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冒険へ(中級編)
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「あぁ...」
私はそう呟いた。
私の足元には、崖がある。そこから谷を挟んで向こう側にも、崖がある。恐らく、地震か何かによって地面が割れ、こんなに大きな谷が出来たのだろう。
普通なら「大地の力ってすげー!」とか何とか思うだろうが、私の心を占めているのはそんな事ではなく、「どうやって渡ろう...」という事のみだ。
遡れば二時間前。この谷の存在など梅雨知らず、道なき道を突き進んでいた。
「君達も大丈夫?」
藪を突き進んで酷い格好になった私は後ろを振り返り、五匹の猫に話しかけた。彼らは私ほど乱れてはおらず、やっぱ猫だ平気なんだなぁと思った。落ち着いて考えれば、私の体でかき分けられた所を通っているのだから当然だが。
考えることを放棄していた私は、近くの岩に腰を下ろした。
「あー疲れた。お腹も空いたし...何か食べ物持ってない?」
これまで幾度となく猫達に語りかけてきたけど、返事があったことはなかった。今回も、金色猫に語りかけたが例外は生まれなかった。私の言葉が通じることはないし、向こうの言葉の意味を理解できることはない。なのに話しかけてしまうのは、寂しさからだろうか?
だけどこの時初めて、返事のようなものがあった。そうだと思った理由は単純で、はっきり私の目を見ながら鳴いたのだ。逆に今まで無かったのが不思議なくらい単純。
しかし私は感動した。かなり疲れていたんだと思う。脳に栄養が行っていない証拠。
金色猫はトコトコと歩き、一本の枝が伸びている場所で止まった。そして、口先でその枝をツンツン突いた。
これが食べ物なんだ、と受け取った私は枝から生える葉を摘み、口に放り込んだ。
馬鹿。
食えそうにない、と気付くまでの時間は早く、地面へ葉を吐き出した。金色猫が、あんた馬鹿?という目で見てくる。事実だ、気にするな。
猫は再び枝のところへ来ると、前足で地面を叩いた。学ばない私はそこに食べ物があると思い、掘ってみることにした。
地下には存外しっかりした根があり、そこに丸く細長い塊が鈴なりにくっ付いていた。芋みたいで美味しそうだな、食べてみよう、と私は愚かにも思った。
手慣れた所作で火を起こし焚き火を作り、枝に突き刺した件のブツを直火で焼いてみた。旨そうな匂いが広がる。
「いただきまーす」
無防備に齧り付いた私は、味が想像していたのとだいぶ違う事に気がついた。いや、旨いのだ。だが、サツマイモやジャガイモのような味がするわけではない。しかし、確かに芋だ。この味は...
「山芋か、君は」
元の世界ではあまり好きではなかったそれは、今この瞬間大好きになった。焼かれた事により風味も香ばしくなり、より一層の旨みを出している。空腹に喘いでいた胃袋は、たちまちのうちに元気を取り戻した。ついでだ、幾つか新たに焼いてお弁当用に持っていこう。
私は、猫達に話しかけた。
「さて、行くよ...あ」
忘れてた。というか気がつけなかった。猫達もお腹が空いている筈なのだ。慌てて猫達の方を見たがそこには、満足そうな顔の五匹の猫と、足元のいくつかの魚の骨。どうやら、あっちはあっちで腹ごしらえができたようだ。そういえば、金色猫が山芋のありかを指し示していた時は残りの四匹はどこかに歩いて行っていた気がする。あの後魚を捕らえ、私が焚き火を起こしたり芋を食べたりしてる時に、仲良く魚を分け合っていたのか。素晴らしい協調性。
「さて、今度こそ行くよ」
私と五匹の猫は前へ進む。
向こうに頂上が見えるから、こっちに進むべきだね、と確認しながらだと目標へ通じる明確な方法が見えるから、直接的なやる気アップに成る。よし、よし、前へ進むぞ!
