からお越しください。では」

ブザーバックスに面接に行ってから大分経っていたから、もう落ちたとばかり思っていた。やった!これで好きなもんが買える。

と、玄関のチャイムが鳴ったので行ってみると、アン子がバッグを持ってやってきた。

「アイスたべるのん」

そう言ってアイスクリームを俺に1つくれた。嬉しいプレゼントだ。

「しかしアン子は本当にアイスクリーム好きだな」

「このなめらかな舌触りが最高なん」

確かにうまい。アイスを舐めながら俺が言った。

「今さっき電話があって、ブザーバックスのバイト決まったんだ!」

「本当なの?すごいのん!」

「バイトに慣れたら、アン子もきてくれよな」

「もちろん行くのん!」

「バイトでアン子に先を抜かれたからな。ここから持ち直すぜ!」

一応すみれにもらぁいんで報告しておくか。

「ウチのネカフェ、ソフトクリーム食べ放題なん。休みの時に一気に食べてるん」

「腹こわすなよ?それにしても受かるなんて思ってもみなかったぜ」

幸福感をマックスに出しているのを見て、アン子は自然と笑顔になっていった。

俺は早速ブザーバックスに出勤し、面接官だった女性から指導を受けた。

どうやらこの女性が店長だったみたいだ。チェーン店はどこでも同じ物を出さなくてはいけないらしく、厳しい訓練を受けた。

今日は教育・指導だけでバイトが終わった。次からは『本チャン』だ!今からもうすでにわくわくしていた。

夜遅くアン子から写メがとどいたが、相変わらずのドアップで笑ってしまう。

相変わらず何のメッセージ性があるのか疑問を呼び起こす写メだ。

すみれはバイトなんぞしなくてもいい身分だから、しなくても良いんだろう。

確かホットヨガをやっていると聞いた。飽き性のすみれが続けているんだから、よっぽど相性がいいんだろう。

俺は、今日指導された時のメモを読み返していた。初バイトでやはりどうしても興奮してしまう。

何を買おうかなと悩んだが、新しい海パンとチャリぐらいしか今は思いつかなかった。基本普段使いの物だけ買うので物欲があまりなかった。

朝飯・夕飯を食べない母は、俺の事を心配してるようだった。説明しても上の空のような感じだったが、とにかく昼に、とある事情で弁当を2つ食っていると説明しても母はボケーっとしていた。

やはりというか何というか、なかなか寝付けなかった。腹が減ってきたのもあるが、やはりバイトの事で頭がいっぱいだった。が、そのうち涼しくなると自然に眠りについた。

次の日────

元気に起きた俺は、今日も朝飯抜きで、早速学校へと向かった。もちろんアン子が家の前に立っている。遅れた事はこれまで一度も無かった。

「おす」

アン子は不安そうに俺のそでを掴みながら、

「バイトどうだったん?」

と聞かれた。

「まだ指導・教育だけだから、んー何とも言えないな。何しろ種類が多くてさぁ」

「飲み物だけなのに、そんなに種類があるん?」

「ああ。さらにトッピングまであるんだぜ?」

などと雑談していると校門前で、すみれがベンツから降りて来た。

「あらキョースケ。バイトはじめたんですって?」

「ああ」

「それで時給はいくらですの?」

「780円くらいかな」

すみれは爆笑して、

「ウチのペットの食事代より安いじゃない。本当に続けるの?」

「さ、行こうかアン子」

俺は無視して学校へと入って行った。

「こ、こら、待ちなさいよ!」

すみれもキョースケの元へ駆けて行った。アン子はそのままのペースで歩いて行った。

早速訪れる放課後。もう家には行かずにブザーバックスのバイト先へ特急的到着する。

「まずはカウンターから始めるから。お客様の注文を受けるのよ」

「あ、はい」

「基本メニューは売れ筋が決まってるけど色んなトッピングがあるから、それだけは気を付けて」

「はい分かりました」

カッコいい制服に着替えた俺は、カウンターに入ると全員に挨拶した。

「え、オッドアイ?」

いつもの反応に、

「え?ええ、はい天然です」

と笑顔で応えた。

「じゃあ注文いいかな?」

「はい!」

俺はカウンターの定席に立った。

「サクラフラペチーノ、チョコかけで」

「はい。サクラフラペチーノ、チョコかけでーす!」

厨房にレシートを貼り付ける。

「748円になります。」

「スタバカードで」

俺は機械にカードをスイングさせるとピっと正しい音が響き渡った。

「番号札でお待ちください」

店長は俺の働きぶりをただじーっと見ていた。

あっという間に就業時間になり、バイト終わりの着替え室。

「響介君ご苦労様。」

「お疲れ様です!店長」

「初日にしてはまあ良くやったわね」

「ありがとうございます!」

「もう作る側に異動してもよさそうね」

「へ?」

「明日から作る側にまわって。もちろん1週間は先輩の動きを追って見てるだけね。じゃご苦労様」

いきなりの展開である。作る事なんてできるのか?俺に…

36

「まずは一番底に抹茶シロップを入れるのよ」

「はい」

「それから、砕いた氷を乗せる。あとは抹茶ソフトを入れるわけ。チョコがけだからチョコも忘れずにね!」

俺は先輩の仕事を1週間密着取材のように張り付いて聞き耳をたてていた。

「いまのが基本と言ってもいいわ。あとは種類によって変わるだけ。暖かい飲み物はまた別よ」

「は、はい」

「でも今の季節暑いからね~。フラペチーノが多いかなぁ」

「そうなんですね」

「あとコーヒー1杯で席に居続ける客が多いけど、文句はいっちゃだめよ」

「わかりました」

頼りになる女性先輩である。

「わたしね~近く辞めるのよ、ここ」

「え?どうしてですか?」

「ちょっと遊んでから、また違うブザーバックスで働こうかなって。引っ越しも考えてるの」

「それは残念ですね…せっかく会えたのに」

「それまではじっくり教えるから、何でも聞いてね」

「チョコバナナフラペチーノ入りました!」

「はーい!これはねオッドアイ君、チョコシロップをかけて…」

今日も速攻でバイトが終わった。作るより覚える方がはるかにきつかったが、これは慣れていくしかないだろうと思った。

再び女性店長がやってきて、

「どうだった?」

「さすがに覚える事多くて、大変っす…」

「正直でよろしい。また2日後ね」

「はい!」

俺は自転車で家路についた。真っ暗なのでライトを点灯させる。

夜は風呂に入ると速攻眠くなった。布団に入るとアン子からのらぁいん通話が来ていた。

「キョースケ、バイトがんばってるのん?」

「おうがんばってるぜ!まだ見習いだけどな、覚える事が多すぎなんだ」

「近い内にウチもお店いくからよろしくなの!」

「見習い過ぎてから来てくれよな?」

アン子と会話した直後、今度はすみれから通話が来た。

「ブザーバックスでまだ働いてるのかしら?」

「ああ、まあな」

「ブザーバックスなら行っても恥ずかしくないから、しばらくしたら行ってあげてもいいわよ」

「いいさいいさ。見習い卒業したら来いよな」

「それじゃあね」

見習い期間が終わり、俺が作る番になった頃、厨房にオッドアイの人がいると聞きつけて列ができていた。

俺は必死にオーダーを受け、作って渡す作業を繰り返した。これだけ繰り返すとさすがに慣れて来る。

「本当にオッドアイだ~すご~いv」

JKがキャピキャピしながら注文の品を受け取る。

オッドアイがなんだ!中身、実力の方をほめてくれよ。

のどまで出かかったがやはり口にするのは、はばかられた。

行列にウチに女性店長はとても満足していた。

「オッドアイ君、君のおかげよ」

「はぁ…(これで良かったのかな)」

何とも腑に落ちない感じで就業時間は終了した。外はもう真っ暗である。

「気を付けてね!」

店長に見守られながら、俺はライトをつけ、自転車で帰ろうとしたのだが。
12人前後の女性が俺をことを待っていた


37

俺とアン子は学校が終わると、すぐにバイトへ向かう生活を続けていた。特にアン子は後輩が現れたので、教育をしているらしかった。アン子が教育係りか。想像すると笑みが沸いてくる。

俺は俺で、商品を覚える事に全集中している最中だ。たまにめずらしいメニューが来ると、戸惑いながらも辞める予定の女性に教わって覚えていった。それを眺める女性店長は静かにうなづく日々だった。

