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第四章 転生忍者魔法大会編

第百三話 もう一つの戦い

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sideミモザ

「全くお前には失望させられた」
「くっ、か、返す言葉もありません……」

 エイガ男爵家のジンに私は敗れた……その報告は家令のドルドによって行われた。私は即座にラブール・エイガ・タラゼドの部屋に呼ばれた。机の上で腕を組み、座っているにも関わらず私を見下ろしてくる。

 仮にも娘である私に向けているとは思えない程の冷え切った瞳をしていた。

 言い訳のしようもなかった。あのジンに真っ向から挑みそして負けてしまった。しかも、は、裸を見られたことと、あのマガミという愛らしい銀毛の狼をもふらせてもらったことで、恥ずかしいやら嬉しいやら私の頭の中はぐちゃぐちゃになってしまった。

 そのために裸にマントという信じられないような恥ずかしい格好で飛び出すという、恥の上に更に恥を上塗りしたようなことになってしまい、思い出しただけで恥ずかしさで死にたくなる。

「聞くところによるとあの男に裸まで見られたらしいな」
「~~~~~~~~~~ッ!?」

 真顔でそんなことを言われてしまった。くそ、ドルドめそんなことまで伝えなくてもいいだろうに!

「ふん、お前のような痴れ者が我が娘だとは。情けなくて仕方がない。多少なりとも魔力があり、基本的な魔法ぐらいは使えるようだから試験相手に選んだが、あのような無能に敗北するとは期待はずれもいいところだ」
「そ、それについてですが……私には正直あの者がただの無能とは思えません」
「何?」

 ラブールの眉がピクリと跳ねた。この状況で言うべきか悩みはしたが……戦って見て思ったことだが、やはりどう考えてもあのジンがこの男の言っていたまんまの男だとは思えなかった。
 
「奴の魔法の腕は魔法士として十分なものと思いました」
「だから、負けても仕方ないとでも言うつもりか?」
「そ、それは! た、ただあれはあくまで試験。魔法大会に出る資質があるかどうかを試すためのものな筈です! それであれば、勝ち負けに関係なく、それだけの力はあったと私は思います!」
 
 つい反論めいたことを言ってしまった……だが、正直あの男は気に入らないが、実力があるのならそれ相応の扱いをすべきだと私は思う。

「……ふん、それが仮にも試験する側としてたったお前の意見ということか」
「そ、そうです!」
「……くだらん。結局遊びで抱いた程度の女の娘などこんなものか」
「ッ!?」

 カッ! と私の頭に熱が昇った。そうだ、こいはこういう男だ。だが、今は怒りに身を任せて良いときではない。

「し、試験はこのような結果となりましたが、ですが、武術大会では必ず結果を残して見せます! ですから、どうか!」

 とにかく、私にとって大事なのは大会だ。これに出れなければ話にならない。だから恥を忍んで懇願する。

「ふん、勝手にすればよかろう。予選にも出たきゃ勝手に出るがいい」
「! はい、あ、ありがとうございます!」
「もういい、さっさと出ていけ」
 
 酷く不機嫌そうではあったが、私が武術大会に出ることについては許可してもらえた。良かったこれで私にもまだ希望が見えた!





◇◆◇

「意外でしたね。旦那様が失敗したあの子をそのまま大会に出すとは。やはり我が娘は愛しいということですか?」
「はは、何を馬鹿な。我はあいつに勝手にしろといっただけだ。わざわざあんな滓に命じるのも手間だしな。せいぜい叶いもしない希望を持って試合でもなんでもするがいいさ。どちらにしろこの者と既に話はついている」
「これは……なるほどそういうことでしたか」
「しかしドルド、あいつは随分とあの屑を見る目が変わったようだ。あの塵はそこまでの魔法を使ったのか?」
「……正直言えば、魔力が無いとは思えないほどの力ではありました。あの腕なら並の相手なら勝つのは難しいでしょう」
「並の相手ならか……それはやはりあの魔獣が関係しているのか?」
「魔力がない以上そうとしか思えませんね。忌々しい銀狼ですが、それだけの力はあるのかと」
「……なるほど。しかしドルドよその目、本当に動物が嫌いなのだな?」
「お恥ずかしながら……」
「ふむ、まぁいい。貴様は優秀だからな。しかしますます気に入ったぞあの魔獣……カカカッ」





◇◆◇
sideミモザ

「勝負あり! 勝者ミモザ!」
「おぉお! すげーなあの剣の腕」
「あの子、タラゼド伯爵の娘なんだろ?」
「全く魔法の名門だから剣は大したことないかと思えば、あんな娘もいるなんてずるいぜ!」
「きゃ~ミモザ様素敵ーーーー!」

 あの男からの許可もおり、私は会場に赴いた。そして予選が始まり、午前中の試合はあっさりと決める事ができた。今戦った相手はそれなりに自信があったのか随分と強気な態度で挑発してきたが態度と腕が全く噛み合っていなくて逆に驚いたぐらいだ。

 しかしこの程度の相手に勝ったぐらいで随分と周りがうるさい。正直こういうのにはうんざりだ。私は私の剣の腕だけで勝負に来ているのだ。だが奴らときたら二言目には伯爵の娘だなんだと全く。

