サキュバスお姉ちゃんとの転性妹成長記

黒月 明

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知らない・・・知りたくない・・・忘れたい

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 エメルナ。
 恐らくこれが、俺の新しい名前なんだろう。
 
 確信が持てないのは、「おはよう」以外の言葉が理解出来なかったからだ。

 英語とも、中国語とも違うと思う。 イントネーション? 発音? みたいなのが聞いたことのない、知らない言語であることだけは確かだ。
 しかも覗き込んでいた母性溢れるあの美女は、綺麗な銀髪で。

 ……どこの国だ?
 いや、光の加減でそう見えた白髪なのかも。 うんそうだ、違いない。

 ここは病院なのだろうか……頭を動かして見渡すも、ログハウスの部屋にベッドが数台並んでいるだけで。 照明すら無く、あるのは換気かんきのため?についさっき開かれた窓から差す日光くらい。 外は冬なのか雪景色だが、何故か室内はそれほど寒くなく。 かまくらから外を眺めている気分になる。
 薄っすら雪化粧した山が美しい。

 寝ている間に、国内では対応できない程の重篤じゅうとくに? いやでも呼吸出来ないまま転院した方が手の施しようが無くなると思うんだが……
 そうか、脳死。 とまではいかなくとも、意識が戻らないままだったというのなら納得もできる。 となると怖くなってきた。 奇跡的に目覚めたとしても、あれからどれ程の時が過ぎ去ったのか。
 1~2週間で目覚める……は無いとしても、良くて数年の覚悟は必要だろう。
 一体どれだけ家族に迷惑をかけたやら……

 ――と、思っていた時期が俺にもありました。

 ちなみに、なぜエメルナが自分の名前だと感じたのかと言うと、「おはよう」の後に続いたから。
 銀髪美女や、頻繁にお世話してくれるおばちゃん、他にも色々な人から優しく話しかけられる度に「エメルナ」と聞こえてくることからも。 名前とは断定はできなくとも、俺を指す単語であるとは理解できた。
 ……でも俺の名字も名前も、どう聞き違っても「エメルナ」とはなりそうにない。
 つまりこれは、

((正真正銘、あなたの名前よ。 エメルナちゃん))

 語尾にハートマークがつく甘いささやきが、体の奥から発せられているように、直接脳に伝わる。
 まるで自分の中に、知らない誰かが居るみたいな……
 やっぱり周囲には誰もいない。 すわホラー展開かとナースコールでも押したいのに、上げた腕はなんだか赤ちゃんみたいにムチムチしていて……

 これも気のせいだな。 脳がリハビリ中なのだろう。 さっきから思考まで読まれて返事をされているのが何よりの証拠。

 あっ、窓空いてね? 風気持ち良いなぁ。

((あ~、またそうやって現実逃避する。 意地悪だなぁ~、エメルナちゃん))
 合わせた掌の人差し指を下唇に添えて首を傾げる、可愛らしさを前面に出したあざといポーズでねるお姉さん。 ポーズ自体は見えないが、そうしているってイメージは伝わってくる。
 声もそうだ。 耳には聞こえていないのに、頭が『そう言われている』と認識しているって感覚。

 何を言っているか自分でも分からないが、ありのままを受け入れるとこうなった。
 なんなんだこれは……胸の高鳴りのような感情まで伝わってくるし。 俺は今こんなにも混乱しているのに。
 うん、正常じゃないってのは確信できる。

((じゃぁ、何がどうなったら、正常だって安心できるの?))

 そりゃぁもちろん、この性癖に影響された幻聴が聞こえなくなった時だろう。
 どちらかというとロリコン気質だと自覚していたのだが、深層心理は優しいお姉さんを求めていたらしい。

((あ、やっと返事してくれた!))
 心から楽しいのが伝わってくる。

 ………アニメや漫画好きとしては、この状態異常すらも楽しんで然るべきと機転をきかせたにすぎない。

 言葉の通じない空間で飽き飽きしていたのもある。 他人に知られたら黒歴史直行だろうが、脳内なのだからリアクションしなければどうということもない。
 ポーカーフェイスを心がけよう。

((ふぅ~ん? ……えい!))

 抱き着かれ、背中に2つの風船が押し当てられた。 俺は今ベッドで仰向けに寝ているのに……だ。
「ひゃふっ!」
 可愛らしい悲鳴が上がる。 幸い、今この場に俺以外の人は居ない。
 ログハウスっぽい建物の1室。 観音開きの窓は開けられているが、消毒用であろうアルコールの匂いが鼻に突く。 せっかくなら木の香りが良かったなぁ。

 次第に大きくて柔らかい胸……風船かな? から固めのゴムで出来た小さいボタンみたいな感触が2つ認識できた。 無視できないくらいの主張に、意識が逃げられない。
 これもまたイメージだけなのに、ちく……ゴムの塊のような感触を本当に感じる。

 恥っずっかっしっいぃっ!!
 赤ちゃんみたいな声出ちゃったじゃん。

((みたいじゃなくて、実際に今のエメルナちゃんは生後数日の可愛らしい赤ちゃんよ))

 HAHAHA! さすがに赤ちゃんプレイは望んでいませんて深層心理さん?