すみれから何度もデートの約束を受けたが、バイトで疲労困憊の俺は断らざるを得なかった。いくら俺でも体力と精神の限界ってものがある。

とあるバイト中。チョコバナナフラペチーノを作って渡すと、相手はすみれだった。

「あんた、バイト漬けでしょ。いい加減シフト減らしたら?」

「こんな所にきちゃうかぁ…」

「何?来ちゃダメなの?」

「違うけど、客のメニューが溜まってるんだ。あとにしてくれないか」

「しょうがないわね。もらっていくわ」

そういってチョコバナナフラペチーノをひと口飲む。

「うまっ…」

バイト終わりに、根性良くすみれが車で待っていたようで、

「これからアン子の所に行ってみましょうよ」

と提案してきた。

「おれはチャリで…」

「そんなの車のバックにでも乗せなさい。いくわよ」

車なのでアン子の働いているネカフェには遠くはなかった。

早速入店すると、知らない女性がカウンターにいた。

「亜暗はいるかな?」

「あ、お待ち下さい」

アン子は2階にいた。

「キョースケ、すみれ、どうしたん?」

「まだ仕事か?」

「もうちょっとで終わりなん」

すみれは、

「終わったら久々に3人でファミレスでも行きません?見せたいものもあるし」

「別に構わないの」

「じゃあ待ってるわ」

見せたいものって何だろう。

それまでネカフェにお金を払って待つことにする。

「お、このネカフェ、シャワーもあるのか。ちょっと行ってくるわ」

「はいはい。」

なんていいネカフェなんだ。タオルも使い放題ときた。

シャワーを浴びた俺はさっぱりして戻ると、アン子が制服から私服に着替えていた。

「キョースケ遅~い」

「よしファミレス行くか」

3人はそう言って、すっかり夜になったネカフェを後にし、すみれの車に入った。

「近くにいるファミレスまでお願い」

すみれが護衛に伝える。

ファミレスに着くと、全員ドリンクバーを頼んだ。

「見せたいのはこれよ!」

「なんだこれ…」

本には【パラオ旅行ガイド】と書かれていた。

「お!パラオの魅力がわかる本か!」

早速見てみる。

「海の透明感が、ぱないの!」

「これは軽くグァム超えしてるだろこれ…」

「イルカもいるのん」

「奇跡が起きればジンベエザメも見れるわよ!あと、1日か2日で取れるダイバーにチャレンジしてみない?ウミガメが泳いでたりして最高よ!」

「いいなーここまで透明感あるとダイビング最高だろうな、でも酸素ボンベが重いから、アン子はまだ無理ね」

「そこで、これよ」

封筒を2つ、出してくる。

中を見ると、大金が入っているじゃないか!

「ひと袋100万づつ入ってるわ。あげるから今のバイト辞めなさい」

そう来たか…。

大いに悩んだが、これはなにかやはり違う。

「仕事が終わった爽快感、すみれ味わった事ないだろ?」

「ウチももらえないのん…」

「100万よ?100万!あなたたちは充分働いたじゃない!」

「残念だがこれは受け取れない。でもパラオの本は貸してくれよな」

「ウチも同じ答えなのん…今後輩ができてかわいいの」

ふに落ちない感じで、すみれは100万✖2を受け取る。

「すみれもバイトしてみるといい。そして充実感を味わうんだ。それさえすれば俺たちが何を言いたいのか分かる」

「わ…私は別にそんな事しなくても…」

「すみれ、そこだけはすれ違いだな」

すみれは立ち上がり、コーヒーを入れた。

しばらく3人は、ファミレスで歓談していた。当然、すみれの護衛は車内で待っているのだった。

38

今日も仕事を終えた俺は、ライト付き自転車でまっすぐ家路についた。

風呂に入り歯磨きをし、寝る前に布団を被りながら、すみれから借りたパラオ旅行ガイドをながめていた。

(最高だよなぁ~)

これでもかと言わんばかりの透き通った海。海中を泳ぐウミガメやエイ。これはこの機会にダイビングの資格とるかな!

ファミレスでも言ったが、アン子は正直言ってダイビングは無理だろう。酸素ボンベが重くて沈んでいくのが容易に想像できる。

すみれはどうやらダイビング経験がありそうな事を言っていたな。

これはバイトが休みの日にスクールに行ってみるか!丁度良いことに初任給が近々入る。

そんな感じで今日から来た近所にあるダイビングスクール。入会申し込みをし、初歩から学ぶことになった。

耳抜きなど色々なテクを教えてくれる。そりゃそうだ、結構な額を払っている。

2日間を終えるとスクールの先生が、今度は実践しましょうと言ってきた。俺はバイトが休みの日に予約を入れ、学校をさぼりながら船に揺られて実践の時がきた!

「決して慌てない事。それ一番大事だからね」

そう言って船の端にもたれて、背中から落ちるように入ってゆく。俺も同じような恰好で海に飛び込む。

耳抜きはすぐにできた。それにしても海の中が汚い。ゴミや海藻などがふらついている。俺は酸素ボンベを背負いながらOKマークを示す。

先生はゆっくりと進んでいく。それにのっとって俺も先生の後を追いかける。そうしてしばらくたったのちに、先生が上を指差した。戻れの合図だ。

俺は怖がらずゆっくりと海面に近づいていった。

海面に浮かぶと先生と俺は船へと戻って行った。

「ナイス!いい感じだったよ。余裕さえ感じた」

「いや~先生のおかげですよ」

「うん、君にはダイビング許可を与える」

早速キタコレ!そんな訳であっさりとダイビングできる身になった。早速すみれにトークで送ると、

「おめでとう!やったわね!」

と激励の言葉を貰えた。アン子には別段伝えることはなかった。落ち込まれても困ってしまう。

激しい疲れが襲ってきたので、家に帰ったら速攻寝てしまった。

次の日はまた学校だ。もうお腹が空いてるが我慢しなければ。

1時限目が終わると、すみれがまたタンバリンを持って教室に入って来た。

「ふぅわふぅわふうぅ♪」 シャンシャンシャン

「恥ずかしいからそれやめろって」

「ダイバーおめでとう!」

「ああ疲れたぜ」

そこへ新聞部の山田が割り込んできた。

「ふたりはどういう関係なのかな?」

「だまってろ」

「黙ってみていられないの、分かってくれてるかな?」

すみれはゴミを見るような目で

「だれ、こいつ」

「新聞部のやつだ。無視しろ」

「変な記事出さないよね!」

すみれは早々に帰っていった。

「すみれ様を慕うヤカラは沢山いるのは分かってるかな?場合によっては暴動がおきるの理解してるかな?」

俺は頭にチョップをしながら

「消えろ…!」

さすがに空気を読んだ山田は消え去った。

「パラオ、楽しみだなぁ…人が少なければもっといいのにな」

1人想いを馳せるのであった。

39

連日30度を超えている。そんな中、俺とアン子はアルバイトに連日精を出していた。

すみれは相変わらず冷えた屋敷で、カモミールティーを飲みながら観光図鑑を読んでいる。

そして時々ホットヨガで汗をながしている日々だった。

学校もそろそろ夏休みまでのカウントダウンが始まっていた。バイトもあって、授業中は半分寝ていた。

睡眠時間も確実に削られている。暑くて眠れない日もあった。

すみれからメッセージだ。

(こんどいつ3人で会える?)

アン子に聞かないと分からないので今は決められない。あとで返事するとだけメッセージしていた。

もうすぐ夏休みだ。アン子もぐったりしていた。俺の夏休みの勉強はラストに頑張る系、アン子はコツコツやる系、すみれは先に済ませる系だった。

放課後、アン子と相談して3人で会える日を吟味していた。

「この日とこの日があいてるのん」

「じゃあこっちにしようか」

日にちを決めてすみれにメッセージする。

「楽しみなんなー」

「おう、それだけのためにバイトしているわけだからな。1日、時間が過ぎるのが早すぎるぜ」

「アン子はバイト問題無しか?」

「問題無しなん!」

なによりだ。3人でファミレスに会う段取りを決めたので、バイトにも力が入る。

ネカフェは一定の客が来ているみたいなだったが、ブザーバックスの方は暑さのせいで大混雑だった。

俺は必死に次々とメニューをこなしていく。

今日は疲れた…さすがに店長から冷たい缶コーヒーをもらう。

「いいよ響介君。この具合で頼むわよ」

「はい、がんばります!」

今夜は3人で会う日だった。早速所定のコンビニで待ち合わせる。入ると2人はすでに席に着いている。

アン子だけパフェを食べていた。すみれは冷たいダイエットコークだ。

「おす」

「待ってたのん!」

俺はドリンクバーだけ頼んで涼しい店内に気持ちを良くしていた。

「やっともうすぐ夏休みね、パラオが近づいたってわけよ」

すみれは自信ありげにそう言った。

スケジュール決まったか?

