悪魔営業リリムちゃん

永久保セツナ

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第5話 先輩と仲良くなりたい

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「リリムが、悪魔営業になった理由?」

 雅宗は夕飯の塩鮭をご飯と一緒に食べながら、彼女の話に耳を傾ける。
 リリムはぽつりぽつりと、今回の事件――悪魔が人間界に大量流入している事の発端を語りだした。

「魔王様が、突然『温泉テーマパークを造るぞ!』と言い出しまして……」

「あー、なんかもう既に嫌な予感するなあ」

「そして、よりにもよって、魔界銀行からお金を融資してもらいまして……」

「地獄? 魔界? にも銀行ってあるんだ」

「え、そりゃそうでしょ。地獄にだって普通に社会あるんですからね」

「それもそうか……ごめん、続けて」

 リリムはちびちびと味噌汁をすすりながら、魔王の顛末を語り続ける。

「その魔界銀行というのが、誰にでも簡単にお金をホイホイ貸すことで有名なんですよ」

「良い銀行だな」

「雅宗さん、甘いですよ。そんなんじゃ、魔界銀行のいいカモですよ」

「お前らのボスが今、そのカモなんじゃないの?」

「はい……返す言葉もありません……」

 しょぼくれたリリムは、塩鮭をかじっては、しょっぱさに顔をしかめていた。

「魔界銀行はお金は簡単に借りられますが、取り立てが厳しいことでも知られています。そして、魔王様はなんと、自分の魂を担保にして融資を受けていたんです」

「で、温泉テーマパークがうまくいかなくて、魂を差し押さえられたんだな?」

 雅宗はオチが読めてしまった。
 リリムは肩を落としながら、力なく頷く。

「それで、魔王様の魂をお救いするには、その魂と同価値になるまで、人間の魂を集めなくてはいけないんです。それが、私たち悪魔に課せられた契約ノルマ」

「なんで人間がそんなやつの尻拭いすることになってんの? その魔王って救わなきゃダメか? そのまま差し押さえられたほうがいいよそいつ。仮に今回助かっても今後もろくなことしないだろ」

「見捨てるわけにもいかないですよ……。魔王様しか国庫を開けないので、せめて差し押さえを逃れたあと国庫の鍵の在処を尋ねて鍵を奪わないと」

 どうやら、悪魔たちも渋々魔王の魂を救うために協力している、という状態らしい。
 地獄は大変な状態になっていると雅宗は察した。

「そういうわけで、私も地獄に帰るために頑張らないと! 明日も元気に営業するぞー!」

 リリムは場をとりなすようにニコッと笑顔を浮かべると、「ごちそうさまでした!」と食器を持って台所に向かってしまう。
 雅宗はテレビを見ながら、何かを考えているようであった。

 翌日、リリムはいつもどおり、外回りに出かける。
 彼女の物欲センサーは、次なる契約者を察知して居場所を教えてくれた。

「こんにちは!」

 リリムが声を掛けると、その少女は肩を震わせて驚いている。
 セーラー服の女子高生。彼女はリリムに向かって、「しーっ!」と唇に人差し指を当てた。

「静かにして! 真奈美まなみ先輩に気づかれちゃう!」

「おお! これが人間のストーキングですか、初めて見ました」

「失礼ねアンタ!」

 少女の名は黒沢くろさわ麻衣まい。1つ上の先輩、真奈美に対して憧れと好意をこじらせている。
 彼女の持つ願いは「先輩ともっと仲良くなりたい」だった。

「リリム……だっけ? 私、本当に先輩と仲良くなれる?」

「お任せください! 今回、私が提案するのはサブスク契約です!」

「サブスク?」

 首を傾げる麻衣に、リリムはにこやかに説明を始める。

「真奈美さんと麻衣さんが仲良くなるための各種サービスを提供します。例えば、先輩と偶然出会う機会を増やしたり、真奈美さんの好きなものの情報を頭の中に自動で流したり、先輩がピンチになったら麻衣さんがすかさず救ったり……」

