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第3話 SNSでバズりたい
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「俺はねぇ、とにかくバズりたいんですよリリムたん」
「はい、お名前からもその願望がよくわかりますよ!」
リリムが対峙しているのは配信者のバズバズという男。もちろんハンドルネームである。
「人気者になりたい願望なんてみんな持ってるのに、どうして俺だけを指して『承認欲求モンスター』なんて呼ばれなきゃいけないんですかね?」
「人間さんって大変なんですね」
リリムは当たり障りのない返答をしながら、バズバズを見つめていた。
彼は相手をしてもらって気分を良くしている。
「リリムたんは俺のことわかってくれるもんねー! なでなでしてもいい?」
「あ、髪型が乱れるので遠慮していただけると」
バズバズは話を聞いていなかった。まるで手懐けたペットのようにリリムの髪をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。リリムは眉間に深い皺を寄せ、乱れた髪を素早く整えながら、冷静な営業スマイルを無理やり張り直した。
一瞬、怒りの炎が灯ったような黄金色の瞳を隠し、「ええと、それで、契約書はこちらです」と彼女は書類を突き出す。
「うんうん、これにサインすればいいのね」
バズバズは何のためらいもなく契約書に名前を書いた。
彼は後先を考えない性格で、それを自分では「きっぷの良い性格」だと思っている。
「俺の願い事は、手始めにこの写真を10万いいねしてくれ」
バズバズはスマホの画面をリリムに見せた。
そこには、何の変哲もない郵便ポストが写っている。
「これは何か意味があるんですか?」
「いや? ただリリムたんの能力が本物かどうか確かめたいだけ」
「むむ……わかりました」
リリムは自分の力を試されていることに若干不機嫌になったが、これも営業のため。
契約書から吸い上げた魔力を指先に集め、スマホに向けた。
「おおっ! すごいすごい、どんどんいいねされていくぞぅ!」
バズバズはすっかりテンションが爆上がりして、スマホを振り回しながら叫ぶ。
それから、彼は気を良くして、SNSで「悪魔と契約した! 悪魔VSバズバズ、騙し合いの対決!」と書き込んだ。
彼はいいねのためなら命どころか魂まで賭ける、生粋の迷惑系配信者である。
「はい、お願いは叶えたので魂を……」
「いや、待て。『手始めに』って言っただろ」
「え? まだ何かやるんですか?」
「当たり前だろ! 写真をいいねしただけで終わるわけあるか!」
「えぇ……」
リリムはあからさまに嫌な顔をした。
この顧客、地雷案件の予感がする。
「次は俺のフォロワーを100万人増やしてくれ!」
「それが終わったら魂を私に預けてくれますか?」
「まあ、考えてやってもいいぞ?」
「……」
リリムの営業スマイルは引きつっており、眉間には深い皺が刻まれた。
この人間……と不信感が募っているのが明らかである。
「…………かしこまりました。フォロワーを100万人増やせばよろしいのですね?」
「おっ、できるの?」
「お任せください」
リリムがどこかに電話をかけ、話し始めた。
すると、バズバズのSNSアカウントに変化が起こる。
「おおーっ! すげえ、どんどんフォロワーが増えて止まらねえ……!」
彼のアカウントに表示されている数値カウンターが目にも止まらぬ勢いで回転していった。
1万……10万……100万……まだまだ増えていく。
「ひゅう~! 生きててよかったぁ~!」
SNSで人気者になること。
それがバズバズの唯一の生きがいであった。
――だが、ことはそう上手く行くものではない。
「あ!? SNSアカウントが凍結された!?」
「リリム調べました。あまりにも急激にいいね数やフォロワー数が増えると、運営が不正を疑って凍結処分するそうですね?」
どれだけ数字を集めたところで、悪魔の力を使った不正には違いない。
ちなみに、リリムが電話して増やしたフォロワーは全員地獄の悪魔である。
バズバズは「このアカウントは凍結されました」と書かれた文章を見て呆然としていた。
「それでは、魂はいただきますね」
「ふ……っざけんなよ! こんなめちゃくちゃな結果で納得できるか!」