「ええ。海で泳ぐ、ダイビング、花火、フルーツの詰め合わせ。その他サプライズも用意して、よりどりみどりよ!今回は3泊4日!もちろん護衛をつけるけど1人増やして3名。パスポートを取られる心配は無し!」

「おお花火!いいねえ。それって見る系?自分でやる系?」

「やる系よ」

「正直海でおよぐだけでテンションマックスだけどな!」

「ダイビングもいいわよ~。まあアン子は無理でしょうからパラソルにでもいなさい」

アン子はションボリした。

「大丈夫、海が透明だから、シュノーケリングだけでもすごいから!」

アン子は嬉しくて、久々に謎ダンスをしている。

「何それ、うけるんだけど!」

「夕方に着くから、1日目はディナークルーズに行くわよ」

「船で食事か?すごいな」

「あとはひたすら泳ぐだけ!最後の日に花火をしてパラオを後にするわけよ」

「いいねー」

「みんな問題ない?やりたい事があるなら聞くわよ。」

「異議なし!」

「のん!」

「もうすぐ夏休みねぇ~。早く終わんないかしら」

「先生の言葉なんて半分聞いてないぜ」

「わかる!」

しばらくして、3人はファミレスを後にした。すみれは車に乗り、アン子と俺は自転車で帰路についた。

楽しみだなぁ…。

40

次の日、学校へ行こうと家を出ると、アン子が左上を骨折して、肩から腕にかけて白い布を巻いて待っていた。

「どうした?アン子」

「仕事中に転んだのん…」

「大丈夫か?」

「なんとかすぐ病院に行ったので平気なん…」

「まさか従業員同士のケンカじゃないだろーな?」

「そんなんじゃないのん…」

「とにかくもうすぐ夏休みだから、気を付けてくれよ。店からお金をふんだくれ!」

「…アン子のせいなん。大丈夫、夏休みまでには直るん」

そうは言うものの、俺はやはり不安だった。アン子は小さい生物だから、壊れやすいからだ。

俺はアン子の件を話すために、すみれの教室を訪れた。

相変わらずファンに囲まれている。すみれはすまし顔だ。

「すみれさんは夏休みどこ行くんですか?」

「どこか一緒にいきましょうよ!」

すみれは言葉を濁しつつ、思わせぶりな言葉を紡いでいた。

「すみれ!」

「あらキョースケじゃない。どしたの?」

「アン子が骨折した」

「ええ!平気なのそれ」

「大丈夫とは言ってるけど、不安だ」

「…分かったわ。報告ありがと」

「誰ですかあの男!」

「あのオッドアイ野郎とどんな友達ですか?」

既に教室は混乱状態になっている。

気にせず俺は自分の教室に戻ってゆく。

「アン子、全治何か月か言われたか?」

「言われてないのん」

ますます不安にはなっている。夏休みまで20日を切っていっていたからだ。

「バイトはしばらく控えておけよ?」

アン子はキョトンとしている。

「片手でもできるん」

「ほ、本当か?」

仕方が無いので、そのまま暑い教室でテキストをうちわ代わりに涼をとるしかなかった。

暑いので夜もうちのバイト先は混雑していた。普通に忙しい中、俺は単純作業を黙々とやっていた。

受け取ると、すみれがまたやって来ていた。

「忙しいから来るなよな」

「なにその言い方。アン子の情報持ってきたのよ」

「なんだ?忙しいから手早くな」

すみれは内緒話のように語りかける。

「アン子の骨折、全治1か月らしいわよ」

「マジでか!微妙だな」

「そう、だから夏休みの後半、少し後にチケットを取るから。それじゃ」

全治1か月か…。直してから行きたいもんだ。

頭を切り替えて、また俺は作業に夢中になった。

仕事終わりに店長が、

「響介君は頑張ってるから、時給あげるわ」

「本当ですか?ありがとうございます!」

「だからシフト間違えないでね」

そう言えばパラオの休養日を伝えて無かった。

「あの店長、実は俺夏休み中にパラオに旅行するんです。8月なんですが休み取れますか?」

「あらそうなの。7月は無理だけど8月ならシフト調整できるから、いいわよ」

助かった。これでパラオは確実だ。満足げに自転車に乗って帰って行った。

41

夏休み10日前。朝からアン子はやはりまだ白い布を手に巻いていた。

「もう夏休みに入るぞ。腕の調子はどうなんだ?」

今日もセミがうるさく鳴いている。

「もうすぐギブスがとれるから大丈夫なん!問題無しなん!」

「そうか!出発日が8月になったから平気だな!」

「お弁当も片手で作ってきてるん」

「それはありがたい」

すみれは車登校ではなく、こちらにかけてきた。

「平気?もうすぐチケット取るけど」

「大丈夫なん!」

「よかった…。8月になったけど、楽しみねぇ」

昼休み。屋上は日が照って暑いなぁ。3人はドアの日陰に着席して、弁当を2つ食べていた。

「ワクワクしてきたの!」

「アン子は治す事だけに集中しろ」

「8月なら平気でしょ?」

「俺はダイビングする金をバイト料でかせいだぜ」

「もう…そんなお金、私が渡すのに」

「いや、出す所は出す!そのかわり飯代は頼む!」

「私はチケットもホテルも確保してるのよ?キョースケとアン子はパスポートだけは死守しなさいよね!」

午後の授業も暑いだけで、ひたすらけだるかった。

生徒の1人が立ち上がって言った。

「先生!やはりクーラーは入れて欲しいです!」

「そーだそーだ!」

しかし生徒からの陳情もむなしく、

「無理な物は無理だ!先生だって耐えてるんだぞ!我慢しろ」

生徒はシュンとした。

となりのクラスのすみれは、扇子であおいでいた。

「あついわね~」

電池で動くミニ扇風機も常備させていた。

男子生徒はほぼ皆すみれの方を見ていた。さすが学園イチと名乗るほどの事はある。

「金髪がちょっとプリンになってきたわね~染め直さないと。ネイルもいまいちパッとしないわね~」

「僕がカネ出しますよ!」

「いい美容院やってます!」

もう混乱状態である。

42

いよいよ夏休み前日になった!俺は朝食も抜きで、ダッシュでアン子のいる定位置に向かう。

アン子はまだギブスをしていた。

「おはようなの。明日から夏休みなのん!」

謎ダンスを俺だけのためにしてくれる。

歩きながら俺は言った。

「まだギブスはずさないのか?」

「もうすぐなのん!」

「最高の夏休みになりそうだぜ」

「バイトも頑張ってるのん」

「やめておいた方がいいんじゃないか?」

「ネカフェの仕事に問題はないの」

「そもそも何で骨折したんだ?」

俺は素朴な質問を聞いてみた。

「ドアを開けたまま狭い部屋で横になりながら倒れて、片方の腕を強打したのん…」

「そうだったのか」

「毎日夜にパラオの本読んでるん!楽しみなんなー!」

「ああ、そうだな!」

「全部すみれのおかげなの…ライバルとしては見れなくなってるん…アン子はお弁当作るくらいしかできないん…」

「それはそれ、これはこれだ!どっちも好きだぜ」

珍しくアン子の耳が真っ赤になる。

登校中、門の前で車で来たすみれと出会った。

「なにあんたまだギブスしてんの?もうチケットは撮ってるのよ?」

「もうすぐなん」

「ま、ならいいけど…」

夏休みの前日は、特に暑さにいらつく事もなく、生徒一同笑顔だった。

「これから夏休みに入るがー宿題は必ずやるように!以上!」

生徒から軽い歓声が上がった。先生はそのまま教室を後にする。

「やっとかー!」

俺は軽く伸びをした。アン子も嬉しそうにこちらを振り返っている。

そんなわけで、俺たちは長い夏休みに入った!

もちろんバイトはあるが、学校で体力を奪われないから、特に問題はなかった。

早速すみれが入ってくる。

「夏休み入っちゃったね。車でおくりましょうか?」

「俺とアン子を乗せてくれるなら!」

「…しょうがないわね、いいわ」

車で家まで送ってくれた。

夏休みと言う事はお弁当食べれないのか。久々家の食卓になるな。

まあいいか!とにかく長い夏休みを完璧に満喫させてもらおうじゃないか!

