Postman AAA

オーバエージ

文字の大きさ
上 下
39 / 40

そして僕らは‼

しおりを挟む


その後のテッドとヨーコが気になってる人はいるかい?
もちろん貴方が今、お急がしい身であることは重々承知しているよ。
それでも、どうしても届けたい物語があるんだ。
何たって世界を救っちゃう物語だからね。
よければ聞いていってくれても損はしないはず。

---



約1か月間、ホワイトハウスで数人の医者の手によって、テッドの体調はほぼ回復していた。
テッドのこめかみに付いているICチップも増強スキル以外の2つのチップを取り除くことにも成功していた。
これで堂々と敵の女性も倒せる。おそらく1番嬉しい出来事だったかもしれない。
銃の腕がなまらないように、ガンプレーも毎日欠かさなかった。銃は命であり力の源なのだ。AAAなら、なおさらの事である。

ヨーコはというと以前、鉛玉を食らった肩を医者の手によって再手術され、腕の違和感がなくなっていた。
「ありがとう」
ヨーコが笑顔を見せると、医師もマスク越しに笑顔を見せていたように見えた。

ヨーコ用の証明書付きのポストマン・ハットが届くと、早速被ってみる。いつも黒スーツなので、帽子も大統領の命令一言で、黒色の帽子にしてもらった事が嬉しくてたまらなかった。
「どう?似合うかな」
「いい感じだよ!」
実際被ると、落ち着かない感じというか、気恥ずかしい気持ちでいっぱいだったが、AAの証明書がくっついており、ヨーコが言った。
「道中で郵便をうけとったら、AAの仕事もしていいかな?」
テッドは笑顔で返す。
「もちろん!道中は今回来た道よりも長い旅になるんだ。そこで困っている人がいるのなら助けるのは当然だよ!」
またヨーコの耳が赤くなってゆく。
「大統領がお呼びです」
兵が伝達してくると、
「行こう!」
と2人で大統領室で急いだ。