やる気アップは気のせいかも知れない。
ヘトヘトになった私は、力無くその場に座り込んだ。いくらやる気があっても、体力がそれに付いていけなければ結局のところ無理なのだ。
「休憩も試合の内...って格言あったっけ?」
仰向けに寝転がりながら、空の青さと近さと深さを全身で体感しながらくつろぐ。返事はないのは承知なのに話しかけてしまうのは、最早癖だ。もしかしたら、さっき返事のようなものが返ってきて嬉しさの余り調子に乗っているのかもしれない。
「また返事してよ...やる気出るからぁ」
やる気だけ出ても仕方ない、と言った舌の根の乾かぬうちに出たこのセリフに、猫達はやや迷惑そうな顔をした。
「返事返してよー」
私は、諦めきれず駄々を捏ねた。金色猫は、『あーもう面倒くせえなぁ』というような顔をし、『休んでばっかだといつまで経っても目的地に着けないぞ』とでも言うように鳴き声を出した。
え、もしかして今返事してくれた?
驚く私をよそに、今度は白猫が『休んでもいいけど、すぐにまた歩き出すんだよ?』と言いたげに鳴いた。灰猫三匹集は特に何も言わず、蜻蛉玉のような眼でじっとこっちを見てくる。
「ありがとう、やる気が出てきた」
頂上はあともう少しだけなのだ。よし!また歩き出そう!
そう決意してからすぐの事だ、崖にぶち当たったのは。やる気が迸る私は、何が何でもこの谷を超えてやる!という気持ちにさせた。
よし、この谷越えに使えそうな物を確認しよう。そして作戦を立てよう。
焼き山芋とそれを包んでる葉。
木の実の殻で作った水筒と、中の水。
5m程度のロープ。
(火打石を打つ)打ち金。
何の変哲もないスケッチブック。
これらを収納してるリュック。
...これで20mはありそうな谷を越えるのは無理そうだ。
半ば絶望しながら、手にあるリュックについてを回想した。
私はそう呟いた。
私の足元には、崖がある。そこから谷を挟んで向こう側にも、崖がある。恐らく、地震か何かによって地面が割れ、こんなに大きな谷が出来たのだろう。
普通なら「大地の力ってすげー!」とか何とか思うだろうが、私の心を占めているのはそんな事ではなく、「どうやって渡ろう...」という事のみだ。
遡れば二時間前。この谷の存在など梅雨知らず、道なき道を突き進んでいた。
「君達も大丈夫?」
藪を突き進んで酷い格好になった私は後ろを振り返り、五匹の猫に話しかけた。彼らは私ほど乱れてはおらず、やっぱ猫だ平気なんだなぁと思った。落ち着いて考えれば、私の体でかき分けられた所を通っているのだから当然だが。
考えることを放棄していた私は、近くの岩に腰を下ろした。
「あー疲れた。お腹も空いたし...何か食べ物持ってない?」
これまで幾度となく猫達に語りかけてきたけど、返事があったことはなかった。今回も、金色猫に語りかけたが例外は生まれなかった。私の言葉が通じることはないし、向こうの言葉の意味を理解できることはない。なのに話しかけてしまうのは、寂しさからだろうか?
だけどこの時初めて、返事のようなものがあった。そうだと思った理由は単純で、はっきり私の目を見ながら鳴いたのだ。逆に今まで無かったのが不思議なくらい単純。
しかし私は感動した。かなり疲れていたんだと思う。脳に栄養が行っていない証拠。
金色猫はトコトコと歩き、一本の枝が伸びている場所で止まった。そして、口先でその枝をツンツン突いた。
これが食べ物なんだ、と受け取った私は枝から生える葉を摘み、口に放り込んだ。
馬鹿。
食えそうにない、と気付くまでの時間は早く、地面へ葉を吐き出した。金色猫が、あんた馬鹿?という目で見てくる。事実だ、気にするな。
猫は再び枝のところへ来ると、前足で地面を叩いた。学ばない私はそこに食べ物があると思い、掘ってみることにした。
地下には存外しっかりした根があり、そこに丸く細長い塊が鈴なりにくっ付いていた。芋みたいで美味しそうだな、食べてみよう、と私は愚かにも思った。
手慣れた所作で火を起こし焚き火を作り、枝に突き刺した件のブツを直火で焼いてみた。旨そうな匂いが広がる。
「いただきまーす」
無防備に齧り付いた私は、味が想像していたのとだいぶ違う事に気がついた。いや、旨いのだ。だが、サツマイモやジャガイモのような味がするわけではない。しかし、確かに芋だ。この味は...