43

クーラーの効いた部屋で、俺はだいのじで寝転がっていた。チョコもなかのアイスが食べたかったが、外に出るのもおっくうだった。

そんな中玄関のチャイムがなり、誰だろうとドアにいくとアン子がいた!腕のギプスが取れてるじゃないか。

「アイス、買ってきたのん」

やはりアン子はわかってる。

「ありがてぇありがてぇ!」

そう言ってソフトクリームを貰った。まだ7月。お互いバイトに勤しむ時期だ。

「アン子のバイト先は、常にクーラーついててうらやましいよな。俺なんて客以外はほぼ無しだぜ」

「でも夏休みだから、ネカフェ席がかなり埋まってるのん」

そっか。そういうシーズンだもんな。

「寝る為だけに来る客もいるのんなー」

そう考えるとネカフェも大変だ。ブザーバックスも冷たい物欲しさに行列ができていた。ラーメン屋のようだ。

「腕はもう大丈夫なのか?」

「うん。もう平気って医者にいわれたの。骨がくっついたのん!」

「よし、その意気で8月は頑張ろうな」

らぁいん通話から、すみれが電話してきた。やはりアン子の事を心配してるようだった。

事情を話すとホッとしたみたいで、スケジュール変更等は無しということで8月某日に決まった。

「アン子、まだ安静にしててくれよな。まだ日にちはあるんだから」

「は~い」

アン子はうれしそうに言った。

「月末は給料日だから、水着を買うん。キョースケも買わないのん?」

そういえば去年履いたので、新しい海パンがほしいところだった。

「すみれと3人で行くか?」

「いいのん」!みんなで新しいの買うのん!」

よし、また3人そろう日までスケジュールを決めなきゃな。

「3人で水着?まぁいいですわ」

すみれにも了承をもらった。

「去年と同じ水着じゃ物足りなかったから」

スケジュールを決め、水着を買う事になった。

水着を買う当日。すみれは護衛の車で迎えにきた。

「それなりの場所で買わないとね。お金はあるから大丈夫よ」

ロールスロイスだ。車内は広かった。

「シャンパンでも飲む?」

「いいのか20未満の俺たちが飲んでも」

「そうね、やめときましょうか。タバコを吸ったりはしてないの?」

「吸う訳ないだろ!大人になっても吸わねーよ!」

「いい心がけね。でもいつか大人になったらさみしさを紛らわすために、頼る日がくるのよ」

なぜかすみれは遠い目をしている。大人のそれだった。

護衛が、

「到着しました」

と言うと、

「ここのモールで買いましょ」

「高そうだなぁ」

思わずため息をもらすと、

「いいのいいの、お金なら沢山あるから気にしないで」

そう言ってモールを3人で歩き回った。

「これなんかアン子にぴったりじゃないか?」

「それ子供用なん!」

「だめか…でも大きい水着はアン子には無理だぞ」

「いいのん厳選するから」

「これ、いいわねぇ」

そう言うのでみると、すごくセクシーな水着を見ていた。

「ちょっと大胆すぎないか…?」

「大丈夫私は似合うと思うから」

自分は良くても見る俺らはなぁ…

アン子も、

「これいいのん!フリフリがついてていい感じなの!」

アン子もいいのを見つけたみたいだ。

よく考えたら男用の海パンがほぼない。

おれのはないのかおれのは…

「みつけたが、黄色いトランクス海パンだった…」

「目立っていいじゃない。これにしましょ」

有無を言わさずすみれが買ってくれた。

「…ありがとう」

3人とも水着を無事購入した。

全員試着もしたから完璧だ。

「はい、往復用の航空チケット。無くさないでね」

そう言ってすみれは2人に往復チケットを渡した。

「あれもこれもすみれのおかげだ。感謝!」

「感謝なのん!」

「そんな事きにしなくていいから、パスポートと一緒に無くさないでね。でないと帰れなくなるわよ」

「…こわい事いうなぁ」

「事実やっかいな事になるから本気で実行してね」

「ほぇ~い」

あとはパラオでのスケジュールや何やら話してると、すっかり夕方を過ぎてしまった。

44

いよいよ明日はパラオ旅行の始まりだ。心躍らせながら小さいバッグに最低限の物だけを入れる。もちろん航空チケットとパスポートは一番奥にしっかり入れておいた。

アン子からのらぁいんからの写メが届いた。バッグを持ったアン子が映っている。すみれからも写メがきていた。泡風呂に浸っている姿だ。護衛にとらせたのか?

とにかく準備は済んだ。今日は明日に備えてゆっくり眠らないといけないのだけど、アン子が今日もバイトと聞いて、たまらず夜にネカフェに自転車で向かった。

アン子は今日はカウンターにいた。

「あ、キョースケなん。いらっしゃいなんー」

「こんな時間なのに眠れるのか?」

「疲れたらすぐに眠れるん。バッグも準備万端なんなー」

俺はひとまず安堵し、

「そうか!じゃあな!」

ライト付きの自転車で必死にこいでいたその時である。電柱に自転車を思いっきりぶつけて、転倒してしまった。おでこと肩を強打した。意外と直後は痛くないのだけど、後から痛みが沸いて来る。

これはすみれたちにバレるとまずい。仕方ないので徒歩でドラッグストアに行き、シップを何枚か貼ると、少しはマシになった。

自転車は新品のを買うか。ちょうどバイト料も入ってきているし。そのままフラフラしながら家に帰って即寝るに限る。しかしケータイのタイマーはしっかりつけておいた。明日の事を考えるだけで、痛みはふっとんでいく。アン子とすみれにメッセージしたが返信がなかった。すでにもう寝ているのだろう。

そうして、俺も次第に眠りに落ちていった。


45

とうとうパラオに向かう日が来てしまった。やはりというか当然かもしれないが、早起きしてアラームを止めた。アロハシャツをもう着つつ、バッグを持って外に出ると、定位置にアン子がスタンバっていた。

「ようアン子」

「あれ?頭赤いの。日焼けなのん?」

「まあそんな感じだ。行こう早く」

「すみれが車で迎えに来てくれるらしいのん」

「そうか、じゃあ待ってりゃいいんだな」

アン子の荷物もかなり小さい。水着とチケットとパスポートしか入ってないんじゃないかと思うほどだ。

「骨折した部分はもう平気なのか?」

「完全に治ってるのん!」

そう言ってアン子は腕を回した。

そうこうしてるうちに、ロールスロイスが家の前に止まった。

「乗ってちょうだい」

すみれは大きいサングラス姿だった。運転はもちろん守衛だ。

「キョースケ、頭赤いわね」

「日焼けだ日焼け」

「というよりはケガしてるみたいに見えるけど…」

「なんてことないさ!さあ行こう」

ロールスロイスは小さい路地には不向きなんだろうが、守衛は慣れた手つきで運転していく。

「今日、到着するのは夕方だから、ディナークルーズするわよ」

「船でか!」

「すごいのん!」

「当たり前だけど最高よ」

「すみれのグラサンやけにでかいな」

「これはアメリカのセレブがかけてる、小顔に見せる為のグラサンなの、わかる?」

「さすがすみれ、流行をおさえてるな」

「こんなの数年前からあるわよ。さあどんどんいきましょ」

1時間ほどすると、国際空港に到着した。

「護衛は2人、今日中につきます」

運転手はすみれに耳打ちし、車で帰っていった。

空港内って、帰りはグダるけど、行くときは雰囲気が独特の空気だな!