2度ノックをし、大統領室へと入る2人。当然ながらそこには大統領が鎮座していた。
「だいぶ体調が戻ったようだね。実に喜ばしいことだ、うん」
「大統領のおかげです!ありがとうございます!」
「ございます!」
テッドとヨーコはいつもの90度お辞儀を欠かさなない。
大統領は椅子から立ち上がり、気持ちがぐっと引き締まる。
「では、大統領令を授ける。この手紙の返答をバイラ国セレンスキー大統領に必ず届けよ。しかし今回は特別、3人のハッカーを倒し、ジャミングを消し去る令を先に行ってほしい!そのために、1か月前に君が持ってきた手紙のコピーを私の権限で2人に渡す。以上だ!」
テッドは声をやや張り、
「了解いたしました!必ず成功して世界を救います!」
大統領はヨーコにも視線を移し、
「テッド君の成功はヨーコ君の肩にかかっているといっていい。どうか頼むぞ!」
「は、ひゃい!」
ヨーコは大事な場面で噛んでしまい、舞台俳優がセリフを忘れたかのような恥ずかしさを噛みしめる。
「はは、気負わず、しかし確実に頑張ってくれたまえ」
翌日の出発の日。兵士によって車用の電池、レーション、飲料水などを続々と車のバックに詰め込んでいく。
しかも新しい超防弾・ハイスピード仕様の軽車を新調してくれたのには2人で驚いた。
「行ってきます!」
門番の兵士に手を振りながら、ヨーコはアクセルをフルスロットルで走らせた。
しばらく走ると強盗団タイムである。早速現れた盗賊7人。テッドは銃を抜いたがヨーコは
「雷‼周囲の強盗団へ‼」というやいなや、轟音とともに盗賊がバタバタと倒れていく。
「ナイスヨーコ!」
ヨーコは気象強行士のレベルが既にトップクラスになっていた。標的に向けて雷を飛ばす事も可能になったのである。
いくつかの集団を雷鳴で倒し、ヨーコのパワーが無くなったらテッドが降りて、素早いガンプレーを見せつける。
もはやテッドとヨーコは最強のコンビとなっていた。もう何でもできるんじゃないか。テッドはそう思いながら車の窓を注視した。
かなり早いペースで以前通過したエンダー街に到着し、早速宿の予約を取る。物資はホワイトハウスで充分1杯になっている。
あくまで休息と作戦会議の為に宿を取った二人は交互に風呂に入り、ベッドで大統領から貰った手紙を広げる。
「ジャミング3人組がいるだろう?」
「そうね」
「奴らは得体の知れない場所に潜んでいると思うだろう?でも手紙によると、3人組の1人『ピップ』は、ここエンダー街にいるんだ」
「本当⁉」
「手紙によるとエンダー街の中のスラム街に居るらしい。街の人間は正直行かない場所だけど…あのヨーコ」
「何?」
「バスタオル姿なのはちょっと、その…パジャマに着替えてくれないかな?」
「わ、わかった」
ヨーコは耳を赤くしながらも向こうの部屋へ行き、急いで宿に常備されているパジャマ姿に着替えた。
「おまたせ」
ヨーコはそう言って再びベッドに帰ってきた。
「OK!それでだね、スラム街に行って探さなきゃいけないわけだけど、法令でこの帽子は絶対に被らなくちゃいけないんだ。」
「そうなの?じゃあ潜入捜査じゃなくて力づくで?」
「そうなるね。スラム街住人全員に雷を当ててくれないかな。あとはピップを手紙の似顔絵と比べて確かめていくしかない…へっくち‼」
「貴方もパジャマ着た方がいいんじゃないの?」
「そうみたいだね…ごめんごめん」
「スラム街に何人人がいるのかしら…それ次第で使うパワーも違ってくるから」
パジャマ姿になったテッドは手紙入りポーチと銃をパジャマ姿で持っている姿を見て、ヨーコは思わず吹き出して笑ってしまう。
「何か変なとこ、あるかな?」
「いえいえ…正装でしょ」
「スラム街の住人を倒し逃した場合は、僕が全員銃で倒してゆくから」
「じゃあ明日ね」
そう言ってヨーコは自分のベッドに転がると直ぐに寝息を立てる。運転してるだけでも疲れているのだろう。
テッドはいつもの所作、ポーチを枕の下に置き、銃を片手で持ちながら眠りについた。

夜明けに確かな異音がして、銃を力強く握る。意識はあるが目は閉じたままにしておく。音がいよいよ近くに来た時、テッドは上半身を素早く起こして銃を向けた。
「ひゃあ‼」
宿の婦人が腰砕けになる。宿の管理人だった。安堵すると銃を下げる。
「ごめんなさい、敵かと…」
「ちょ、朝食の準備をお伝えに…うう」
婦人は腰をいわせてしまったらしく、申し訳なく婦人に手を出し、立たせた。
「何…朝?」
「うん。今日は騒ぐから、しっかり朝食とろう」
「ネコパンチと同じ事いうのね」
短い沈黙が立ち込めたが、ヨーコは微笑しながら、
「もういいのよ。お墓だって作ったんだし」
「そっか!じゃあ飯、食べよう!」
目玉焼きを乗せたパンをほおばりながら、テッドは言った。
「良い点は、いままでこの道中1度も被弾してないことなんだ。この調子で今日も行こうと願ってるよ」
「痛いのはもう御免だわ。パワーは最大値だから平気よ!」
そういうと2人はしばし無言で朝食を摂った。