((深層心理じゃないわ。 私にはアリアレス・ヘル・テオブロマって大切な名前があるの。 エメルナちゃんもアリアって呼んでね♪))

 あっれぇ~? 年上なら和服の似合う黒髪美人が好みなのに、どうして外人が来ちゃったかなぁ。

((あら♪ 良かったぁ、私黒髪だったのよ。 でも、正しくは“人外”ね♪))

 どうやら厨二病まで併発しているらしい。
 精神的に頭が痛くなってきたっ。

 おわかりいただけただろうか。
 先に……恐らくこれが、俺の新しい名前なんだろう。……と述べた最大の理由がこれである。
 彼女、自称アリアレス・ヘル・テオブロマなる存在がそう太鼓判を押しているのだ。
 ちなみに彼女も例の異国語で話しかけてきているが、なぜか意味は理解できている。 こう……もちろん日本語には聞こえないし、ご丁寧に日本語へと翻訳されて伝わっている訳でもない。
 なのに意味は理解できる。
 そう脳が認識している……て感覚。

 いや、これは脳よりももっと奥。 どちらかというと心臓に近い所かもしれない。
 もしくは心……魂、とか?

((へぇ~、異世界人の理解力って頼もしいのね。 マンガ…とかアニメ…?っての、こっちでも流行らせてみたいなぁ))

 ……ここはヨーロッパなのだろうか。 いや、にわか知識だから今のヨーロッパのド田舎の生活水準なんて知らないけど。
 とんでもない偏見だとは自覚しているが、日本なんて知らない、な国が多いイメージが強くてね。

((あっ、でもこっちの世界にテレビってのは無いから、アニメは諦めるしかないかもねぇ。 魔法で代用できないかしら))

 …………もういい分かった。 いや分かっている。 認めたくなかっただけだ。
 降参だ。

 俺は死んだらしい。

 つまり転生したらしい。

 しかも異世界に。

 そして、あの日俺を抱きかかえ、嬉しそうに微笑んでいたあの銀髪美女は、紛れもなく俺の新しい母親なのだそうだ。
 そう聞いた、俺の中のアリアレスに。

((ア・リ・ア♪))

 アリアに。
 そして俺はなんと、あの銀髪美女のなのだそうな。

 娘……

 男のではない。 正真正銘の生物学上の娘。

 …………夢ならそろそろ叩き起こしてくれ。
 
((あれ? 折角なら可愛い女の子に生まれ変わりたかったんでしょ?))
(何で知ってるんだよ)

 あぁ、確かに思ったさ。

 女性ならファッション楽しめそうだし、可愛い店とか1人ででも入れるし、容姿が良ければ美容意識に目覚めて、だらしない生活習慣からおさらば出来るんじゃないかと半ば信じていたからだ。
 決して報われぬ欲を満たすためだけではない!
 だって自分で自分好みの美女を作っていくとか、すんげぇ楽しそうじゃん! 自分だからこそ好きにスタイリングできるってのが良い。
 赤ちゃんから意識していけるとか、上手くいけば理想の女性も夢じゃないんだから!

 なのに現実はどうだ、中身は18の男、アホでだらしなく鏡なんて10秒以上直視できない、現実逃避趣味の天然パーマデブ。
 そんな奴が自分の娘の中身だと知った日には……………母親、半狂乱なるわ。
 メリットとリスクのバランス調整ミスってるだろ。
 これだけは墓の中まで死守しなければならない。

 更に、今は正真正銘の女なのだ。 なのに中身は男。
 あれ? これ恋愛できなくない??
 詰みじゃね?

 いや恋愛は辛うじて同性愛という魅力的な枠はあるが、子供となれば話は別だ。
 やはり親には見せてあげたい。 しかし……男かぁ。

 正直言うと、不可能ではない。
 男の娘なら!
 ついでに第2候補としては、無知やミスをさりげなくフォローしてくれる頼りがいのある、でも多少強引で厳しめな、でもそれすらも優しさや愛情からきているツンデレ的側面を持つイケメンなら許せなくもない気が……
 あぁでもそういうのばっか探してたら絶対行き送れるよなぁ、適齢期過ぎても理想ばっかぬかしてる年増とか絶対なりたくない。
 やっぱそこは柔軟に、一緒に暮らしても苦にならない程度の関係さえあれば……

((乙女だねぇ~♪))
(ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)

 ここに居るの忘れてたぁ~~~!!!!!!
 今俺何言ったぁ~!?!? 絶対昨日見てた乙女アニメに影響されただろこれ!
 やばい、知りたくないのに、アリアのニヤニヤが伝わる! 腐属性かテメェ!
 やめて! 見ないで!! そんな微笑ましそうな顔で期待しないで!!
 
(もう寝る!! おやすみ!!!)
 赤ん坊は静かに寝るのが仕事です!
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