「ですが、契約は果たしましたので」
「うるさい、うるさいっ! お前なんかに魂を渡すわけあるか! 土下座して謝れよ、それを動画に撮って拡散してやる!」
「リリム知ってます、こういうのカスのハラスメントって言うんですよね!」
「誰がカスハラじゃーッ!」
ブチギレたバズバズが、「やめろ」と叫ぶ間もなく、女性相手に手を上げようと振り上げる。
その瞬間、リリムの手が、契約書を握りしめた。
静かな、しかし確かな魔力の流れが、リリムの全身を包む。普段は能天気な彼女の顔から、営業スマイルが消え去った。魔力を宿した黄金色の瞳が、バズバズを地獄の底から見上げるように見据えた。
「契約は成立です。あなたが亡くなったとき、あなたの魂はリリムの所有物になる。その後、永遠に地獄に囚われます。あなたはそれを承知の上で契約書にサインしたのでしょう?」
バズバズの目は怯えの色に染まっていた。
腰を抜かしてガタガタと震えている彼に、リリムは「承認欲求、それ自体は悪魔からすれば魂のエネルギー源であり、何も悪くありません」と首を横に振った。
「ただ、あなたはその欲求の表現方法が非常に稚拙で、滑稽だっただけ。これからは心を入れ替えて、他人を傷つけずに人々を楽しませる活動をなさい。地獄へ落ちるまでに、魂の品質だけでも清らかになっていると、私としても嬉しいです」
リリムは営業スマイルに戻ると、契約書を回収してバズバズの自宅をあとにした。
「リリム、仕事は順調なのか?」
スーパーで買ったコロッケを夕食にしながら、日向雅宗はリリムに尋ねた。
「もちろんです! 今日も契約を取ってきたんですよ!」
リリムは得意げに、その日バズバズからもぎ取った契約書を見せた。
「おお、すごいじゃないか。この調子でノルマが達成できるといいな。……いや、地獄に落ちる人間を増やす契約を応援していいのか?」
「雅宗さんも遠慮なく私に願いを聞かせてくださいね!」
「だから、俺はいいって……」
雅宗は味噌汁をすすり、すぐに食べ終わった食器を持って台所に引っ込んでしまう。
リリムに核心を突かれないように逃げた感じだった。
リリムは契約書を大切にクリアファイルに入れて、カバンにしまう。
――契約ノルマまでの道のりは、まだまだ遠い。
〈続く〉
「はい、お名前からもその願望がよくわかりますよ!」
リリムが対峙しているのは配信者のバズバズという男。もちろんハンドルネームである。
「人気者になりたい願望なんてみんな持ってるのに、どうして俺だけを指して『承認欲求モンスター』なんて呼ばれなきゃいけないんですかね?」
「人間さんって大変なんですね」
リリムは当たり障りのない返答をしながら、バズバズを見つめていた。
彼は相手をしてもらって気分を良くしている。
「リリムたんは俺のことわかってくれるもんねー! なでなでしてもいい?」
「あ、髪型が乱れるので遠慮していただけると」
バズバズは話を聞いていなかった。まるで手懐けたペットのようにリリムの髪をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。リリムは眉間に深い皺を寄せ、乱れた髪を素早く整えながら、冷静な営業スマイルを無理やり張り直した。
一瞬、怒りの炎が灯ったような黄金色の瞳を隠し、「ええと、それで、契約書はこちらです」と彼女は書類を突き出す。
「うんうん、これにサインすればいいのね」
バズバズは何のためらいもなく契約書に名前を書いた。
彼は後先を考えない性格で、それを自分では「きっぷの良い性格」だと思っている。
「俺の願い事は、手始めにこの写真を10万いいねしてくれ」
バズバズはスマホの画面をリリムに見せた。
そこには、何の変哲もない郵便ポストが写っている。
「これは何か意味があるんですか?」
「いや? ただリリムたんの能力が本物かどうか確かめたいだけ」
「むむ……わかりました」
リリムは自分の力を試されていることに若干不機嫌になったが、これも営業のため。
契約書から吸い上げた魔力を指先に集め、スマホに向けた。
「おおっ! すごいすごい、どんどんいいねされていくぞぅ!」
バズバズはすっかりテンションが爆上がりして、スマホを振り回しながら叫ぶ。
それから、彼は気を良くして、SNSで「悪魔と契約した! 悪魔VSバズバズ、騙し合いの対決!」と書き込んだ。
