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第17話 キャンセラーVSソードマン
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「テメェの剣なんざ喰らうわけないだろが!」
間合いを詰め、放ったヒットの切り下ろしはダロガの振り上げた剣により防がれた。体軸のブレも見られない。
ソードマンは最初から剣防御という武技を会得している。このおかげで剣で防御しても盾でガードした並に堅牢だ。武器も疲弊しにくくなる。
「オラッ!」
剣を跳ね上げ、反撃してくるが、横切りに盾を合わせて防いだ。
「とっておきだ」
ニヤリと不敵な笑みを零し、引いた腕を切り返し、下から上へと切り上げてくる。だが、わかりやすい攻撃だった。
キャンセルしようか迷ったが、無駄打ちは避け、ヒットは盾を滑り込ませダロガの斬撃を受け止める。
「掛かったな!」
その途端、グンッ! という浮遊感。気がついたらヒットの体はダロガの頭上にいた。そこで察する、どうやら打ち上げ効果のある武技を使用したらしい。ソードマンの技にこのようなものはなかったのでヒットが取得した爆砕剣のように指南書で得たものかも知れない。
ゲーム中にも攻撃に様々な効果が追加される場合があった。毒や麻痺といった状態異常系から、スタンと言った一時的に相手の意識を奪うものや、強制的に後ずさせるノックバック、転ばせるスリップ、膝をつかせたり倒したりするダウン、そして相手を浮かせるフロー――今回はこのフローを伴う攻撃だったようである。
「空中じゃ身動き取れない、これで俺の勝ちだろが!」
参ったな、とヒットは考える。キャンセルは自分の状態にしても大体はキャンセル可能だが、今回のような浮き状態ではキャンセルしてもただ落下してしまう。以前戦ったグラスホッパーなどと同じと思って良い、キャンセルした途端に落ちてしまうのだ。そして当然落下後には大きな隙が生じる。
これはノックバックなども同じでこれについてもキャンセル後は戻るのではなくその場で止まることになる。
どちらにしろこのフローはキャンセルするにしてもタイミングを見る必要があった。だがキャンセルを掛けなければ確かに空中ではほぼ身動き取れない。精々首を動かせるぐらいだ。
するとヒットの状態を目にしたメリッサが悲痛な叫び声を上げる。
「そんな、いや、やめてダロガ!」
「うるせぇ! これも全てテメェが悪いんだろが! 見てろ! 回転剣で決めてやる!」
回転剣はソードマンが剣術の熟練度3で覚える武技だ。これはヒットでは覚えられない技で、回転しながら全方位にダメージを与えるというもの。
そして落下してくるヒットには確かにそのままでは追撃を避けられない。連続で攻撃がヒットすることをコンボと言うが、これではコンボ確定である。
だが、それはあくまでヒットがキャンセラーでなければの話だ。
「喰らえ! 回転剣!」
「キャンセル」
「な、なんだぁ!」
地面に近づいてきたタイミングを見て、武技を行使するダロガだったが、目論見は大きく外れる事となった。
確かに空中では身動き取れないが、キャンセルは自分にも相手にも可能だからである。しかも首さえ動けば対象もしっかり捕捉出来る。キャンセルは相手が視界にさえ入っていれば可能なのだ。
ヒットはそのまま地面に落ち多少のダメージは受けたが、落ちた後の硬直はキャンセルし、すぐに飛び起きてふらつくダロガとの距離を詰めた。
回転剣を慣性を残したままキャンセルしたのだ。なので剣は振れず体だけが流れてしまっている。それは勿論大きな隙だ。
このまま攻撃を決めればカウンター扱いとなりダメージも増える。勝ちの目は見えていた。
「ヒット……」
ふと、どこか切なげなメリッサの呟きが耳に届く。このダロガはヒットに対し剣を抜いた。それは殺されても文句は言えない所為だ。
「……挟双剣!」
「ぐぇええぇえええ!」
ヒットの武技が見事ふらつくダロガの身を捉えた。大きく吹っ飛びダロガが地面を数回転がり、そして動きを止めた。