「山芋か、君は」
元の世界ではあまり好きではなかったそれは、今この瞬間大好きになった。焼かれた事により風味も香ばしくなり、より一層の旨みを出している。空腹に喘いでいた胃袋は、たちまちのうちに元気を取り戻した。ついでだ、幾つか新たに焼いてお弁当用に持っていこう。
私は、猫達に話しかけた。
「さて、行くよ...あ」
忘れてた。というか気がつけなかった。猫達もお腹が空いている筈なのだ。慌てて猫達の方を見たがそこには、満足そうな顔の五匹の猫と、足元のいくつかの魚の骨。どうやら、あっちはあっちで腹ごしらえができたようだ。そういえば、金色猫が山芋のありかを指し示していた時は残りの四匹はどこかに歩いて行っていた気がする。あの後魚を捕らえ、私が焚き火を起こしたり芋を食べたりしてる時に、仲良く魚を分け合っていたのか。素晴らしい協調性。
「さて、今度こそ行くよ」
私と五匹の猫は前へ進む。
向こうに頂上が見えるから、こっちに進むべきだね、と確認しながらだと目標へ通じる明確な方法が見えるから、直接的なやる気アップに成る。よし、よし、前へ進むぞ!
やる気アップは気のせいかも知れない。
ヘトヘトになった私は、力無くその場に座り込んだ。いくらやる気があっても、体力がそれに付いていけなければ結局のところ無理なのだ。
「休憩も試合の内...って格言あったっけ?」
仰向けに寝転がりながら、空の青さと近さと深さを全身で体感しながらくつろぐ。返事はないのは承知なのに話しかけてしまうのは、最早癖だ。もしかしたら、さっき返事のようなものが返ってきて嬉しさの余り調子に乗っているのかもしれない。
「また返事してよ...やる気出るからぁ」
やる気だけ出ても仕方ない、と言った舌の根の乾かぬうちに出たこのセリフに、猫達はやや迷惑そうな顔をした。
「返事返してよー」
私は、諦めきれず駄々を捏ねた。金色猫は、『あーもう面倒くせえなぁ』というような顔をし、『休んでばっかだといつまで経っても目的地に着けないぞ』とでも言うように鳴き声を出した。
え、もしかして今返事してくれた?
驚く私をよそに、今度は白猫が『休んでもいいけど、すぐにまた歩き出すんだよ?』と言いたげに鳴いた。灰猫三匹集は特に何も言わず、蜻蛉玉のような眼でじっとこっちを見てくる。
「ありがとう、やる気が出てきた」
頂上はあともう少しだけなのだ。よし!また歩き出そう!
そう決意してからすぐの事だ、崖にぶち当たったのは。やる気が迸る私は、何が何でもこの谷を超えてやる!という気持ちにさせた。
よし、この谷越えに使えそうな物を確認しよう。そして作戦を立てよう。
焼き山芋とそれを包んでる葉。
木の実の殻で作った水筒と、中の水。
5m程度のロープ。
(火打石を打つ)打ち金。
何の変哲もないスケッチブック。
これらを収納してるリュック。
...これで20mはありそうな谷を越えるのは無理そうだ。
半ば絶望しながら、手にあるリュックについてを回想した。
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