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2 授業中の妄想はやめてください
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別に人で妄想するのは勝手だ。心の中のプライバシーがない俺に言われても、知ったことじゃないって思うだろう。アイドルと付き合いたいなんて妄想だって心の中では自由だ。俺が指図することじゃない。
だが、内容が内容だと困ってしまう。
栗須は無口だし、初めは俺に妄想しているんじゃないと思っていた。
だが、内容が俺と栗須がセックスしている内容だったので、度肝を抜いた。
まずその映像が脳内で流れだしたとき、栗須が妄想しているとは思っていなかった。
ほかの男子か女子かの悪趣味な妄想だと思ったのだ。
はじめてその映像が流れたのは、クラスで先生がHRしているときだった。それまで栗須の妄想は入ってきたことはなかったので、本当に誰がこんな妄想をしているのだと気が動転したものだ。
俺の能力の見え方は、妄想する人次第だ。
その人の言葉だけ聞こえるパターン―――これは一番聞いてて楽だ。意識を集中すれば、聞こえなくなるし、なにより映像がないのがいい。そして二つ目は映像と声のパターン。これは半分の人がそうで、脳内で突然現れるから、普通にビビるし、思考の邪魔だ。
そして3つ目は、まるで疑似体験のように脳内に入ってくるパターン。
におい、感覚、触感―――まるで現実にあるようにイメージが入ってくる。これが一番やっかいだ。他人の妄想なら別に何もないが、俺に対しての妄想だともう最悪だ。まるで目の前で起きているように感じるから、たまに錯覚しそうになる。
しかもさも厄介なことに、これが栗須の妄想のパターンだから困っている。
まるで本当にあるように妄想してくるから、神経をつかうし、何より内容が内容だけに現実では反応も許されない。
まさか本人に文句も言えない。本当に内容が内容なだけに―――。
俺がこんな能力じゃなかったなぁ…。
自分がもし普通に空が飛べる、とかそういうのだったら、栗須の妄想なんて入ってこないし普通に友達としてやっていけただろう。
本当にそれぐらい栗須はいいやつだし、友達としては最高だ。
でもなんで俺なんか…―――?
と思ってならない。もっと女の子っぽい男なら、たとえばそう西島みたいなやつとか。
俺の容姿は平々凡々で、いかにも普通って感じなのに。それに、俺は男だし。普通の高校2年生だし。
栗須はガタイもよくて、武骨な印象を受けるけど、クラスの女子にモテている。モテてるんだから、女子のことでどうせなら妄想してほしかった。
栗須の能力は知らない。栗須だけじゃなくて、クラスの半分ぐらいの人数は能力を名乗ったりはしていない。だから、俺も名乗っていない。もちろん西島だって言ったら友達が減るタイプの能力だから言ってない。
俺も能力をいったらきっと今まで仲良く話してくれる人も、話してくれなくなってしまうかもしれない。
たとえば自慢できる能力だったらよかった。
人の妄想を覗き見る能力なんて、あまり日常生活に役立ったことはない。むしろ障害だらけだ。
だが、政府からは『もし危険な思考をしている人物がいたらおしえてくれ』という通達がきており、月一回報告する義務が俺にはある。だが、俺は危険人物なんて報告は一切していない。いつも「異常なし」と報告するだけだ。
アブノーマルの妄想をしていても、それを実際するかは限りなく確率が低い。
だから俺は、人の人生を踏み潰すことはしたくなかった。人の心は、何を考えてたっていいじゃないか。
「…とは思うんだけどな」
「ん~?」
俺たちは教室につくと、まず頭の中に妄想のイメージが沸き起こる。
『ねむい~。帰りたい』
『げ! きょうの現文あたるじゃん。あ~地震とかおきてほし~』
さまざまな声が入ってきて、俺は少し目を細める。でも、西島は俺よりつらいはずだ。人の心を読めるんだから、俺の妄想だけ声が聞こえるのはましなほうだろう。
「おはよ」
俺は自分の席の後ろに座っている栗須に話しかける。
机に荷物をおいていると、栗須も挨拶をした。
「ああ。おはよ」
仏頂面の栗須の顔は、なかなかに整っていると思う。
今日の授業は妄想しないでくれよ…。
俺の願いは、あっさりと席に座った瞬間覆された。
「――――――っ!」
手にぬめりとした感覚。慌ててみると、手に白い液体がついていた。その感触は精液そのものだった。慌てて首をふると、それは現実ではなかったらしく、手には何もついてなかった。
マジかよ…もうかよ…。
まだ授業中じゃないのに、もう栗須は俺で妄想している。まだHRも始まってもないぞ?!
