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2.名を削がれた神
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アイスら騎士達の案内で、俺はとある場所にやってきた。
いや。とある場所……という表現は適切ではないのだろう。
極論、案内なんて必要なかった。
護衛された俺は、自分が育った養護施設に戻ってきたのだ。
「院長先生」
「開陽かい……ダンジョンに連れて行かれたと聞いて、無事で、本当によかった!」
深夜にも関わらず院長は玄関先で俺の帰りを待っていた。
涙を流すまで心配していたのは申し訳ないし。嬉しそうな顔を見るとこちらの緊張も和らぐが。
これでも、俺を含め十人以上も育てる肝っ玉母ちゃん。
雷に打たれても傷一つ負わなそうな身で抱き締めると、心臓が飛び出しそうになる。
「感動的な再会……っ。目に沁みます!」
「隊長、ハンカチを」
後ろでアイスが鼻をすするのが聞こえた。
今こそ護衛が最も活躍する場ですよ! 対象が死にかけているんですから。
「でも本当によかった。あなたにぜひ会ってほしい人がいるの」
腕元から解放した院長が俺についてくるよう言った。
もうみんな、部屋でぐっすり眠っているらしい。各部屋から漏れる寝息は一段と疲れているようだった。
こう言ってしまうと悪いが。俺の帰りをずっと案じてくれてのことだと思えば、なんだか嬉しくなった。
ほかの子達を起こさないよう院長室に行くと。
「やあ。はじめまして、開陽君」
スーツを着た……少年?
いや違う。
窓からの月明かりに照らし出される顔には、なんと鱗が生えていた。
手も鱗に覆われ、爪も俺や院長のそれより鋭く光っている。
そして、耳だ。
尖り鱗とは別に滑らかな毛が生え、どういう原理か風もないのに月光を浴びながら揺れていた。
「さて。まずは自己紹介といこう。とはいえ君にどう説明したものか。まあ、端的に言って」
「ボクは人じゃない。いわゆる竜人……君が会った女神と、同種の生き物に当たる」
窓からの月明かりに竜人の姿が映し出される。
確かに、彼の毛の生えた耳と、鰭の付いた太い帯も尾に見えた。尻尾を持つあの糞女狐と特徴で近しいものを感じる。
けれど、女神と遭った時に感じた禍々しさは感じなかった。
「ボクは……、あいにくと今は訳あって名前がなくてね。今は『削銘』と名乗らせてもらっている」
俺に対して謝罪をしたいと言うような苦笑だった。
「開陽君は自分の状況、というか、なにに巻き込まれているか、把握しているかい……?」
「ええ、まあだいたい。俺が……異世界を救う勇者に選ばれて、女神に命を、狙われている」
自分で言っていて恥ずかしい!!
「こんな見た目で、君の前に大勢でやってきて信じてくれないかもしれないけど。ボクは、開陽君のように女神に魅入られてしまった子ども達を保護する活動をこの世界で行っているんだ」
「実はね……開陽に私が薦めたの、彼が運営する学園だったの」
ちょっと待って。
この削銘という人(神様?)の言葉を継いで、言ったのが、院長……なら。
「この養護施設も、勇者の資質を持つ子どもを引き取って育てるための、場所だったのか」
院長によれば、事故や病気、虐待とかで身寄りがなくなった子どもを探しては。
いずれ異世界の女神に目を付けられる素質を具えた子を探し出しては、保護していたらしい。
といってもこれは、あくまで可能性の話で。
俺にその兆候が本格的に顕れ出したのは、精神に深い傷を負った数ヶ月前のこと。
「言えなかった。どんなきっかけで力に目覚め出すか、私にもわからないから。先生失格ね」
まるで、辛い境遇から立ち直ろうとしたところ。
そこに付け込むように削銘の学園を紹介したと院長は俺に、手を突いてまで謝ろうとした。
