19世紀イングランド風の異世界。未来で悪役になる貴族の息子を、メイドの私が溺愛して運命を変えます

ねこまんまる

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9 部屋の掃除

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うれしそうに食事をとるレオンを見て、私は微笑んでいた。

「レオンさま、ゆっくりでいいですよ。スープはまだ熱いので、のどを焼かないように」

呼びかけると、レオンは驚いたようにこちらを見上げ、それからほのかに頬を赤らめて、うつむいた。

その反応さえ、胸が温かくなるほど愛らしい。

この子は、愛されるべき子どもだわ……。
どうして誰も、そのことに気づかないの?

私は、ついレオンの背へ毛布をそっとかけてやった。
その小さな背中が、冷たい屋敷の中で震えないように。

裕福な家庭では、寝具は上質なウール、カシミア、羽毛布団などを使うけど、この部屋にあるのは粗めのウール毛布だけ。
たぶん、古くなった家人用の毛布を使い回しているのだろう。


よし、食事のつぎは、掃除だ。
 
私はエプロンの紐を結び直し、部屋のすみから掃除を始めた。
カーテンを両端にまとめ、タッセルで留めると、サッシュ窓(※上げ下げ窓)を少し開けて換気。
 
そして、ベッドをキレイにする。
 
19世紀のベッドは、羽毛布団・薄い毛布・シーツの三層以上。
まずは、シーツを全部はがして、羽毛布団を窓辺にあてて叩いてほこりを落とす。
そして、新しいシーツをベッドに、ぴんと張る。
 
家具の上を羊毛ダスターで払い、イスやベッドの下をほうきで掃く。
当時のほうきは、コーンバルーム(※とうもろこしの芯を束ねたもの)が主流だ。

食事を終えたレオンは、椅子にすわったまま動かず、ただこちらを見つめていた。

「……どうして、そんなことするの」

「お掃除は、私の仕事ですから」

「そんなこと、誰もしなかったのに」

「今日から、私がします。レオン坊ちゃまのお部屋は、私が担当しますので」

私が笑って言うと、レオンはうつむいた。



屋敷全体が眠りについた深夜、
廊下のオイルランプだけが弱い火を揺らしていた。

私は、いつものように最後の巡回をしていた。
メイドは主人一家が眠ったあと、火の始末や窓の施錠を確かめるために、遅い時間にそっと廊下を歩くことがあった。

そのとき――
薄い木の扉の向こうから、かすかな泣き声が聞こえた。

レオンの部屋だ。
その音はどう聞いても、必死に泣き声をこらえている子どものものだった。
 
昼間は決して声を荒げない彼。
家族にもほとんど言葉を向けず、人の影に隠れるように過ごしている。

私は周囲を見まわし、誰にも見られていないことを確かめてから、そっと扉を指先で叩いた。

「……レオン坊ちゃま。お休みでしょうか?」

返事はなく、かわりに小さく息を飲む気配がした。
泣いていることを知られるのが怖いのだ。

私は許可なく主の部屋に入るのは許されないと知りながら、レオンの泣く声に耐えられず、そっと扉を押しあけた。

部屋の中は冷えていた。
破れたカーテンは閉じたままで、暖炉は火が落とされている。
屋根裏に近いこの部屋には、もう暖かさはひとつも残っていない。

レオンは薄い毛布を抱え、ベッドの端で小さく丸くなっていた。
涙の跡が頬に光り、手の甲で懸命に拭おうとしている。

「……ごめんなさい。うるさかった、でしょ……?」

かすれた声でそう言うと、目を合わせないまま、肩を震わせつづけた。

その姿を見て、胸の奥がしめつけられる。
 
これまで厨房で言われたとおりの粗末な食事しかあたえられず、誰にも呼ばれず、ただ存在を消すように生きてきた少年。
 
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