「機内食もあるから、食べたり寝たりしてちょうだい」

「ウチ、眠気でフラフラしてるん…」

どうやらアン子は家では寝られなかったっぽい。

天井から吊り下げられている案内板を見て、

「あれよ、231便パラオ行き!」

「急ごうぜ」

半分駆け足で向かうなか、アン子はふらついていた。

「あれ…」

「どした」

「無いの」

「何が?」

「パスポートがないん!」

「ええええぇ」

「どうすんのよ無いと乗れないじゃない!」

アン子はしきりにバッグをガサゴソしている。

「あ、あったのん」

バッグの奥にチケットとパスポートが入っていた。

「頼むからそういうのやめてくれよな…」

「心臓止まるかと思ったわ」

「ごめんなのん…」

「まあいい、早く手荷物検査に行くぞ」

さしたる問題もなく、手荷物検査を終え3人は駆け足でタラップを駆け上がった。

自分たちの席を見つけ、やっと一息つく。

「クーラー効いてていいわね」

飛行機が宙に浮く瞬間がたまらなく好きだ。アン子もどうやら好きみたいだ。

頭がよくないので、どうして飛行機が浮くのかはわからないが、実際乗ると声に出てしまう。

すみれは、別に?といった風だ。そんな感じでサングラスを外した。

「グァムよりは距離長いから、起きててもいいけど寝た方が楽よ」

「機内食食べるまでは寝ない!」

「子供か!」

呆れたすみれはパラオの本を眺めていた。

アン子はもう寝ちゃいそうな感じである。機内食がもったいないぞ。

しばらく外を眺めていたが、お待ちかねのディナータイムだ。

「ビーフ・オア・チキン?」

聞かれたので、

「ビ、ビーフ、プリーズ」

食べてみるとちゃんと牛の肉で安心したが、食べ盛りの俺にはやはり腹には溜まらない量だった。

よく見るとアン子もちゃっかり起きて食べていた。

「食欲はディナークルーズに取っときなさい」

そう言いつつ、すみれも完食していた。

あとは時間の問題である。食べると眠くなるのが人間だ。そんなわけで、どうしても眠くなったので眠りに入ってしまった。

アン子も同じく食べたせいか眠りに落ちてしまう。

すみれは前日たっぷり寝たので全く眠たくなかった。

そうして5、6時間は経っただろうか。

到着するので、シートベルトを着用してくださいというアナウンスで、飛行機の搭乗の終わりが手短に響き渡った。

ふう~!やっと来たかパラオへ!

タラップを降りて入り口に行くと、ハワイのダンサーみたいな人が僕たちを迎え入れてくれた。ベリーダンスってやつか?花束を首からかけられ、ほっぺにキスまでしてくれた。女性からキスもらったのって多分初めてじゃないかな。すみれはちょっとムスっとしている。

そこから一気にディナークルーズの始まりである。船に乗ると案内人が席まで誘導してくれた。

「これって俺たちの貸し切りかよ!」

「そうよ、いいでしょう?」

席に座ると、たっぷりのフルーツ盛り合わせが運ばれてくる。

「すげぇ!」

「これ前菜だから、無理しないでね」

俺は大好きなパイナップルを食べて、そのおいしさに思わず声がでてしまう。

「しあわせ~」

「スイカもあるのん!おいしいの」

「こんなんで驚かれちゃ困るわ。店主、あれを」

「かしこまりました」

すみれがシェフと話している間にも、ブドウやサクランボを食べ続けた。

と、シェフがすごい装置を持ってきた。

子豚を丸々1匹、自動回転させてやってきたじゃないか!

「文字通り、豚の丸焼きだな」

「なんか可哀そうなん…」

「あんたらが食べてる豚肉は職人が切ってる事、忘れないでちょうだい!」

すごさというよりは、ちょっと皆が引いてしまったのは、すみれの誤算だった。

「とにかく切って渡してよね!」

「はいお嬢様」

日本語で応えると、豚をそぎ落としていった。もうよだれが止まらない。

おそるおそる食ってみる。美味い!焼きたてだと、こうも違うもんか。

「焼きたておいしいのん!」

「でしょう。やっぱりお腹は正直なのよね~」

ブドウジュースが運ばれてくる。一瞬ワインかと思った。飲んでみると実にフレッシュだ。シーザーサラダも3人であっという間に平らげてしまう。

暗くて遠くまでは見えないけど、風景も実に美しい。

明日から念願の海を堪能する時だ。明後日はダイビングもする。

「じゃあ私達のホテルに戻りましょうか」

「え、豚の丸焼きがまだ…」

「あんた全部これ食べる気?いくわよ」


浅瀬に立つ何棟かのコテージのようなものがそこにはあった。

「え、これ?」

そうよ。3つあるでしょ。

海の上に立ってるし!

「耐久性が問題な物件だぞ」

「パラオじゃ常識なの!文句言わずに寝ましょう」

すみれははしごを使ってコテージにはいって行く。

すみれが言うんだから仕方ない。

「アン子は大丈夫か~?」

「何とか、なの…」

俺はホッとして、はしごを使い、やや狭い空間で眠りについた。

46

パッと目が覚めると、窓からエメラルドブルーの海が続いてる。

早速海パンに着替えた俺は、コテージから飛び降りた!

冷たっ!目覚めてから海に入るまでの早もぐり大賞があれば、俺だな。

透明感がハンパなくすごい。小さな魚が集まってきているのがわかる。

クロールをしてみると気持ちいい。

すみれは、はしご越しに海に入ってゆく。前以上にピチピチな水着なんで色々大丈夫なのだろうか。

アン子はまだコテージから出てこないでいた。腕がまだ完治してないからだろうか。そう思っていたが、どうやら寝坊しているだけだった。

「アン子も早く来いよ!俺は泳いでいくからな!」

そう言って俺はクロールで先まで泳ぎ行っていく。

「ちょっとキョースケ、待ってよ~」

すみれは平泳ぎでスイスイ進んでゆく。アン子はやっと起きたようで、水着に着替えていた。

グァムよりもきれいな海ってあるもんなんだな。さすがに最後の楽園と言われる理由がわかる。

シュノーケリングをしてみると、魚群がすぐ見つかる。ダイビングしないと見れないものもあるらしい。ウミガメや、ラッキーならジンベエザメも見れるらしかった。

すみれもシュノーケリングしている。

「とってもきれいね!」

「ああ、最高ってやつだ!」

アン子もやっと新しい水着で海に入って来た。

「つめたいのん…」

「大丈夫か?昨日風邪でもひいたか?」

「違うのん、起きてすぐ海だからなのん」

コテージは海に立て込んでいるので、確かに海に囲まれている。

「俺、またちょっと先まで泳いでくる!」

「あー私もいくわよぉ~」

おれとすみれは競争するように泳いでいった。

アン子だけがその場で震えていた。

奥まで行っても透明な海だ。しかも俺たち以外、誰もいない。なんて贅沢な貸し切り具合だ!

今日はシュノーケリングで充分海の中を体験できた。明日は俺とすみれでダイビングだ。

アン子がやっと泳いでやって来た。

「海が透き通ってるのん!」

「ああ、すごいな」

「ここの自然環境だけは崩したくないわね」

「ああ全くだ。今は色々あるからな」

結局3人は夕方くれるまで泳ぎ、すみれ以外は日焼けしてジンジンするのであった。

そして夜──────────

すみれの配慮で夕飯はステーキになった。シェフがその場で焼いてくれるスタイルだ。

焼きあがるまでパラオの踊り子たちを眺めていたが、ちょっと恥ずかしい。

「全員、レアでよろしいですね」

「そうよ」

例の柔らかい肉である。もう食べたくて仕方がなかった。

出来上がった肉はデカくて食べ応えがありそうだった。もうフォークを使って肉にダイレクトに噛みつく。

うまい!グァムでもたべたが、それよりも美味い気がする。

柔らかいので、すみれとアン子はナイフとフォークで丁寧に食していた。

備え付けのコーンがめちゃ熱であわてて水を飲んだ。

「コーンめっちゃ熱いぞ、気をつけろ」

「分かってるわよ」

おかわりしたかったが、さすがにちょっと気が引けた。そのかわりデザートにアイスクリームが出た。

「アイスなのん!」

アン子はアイスに目がない。実にクリーミーで変わった味のソフトクリームだった。

今日もは最高の食事をありがとう。

明日も朝は早いので、早めにコテージに戻る事にする。

散らかったままなので、ベッドメイクさんとかはいないらしい。

俺はすみれからもらったパジャマに着替えると、布団にくるまった。

アン子からまたドアップの写メが送られてくる。一体これは何を伝えたいのか。

すみれからはパジャマの写メがきた。文字には「おそろいv」と書かれてある。

はいはいお揃いですよ。もう寝ることにする。明日も楽しく忙しい。

2日目のパラオ、横になるとすぐに眠りについてしまった。


無事円満に解決したわけさ!」

49

そうして、普通の夏休みに戻った俺とアン子はバイトに勤しんでいた。

「チョコバナナフラペチーノ、お待たせしました~257番の方!」

パラオ3日目──────────

快眠した俺は、朝すぐに目を覚ました。今日も予定が詰まっている。

すみれもすでに起きて来た。アン子はおなじみの寝坊である。

今日は俺とすみれはダイビングに行く。そこでアンコにはパスポートなどの貴重品を預けて、おみやげや、その他買い物を頼むことにした。アン子ひとりでははっきり言って危ないなとは思いつつも、アン子はバイトもしてる身だし、安心かなと思ったのである。