「頭上げてよ。いや確かに、正直まだびっくりしているけどさ」
こっちが手を貸さないと立ち上がれなくなるほど。
悪いことはなにもしていないし、むしろ。
「謝りたかったのは、こっちの方だよ」
院長や、通いにやってくるここの人達が、施設の子達を愛している人だというのはよくわかっている。
俺のような不出来な子より、ほかの子達はその何倍も。
俺は、親不孝、兄弟不幸なやつだ。
自分の悪い境遇ばかりを呪い、心配されていることにも気が付いておきながら。
謝る勇気さえ、自分が謝られるまで持てなかった。
「開陽なら、必ず立ち直ってくれるって、私も、みんなも信じていた。何年も見てきたんだから」
頭を撫でられた。この歳になって。
「なんだか熱いね」
「そっそう!? 女神になんかされたのかな!?」
「ああそれと! 削銘さん、だっけ。あなたもありがとうございました」
「……おや。君に感謝されるようなこと、やった覚えがないのだけれど」
「俺をダンジョンまで助けに来てくれたのに?」
削銘は少し、むずかしい顔で言った。
「ボクの推測が正しければ、君はあれに一度騙され、神という存在に不信感しか抱いてないとばかり思ったけど」
それもそうだ。
死んだと騙した後、モンスターの跋扈する異空間に落とされた。
「だからこそ。全部が嘘でも、俺に『お前は死んだ』とは言わないし」
ちらりと一瞬、アイスを見た。
「モンスターだけ斬るなんて、すごい剣捌きだった」
「なるほど。……お手柄だったねアイス?」
「ふぇッ! わ、私ですか……!?」
功労者と讃えられることにまったく想定がなかったアイス。
それが見れて削銘はすっかり毒気を抜かれたようだった。
「でも、開陽君にこれだけは言っておこう。ボクの学園では、勉強やクラスメイトとの交流以前に、大事にしていることがある」
「君にはこれから、君に宿った勇者の力を、すべて失くしてもらう」
「勇者の、力……?」
「力が失えば女神も君に興味を失くすからね。ボクはこれを、最善の策として君にこうして提案しにきたというわけだ」
それがどういう方法かは知らない。知ったところで俺にできることなんて、ないのかもしれない。
かもしれないことだらけだ。『確かなこと』はまだ一つもはっきりしていなかった。
異世界の勇者なんて面倒な才能、失くす手助けをしてくれるなら願ってもない。
「選択の権利は、開陽君……君だけのものだ。遠慮せず、今の気持ちを率直に答えてくれるのが、ボクらは一番嬉しい」
いや。とある場所……という表現は適切ではないのだろう。
極論、案内なんて必要なかった。
護衛された俺は、自分が育った養護施設に戻ってきたのだ。
「院長先生」
「開陽かい……ダンジョンに連れて行かれたと聞いて、無事で、本当によかった!」
深夜にも関わらず院長は玄関先で俺の帰りを待っていた。
涙を流すまで心配していたのは申し訳ないし。嬉しそうな顔を見るとこちらの緊張も和らぐが。
これでも、俺を含め十人以上も育てる肝っ玉母ちゃん。
雷に打たれても傷一つ負わなそうな身で抱き締めると、心臓が飛び出しそうになる。
「感動的な再会……っ。目に沁みます!」
「隊長、ハンカチを」
後ろでアイスが鼻をすするのが聞こえた。
今こそ護衛が最も活躍する場ですよ! 対象が死にかけているんですから。
「でも本当によかった。あなたにぜひ会ってほしい人がいるの」
腕元から解放した院長が俺についてくるよう言った。
もうみんな、部屋でぐっすり眠っているらしい。各部屋から漏れる寝息は一段と疲れているようだった。
こう言ってしまうと悪いが。俺の帰りをずっと案じてくれてのことだと思えば、なんだか嬉しくなった。
ほかの子達を起こさないよう院長室に行くと。
「やあ。はじめまして、開陽君」
スーツを着た……少年?
