共鳴する空間たち

小川文芸同好会

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冒険へ(初級編)

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 麓までやってきた私は、まずその高さに圧倒された。遠くから見るよりも、遥かに威圧感がある。今から、この山を、登るんだ。怖気付いてはいけない。
 そして私たちは、一歩進んだ。


 肩で息をする、という現象は本当に文字通りだ。実際にその状態になって理解する。岩に腰掛けて休む私のそばで、疲れを知らない猫が大きく欠伸をした。

 随分とお世話になっていたあの川の、上流と思われる場所を通りかかった。流れが激しく、魚の影は見えなかった。水音に身を任せながら、葉に包まれた魚の干物を噛んだ。

 森で、枇杷のような果物を発見した。食べてみるとかなり甘く、肉厚だった。種も大きかった。果肉は柔らかく、持ち歩くことは困難なため、食べ貯めしておく。

 ずいぶん登った。後ろを振り返って地面を見下ろした時にそう実感した。試しに石を投げてみても、音が聞こえてこない。

 今にも落ちそうな所で眠らなければいけなくなった。近くの木と私の胴をロープで繋げている間、とにかく編む作業に没頭していた事を思い出していた。
 もう五日程前だろうか、乾いた蔓の繊維を編んでいたあの日は。確か寒かった。
「ちょっと離れて...今大事な所だから」
 足にじゃれついてくる金色猫にそう言いながら、細い紐を二本手繰り寄せた。
 ロープを作る工程も、ほぐす作業が終わったから後半に差し掛かる。まず、繊維を三本よりわけ、三つ編みにする。すると糸になる。更にそれを三つ編みにし、細い紐とする。細い紐はより合わされる事により紐となり、それが三本集まってロープになる。そのロープが5m程になるように、何本か結び合わせて長くする。そのような工程を経て、ロープを作るのだ。
 勿論たくさん時間が必要になる。そして、私にはそれがある。
 単純作業に没頭してるうちに、完成品を握りしめたまま居眠りしていたらしいけどね。
 その時の作業のおかげで、今はゆっくりと寝られる。
「命綱あっての物種...眠い」
 猫の艶やかな毛並みを撫でながら。

 だんだん空気が薄くなってきた。でも、まだ歩ける。歩こう。

 だんだん空腹になってきた。だから、もう歩けない。休もう。
 近くにある木に、実が生っていた。少し齧ってみたら、とても美味しい!思わず二つ三つとってたらふく食べてしまった。

 こんなに植物が生い茂る中で、動物をほとんど見かけない事に違和感を抱いた。居るのは小さな虫、川の魚、小鳥くらいだ。鹿とか熊とか居てもいいのに。...熊はご遠慮願いたいけど。

 その植物も少なくなってきた。木は完全に無くなり、草花が多少生えるだけになった。慌てて戻り、弁当用の木の実をたっぷり採った。

 空が近い!
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