「じゃあ、いってらっしゃいなの~」

波止場で一旦別れた。船は貸し切りのボートだ。やや小さかったが、ダイビングがメインなので問題は無し。

「ここらへんでいいでしょう」

すみれが言うと操縦士はボートを止めた。

「私からいくわよ」

すみれはボートの端に座り、後ろから水に入っていった。俺ももちろんそのあとに続く。

酸素ボンベは結構重い。でもこの素晴らしい自然よ。細長いシマシマもようの魚が泳いでいく。

あ、いたウミガメ!こっちに手を振っているように見えるのは錯覚だろうか。他にもトロピカルな色の魚がいたりして、実に多種多様だ。

すみれの後を追いかける形で泳いでいた。ピンク色のサンゴもある。

と、その時である。巨大な魚がこっちに向かってくるではないか。

天然のジンベエザメである。なんてラッキーなのだ。ジンベエザメは口を開けてプランクトンなどを食べており、温厚な魚である。

写真がとれなくてとても残念だ。すみれは防水のスマホで写メをとりまくっている。うらやましい限りだ。1時間弱のダイビングだったが、実に内容の濃い時間だった。

「ジンベエザメ見た?おおきいわよねえ」

「すみれのスマホは防水用なのか」

「そうよ、ちょっとお値段あがるけどね」

何でも持ってるんだな、すみれは。

「さあ、普段着にきがえましょっか」

「アン子はうまく買えてるんかなぁ」

写真、俺も撮りたかったなぁ。

着替えた後は、すぐに波止場まで一直線で進んでいった。

アン子はお土産屋で苦戦していた。食べ物系よりも木造の人形屋や、特殊なネックレスなどが圧倒的に多いからだ。

趣味に合うかどうか全く2分する趣味だ。

そこへ俺とすみれがやって来たのでアン子は半泣きで応えた。

「お土産が独特すぎて、何買っていいかわからないのん…!」

「お、おう…そうか。確かに人形欲しいかって言うと…微妙だな」

「小さい人形や腕につけるやつとか買えばいいかもね。あとなんとしても食べ物を探す事!」

3人で見て回ったが、いいTシャツを見つけたので買ってみた。店員が腕を見せて「コレミテ、ニホンゴ」と言い見せてくれたが「過労死」と彫ってあった。言葉がすごくクールらしかった。が、「すごいですね」と俺は言うしかなかった。

結局あまりお土産買いはうまく続かなかった。人形数個、木で彫刻されたペン、Tシャツ、そのくらいだった。食べ物はどれもクセのあるものばかりでパスした。

「もういいだろう。早く夕食に行こうぜ」

「その前に3人で行きたい場所があるのよ」

「もう日が暮れちまうぜ?」

「どうしても行きたい場所なの!2人ともついてきて」

俺とアン子はしょうがないなぁという体で、すみれに着いていった。

しばらく良い風に吹かれながら向かった先は、大きな灯台だった。

「前にここへ来た時、灯台のてっぺんから見える風景が忘れられなかったのよ」

「なるほどなぁ。まあパラオは全体的にきれいな場所だから、確かにわかるけどもだなぁ」

「でもこれ登っていくのん?」

「ええ、登るのよ」

「え?エレベーターか何かないの?」

「あるわけないでしょ。コテージをみても分かるでしょう」

「さすがに無茶ぶりだろう…かなり大きいぞ、これ」

「絶景だから、それを報酬として頑張りなさい。疲れればご飯もおいしいわよ」

仕方なく3人で灯台に登ることにした。早くもアン子が根を上げる。

「もうきついの…先に行って欲しいのん」

「ついてこいよ?この後ステーキが待ってると思って!」

すみれは汗もかかず、たんたんと階段をあがっている。

俺でさえきつらい階段だ。すみれは超人か何かか?