いや違う。
窓からの月明かりに照らし出される顔には、なんと鱗が生えていた。
手も鱗に覆われ、爪も俺や院長のそれより鋭く光っている。
そして、耳だ。
尖り鱗とは別に滑らかな毛が生え、どういう原理か風もないのに月光を浴びながら揺れていた。
「さて。まずは自己紹介といこう。とはいえ君にどう説明したものか。まあ、端的に言って」
「ボクは人じゃない。いわゆる竜人……君が会った女神と、同種の生き物に当たる」
窓からの月明かりに竜人の姿が映し出される。
確かに、彼の毛の生えた耳と、鰭の付いた太い帯も尾に見えた。尻尾を持つあの糞女狐と特徴で近しいものを感じる。
けれど、女神と遭った時に感じた禍々しさは感じなかった。
「ボクは……、あいにくと今は訳あって名前がなくてね。今は『削銘』と名乗らせてもらっている」
俺に対して謝罪をしたいと言うような苦笑だった。
「開陽君は自分の状況、というか、なにに巻き込まれているか、把握しているかい……?」
「ええ、まあだいたい。俺が……異世界を救う勇者に選ばれて、女神に命を、狙われている」
自分で言っていて恥ずかしい!!
「こんな見た目で、君の前に大勢でやってきて信じてくれないかもしれないけど。ボクは、開陽君のように女神に魅入られてしまった子ども達を保護する活動をこの世界で行っているんだ」
「実はね……開陽に私が薦めたの、彼が運営する学園だったの」
ちょっと待って。
この削銘という人(神様?)の言葉を継いで、言ったのが、院長……なら。
「この養護施設も、勇者の資質を持つ子どもを引き取って育てるための、場所だったのか」
院長によれば、事故や病気、虐待とかで身寄りがなくなった子どもを探しては。
いずれ異世界の女神に目を付けられる素質を具えた子を探し出しては、保護していたらしい。
といってもこれは、あくまで可能性の話で。
俺にその兆候が本格的に顕れ出したのは、精神に深い傷を負った数ヶ月前のこと。
「言えなかった。どんなきっかけで力に目覚め出すか、私にもわからないから。先生失格ね」
まるで、辛い境遇から立ち直ろうとしたところ。
そこに付け込むように削銘の学園を紹介したと院長は俺に、手を突いてまで謝ろうとした。
「頭上げてよ。いや確かに、正直まだびっくりしているけどさ」
こっちが手を貸さないと立ち上がれなくなるほど。
悪いことはなにもしていないし、むしろ。
「謝りたかったのは、こっちの方だよ」
院長や、通いにやってくるここの人達が、施設の子達を愛している人だというのはよくわかっている。
俺のような不出来な子より、ほかの子達はその何倍も。
俺は、親不孝、兄弟不幸なやつだ。
自分の悪い境遇ばかりを呪い、心配されていることにも気が付いておきながら。
謝る勇気さえ、自分が謝られるまで持てなかった。
「開陽なら、必ず立ち直ってくれるって、私も、みんなも信じていた。何年も見てきたんだから」
頭を撫でられた。この歳になって。
「なんだか熱いね」
「そっそう!? 女神になんかされたのかな!?」
「ああそれと! 削銘さん、だっけ。あなたもありがとうございました」
「……おや。君に感謝されるようなこと、やった覚えがないのだけれど」
「俺をダンジョンまで助けに来てくれたのに?」
削銘は少し、むずかしい顔で言った。
「ボクの推測が正しければ、君はあれに一度騙され、神という存在に不信感しか抱いてないとばかり思ったけど」
それもそうだ。
死んだと騙した後、モンスターの跋扈する異空間に落とされた。
「だからこそ。全部が嘘でも、俺に『お前は死んだ』とは言わないし」
ちらりと一瞬、アイスを見た。
「モンスターだけ斬るなんて、すごい剣捌きだった」
「なるほど。……お手柄だったねアイス?」
「ふぇッ! わ、私ですか……!?」
功労者と讃えられることにまったく想定がなかったアイス。
それが見れて削銘はすっかり毒気を抜かれたようだった。
「でも、開陽君にこれだけは言っておこう。ボクの学園では、勉強やクラスメイトとの交流以前に、大事にしていることがある」
「君にはこれから、君に宿った勇者の力を、すべて失くしてもらう」
「勇者の、力……?」
「力が失えば女神も君に興味を失くすからね。ボクはこれを、最善の策として君にこうして提案しにきたというわけだ」
それがどういう方法かは知らない。知ったところで俺にできることなんて、ないのかもしれない。
かもしれないことだらけだ。『確かなこと』はまだ一つもはっきりしていなかった。
異世界の勇者なんて面倒な才能、失くす手助けをしてくれるなら願ってもない。
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