「ね、ねぇ、ダロガ?」
「し、死んだの、か?」
倒れたままのダロガにネエとソウダナが近づき声を掛ける。ヒットにはメリッサが近づくが表情に戸惑いが見えた。
「大丈夫だ。俺はこの柄頭で打っただけだから死にはしないよ」
「ゲホッ! ゲホッゲホッ!」
そう、ヒットは最後に決めた挟双剣を刃ではなく柄頭で行った。つまり切ったのではなく叩いたのである。勿論骨に罅ぐらいは入っている可能性はあるが、それぐらいは仕方ないだろう。
ヒットとしてはこのまま殺してもいいと思いもした。だがメリッサの目を見てその気持ちが揺らいだ。だから一度だけチャンスをやろうと思った。
このままメリッサに本気の気持ちで謝り、自らの意志でギルドに出頭するならそれでいいと。勿論ヒットの勘違いでメリッサがすぐにでも殺してほしいと願うならそうするが。
「ち、畜生いてぇ、おい。ポーションだ! ポーションを寄越せ!」
「え? ね、ねぇ、もういいじゃん。止めときなって」
「そうだな……」
しかし、呆れたことにどうやらダロガはまだ諦めていないらしい。そのしつこさにウンザリするヒットであり収めた剣に手を掛けた。だが、ダロガ以外の2人の様子が気にもなる。
「……駄目だよ。やっぱり今回はこっちが悪いもん。だから、まだ続けるというならポーションは譲れない」
「そ、そうだな……」
そして、他の2人がその申し出を断った。やはりダロガと違い、2人はメリッサを置き去りにしたことに多少なりとも罪悪感があったようだ。
だが、ダロガについてはこのままというわけにはいかないだろう。メリッサは命を奪うことまでは望んでいないようだが――
「え?」
その時だった、メリッサが何かに気がつく。それはヒットにしても同じであり。
「クケエェエエエェエエエ!」
「きゃ、キャッァアアアァア!」
「ね、ネエ!」
それは巨大な鳥の魔物だった。怪鳥の鳴き声を上げ、飛翔してきた魔物が、ネエをその鉤爪で捕らえ転回し明後日の方へ飛び去ろうとしたのである。
「ば、ばかな! アレはアルバトロンじゃねぇか。何でこんなところに!」
「あ、あぁ! お、おい! ポーションはやる! だからネエを!」
「アルバトロン、あれがか……」
ギルドでみた依頼書の内容を思い出す。Dランク以上のパーティー必須だった魔物の筈だ。
ヒットが思わずその魔物に目を奪われていると、ソウダナから受け取ったポーションをダロガが一気に飲み干した。
「おい! 逃げるぞ!」
「は? いや、助けないと!」
ソウダナはこれまでと違って普通に喋れている。それほどまでに切羽詰まっているということか。ネエをとにかく助けたいと必死だ。メリッサも遠ざかりつつあるネエを見てすぐに弓を構え矢を射るが既に射程の外である。
「馬鹿、諦めろ! 相手はアルバトロン、それにもう手遅れだろどうみても!」
「で、でも何か方法が!」
「ねぇよ!」
「いや、そうともいいきれない」
「え?」
ソウダナがヒットを振り向いた。ヒットの隣ではメリッサも不安そうにしている。既に皆の意識はダロガよりアルバトロンに向いていた。
ネエをその爪に捕らえたままぐんぐん遠ざかっていく。うかうかしていては間に合わない。
「あれがゲームどおりなら……」
アルバトロン自体は見たことのない魔物だが、鳥系の魔物には捕獲というスキルを持つものがいた。
文字通り爪で相手を捕まえるスキルで、そのまま巣まで連れ去られる事もあった。
つまりそのとおりであるならキャンセルが通じる可能性が高い。だが問題もある。
「ただ、俺が出来るのは爪から放させることだけだ。だけどそれだとあの子は当然落下する」
「ならそれは絶対に俺が受け止める! 俺には加速のスキルがある!」
こんなにも喋られる男だったんだなと驚いたが、とにかく助けるなら四の五の言っている暇はない。
「わかった。ならいくぞ、キャンセル!」
『――!?』
ヒットがスキルを発動させると、予想したとおりアルバトロンの爪が開きネエが落下を始めた。アルバトロンからぎょっとした空気を感じる。