「風景を知ってるから、登れるのよ」

見透かされたように、すみれに言われてしまう。

何十分経っただろうか。アン子の姿はすでに見えなくなっている。

「もうすぐよ」

すみれは再び淡々と歩いてゆく。

その価値が本当にあるかどうか、見させてもらおうじゃないか。

「アン子きこえるか~」

遠くの方から「あ~い…」という声が聞こえて来る。どうやら着いてはきてるようだ。

「ここよ!」

到着した瞬間、森や海に囲まれた美しい風景が広がっている。

ところどころ明かりもついていて、実に美しい風景だ。絶景といったところか。

アン子が到着するまで、2人はただ黙って景色を眺めていた。

「あ~い…」

アン子が到着した。

「キレイなのん…だけど疲れたの…」

「これ、帰りも階段だよな。こけるなよみんな」

急に現実的な話になってくる。

「もっと景色を楽しみなさい!」

そう言ってすみれはスマホで写メをとりまくっている。一応俺も何枚か取っておいた。

「降りるわよ」

「ふぁ~~~…」

アンコはもうリタイヤしそうな声で嘆いてる。

「アン子はゆっくりでいから、気をつけて降りて来るんだぞ」

「ふぁ~い…」

すみれは再び、きびすを返して淡々と階段を下りていった。

その体力はどこから来るんだ。

何とか下まで降りた頃にはアン子が動けなくなり、仕方が無いのでおんぶしてレストランへ向かう。

「日々、鍛錬がたりないようね」

すみれは涼しい顔で言った。

「今日はお店に行くわよ。メインはステーキだけど、それだけじゃないわ」

すみれは胸を張って言った。

「ぬかしおる!期待しよう」

そしてあっという間に日が暮れ、真っ暗になった。

その片隅にある大き目のレストラン、今日の夕食だ。

「いらっしゃい!さあ奥へ」

店内は人であふれている。いい場所を予約してくれたんだろう。

「まずこれ飲んでひとり1個だよ」

ココナッツだ!初めて飲む。大き目のストローが差してある。

「うーん美味い。天然でこんなにおいしいのかよ」

アン子も必死にストローに口を近づけている。

「ステーキまでのおいしい時間よ」

すみれは丁寧に喉をうるおしている。

「あんたたち、また日焼けしてるんじゃないの?全く…」

そういえば全身赤い。アン子も結構赤かった。

そうこう言うウチにステーキが運ばれてきた。

「おかわりOK!レアね」

気さくそうなシェフ自ら持ってきてくれた。

これも間違いないだろう。

それにしてもレアはうまいな。低品質の肉はとにかく焼かないといけないが、上質な物ならレアができると、すみれが確か言っていたな。

ダンサーはずっと食事中ずっとベリーダンスをしている。お仕事ご苦労様。チップを出せばいいのか悩んだが、あえてここはすみれに託した。

結局3日目も怒涛の速さで過ぎていく。もうしばらくはカルキ臭のする普通のプールには入れないだろうな。

すみれは宝石パックからリングを差し出した。

「これお揃いで買ったから、つけてよね」

俺は困り顔で言った。

「ごめん、俺リングとかピアスとかダメなタイプなんだ。バイトでも禁止されてるしな」

「そう…じゃあアン子にあげるわ!」

「抜け駆けしようとした罰なん!もらうけど」

笑いながら今日も無事何とか終えることができた。

もう明日の夜便で帰るのか…1週間いても飽きないだろうけど、せっかくのすみれのプランだから大切にしたい。

コテージに入ると、すぐ眠りにつく…はずだったが、またアン子から写メが送られてくる。指輪をしてるアン子だ。

まんざらでもないのだろうか。すみれからも写メがとどいた。ダイビング中の写メだった。普通にうらやましかった。

写メを見てるうちに眠気が一気に来たので、明日に備えて眠る事にする。

48

パラオ最終日──────────

あっという間にパラオ旅行も最終日になってしまった。

航空便は夜なので、午前は泳いで、夕方から花火をする予定だ。

俺は相変わらず綺麗な海で泳いでいる。砂浜の場所を丸々借りたんじゃないかと思えるほど人がいなかった。すみれの少し後ろにいるのは護衛だろう。

アン子がシュノーケリングをしている。

「お魚さん大量なの!」

トロピカルな色の魚だから、釣りしても食べられないだろう。魚も人に慣れてる感じだった。

すみれは日よけ用のクリームをぬりながら、パラソルの影ですずんでいた。

「すみれ、花火セットとか持ってきてるのか?」

護衛がきてそれぞれ一つづつ花火セットを持っている。なるほど。

今日は目いっぱい泳ごうと決めていたので、進入ラインぎりぎりまで何往復も泳いだ。

アン子もシュノーケリングばかりしている。物珍しいんだろう。水着もアン子にぴったりのかわいい物だ。

すみれの水着は、前回よりも攻めている水着だった。大きくは語らないが…。

めいっぱい泳いだので、一時だけパラソルで疲れをいやした。

「すみれは泳がないのか?」

「私はダイビングだけで充分よ」

今日のすみれは少し元気がない感じを覚えたが、まあ大したことはないだろうとタカをくくって、俺はまた泳ぎにいく。

「お魚さん捕まえたの!」

アン子が魚を1匹つかまえていた。

「だめだ、お魚さん傷ついちゃうだろ」

「そうなん…」

アン子はすぐに魚から手を離した。

充分泳ぎ切った頃、日が落ちてゆく頃合いをみて、

「じゃあ花火しちゃおっか!」

とりあえずバケツに海水をいれた。

「緑色だぜこの花火!」

「残像がキレイねー」

このロケットみたいなのなんだろう。試しに点火してみると、天からパラシュートが落ちて来た。俺とアン子はパラシュートの取り合いになったが身長差で俺がゲットした。

アン子はしょぼくれて、ひとり線香花火をしていた。うまく言えないが、アン子は線香花火が良く似合う。

ドラゴンもすごい威力だったし、ネズミ花火も素早くて逃げまくっていた。

3人みんな笑っていた。こんな時が永遠に続かないかな。無理なことだけど、でもそのくらい楽しかったってことさ。

花火をあらかた終えて、護衛がバケツを持ってかけていく。

「夜の便だから手早く準備して。下着や水着ももう着ないから捨てちゃってもいいわ。とりあえず航空チケットとパスポート!これだけは大事」

「ああ、元々荷物少ないからな」

「準備オッケーなん!」

「じゃあ車で空港にいきましょうか」

護衛が回してきた車に飛び乗ると、一気に空港前まで走らせてゆく。

「もう終わりか―早かったなぁ」

「グァム以上にたのしかったん!」

「…」

すみれは何も言わなかった。やっぱりちょっと変だな。

夜の便に乗った3人はそれぞれ席についた。

「あーまた6、7時間かけて帰るのかよー。もうちょっと早くしてほしいな」

「わがまま言わないの!」

珍しくアン子にさとられる。

「機内食も楽しみなん!」

「すみれ、疲れているのか?」

「別にそうじゃないけど…」

機内食が来ても、すみれは無言で黙々と食べていた。やはりなにかおかしい。

飛行機に乗っている間じゅう、すみれは色々と考えているポーズでだまっていた。

なにか俺に落ち度があっただろうか、それともアン子?いや特に見当たらない。

そんな俺も、チキンを選んで黙々と食べるのだった。

アン子は安定の食べてから寝るのルーティーンに入っていた。

すみれはやはり黙っている。心配した俺は、

「やっぱりどこか変だぞ。どうしたんだすみれ」

「…せいよ」

「何?」

「あんたのせいよ!」

え、俺?確かにずっと泳いでいたから、すみれとあまり会話できなかったのは認めるが、何かそれ以上の過ちをしてしまっている感満載だった。

「俺に落ち度があったのなら謝るけど、でも一体なぜ?」

すみれは無視してブンむくれて窓を見ている。

いよいよ混乱してきた。ますます謎はふかまるばかりだ。

アン子はぐっすり眠っている。

「アン子は相変わらずだな、すみれ」

「…そんなにアン子が気になる訳?」

「え?いやまあ、寝てるかなってだけだが」

「もうほっといて!」

明らかにいらついている。せっかく楽しかったパラオ旅行である。最後に何か傷を残して解散するのは問題だった。

考えれば考えるほど、答えがみつからなかった。正直ちょっと眠かったが、目が冴えてくる。

「すみれ、もっと具体的に言ってくれよ。俺わかんないんだ、すみれがそんなイラついているこの状況じゃ」

「その鈍感さが気に食わないのよ!」

すみれはそれ以上何も言わなかった。ますます混迷するばかりだ。これは寝てる場合じゃないぞ。どう考えても俺の問題だし、正解をひねり出さねば。

すると、自転車でケガをした肩の部分が日焼けしてズキズキと痛み出した。これはばれてはいけない事項である。

ともかく、もうこれ以上すみれに、とやかく言うのは無理と判断した俺は、仕方なくスマホを眺めていた。

すみれが撮ったジンベエザメの写メを眺めている。ダイビングの時だって楽しくやってたじゃないか。

もうすぐ着陸という時に、アン子が起きてきた。体内時計が鋭い。

「もう着くん…?」

「ああ、もうすぐだ…」

「良く眠れたのん!」

「良かったな!」

着陸した3人はタラップを抜けて、手荷物検査、パスポートと航空チケットなどを渡して、無事日本へ帰ってきた。

俺は伸びをしながら、

「良かったなぁ~今回の旅」

「また3人で行きたいのん!」

すみれは呟くように言った。

「3人…で?」

アン子は不思議そうな顔をしてる。

「…ちょっとファミレスにいきましょう」

すみれが何か言いたげなのは確かだった。黙ってうなずく。

護衛の運転で、空港そばのファミレスで、ドリンクバーだけ頼み、3人席に腰かけた。

すみれは黙っていたが、皆がジュースを持ってきたタイミングで、神妙に言った。

「あのねキョースケ、もう我慢できないから言うけど、私のアン子のどちらをカノジョにするか今、この場所で決めて欲しいの!」

「はあ??」

ここファミレスだぞ?そういう大事な事言う場所じゃなだろう。でも緊急的措置だというのだけは伝わった。

「アン子はどうなんだ?いいのかそんな大事な事、ここできめちゃって」

アン子はしばらく考えていたが、うなずきながら言った。

「アン子も、知りたいん。はっきりさせるのん」

両人とも、本当にマジな顔をしている。

アン子は幼稚園から高校まで一緒だった。それとも金持ちの、いや中身のすみれを取るか。

