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第16話 逆恨み
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ヒットとメリッサがそろそろ町に引き返そうかと思っていたところ、やってきた3人の冒険者と遭遇したわけだが。
「遂に見つけたぞメリッサてめぇ!」
3人の内の1人が突然メリッサを名指して叫びだした。表情には怒りの感情がありありと見られるが、ヒットとしては何を怒っているのかさっぱり理解が出来ない。
むしろこの状況なら本来怒るべきはメリッサの方である。この3人のことはヒットの記憶にも残っていた。
ヒットにとって見ればメリッサと知り合うきっかけをくれた相手でもあるが、同時にメリッサを見捨てて逃げ出した薄情な連中でもある。
「だ、ダロガ……それにネエとソウダナも……」
3人を目にしメリッサが呟く。だが、再会を喜んでいるような様子は感じられず、目には光が宿っていなかった。
「メリッサ、無事で良かった、よ、ねぇ?」
「そ、そうだな……」
「うるせぇ! テメェら何ぬるいこと言ってやがる! それよりメリッサこら! 何勝手にうちのパーティーぬけてやがんだ!」
「は?」
思わず声が漏れるヒットである。目つきも険しく、不信感に溢れていた。他の2人はどことなくメリッサに対して悪いことをしたという雰囲気が感じられるが、ダロガからはサッパリであり発言も自己中心的なものだ。
「おまえのせいでこっちはゴブリン討伐の依頼を失敗扱いされて報酬も出なかったんだぞ! どう落とし前つけてくれる気だ!」
「え? いや、でもそれは……」
「でもも案山子も無いんだよ! とにかくお前が受け取った報酬を寄越せ!」
「何をさっきから勝手なことをのたまってるんだ?」
ヒットが前に出て眉をひそめる。主張が自分勝手すぎて黙ってみてもいられない。
「ヒット……」
その名前を呟いたメリッサが縋るような目を彼に向けた。そんな2人の間に割って入るようにダロガが語気を強める。
「あん? ヒットだ? そうかお前がうちのメンバーをだまくらかしたヒットだな!」
「だまくらかした? お前たちが見捨てて逃げるから、俺はメリッサに加勢したまでだ」
「何が加勢だ。たまたま偶然弱まっていたゴブリン共を退治したぐらいで偉そうにしてるだけだろが!」
「たまたま弱まっていたなら見捨てずにお前らが倒せばよかっただろう」
「うるせぇ! こまけーことはいいんだよ!」
なんて自分勝手な人間なのかとヒットは顔をしかめた。他の2人は若干引き気味だが、このダロガの暴論はなおも続く。
「とにかく、うちのメリッサを勝手に連れ去った落とし前はつけてもらうぞ! 先ずゴブリン退治で手に入れた報酬全て、それと今ここでメリッサを使って手に入れた薬草全て! それと俺らに対する慰謝料で有り金全てだ!」
「は?」
「なんだその顔は! それぐらい当然のことだろが!」
「も、もうやめてよ!」
あまりの勝手な言い分に顔が歪みっぱなしのヒットだが、先に声を上げたのはメリッサだった。
「ダロガ、私は自分の意志でヒットとパーティーを組むことに決めたの! あの場では仕方なかったのかもと思うから、恨み言をいうつもりはないけど、それでもヒットならあんな簡単に見捨てるような真似はしないって信じてる。だから貴方のパーティーに戻る気なんてないし、そんな馬鹿げた要求に従う謂れもありません!」
「な、なんだとこのクソアマ! 下手に出てりゃ調子に乗りやがって!」
「キャッ!」
一体今のどこに下手に乗ってる要素があったのかと呆れるヒットだったが、暴言を重ねあまつさえメリッサに手を上げてきたので間に割り込みその振り下ろされた拳を受け止めた。
「メリッサは俺の仲間だ。手を出すことは許さない」
「ふ、ふざけんな放しやがれ!」
「断る」
「だったら死ね!」
ダロガが片手で腰の剣を抜き、ヒットの顎目掛けて振り上げた。威嚇ではなく切る気満々の一撃だ。
「キャンセル」
「なに!?」
だがヒットのキャンセルで奴の剣は鞘に戻っていた。ギョッとなるダロガをヒットが蹴り飛ばす。