テッドとヨーコはスラム街の入り口に立っていた。
大きなゴミや紙袋を風が浮かせ宙を舞っていた。
「なるべくスラムの中心まで行こう。一人でも多くの住民に雷を撃たせたいからね」
「了解」
そう言うと2人はスラム街へと歩を進める。
ドラム缶に火を焚き、暖を取っている数人がこちらをジロジロ見ているが、あえてスルーし歩いてゆく。
窓やドアからも住人の視線をひしひしと感じる。ヨーコは少し背中が寒くなっていたが、恐れを見せてはいけない。そう思いテッドに付いてゆく。
10分ほど歩くと、濁った水が噴出している噴水があった。ここが中心地だろう。
「ヨーコ、雷を頼む」
テッドが言った瞬間、ドアから男がAK47を手に持って走ってきた。撃たせる前にテッドのマグナム157が火を吹き男は噴水に半身埋めて倒れる。
早い。パワーマックスのAAAがここまでガンプレイが素早いものなのか。ヨーコは汗をハンカチで軽く抑え、すぐしまった。
「ヨーコ、早く!」
ヨーコは両手を天に向け、
「雷!スラム街の住人へ‼」
そう言うとヨーコの体が黄色のオーラで満たされ始めた。レベルマックスの象徴であるオーラ。
今まで聞いた事のない轟音が何秒も鳴り始めた。周辺の住人に雷が当たったのだが、パワーをかなり分散させたので、気絶程度のダメージしかないだろう。
「ここはA棟とB棟がある。2手に分かれてハッカーを探そう!」
「わかった!」
分かれた2人は銃を手に持ち、片っ端からドアを開け住人を探す。とにかくゴミが散乱して上手く動けない。それでも必死に順番に探してゆく。
ヨーコも銃を手に1つ1つ部屋を見て回る。部屋の中ゴミだらけの部屋があり、
「ここも入るわけ?うわぁ」
ゴミを掻き分け進むが、子供が気絶しているだけだった。
どれだけ部屋に侵入しただろう。ゴミの匂いと何かの腐臭が漂って気が変になりそうだ。
そう思っていると、倒れていた男がうなりながら起き始めた。まずい。気絶から覚めてしまっている。
と、向こうのA棟から銃声が数発聞こえた。何らかのトラブルだろうか。テッドが手すりを掴んで、
「ヨーコ!こっちにきてくれ!なるだけ早く!」
聞いたヨーコは素早くA棟へと走り向かう。すでに何人かは起き上がり始めている。

「ピップだ。間違いない」
先ほどの銃声はピップを倒す銃弾だったのか。手紙を死体の横に起き、確かに確認すると、
「見てくれ、このPCの数」
ジャンク品でつくられたPCやサーバーが狭い部屋に詰まっている。
「それで、ジャミング解除の方法はあるの?」
「ジャミング解除法もこの手紙に書いてあるから、この手紙は紙、いや神なんだ」
テッドがジャミング解除を試みている。ヨーコはそれを見ていたが、後ろに気配を感じ、銃を持った男に向けてオート銃を数発食らわせる。
ガンパウダーの匂いを感じながらテッドは作業を真剣に進めていた。ヨーコは護衛側にまわる。
「早く早く早くしろ、このっ」
するとサーバーがダウンし、PCの電源も煙を上げながら落ちた。
「よし!」
どうやらジャミング解除に成功したようだ。
「車に帰ろう!」
2人は狭い階段を駆け抜け、スラム街を駆け抜けた。銃弾がそこかしこからやってくるが、プロ2人には到底当てるのは無理というものだ。
止めていた車に乗り込んだ2人は窓越しに銃を撃ちながら逃げ切り、達成感をやっと得たように嘆息したのであった。