刹那、ソウダナが猛スピードで駆け出した。
「ウォオオォオオォオオオ! 絶対に、助けるぅうううぅうううう!」
間合いを詰め、放ったヒットの切り下ろしはダロガの振り上げた剣により防がれた。体軸のブレも見られない。
ソードマンは最初から剣防御という武技を会得している。このおかげで剣で防御しても盾でガードした並に堅牢だ。武器も疲弊しにくくなる。
「オラッ!」
剣を跳ね上げ、反撃してくるが、横切りに盾を合わせて防いだ。
「とっておきだ」
ニヤリと不敵な笑みを零し、引いた腕を切り返し、下から上へと切り上げてくる。だが、わかりやすい攻撃だった。
キャンセルしようか迷ったが、無駄打ちは避け、ヒットは盾を滑り込ませダロガの斬撃を受け止める。
「掛かったな!」
その途端、グンッ! という浮遊感。気がついたらヒットの体はダロガの頭上にいた。そこで察する、どうやら打ち上げ効果のある武技を使用したらしい。ソードマンの技にこのようなものはなかったのでヒットが取得した爆砕剣のように指南書で得たものかも知れない。
ゲーム中にも攻撃に様々な効果が追加される場合があった。毒や麻痺といった状態異常系から、スタンと言った一時的に相手の意識を奪うものや、強制的に後ずさせるノックバック、転ばせるスリップ、膝をつかせたり倒したりするダウン、そして相手を浮かせるフロー――今回はこのフローを伴う攻撃だったようである。
「空中じゃ身動き取れない、これで俺の勝ちだろが!」
参ったな、とヒットは考える。キャンセルは自分の状態にしても大体はキャンセル可能だが、今回のような浮き状態ではキャンセルしてもただ落下してしまう。以前戦ったグラスホッパーなどと同じと思って良い、キャンセルした途端に落ちてしまうのだ。そして当然落下後には大きな隙が生じる。
これはノックバックなども同じでこれについてもキャンセル後は戻るのではなくその場で止まることになる。
どちらにしろこのフローはキャンセルするにしてもタイミングを見る必要があった。だがキャンセルを掛けなければ確かに空中ではほぼ身動き取れない。精々首を動かせるぐらいだ。
するとヒットの状態を目にしたメリッサが悲痛な叫び声を上げる。
「そんな、いや、やめてダロガ!」
「うるせぇ! これも全てテメェが悪いんだろが! 見てろ! 回転剣で決めてやる!」
回転剣はソードマンが剣術の熟練度3で覚える武技だ。これはヒットでは覚えられない技で、回転しながら全方位にダメージを与えるというもの。
そして落下してくるヒットには確かにそのままでは追撃を避けられない。連続で攻撃がヒットすることをコンボと言うが、これではコンボ確定である。
だが、それはあくまでヒットがキャンセラーでなければの話だ。
「喰らえ! 回転剣!」
「キャンセル」
「な、なんだぁ!」
地面に近づいてきたタイミングを見て、武技を行使するダロガだったが、目論見は大きく外れる事となった。
確かに空中では身動き取れないが、キャンセルは自分にも相手にも可能だからである。しかも首さえ動けば対象もしっかり捕捉出来る。キャンセルは相手が視界にさえ入っていれば可能なのだ。
ヒットはそのまま地面に落ち多少のダメージは受けたが、落ちた後の硬直はキャンセルし、すぐに飛び起きてふらつくダロガとの距離を詰めた。
回転剣を慣性を残したままキャンセルしたのだ。なので剣は振れず体だけが流れてしまっている。それは勿論大きな隙だ。
このまま攻撃を決めればカウンター扱いとなりダメージも増える。勝ちの目は見えていた。
「ヒット……」
ふと、どこか切なげなメリッサの呟きが耳に届く。このダロガはヒットに対し剣を抜いた。それは殺されても文句は言えない所為だ。
「……挟双剣!」
「ぐぇええぇえええ!」
ヒットの武技が見事ふらつくダロガの身を捉えた。大きく吹っ飛びダロガが地面を数回転がり、そして動きを止めた。
「ね、ねぇ、ダロガ?」
「し、死んだの、か?」
倒れたままのダロガにネエとソウダナが近づき声を掛ける。ヒットにはメリッサが近づくが表情に戸惑いが見えた。