「よう、あんた強いな。剣筋も綺麗だし思わず目をうばわれちまったよ」

 そんなことを考えているとまた一人馬鹿が声を掛けてきた。しかし、デカいな。タラゼド程ではないが私より頭一つ分以上高い。これでも私は女では背が高い方なのだがな。

 肩幅も広く胸板も厚い。かなり鍛えられているな。顔は角ばっていて大きい。野生児みたいな面立ちをしている。短くざっくばらんに刈られた茶髪に瞳も茶色か。着衣はシャツに麻のズボンと随分とラフな奴だ。

 見ただけで貴族でないのがわかる。別に私は身分で相手を判断しないが、ここにきて話しかけてくる奴らは全て私ではなく家を見ていた。明らかに私に取り入ってやろうという魂胆がミエミエな連中ばかりだったのだ。どうせこいつもそんなところなのだろう。

「あんた一体どこで剣を習ったんだ?」
「そんなもの貴様には関係ないことだ。どけ! 邪魔だ!」

 私は声をかけてきた男を押しのけてその場を離れた。全く次から次へとうざったい連中ばかりが寄ってくる。

「ちょっといいかな?」

 喉が乾いたので会場に設置された水差しから水を注ぎ飲んでいるとまた声をかけられた。全くこれで一体何度目になるか。

「うん? 貴様は確か?」
「えぇ、さっきミモザ卿に負けたもんですよヘヘッ」

 そいつは媚びるような笑みを浮かべながら私に話しかけてきた。しかしこいつ、私に負けたというのに妙にヘラヘラしていて気に食わないな。

「ふん、負けた分際でよく私になど話しかけられたものだな。しかも薄ら笑いまで浮かべて。貴様にはプライドがないのか!」
「酷いなぁ。俺だって考えていることはありますよ。でもほら、負けたとはいえ、折角こうしてお近づきになれたのだから少しは名を売っておかないと」
「貴様もか。全くうんざりな連中だ。私の顔を見れば伯爵だなんだと、言っておくが私は娘と言っても家の力など当てにしていない。剣の腕だけで生きていくと決めたのだ。だから私に取り入ろうとしたって無駄だぞ。そもそも私は貴様らのように大した努力もせず人に取り入って生きていこうと考えているような薄汚い連中が一番嫌いなのだ! わかったらさっさと消えろ!」

 私が怒鳴り散らすと、目の前の男が唇を噛み締め、恨めしそうな目で私を見てきた。

「おいあんた、それはちょっと言いすぎじゃないのか?」
「な、勝手にさわるな無礼者!」

 突如、私の肩に触れてきた者がいたのでその手を思いっきり払ってやった。何やらチクッとしたが、そこにいたのは腹ばかり出ただらしのなさそうな男だった。全くこれで武術大会だと? 豚が出るような大会ではないぞここは!

「あんたさぁ、ちょっと生意気が過ぎないか?」
「そうだぜ。貴族がそんなに偉いのかよ?」
「……何だ貴様らは?」

 いつの間にか男どもが私を取り囲んでいた。そして最初に話しかけてきた男がまたヘラヘラと笑っている。

「何がおかしい?」
「へへっ、あんた強いけど、これだけの男に囲まれたらどうよ?」

 何だこいつら。よってたかってこの私をどうにかしようとでもいうつもりか。くだらん。大体大会の場でそんな真似したらどうなるかもわからんのかこの馬鹿どもが。

「そんなに痛い目にあいたいのか貴様らは」
「さて、どうかな?」
「な、に、え?」

 その時、急に力が抜け膝ががくりっと折れた。な、なんだこれは?

「おっと、これはどうやら具合が悪そうだな」
「へへ、そうだな。こりゃ外の空気でもすわせてあげないとな」
「な、お前ら何を……」

 くそ、抵抗しようにも上手く力が……そういえばさっき、手を振りほどいた時、指にチクッとした痛みを感じた。さてはあの時に何か……。

 私は取り囲まれたまま、会場の外にまで連れ出さてしまった。こいつら、一体何を?

「へへ、意味がわかんないって顔してんな。俺ら全員もう負けちまっててね。本戦にもいけないような、そう、あんたのいうところの雑魚ってところだ。だからせめてあんたに名前ぐらい覚えてもらおうと思ったのだけど俺も含めて全員あんたに全く相手にされやしない」
「それはそれでむかつくからよ。せめて一矢報いてやろうと思ってな」
「あんた、俺らより年は下みたいだけど、そのわりに綺麗だしいい体してるからな」
「もうここにいるのは全員次がないんだわ。年齢的にな。だから最後にいい思い出作っとこうとそういうわけ」

 く、そ、そんな理由で、こんな奴らに、折角大会に出る許可が出たというのに、くそ、くそ――

「おいおいちょっと待てよ。お前ら、その子一体どこに連れて行く気だよ」

 その時だった、誰かの呼び止める声が耳に届く。
 何かちょっと前に聞いたような声だった。

「な、何だお前!」
「俺? デックってもんだけど、それよりお前らさっさとその子を放せよ」
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