「ガハッ! こ、この野郎!」
蹴りを受けたことで数歩後ずさり、彼我の距離が空いた。ダメージを与える目的ではなかったので、相手もまだ元気そうではある。睨みつけてくる眼力はより強くなっていた。
「お前、剣まで抜いたら洒落じゃすまなくなるぞ?」
一応は警告のつもりだ。ギルドの規則でもある。ただの喧嘩程度ならともかく、相手を死傷させるような真似はご法度だ。
「こっちはお前に仲間を奪われたんだ。大義は俺たちの方にあるだろが!」
無茶苦茶だなとヒットはため息を吐いた。世界は自分を中心に動いているとでも思っていそうなタイプだ。
「ねぇ、もう無理だって。こんなのあいつが言うように洒落にならないよ」
「そう、だな……」
「うるせぇ! いいからテメェらも手伝え! 仲間だろが!」
「え?」
「そ、それは……」
ダロガが命じるように叫ぶが、ネエとソウダナは及び腰だ。ダロガとの温度差が激しい。
「糞が! お前ら後で覚えてろよ!」
凡そ仲間に掛ける言葉ではないなと思いつつ、仕掛けてきたダロガに応じる。
「俺はソードマンだ! 剣の腕ならぽっと出の新入りなんかに負けやしねぇ!」
実際のところ、ソードマンは基本職だ。ゲームでは無課金で始めたばかりでも選べるジョブの1つである。
だからゲームの知識があるヒットからすれば、そこまで大威張りするほどのものではないが、しかし単純な剣の腕だと確かに分が悪い。
ソードマンの特徴として最初から剣術の熟練度が2から始められるといった点がある。それに剣限定で覚えられる武技が多い。
ヒットの使える挟双剣は勿論だが、他にもソードマンのみが覚えられる武技を覚えている可能性が高いだろう。
ダロガが斜めに剣を振り下ろす。武技ではなさそうだ。ヒットはとりあえずそれを鋼の剣で受け止めるがずしりと重い。
かなり威力の乗った斬撃だ。ソードマンは剣戟強化と切れ味向上というスキルがある。前者は剣で切ったときの威力が上がり、後者は剣そのものの切れ味が増す。
それが2つ重なれば当然威力がかなり増加する。この剣戟を受け続けるのは危険とヒットが判断した直後。
「喰らえ!」
ダロガの剣戟が左右から迫る。挟双剣だ。しかも剣にオーラが纏われている。闘気剣である。この武技はオーラを纏うことで剣の威力が跳ね上がる。
「キャンセル!」
こうなってはキャンセルに頼るしか無い。タイミング的に避けられそうもなかったからだ。
「何ィ!」
武技が途中で中断されたことでダロガが目を見開いた。ヒットは彼の剣を確認する。オーラは纏われたままだった。
キャンセルが一度にキャンセル出来るのは一つの行動だけ。故に闘気剣まではキャンセル出来なかった。
勿論、続けて闘気剣にキャンセルを掛ければそれも中断は可能だ。ただここでキャンセルしてもすぐ繰り返す可能性がある。そうなると精神力の無駄だ。
いくら指輪の加護があるとは言え、無駄打ちは出来ない。なのでオーラはそのままにし、隙が出来たダロガに爆砕剣をお見舞いした。
「ぐぉ!」
大量の礫を受けてのけぞる。だが、そのまま後ろにステップし。
「真空斬り!」
距離が離れていたにも関わらず、ダロガの攻撃がヒットに命中した。よろけるヒットだが足を踏ん張って耐えた。
「ヒット!」
「大丈夫だメリッサ」
ヒットの安否を気にするメリッサだが、笑顔で平気だとアピールした。実際ダメージは大したことない。ソードマンの覚える真空斬りは距離の離れた相手に攻撃を浴びせる武技だ。
飛ぶ斬撃などと違い、離れた相手に攻撃が直接当たる。そう聞くとかなり厄介そうだが、代わりにこの武技は威力が低い。熟練度1では通常攻撃の25%程度しか威力がないのである。勿論この男はもっと熟練度を上げている可能性があるが、マックスまで上げてようやく80%でもある。
(とは言えうざったいのは確かか……)
この技はキャンセルがしにくい。技の発動と斬撃が同時な為だ。やるなら技の発動前に潰す必要があるが、この手の技をわかりやすく使う馬鹿はそうはいない。正面で向き合った状態で、例えば技名をわざわざ叫ぶなんてことするわけもない。
「もう一発いくぜ! 真空斬り!」
「キャンセル」
