18世紀末ヴェルサイユに似た乙女ゲーム世界に転生した悪役令嬢は、断罪を回避したい

ねこまんまる

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45 宴(うたげ)のさそい

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ある日のこと、

朝の礼拝を終え、居室に戻ったばかりのことだった。
 
重たい二重扉の外で、かすかな布擦れの音がする。
続いて、控えめなノックが三度。
 
「お入りなさい」

部屋のなかから私が返事をすると、扉が静かに開き、女官服に身を包んだ侍女が一歩だけ室内へ入った。
 
深く頭を下げるその所作は、すでに“用件が公的なもの”であることを告げている。
 
「セシルお嬢様。女官長さまより、お取り次ぎでございます」
 
侍女は声を落とし、周囲に誰もいないことを確かめてから続けた。
 
「本日の夜、大広間にて宴が開かれるとのこと。外国使節の来訪にあわせた、公式の晩餐でございます」
 
私は、手にしていた祈祷書をそっと閉じた。
 
――あのイベントが、きたわね。
 
ヴェルサイユ宮殿では「宴」はかなり頻繁にひらかれていた。
毎回が舞踏会や大宴会というわけではなく、現代的な意味のパーティーともちがう。
 
大人数で食事をする行事なのだけど、着席順・発言・行動まで暗黙の規則だらけなのだ。
そしてあの乙女ゲームでは、宴は恋愛イベントでもあった。
 
ヴェルサイユでは、宴の知らせは突然やってくる。
それは招待というより、参加することを前提とした通達に近い。
 
「私の名前は、参加者の名簿にあるのね……?」
 
「はい。お嬢様のお名前も、しっかりと名簿に記されております」
 
その言葉で、状況は確定した。
 
公式の晩餐。
王と王族、高位貴族、選ばれた令嬢たちが同じ空間に集い、見られるために存在する場。

私は立ち上がり、窓辺に近づいた。
 
庭園の向こうでは、すでに人の動きが増え始めている。
楽師の準備、給仕の確認、警護の配置換え――
宴は、宮殿全体を巻き込む出来事だ。
 
侍女が、実務的に問いかけてくる。
 
「衣装は、どれを用意いたしましょう?」
 
「華美すぎず、格を落とさないものを。女官長の指示どおりにおねがいするわ」
 
「かしこまりました。午後には仕立て直しをすませます」
 
侍女はそう言って、再び一礼する。
 
宴は、楽しみのためにあるのではない。
誰がどの席に座り、誰と会話を交わし、誰の視線を集めるか――
それ自体が、政治であり序列であり、評価だった。
 
さて、私はどう動くべきかしら。
この世界では、ほんの一手のちがいで自分の未来が最悪な方向にすすんでしまう。

本来であれば、宴イベントは『もっと前』にくるべきはずだったけど、この世界では、こうしてたまにイベントがおくれてくることもあった。

私は胸元に手を当て、静かに息を整える。
家の名を背負い、宮廷の一部として宴の席にすわる必要があるけれど、それと同時に『悪役令嬢のセシル』におきる破滅フラグをどうにかしていかないといけない。
 
宴イベントでは、ヒロインの恋が動くと同時に、悪役令嬢の名誉が転落する。
 
たしか悪役令嬢セシルは、ヒロインの男性攻略対象を独占しようとして、ヒロインを裏の控え室の小部屋に閉じこめてしまうのだ。
 
ヒロインはドラマチックに攻略対象者から助けだされて、悪役令嬢は処罰されてしまう。
 
よし、ただおとなしく宴で食事をとるだけにしよう。
私を悪役令嬢にしたてあげるために、ヒロインがなにか『罠をしかけて』こなければいいけど。
 

 
私は、女官長の指示で衣装を整えた。

「今夜は公式の宴です。
華美すぎず、しかし埋もれぬように」
 
侍女たちが、いっせいに動き出す。
大型の衣装箪笥の引き出しをあけて、そこに収められているドレスを取り出した。

ドレスと一緒にいれられていた芳香草(ラベンダー等)と、防虫のためのハーブ袋のにおいがふわりとたちのぼってきた。

当時のラベンダーやハーブなどは、現代のアロマオイルような精油ではないから、いいにおいがするわけじゃない。
日陰で干した薬草のような、おちつく静かな香りだ。
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