悪魔営業リリムちゃん

永久保セツナ

文字の大きさ
3 / 10

第3話 SNSでバズりたい

しおりを挟む
「俺はねぇ、とにかくバズりたいんですよリリムたん」

「はい、お名前からもその願望がよくわかりますよ!」

 リリムが対峙しているのは配信者のバズバズという男。もちろんハンドルネームである。

「人気者になりたい願望なんてみんな持ってるのに、どうして俺だけを指して『承認欲求モンスター』なんて呼ばれなきゃいけないんですかね?」

「人間さんって大変なんですね」

 リリムは当たり障りのない返答をしながら、バズバズを見つめていた。
 彼は相手をしてもらって気分を良くしている。

「リリムたんは俺のことわかってくれるもんねー! なでなでしてもいい?」

「あ、髪型が乱れるので遠慮していただけると」

 バズバズは話を聞いていなかった。まるで手懐けたペットのようにリリムの髪をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。リリムは眉間に深い皺を寄せ、乱れた髪を素早く整えながら、冷静な営業スマイルを無理やり張り直した。
 一瞬、怒りの炎が灯ったような黄金色の瞳を隠し、「ええと、それで、契約書はこちらです」と彼女は書類を突き出す。

「うんうん、これにサインすればいいのね」

 バズバズは何のためらいもなく契約書に名前を書いた。
 彼は後先を考えない性格で、それを自分では「きっぷの良い性格」だと思っている。

「俺の願い事は、手始めにこの写真を10万いいねしてくれ」

 バズバズはスマホの画面をリリムに見せた。
 そこには、何の変哲もない郵便ポストが写っている。

「これは何か意味があるんですか?」

「いや? ただリリムたんの能力が本物かどうか確かめたいだけ」

「むむ……わかりました」

 リリムは自分の力を試されていることに若干不機嫌になったが、これも営業のため。
 契約書から吸い上げた魔力を指先に集め、スマホに向けた。

「おおっ! すごいすごい、どんどんいいねされていくぞぅ!」

 バズバズはすっかりテンションが爆上がりして、スマホを振り回しながら叫ぶ。
 それから、彼は気を良くして、SNSで「悪魔と契約した! 悪魔VSバズバズ、騙し合いの対決!」と書き込んだ。
 彼はいいねのためなら命どころか魂まで賭ける、生粋の迷惑系配信者である。

「はい、お願いは叶えたので魂を……」

「いや、待て。『手始めに』って言っただろ」

「え? まだ何かやるんですか?」

「当たり前だろ! 写真をいいねしただけで終わるわけあるか!」

「えぇ……」

 リリムはあからさまに嫌な顔をした。
 この顧客、地雷案件の予感がする。

「次は俺のフォロワーを100万人増やしてくれ!」

「それが終わったら魂を私に預けてくれますか?」

「まあ、考えてやってもいいぞ?」

「……」

 リリムの営業スマイルは引きつっており、眉間には深い皺が刻まれた。
 この人間……と不信感が募っているのが明らかである。

「…………かしこまりました。フォロワーを100万人増やせばよろしいのですね?」

「おっ、できるの?」

「お任せください」

 リリムがどこかに電話をかけ、話し始めた。
 すると、バズバズのSNSアカウントに変化が起こる。

「おおーっ! すげえ、どんどんフォロワーが増えて止まらねえ……!」

 彼のアカウントに表示されている数値カウンターが目にも止まらぬ勢いで回転していった。
 1万……10万……100万……まだまだ増えていく。

「ひゅう~! 生きててよかったぁ~!」

 SNSで人気者になること。
 それがバズバズの唯一の生きがいであった。

 ――だが、ことはそう上手く行くものではない。

「あ!? SNSアカウントが凍結された!?」

「リリム調べました。あまりにも急激にいいね数やフォロワー数が増えると、運営が不正を疑って凍結処分するそうですね?」

 どれだけ数字を集めたところで、悪魔の力を使った不正には違いない。
 ちなみに、リリムが電話して増やしたフォロワーは全員地獄の悪魔である。
 バズバズは「このアカウントは凍結されました」と書かれた文章を見て呆然としていた。

