悪魔営業リリムちゃん

永久保セツナ

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第6話 幽霊が見えなくなりたい

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「お前か。最近この街を騒がせてるっていう迷惑悪魔は」

 今回の契約者、犬飼いぬかい冥介めいすけはリリムが来るのを知っていたようだった。
 彼の自宅を訪れたリリムは、「私、そんなに有名人ですか?」と照れくさそうにしている。

「悪い意味でな。霊たちが騒ぐもんだからどんなやつかと思ったら、ずいぶん弱そうな悪魔じゃないか」

「はい、リリム、これでもか弱い悪魔なもので」

「冗談にしても笑えないな」

 フン、と鼻を鳴らす冥介。

「まあいい。僕はお前と契約したいと思ってたんだ」

「えっ!?」

 リリムは大きく目を見開いて驚いた。

「は、初めて自ら契約したいと申し出る人間さんが……! ううう、嬉しいぃ……」

「泣くなよ……。はぁ、面倒なやつだな……」

 冥介は冷めた視線を崩すことはない。
 彼は早速、リリムに契約の内容を話すことにする。

「僕の悩みは幽霊が見えること。お前と契約して、この霊感を消して欲しい」

「なんかもったいないですね」

「んなわけあるか。僕はこの力のせいで迷惑してるんだ」

 冥介はため息をついた。

「幽霊と目が合えば喧嘩を売られるか、生前の未練を晴らしたいってまとわりつかれるだけ。幽霊どもの願いを叶えるために墓を掃除したり、生前の知り合いを探して会わせたり……そんなの、もううんざりなんだよ」

「冥介さんっていい人だねって言われません?」

「は? 喧嘩売ってんのかお前」

「いえ……すみません……」

 正座したまま小さく縮こまるリリムに冷たい視線をくれながら、「いいから、早く契約書よこせよ」と命令する冥介。

「お前は契約ノルマを取れれば満足なんだろ? 僕も、こんな能力を手放せれば死後に地獄に行ったって構うもんか」

 リリムの契約書に冥介がサインをする間、リリムは彼の背後を見ている。

「後ろの女性の方、何も喋りませんね」

「ああ、不気味なやつだろ? 気づいたらずっと僕の後ろにいるんだ。ぬぼーっと立ってて何も口を利かない。気持ち悪いから、もう見えなくなると思うとせいせいするよ」

「え? この方、冥介さんの守護霊ですよね?」

「は……?」

 冥介はリリムの言葉に呆気にとられた。

「こいつが守護霊……? 僕はこんなやつ知らないぞ。家族にも親戚にも見たことない」

「でも、冥介さんにお顔立ちが似てますよね」

「そ、そうなのか……?」

 冥介は、契約書に名前の最後の一文字を書く前にペンを止める。
 この正体不明の幽霊の詳細を明らかにしなければ、どうにも据わりが悪い。
 彼が実家の母親に電話で事情を聞くと、その正体が明らかになった。
 実は、冥介の母は、生みの親ではない。
 本当の母親から彼を預かって、養子として育てていたという。

「……つまり、この幽霊は……僕の、母さん……?」

「……今まで、言い出せなかった」

 無機質だったはずの女性の顔に、初めてはっきりと「悲しみ」の表情が浮かぶ。冥介は驚愕した。

「冥介を、赤ちゃんの頃から見守ることができて、私は幸せだった。でも、冥介の霊感がこの子の生活を脅かすなら、私は一生見えなくなっても構わない」

「なんで……なんで今まで言ってくれなかったんだ……!」

「あの……契約書にサインを……」

「うるさい! そんなの破棄だ破棄!」

「そんなぁ……」

 リリムの契約はまたもや破棄されてしまい、彼女はしょぼくれたまま雅宗の家に帰宅するのだった。
 真相を知った冥介は、守護霊の母親と助け合って、仲良く暮らしているという。

〈続く〉
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