「素敵……! 頭の中に情報が流し込まれるとかは怖いけど、真奈美先輩を王子様のように颯爽と救う私……いいわ……」

 麻衣はそんな光景を想像し、顔を赤らめた。
 真奈美先輩にお近づきになって、あわよくばお付き合いをしたい……そんな欲にまみれている。

「対価として、サービスにご満足いただいた時点で魂をリリムに差し出していただきます。メフィストフェレス方式ですね」

「買った!」

 麻衣は迷わず契約書にサインをした。愛という名の欲は全ての犠牲を凌駕する。欲に目がくらんで後先考えてないとも言う。
 それからの麻衣の生活は、リリムの魔法で変わった。
 真奈美とばったり会うことが多くなり、麻衣のほうから勇気を出して話しかければ、彼女は笑顔で応えてくれる。麻衣はすっかり舞い上がった。
 真奈美の好物や趣味嗜好などもリリムから麻衣の頭の中に流れ込み、それを真奈美に渡すと、真奈美は控えめな笑顔を浮かべる。
 ――だが、やはり悪魔の、というかリリムの契約でろくな目にあった契約者がいないのは、ここまで読んでくれた読者の皆様もご存知の通り。
 麻衣がある日、真奈美のいる教室を通りかかったところ、彼女は友人と会話に花を咲かせていた。
 麻衣はそれとなく、教室前の廊下で耳を澄ませる。

「真奈美、あの子……麻衣だっけ? どうなの、あの子」

「うーん? 別に……不思議な子だなとは思うけど」

「でも、あんなに頻繁に真奈美に出くわすなんて偶然じゃないよ。ストーカーなんじゃないの?」

 麻衣はショックを受けた。たしかに彼女は真奈美にストーキングじみた付け回しをしている。しかし、リリムと契約して偶然の出会いを演出しなければバレなかったことだ。

「それに、真奈美に青唐辛子を渡すなんて変な子。真奈美って辛いもの嫌いだよね?」

「嫌がらせ? にしては手が込んでるね」

 麻衣はトイレに駆け込み、すぐにリリムに電話をかける。

「ちょっと、どういうことよ!? アンタの言う通りに青唐辛子を渡したのに、嫌がらせと思われてんだけど!?」

「たいへん申し訳ございません! 地獄のアイドルと情報が混ざってしまいまして……」

「ふざけんなお前ーッ!」

 ダメだ、この悪魔。
 麻衣は舌打ちをしながら電話を切り、真奈美のいる教室に戻ろうとした。
 真奈美は教室を出て、友人たちと談笑しながら玄関に向かっている。帰宅するのだろう。
 ――どうしよう。麻衣は足を止めてしまった。
 このまま真奈美のもとへ向かっても、またストーカーだと思われてしまう。
 先輩と仲良くなりたかっただけなのに、どうしてこんなことに。
 泣きそうになった麻衣に、「まだ諦めないでください、麻衣さん!」と、電話を受けたリリムが翼で駆けつけてきた。

「何よアンタ。真奈美先輩の顔見たら、今更私なんて……」

「これから私が事故を起こします。麻衣さんはそこから真奈美さんを華麗に救い出して」

「は!?」

 麻衣が止める間もなく、リリムは魔法で玄関のシューズボックスを倒そうとする。
 巨大なシューズボックスは重量もあり、真奈美の上に倒れればただでは済まない。
 真奈美が異変に気付き、悲鳴を上げた。

「あ、アンタ、なんてことを!」

「ほら、早く助けに行って!」

 シューズボックスも真奈美も、彼女の友人たちもスローモーションのように動いている。リリムの魔法で、一帯の動きが遅くなっているのだ。

「――ああ、もう! やればいいんでしょ!」

 麻衣は駆け出した。
 真奈美の体をお姫様抱っこの要領で抱えあげ、すぐにシューズボックスの倒れてくる方向から離脱する。
 重いものが倒れる大きな音と振動を背後に感じた。

「真奈美先輩、お怪我は?」

「麻衣ちゃん……? 助けてくれたの?」

 真奈美は目をパチクリさせたあと、自分がお姫様抱っこされていたのに気づき、顔を赤らめる。
 麻衣は彼女をそっと降ろし、ペコリと一礼したあと、玄関から外へ飛び出した。

「いかがでしたか、麻衣さん! このサブスク契約、さぞご満足いただけたのではないでしょうか!」

 後を追ってきたリリムを、麻衣は恐ろしい形相で睨みつける。

「リリム、そこに正座しなさい」

「ここコンクリートですけど」

「いいから! 座れ!」

 そこからは1時間にわたる説教だった。当たり前だ。真奈美にストーキングしていると思われ、好物と勘違いして嫌いなものを渡し、あまつさえ彼女を命の危険にさらしたのは全てリリムのせいである。

「こんな契約で満足するわけあるかーッ! 契約破棄よ、破棄! 魂も渡さないからね!」

「そ、そんなー! こんなに頑張ったのに!」

「アンタの頑張りの方向性がおかしいのが悪い!」

 ……しかし、リリムとの契約破棄のあと、麻衣と真奈美は一緒に登下校する時間が増えたとか。

〈続く〉
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