正義のミカタ

永久保セツナ

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正義のミカタ最終章~零の襲来~

第6話(本編最終話)悪を滅ぼすその時まで

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『霧崎零』は、代々世襲される殺人犯の名前らしい。本名『アレス・サイファー』が最後の十三代目。切り裂きジャックを殺したと言われる殺人鬼が、自分を殺した者を世襲させるというルールを作ったのが全ての始まりだった。世襲したものは、これまた世襲制のお目付け役――『黒の腕』に殺人を強制させられる。
十二代目はアレスの妻、『エリス・サイファー』だった。負傷し瀕死の状態だった十一代目を知らずに看護、十一代目死亡後、自動的に十二代目を世襲し、黒の腕が現れる。殺人を強制させられることに絶望にも似た恐怖を抱いた彼女のために、アレスは人生で初めての殺人――最愛の妻エリスをその手にかけた。
その後、彼はこの『殺人感染』を止めようとする。黒の腕が怪しまないように、かつ相手が自分を殺さないようにするには。
――答えが見つかったときには、すでに何十人もの犠牲者を葬ったあとだった。人ではない司法が私を殺せばいい。ただし、黒の腕も同時に捕まえさせるために、自首はできない。
警視総監とその娘、ついでにその場にいた警官を一人見逃した。彼らが、私を止めてくれる『可能性』を持っている。
――カイナは、その『可能性』を『楽しませてくれる可能性』と勘違いしていたようですがね。
面会した霧崎――いや、アレスは、すっきりしたように笑っていた。黒の腕に怪しまれないよう、殺人が好きな演技を何年も続けていたのだ。
そして、お嬢さんには本当にすまないことをした、と深く頭を下げて謝った。
お嬢は、大したことないよ、と笑っていた。笑うことしかできないのではなく、自分の意志で口角を上げて笑っていた。
最後にアレスは、お嬢に「ありがとう」と言った。
これが、ぼくらと、死刑囚アレス・サイファーの、最後の会話だった。
「二人とも、おめでとう!」
崇皇先輩がクラッカーを鳴らした。
捜査一課で事件が終わったねぎらいの打ち上げをしている。
「日暮警部、かっこよかったです!」
「そういや、大丈夫だったか崇皇。やけどとかしてねえか?」
「はい、大丈夫です!」
崇皇先輩が真っ赤になって一生懸命答えている。
「……全部、終わったんだね」
ぼくは、そっとつぶやいた。
「……うん」
お嬢は、無表情だった。
「あんまり、嬉しくない?」
「まさか。とてもめでたいことだよ」
お嬢は打ち消すように笑った。
「ただ……さ」
「うん」
「これでもう、月下君に会えないのかなって……」
「え、なんで?」
「なんでって……」
そこに、警視総監がやってきた。
「六花、悪いけど打ち上げが終わったら次の仕事だよ」
「え……次の……?」
「当り前でしょ、悪い奴は零だけじゃないんだよ。もちろん、月下ちゃんも一緒にね!」
「月下君……!」
お嬢は嬉しそうにぼくを見上げた。
ぼくもほほ笑んで言った。
「この世に悪がなくならないと、ぼくらは解散できないよ」と。

〈正義のミカタ本編・完〉
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