いつかこうなる日が襲ってくるのは、おおかた予想はしていた。が、まさかファミレスでなんて…

しかし2人とも大真面目である。辺り一面、一気に緊張感が張り巡らせる。

そうか…2人ともそうしたいなら、仕方が無い。5分くらい長考していたと思う。

「分かった。じゃあほっぺにキスするから、2人とも目をつむっていてくれ」

2人は目を閉じた。肩と頭がズキズキする中、手汗を噴き出し、ゆっくりキスをした。

「キスされたわ!」

「キスされたのん!」

「え?」

「あは…2人は幼馴染だし、恋人だ。それでいいじゃないか!今回だって3人だから楽しめたんだろう?」

「ちょっと!話が違うわよ~!」

「何なんー!」

2人はキョースケに詰め寄る。まあ予想していた反応だったが、それでも納得できない2人はガヤガヤ叫んでいる。

今の俺には選択なんてとてもできない。でも今が楽しければいいじゃないか。そうして俺はドリンクを一気に飲み込んだ。

「絶対認めないからね!絶対よ‼」

「キョースケずるいのん!」

俺は言った。

「楽しい事優先でいいじゃないか!まだ高校入ったばかりだぜ?それでいいじゃないか」

こうして普段の夏休みに入った。俺もアン子もバイトに勤しんでいる。

「注文135番の方~!」

「わたしよ」

「すみれかぁ。忙しい時に限って来るよな」

「いつ来ようが客の勝手でしょ。まあ頑張りなさい」

「ありがとうございました~」

アン子は後輩の2人に熱心に指導する役になっていた。

アン子へのいじめがないよう、俺はちょくちょく顔をだして首の骨を鳴らした。

そうして夏休みは、バイトもあったりして一気に過ぎていった。

「だるいわー」

俺は夏休みの宿題をたんまりやって、疲れまくっていた。自転車の時にぶつけた傷も、日焼けをはがすと同時に消えていった。

夏休みが終わって初登校の早朝、俺が玄関の扉をあけると、定位置にアン子が立っている。

「おす」

「行くのん」

そうやっていつもの日常がはじまっていた。

「パラオは楽しかったよなぁ」

「あれは、短い夢を見た感覚なの。後はバイトでいそがしかったのん」

「そうだな。俺もパラオの後、ぎっしりシフトを入れられていたからな」

「大変だったん…」

「もう学校いきたくないぜ俺は」

「留年だけは防いてほしいのん…」

「バイトなんだけど多分辞めると思う」

アン子がびっくりしている。

「その分、勉強したり遊んだりして、またバイトしたくなったら違うブザバで働けるからな」

「ウチは当分の間は続けていくのん。体力もそんなにかからないの」

「そっか。アン子は好きにしたらいいさ」

そんな事を言ってる内に校門前に辿り着いた。そこへ1台のベンツが乗り付けてくる。出てくるのは当然すみれだった。

「あら奇遇ね」

「あれからすみれは何してたんだ?」

「まあダラダラしてたわ。その代わりホットヨガとか通って体調は回復したわね」

すみれは俺の近くまで来てささやくように言った。

「まだあきらめてないからね」

「ったく…」

そう言ってすみれは校門へとかけていった。まいったなぁ。アン子はキョトンとしている。

クラスに入ると、日焼けしたやつ、髪をそめたやつ、色んな変化が起こっていて笑ってしまう。

皆それぞれの夏休みを楽しんだんだろう。まだ先生が来るまで時間があったので、隣のすみれがいるクラスに顔をだしてみた。

案の定、皆に囲まれながら、

「すみれさんはどこいったんですか?」

「どうしてうちの美容院にきてくれなかたんすかぁ?」

まだ高校1年だ。時が経てば俺以外の誰かが好きになっていくだろう。女は普通そんなもんだ。

でもアン子は違う。いちずで、まっすぐだ。芯の部分からして違うように思えた。親と一緒にいる時間より長くアン子と一緒にいるんだから。

でもすみれはまだわからない。少ししか付き合っていないからなんだろうけど…。


すみれのクラスから離れ、俺の教室に戻った。

「すみれ、元気なのん?」

俺は両手をあげ、

「ああ。相変わらずだったよ」

「そう。良かったの」

俺は慌てて書いた宿題を点検していた。特に日記は急いて書いたのでペラペラとページをめくりながら調べる。

漢字ドリルも、写生も持ってきている。

でもグァムとパラオにいった4日分のは日記に詳細に書いた。楽しかった宿題はここの日記だけだ。

何分か確認してると、ふと思った。

そうだ、冬休みもどこかに行けばいいんじゃないか?それも完全にすみれの資金力に頼る形にはなってしまうが、スキーかスノボでもいいな。

「アン子は冬休みも旅行したいか?」

恐る恐る訊ねてみると、

「もちろんなのん!」

気持ちの良い答えが返ってくる。

「アン子はスキーかスノボやったことあるのか?」

「ないのん…でもスノボはオリンピックで見て楽しそうだったん!」

「俺もスノボに興味深々だ。こりゃ決まりだな。」

楽しみは別に夏だけじゃない。冬だって楽しいこと満載だ!

ボード選びなんかワクワクしてくるぞ。

そう考えるとこの暑い日も何とかしのげるような気がしていた。

早くすみれに伝えたかった。ラブ度数がまだその時まで続いていたら、の話だが。

1限を終えた2人は、すみれにその事を伝えると、

「私はスキー派だからスキーするけど、スノボならスノボでいいわよ」

結構あっさり了承してくれた。また新たな楽しさが増えた!

そう考えると、

「アン子、やっぱり俺冬までバイトするわ。冬休みも遊べる用の金作りだ」

「いいと思うのん。続ける事で気づく事があったりするのんなー」

アン子が、なかなか深い言葉を言ってくる。

「そうだな。とにかくお金貯めて色々必要なもの買うわ!」

「そうなのん!ウチも貯金たまってきてるん!」

「俺も少し貯金はあるぜ!親にも渡してるのもあるけど、もっとためないとな!」

「ウチも母さんにお金渡してるのん!」

そう言いながら俺たちの教室へ戻っていった。

今日の授業は昼もなく終わった。

「キョースケ、ウチお弁当作って来たのん」

「いいぜ、腹減ってるし!」

すみれが駆け寄ってくる。

「キョースケ、お弁当食べるわよね?」

「も、もちろんだとも!」

俺はいつも通り、お弁当2個をたいらげた。

「いい食いっぷりなのん!」

「さすがね」

すみれも納得の食いっぷりだった。

「そうだ、今日の夜、盆踊りがあって、露店も沢山あるんだ。色々あって遅れたけど、やる事になったらしい。3人でいかないか?」

「いいわね。久々に浴衣でも着ましょうか」

「うちもいくのん!」

「アン子は浴衣もってるのか?」

「1着もってるの!」

「よし、じゃあ屋台で色々食べようじゃないか」

パラオと比べるとガクンと質は下がるが、夜店の屋台も悪くない。屋台の独特なワクワク感ってなんだろうな、あれは。

夜になって、浴衣を着た俺は徒歩で夜店の入り口付近にいた。それぞれスマホを使って待ち合わせし、夜店を色々見て歩いた。

「おーいこっちだ!」

「良かった会えたわ」

「良かったのん」

早速俺らは縁日を品定めしながら歩きはじめた。


「あっこれ食べたい」

チョコバナナを見たすみれは、即購入し、かぶりついていた。

「普段持ってない小銭を出すのはしんどいわ~。カードで支払いできないのかしら」

「夜店でカード払いはないだろさすがに…」

アン子はりんご飴を自分で買って食べていた。

俺はたこ焼きや焼きそば、お好み焼きが欲しかったが、まだ先の方にあるらしい。

まだ俺は食べれずにいたが、射的を見たアン子は、

「コレやってみたいのん!」

「アン子には無理だろ…」

「やってみなきゃわからないの!」

アン子は標的を狙って1発撃つと、即時計を落とした。すごい腕である。次々と標的を撃ちぬいてゆく。

「すごいなあアン子の腕前どこで学んだんだ!」

「練習あるのみなん」

どこで練習してるのか…鴨狩りでもしてるのか?

すみれは金魚すくいを見て、

「これやりたーい!」

と早速始めていた。俺は金魚すくいマスターだったので、しばらくすみれのすくいかたを眺めていた。

「そりゃっ、あ~」

あっという間に紙が破れてしまう。

「俺にまかせておけ」

俺はすぐに紙を水にひたしながら、横にスライドさせてカップに金魚をすくっていった。

「キョースケすご~い!」

「これだけは得意なんだ」

10匹ほど釣ったのだが、

「すみれの家、水槽あるのか?」

「昔、魚を飼っていたから水槽はあるの」

そう言って釣った金魚をうばわれた」

そんな中、やっとたこ焼きの屋台が姿を現した。

「たこ焼き食べたい人!」

2人とも手を上げたので3人分のたこ焼きを注文する。

運良く焼きたてのをもらい、俺がお金を渡す。

「うーん中はトロトロね」

すみれがたこ焼きなんて下賤な物を口にするなんて思わなかったが、スキならスキで良かった。

最後に、花火が撃ちあがった。綺麗なので足を止める。

俺はすみれとアン子の両方に腕組みをし、

「3人で楽しくて、俺は幸せなんだ」

すみれとアン子は笑顔になり、花火をしばらく見つめていた。

これからどうなるかは分からない。でも一瞬でも楽しい時間が良いのは決まってる。

それに、なかなかすみれも折れない。俺に夢中になっているのはハッキリわかる。

それでもいいさ。冬休みだって楽しみが待ってるんだから。

これから、どれくらい楽しい時間が待っているだろうか。

考えただけで笑顔が止まらない。3人ともに笑顔だった。

花火がキレイで見入ってしまう。楽しい時間はこれからだ。

そう考えると、タコ焼きを食べ始める。すみれが口を開き、

「あーんさせて」

「アン子だってしてほしいのん!」

俺は笑いながら鯉に餌をやるように、二人の口にタコ焼きを放り込んだ。

「ちょっとさめてるけど、おいしいわね」

「美味なん!」
「そのかわりアン子のりんご飴もかじらせてもらうぞ」

ひと口かじるとアン子の顔が豹変した。

「ウチのリンゴ飴が…」

たこ焼きと等価交換だ。何の落ち度はない。

「なくなったらもう1個買ってやるさ」

それからはずっとキレイな花火に見入っていた。

生で花火を観たのはいつぐらいだろう。たしかガキの頃だったかな。

3人はただ、花火をいつまでも眺めていた。

THE END

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