「やったわね!」
「やったね!」
2人は車内でハイタッチした。
「やっぱり僕らは息が合う。ネコパンチには劣るかもしれないけどね」
「もうその話はいいから!」
ヨーコはようやっと吸えるといった体でタバコを吸いながら、
「残る2人のハッカーはどこ?」
「ふふ…どこだと思う?」
「焦らすの禁止!」
「何と、メガロポリスでパン屋を堂々と営んでいる女性だって言うんだからたまらない」
「女なの?何それどういう事?」
「何と言われても、そのまんまだよ」
「なるほど、完全に住民として溶け込んでるわけね」
「そういう事だろうね。メガロポリスまではちょっとかかるけど、宿をとりながらゆっくりいこう。確実に勝てる自信がある」
「出だしは好調よね」
そんな会話をしながら2人は早々にエンダー街を離れ、次の街へと車を走らせた。
タバコを欠かさないヨーコに、思わずテッドが突っ込みを入れる。
「ネコパンチはタバコの煙に何か言わなかった?」
ヨーコは窓を少し下げながら、
「しょっちゅう言われてたわよ。無視してけど」
「う、うんなるほどね…」
道中何度も盗賊団やハイエナが現れたりもしたが、そうは言っても2人の相性は群を抜いた相性で、メガロポリスに到着するまで全くの無傷でいたのだった。

数日後、メガロポリスに到着した2人だったが、さすがに運転疲れなヨーコは宿に置いて、テッド一人でターゲットに近づいた。

パン屋は目立つ中心街の1角にあり、外からガラス越しを見る限りとても繁盛してるように思えた。
なるべく客がいない隙を狙ってテッドは店内に入る。カランカランと綺麗なベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
綺麗なゴスロリのような制服で優しく出迎えてくれた。
パンを取る器具とトレーを無視し、テッドはとあるパンをわし掴みにして女性に見せた。
「お客様…?」
明らかに戸惑いの表情を見せた女性に、笑顔で答えた。
「僕はジャムパンを消しにきた。ジャム(ジャミング)をね」
女性は手を後ろに隠したが、
「後ろに銃持ってるでしょ。分かってるよ全部」
女性が銃を向ける直前、テッドのマグナム157が炸裂し、ヘッドショットで女性を倒す。
「ヘッドショットは『愛』だよ。もがき苦しめる事のないようにね」
そう言って店の奥へとズカズカ入っていく。しばらくすると煙が店内にまで充満し、テッドが戻ってきた。
AAAはジャムパンをかじりながらパン屋を出た。
「パンの味はなかなか上手いけど、世界を舐めてる奴は女性でも、もう容赦はしないよ」
呟きながらヨーコのいる宿へ向かった。

宿の部屋に戻る音を聞いて、ヨーコは目を覚ます。
「どこにいってたの?」
テッドは誇らしげに言った、
「2人目のハッカーをやっつけてきたのさ。僕一人でね」
「えッ…」
「僕はAAAになった時に、女性を殺せない『ICチップ』をこめかみに埋められたんだ。でもホワイトハウスで除去したから、女性が敵でも躊躇なく殺れるってわけ」
「そう…」
「んん?元気が無いねどうしたの」
「ねぇテッド」
「んん?」
ヨーコは耳たぶがもう真っ赤になっていた。何のことやら分からないでいると
「男女の友情って…あると思う?」
「もちろん!今の僕らがまさしくそうじゃないか!」
テッドが被せるように言ってくる様子を見て、ヨーコはため息をついた。でも吹っ切れた様子で、
「そうよね!あるわよね‼」
「ああ!最高の相棒さ!これまでの道中、無傷だよ?なんて素敵な昼下がり!AAAは本来こんな感じで手紙を運ぶんだと思ったよ。ヨーコも配達したいなら手伝うよ」
ヨーコはテッドの優しさに包まれながら、幸せを嚙みしめていた。それがたとえ相棒という名の友情だとしても。

---

後の展開はおわかりでしょう?
もはや無敵の2人のポストマンは3人目のハッカーを退治し、世界を変えるんだ。
ポーチに入った手紙も無事に届けながらね。
一生暮らせるお金はもらったけど、2人はポストマンの帽子を被り続けた。
インターネットと電話が使えるようになった事を知らせる伝道師として、街中動き回ったんだ。

郵便屋の制度が根幹的には崩れ去るだろうけど、困っている人がいるかぎり、ポストマンはいつだって走り続ける‼
しおりを挟む

処理中です...