「は?」
どうやら馬鹿だったようだ、と半眼になりつつ、キョトンとしているダロガ向けてヒットは距離を詰めに行った――
「遂に見つけたぞメリッサてめぇ!」
3人の内の1人が突然メリッサを名指して叫びだした。表情には怒りの感情がありありと見られるが、ヒットとしては何を怒っているのかさっぱり理解が出来ない。
むしろこの状況なら本来怒るべきはメリッサの方である。この3人のことはヒットの記憶にも残っていた。
ヒットにとって見ればメリッサと知り合うきっかけをくれた相手でもあるが、同時にメリッサを見捨てて逃げ出した薄情な連中でもある。
「だ、ダロガ……それにネエとソウダナも……」
3人を目にしメリッサが呟く。だが、再会を喜んでいるような様子は感じられず、目には光が宿っていなかった。
「メリッサ、無事で良かった、よ、ねぇ?」
「そ、そうだな……」
「うるせぇ! テメェら何ぬるいこと言ってやがる! それよりメリッサこら! 何勝手にうちのパーティーぬけてやがんだ!」
「は?」
思わず声が漏れるヒットである。目つきも険しく、不信感に溢れていた。他の2人はどことなくメリッサに対して悪いことをしたという雰囲気が感じられるが、ダロガからはサッパリであり発言も自己中心的なものだ。
「おまえのせいでこっちはゴブリン討伐の依頼を失敗扱いされて報酬も出なかったんだぞ! どう落とし前つけてくれる気だ!」
「え? いや、でもそれは……」
「でもも案山子も無いんだよ! とにかくお前が受け取った報酬を寄越せ!」
「何をさっきから勝手なことをのたまってるんだ?」
ヒットが前に出て眉をひそめる。主張が自分勝手すぎて黙ってみてもいられない。
「ヒット……」
その名前を呟いたメリッサが縋るような目を彼に向けた。そんな2人の間に割って入るようにダロガが語気を強める。
「あん? ヒットだ? そうかお前がうちのメンバーをだまくらかしたヒットだな!」
「だまくらかした? お前たちが見捨てて逃げるから、俺はメリッサに加勢したまでだ」
「何が加勢だ。たまたま偶然弱まっていたゴブリン共を退治したぐらいで偉そうにしてるだけだろが!」
「たまたま弱まっていたなら見捨てずにお前らが倒せばよかっただろう」
「うるせぇ! こまけーことはいいんだよ!」
なんて自分勝手な人間なのかとヒットは顔をしかめた。他の2人は若干引き気味だが、このダロガの暴論はなおも続く。
「とにかく、うちのメリッサを勝手に連れ去った落とし前はつけてもらうぞ! 先ずゴブリン退治で手に入れた報酬全て、それと今ここでメリッサを使って手に入れた薬草全て! それと俺らに対する慰謝料で有り金全てだ!」
「は?」
「なんだその顔は! それぐらい当然のことだろが!」
「も、もうやめてよ!」
あまりの勝手な言い分に顔が歪みっぱなしのヒットだが、先に声を上げたのはメリッサだった。
「ダロガ、私は自分の意志でヒットとパーティーを組むことに決めたの! あの場では仕方なかったのかもと思うから、恨み言をいうつもりはないけど、それでもヒットならあんな簡単に見捨てるような真似はしないって信じてる。だから貴方のパーティーに戻る気なんてないし、そんな馬鹿げた要求に従う謂れもありません!」
「な、なんだとこのクソアマ! 下手に出てりゃ調子に乗りやがって!」
「キャッ!」
一体今のどこに下手に乗ってる要素があったのかと呆れるヒットだったが、暴言を重ねあまつさえメリッサに手を上げてきたので間に割り込みその振り下ろされた拳を受け止めた。
「メリッサは俺の仲間だ。手を出すことは許さない」
「ふ、ふざけんな放しやがれ!」
「断る」
「だったら死ね!」
ダロガが片手で腰の剣を抜き、ヒットの顎目掛けて振り上げた。威嚇ではなく切る気満々の一撃だ。
「キャンセル」
「なに!?」
だがヒットのキャンセルで奴の剣は鞘に戻っていた。ギョッとなるダロガをヒットが蹴り飛ばす。
「ガハッ! こ、この野郎!」
蹴りを受けたことで数歩後ずさり、彼我の距離が空いた。ダメージを与える目的ではなかったので、相手もまだ元気そうではある。睨みつけてくる眼力はより強くなっていた。