「それでは、魂はいただきますね」

「ふ……っざけんなよ! こんなめちゃくちゃな結果で納得できるか!」

「ですが、契約は果たしましたので」

「うるさい、うるさいっ! お前なんかに魂を渡すわけあるか! 土下座して謝れよ、それを動画に撮って拡散してやる!」

「リリム知ってます、こういうのカスのハラスメントって言うんですよね!」

「誰がカスハラじゃーッ!」

 ブチギレたバズバズが、「やめろ」と叫ぶ間もなく、女性相手に手を上げようと振り上げる。
 その瞬間、リリムの手が、契約書を握りしめた。
 静かな、しかし確かな魔力の流れが、リリムの全身を包む。普段は能天気な彼女の顔から、営業スマイルが消え去った。魔力を宿した黄金色の瞳が、バズバズを地獄の底から見上げるように見据えた。

「契約は成立です。あなたが亡くなったとき、あなたの魂はリリムの所有物になる。その後、永遠に地獄に囚われます。あなたはそれを承知の上で契約書にサインしたのでしょう?」

 バズバズの目は怯えの色に染まっていた。
 腰を抜かしてガタガタと震えている彼に、リリムは「承認欲求、それ自体は悪魔からすれば魂のエネルギー源であり、何も悪くありません」と首を横に振った。

「ただ、あなたはその欲求の表現方法が非常に稚拙で、滑稽だっただけ。これからは心を入れ替えて、他人を傷つけずに人々を楽しませる活動をなさい。地獄へ落ちるまでに、魂の品質だけでも清らかになっていると、私としても嬉しいです」

 リリムは営業スマイルに戻ると、契約書を回収してバズバズの自宅をあとにした。

「リリム、仕事は順調なのか?」

 スーパーで買ったコロッケを夕食にしながら、日向雅宗はリリムに尋ねた。

「もちろんです! 今日も契約を取ってきたんですよ!」

 リリムは得意げに、その日バズバズからもぎ取った契約書を見せた。

「おお、すごいじゃないか。この調子でノルマが達成できるといいな。……いや、地獄に落ちる人間を増やす契約を応援していいのか?」

「雅宗さんも遠慮なく私に願いを聞かせてくださいね!」

「だから、俺はいいって……」

 雅宗は味噌汁をすすり、すぐに食べ終わった食器を持って台所に引っ込んでしまう。
 リリムに核心を突かれないように逃げた感じだった。
 リリムは契約書を大切にクリアファイルに入れて、カバンにしまう。
 ――契約ノルマまでの道のりは、まだまだ遠い。

〈続く〉
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

【完結/番外追加】サリシャの光 〜憧れの先へ〜

ねるねわかば
恋愛
彼女は進む。過去に囚われた者たちを残して── 大商会の娘サーシャ。 子どもの頃から家業に関わる彼女は、従妹のメリンダと共に商会の看板娘として注目を集めていた。 華々しい活躍の裏で、着実に努力を重ねて夢へと向かうサーシャ。しかし時には心ないことを言う者もいた。 そんな彼女が初めて抱いた淡い恋。 けれどその想いは、メリンダの涙と少年の軽率な一言であっさり踏みにじられてしまう。 サーシャはメリンダたちとは距離をおき、商会の仕事からも離れる。 新たな場所で任される仕事、そして新たな出会い。どこにあっても、彼女が夢を諦めることはない。 一方、光に囚われた者たちは後悔と執着を募らせていき── 夢を諦めない少女が、もがきながら光を紡いでいく軌跡。 ※前作「ルースの祈り」と同じ世界観で登場人物も一部かぶりますが、単体でお読みいただけます。 ※作中の仕事や制作物、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。

お城のお針子~キラふわな仕事だと思ってたのになんか違った!~

おきょう
恋愛
突然の婚約破棄をされてから一年半。元婚約者はもう結婚し、子供まで出来たというのに、エリーはまだ立ち直れずにモヤモヤとした日々を過ごしていた。 そんなエリーの元に降ってきたのは、城からの針子としての就職案内。この鬱々とした毎日から離れられるならと行くことに決めたが、待っていたのは兵が破いた訓練着の修繕の仕事だった。 「可愛いドレスが作りたかったのに!」とがっかりしつつ、エリーは汗臭く泥臭い訓練着を一心不乱に縫いまくる。 いつかキラキラふわふわなドレスを作れることを夢見つつ。 ※他サイトに掲載していたものの改稿版になります。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

処理中です...