彼はいいねのためなら命どころか魂まで賭ける、生粋の迷惑系配信者である。
「はい、お願いは叶えたので魂を……」
「いや、待て。『手始めに』って言っただろ」
「え? まだ何かやるんですか?」
「当たり前だろ! 写真をいいねしただけで終わるわけあるか!」
「えぇ……」
リリムはあからさまに嫌な顔をした。
この顧客、地雷案件の予感がする。
「次は俺のフォロワーを100万人増やしてくれ!」
「それが終わったら魂を私に預けてくれますか?」
「まあ、考えてやってもいいぞ?」
「……」
リリムの営業スマイルは引きつっており、眉間には深い皺が刻まれた。
この人間……と不信感が募っているのが明らかである。
「…………かしこまりました。フォロワーを100万人増やせばよろしいのですね?」
「おっ、できるの?」
「お任せください」
リリムがどこかに電話をかけ、話し始めた。
すると、バズバズのSNSアカウントに変化が起こる。
「おおーっ! すげえ、どんどんフォロワーが増えて止まらねえ……!」
彼のアカウントに表示されている数値カウンターが目にも止まらぬ勢いで回転していった。
1万……10万……100万……まだまだ増えていく。
「ひゅう~! 生きててよかったぁ~!」
SNSで人気者になること。
それがバズバズの唯一の生きがいであった。
――だが、ことはそう上手く行くものではない。
「あ!? SNSアカウントが凍結された!?」
「リリム調べました。あまりにも急激にいいね数やフォロワー数が増えると、運営が不正を疑って凍結処分するそうですね?」
どれだけ数字を集めたところで、悪魔の力を使った不正には違いない。
ちなみに、リリムが電話して増やしたフォロワーは全員地獄の悪魔である。
バズバズは「このアカウントは凍結されました」と書かれた文章を見て呆然としていた。
「それでは、魂はいただきますね」
「ふ……っざけんなよ! こんなめちゃくちゃな結果で納得できるか!」
「ですが、契約は果たしましたので」
「うるさい、うるさいっ! お前なんかに魂を渡すわけあるか! 土下座して謝れよ、それを動画に撮って拡散してやる!」
「リリム知ってます、こういうのカスのハラスメントって言うんですよね!」
「誰がカスハラじゃーッ!」
ブチギレたバズバズが、「やめろ」と叫ぶ間もなく、女性相手に手を上げようと振り上げる。
その瞬間、リリムの手が、契約書を握りしめた。
静かな、しかし確かな魔力の流れが、リリムの全身を包む。普段は能天気な彼女の顔から、営業スマイルが消え去った。魔力を宿した黄金色の瞳が、バズバズを地獄の底から見上げるように見据えた。
「契約は成立です。あなたが亡くなったとき、あなたの魂はリリムの所有物になる。その後、永遠に地獄に囚われます。あなたはそれを承知の上で契約書にサインしたのでしょう?」
バズバズの目は怯えの色に染まっていた。
腰を抜かしてガタガタと震えている彼に、リリムは「承認欲求、それ自体は悪魔からすれば魂のエネルギー源であり、何も悪くありません」と首を横に振った。
「ただ、あなたはその欲求の表現方法が非常に稚拙で、滑稽だっただけ。これからは心を入れ替えて、他人を傷つけずに人々を楽しませる活動をなさい。地獄へ落ちるまでに、魂の品質だけでも清らかになっていると、私としても嬉しいです」
リリムは営業スマイルに戻ると、契約書を回収してバズバズの自宅をあとにした。
「リリム、仕事は順調なのか?」
スーパーで買ったコロッケを夕食にしながら、日向雅宗はリリムに尋ねた。
「もちろんです! 今日も契約を取ってきたんですよ!」
リリムは得意げに、その日バズバズからもぎ取った契約書を見せた。
「おお、すごいじゃないか。この調子でノルマが達成できるといいな。……いや、地獄に落ちる人間を増やす契約を応援していいのか?」
「雅宗さんも遠慮なく私に願いを聞かせてくださいね!」
「だから、俺はいいって……」
雅宗は味噌汁をすすり、すぐに食べ終わった食器を持って台所に引っ込んでしまう。
リリムに核心を突かれないように逃げた感じだった。
リリムは契約書を大切にクリアファイルに入れて、カバンにしまう。
――契約ノルマまでの道のりは、まだまだ遠い。
〈続く〉
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