「お前、剣まで抜いたら洒落じゃすまなくなるぞ?」
一応は警告のつもりだ。ギルドの規則でもある。ただの喧嘩程度ならともかく、相手を死傷させるような真似はご法度だ。
「こっちはお前に仲間を奪われたんだ。大義は俺たちの方にあるだろが!」
無茶苦茶だなとヒットはため息を吐いた。世界は自分を中心に動いているとでも思っていそうなタイプだ。
「ねぇ、もう無理だって。こんなのあいつが言うように洒落にならないよ」
「そう、だな……」
「うるせぇ! いいからテメェらも手伝え! 仲間だろが!」
「え?」
「そ、それは……」
ダロガが命じるように叫ぶが、ネエとソウダナは及び腰だ。ダロガとの温度差が激しい。
「糞が! お前ら後で覚えてろよ!」
凡そ仲間に掛ける言葉ではないなと思いつつ、仕掛けてきたダロガに応じる。
「俺はソードマンだ! 剣の腕ならぽっと出の新入りなんかに負けやしねぇ!」
実際のところ、ソードマンは基本職だ。ゲームでは無課金で始めたばかりでも選べるジョブの1つである。
だからゲームの知識があるヒットからすれば、そこまで大威張りするほどのものではないが、しかし単純な剣の腕だと確かに分が悪い。
ソードマンの特徴として最初から剣術の熟練度が2から始められるといった点がある。それに剣限定で覚えられる武技が多い。
ヒットの使える挟双剣は勿論だが、他にもソードマンのみが覚えられる武技を覚えている可能性が高いだろう。
ダロガが斜めに剣を振り下ろす。武技ではなさそうだ。ヒットはとりあえずそれを鋼の剣で受け止めるがずしりと重い。
かなり威力の乗った斬撃だ。ソードマンは剣戟強化と切れ味向上というスキルがある。前者は剣で切ったときの威力が上がり、後者は剣そのものの切れ味が増す。
それが2つ重なれば当然威力がかなり増加する。この剣戟を受け続けるのは危険とヒットが判断した直後。
「喰らえ!」
ダロガの剣戟が左右から迫る。挟双剣だ。しかも剣にオーラが纏われている。闘気剣である。この武技はオーラを纏うことで剣の威力が跳ね上がる。
「キャンセル!」
こうなってはキャンセルに頼るしか無い。タイミング的に避けられそうもなかったからだ。
「何ィ!」
武技が途中で中断されたことでダロガが目を見開いた。ヒットは彼の剣を確認する。オーラは纏われたままだった。
キャンセルが一度にキャンセル出来るのは一つの行動だけ。故に闘気剣まではキャンセル出来なかった。
勿論、続けて闘気剣にキャンセルを掛ければそれも中断は可能だ。ただここでキャンセルしてもすぐ繰り返す可能性がある。そうなると精神力の無駄だ。
いくら指輪の加護があるとは言え、無駄打ちは出来ない。なのでオーラはそのままにし、隙が出来たダロガに爆砕剣をお見舞いした。
「ぐぉ!」
大量の礫を受けてのけぞる。だが、そのまま後ろにステップし。
「真空斬り!」
距離が離れていたにも関わらず、ダロガの攻撃がヒットに命中した。よろけるヒットだが足を踏ん張って耐えた。
「ヒット!」
「大丈夫だメリッサ」
ヒットの安否を気にするメリッサだが、笑顔で平気だとアピールした。実際ダメージは大したことない。ソードマンの覚える真空斬りは距離の離れた相手に攻撃を浴びせる武技だ。
飛ぶ斬撃などと違い、離れた相手に攻撃が直接当たる。そう聞くとかなり厄介そうだが、代わりにこの武技は威力が低い。熟練度1では通常攻撃の25%程度しか威力がないのである。勿論この男はもっと熟練度を上げている可能性があるが、マックスまで上げてようやく80%でもある。
(とは言えうざったいのは確かか……)
この技はキャンセルがしにくい。技の発動と斬撃が同時な為だ。やるなら技の発動前に潰す必要があるが、この手の技をわかりやすく使う馬鹿はそうはいない。正面で向き合った状態で、例えば技名をわざわざ叫ぶなんてことするわけもない。
「もう一発いくぜ! 真空斬り!」
「キャンセル」
「は?」
どうやら馬鹿だったようだ、と半眼になりつつ、キョトンとしているダロガ向けてヒットは距離を詰めに行った――
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