「大丈夫だ。俺はこの柄頭で打っただけだから死にはしないよ」
「ゲホッ! ゲホッゲホッ!」
そう、ヒットは最後に決めた挟双剣を刃ではなく柄頭で行った。つまり切ったのではなく叩いたのである。勿論骨に罅ぐらいは入っている可能性はあるが、それぐらいは仕方ないだろう。
ヒットとしてはこのまま殺してもいいと思いもした。だがメリッサの目を見てその気持ちが揺らいだ。だから一度だけチャンスをやろうと思った。
このままメリッサに本気の気持ちで謝り、自らの意志でギルドに出頭するならそれでいいと。勿論ヒットの勘違いでメリッサがすぐにでも殺してほしいと願うならそうするが。
「ち、畜生いてぇ、おい。ポーションだ! ポーションを寄越せ!」
「え? ね、ねぇ、もういいじゃん。止めときなって」
「そうだな……」
しかし、呆れたことにどうやらダロガはまだ諦めていないらしい。そのしつこさにウンザリするヒットであり収めた剣に手を掛けた。だが、ダロガ以外の2人の様子が気にもなる。
「……駄目だよ。やっぱり今回はこっちが悪いもん。だから、まだ続けるというならポーションは譲れない」
「そ、そうだな……」
そして、他の2人がその申し出を断った。やはりダロガと違い、2人はメリッサを置き去りにしたことに多少なりとも罪悪感があったようだ。
だが、ダロガについてはこのままというわけにはいかないだろう。メリッサは命を奪うことまでは望んでいないようだが――
「え?」
その時だった、メリッサが何かに気がつく。それはヒットにしても同じであり。
「クケエェエエエェエエエ!」
「きゃ、キャッァアアアァア!」
「ね、ネエ!」
それは巨大な鳥の魔物だった。怪鳥の鳴き声を上げ、飛翔してきた魔物が、ネエをその鉤爪で捕らえ転回し明後日の方へ飛び去ろうとしたのである。
「ば、ばかな! アレはアルバトロンじゃねぇか。何でこんなところに!」
「あ、あぁ! お、おい! ポーションはやる! だからネエを!」
「アルバトロン、あれがか……」
ギルドでみた依頼書の内容を思い出す。Dランク以上のパーティー必須だった魔物の筈だ。
ヒットが思わずその魔物に目を奪われていると、ソウダナから受け取ったポーションをダロガが一気に飲み干した。
「おい! 逃げるぞ!」
「は? いや、助けないと!」
ソウダナはこれまでと違って普通に喋れている。それほどまでに切羽詰まっているということか。ネエをとにかく助けたいと必死だ。メリッサも遠ざかりつつあるネエを見てすぐに弓を構え矢を射るが既に射程の外である。
「馬鹿、諦めろ! 相手はアルバトロン、それにもう手遅れだろどうみても!」
「で、でも何か方法が!」
「ねぇよ!」
「いや、そうともいいきれない」
「え?」
ソウダナがヒットを振り向いた。ヒットの隣ではメリッサも不安そうにしている。既に皆の意識はダロガよりアルバトロンに向いていた。
ネエをその爪に捕らえたままぐんぐん遠ざかっていく。うかうかしていては間に合わない。
「あれがゲームどおりなら……」
アルバトロン自体は見たことのない魔物だが、鳥系の魔物には捕獲というスキルを持つものがいた。
文字通り爪で相手を捕まえるスキルで、そのまま巣まで連れ去られる事もあった。
つまりそのとおりであるならキャンセルが通じる可能性が高い。だが問題もある。
「ただ、俺が出来るのは爪から放させることだけだ。だけどそれだとあの子は当然落下する」
「ならそれは絶対に俺が受け止める! 俺には加速のスキルがある!」
こんなにも喋られる男だったんだなと驚いたが、とにかく助けるなら四の五の言っている暇はない。
「わかった。ならいくぞ、キャンセル!」
『――!?』
ヒットがスキルを発動させると、予想したとおりアルバトロンの爪が開きネエが落下を始めた。アルバトロンからぎょっとした空気を感じる。
刹那、ソウダナが猛スピードで駆け出した。
「ウォオオォオオォオオオ! 絶対に、助けるぅうううぅうううう!」
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