朝から何妄想してるんだよ…―――。
俺はいまだに、この妄想が栗須のものだとは信じられないでいた。あまりに普段とのギャップが激しすぎるのだ。
「起立~」
担任の男の先生が来て、号令がかかり俺は慌ててたって頭をさげた。みんなもけだるそうに頭をさげる。
「なんだ~? みんな元気ないぞ~? 今日の知らせは…」
先生の話を聞きながら、俺は手に汗を感じていた。一向に頭に入ってこないのは、うなじを舐められている感覚があったからだ。
お願いだ、妄想はやめてくれ…。
そう思っていても、栗須には届くはずもない。ただ彼は好き勝手に妄想しているだけだ。
「今日は修学旅行の班員メンバーを決めてもらうぞ~。男女混合で、まあ…男だけがいいってならそれでいいし、まあ友達と相談して決めてくれ。決まんなかったら勝手にくじで決めちゃうぞ」
「え~。先生やめてよ、俺たち班員決めたいし」
「一人あまるのはやめろよ。みんなで協力してな」
先生の声に、は~いとみんなから声があがった。
俺は先生のお知らせなんて頭に入ってこなかった。
いつの間にか現文の先生が入ってきて、俺は慌てて教科書を出した。シャーペンを持つ手が震えた。
…集中しろ……。
俺は自分に言い聞かせるように、ノートを開き、先生の話を聞いた。だが、現文の先生は授業が進むと、脱線して雑談に入る。俺は先生のことをにらみたくなった。なんで一時目から、妄想する時間を与えるんだ?!
授業を進めてくれよ…―――。
そんな俺の願いはかなうこともなく、先生は作者の経歴をぺらぺら話始める。案の定、みんなは暇になって妄想し始めた。頭の中にたくさんの願望が入ってくる。
『早くおわんねーかなー、今日ミライちゃんのCD発売日だからな』
『あぁ…角川くんかっこいい…。結婚したい…』
みんなの願望はもっともなことで、俺はそうだよなと思う。
栗須の妄想は、こんな願望は一切心にはない。ただ、俺のことを犯したいという妄想を延々としているのだ。思春期だからってこんなに妄想しなくてもいいじゃないかと思ってしまうぐらいに。
なんでだよ…―――と悪態をついていると、いつの間にか俺はベットの上で全裸になっていた。はあ?と思うが、すぐに栗須の妄想だとわかる。俺はこうなってしまうと、何もできない。彼の妄想だから、俺はされるがままだし、なにより現実世界では見ていると知られると困るので声もあげられない。
『今日も可愛いな。今日はどこを責めてほしい?』
背中から、指をなでるように触られて俺は震えた。手のつめたさも、全裸の肌の寒さも、栗須の声の声音も何もかもがリアルだった。
『……ち、くび』
俺、んなこと思ったこともないけど?!
思わず声をあげそうになるが、栗須の妄想なので文句も言えない。
『乳首? 俺に前に触れたのが気持ちよかったんだ』
『…う、ん』
俺は恥ずかしそうに顔をうつむかせている。普段の俺だったら絶対にしないものだった。
目の前の栗須はくすりと笑った。その笑顔は昏い光を宿していた。
『うんと気持ちよくあげるからな』
だが、内容が内容だと困ってしまう。
栗須は無口だし、初めは俺に妄想しているんじゃないと思っていた。
だが、内容が俺と栗須がセックスしている内容だったので、度肝を抜いた。
まずその映像が脳内で流れだしたとき、栗須が妄想しているとは思っていなかった。
ほかの男子か女子かの悪趣味な妄想だと思ったのだ。
はじめてその映像が流れたのは、クラスで先生がHRしているときだった。それまで栗須の妄想は入ってきたことはなかったので、本当に誰がこんな妄想をしているのだと気が動転したものだ。
俺の能力の見え方は、妄想する人次第だ。
その人の言葉だけ聞こえるパターン―――これは一番聞いてて楽だ。意識を集中すれば、聞こえなくなるし、なにより映像がないのがいい。そして二つ目は映像と声のパターン。これは半分の人がそうで、脳内で突然現れるから、普通にビビるし、思考の邪魔だ。
そして3つ目は、まるで疑似体験のように脳内に入ってくるパターン。
におい、感覚、触感―――まるで現実にあるようにイメージが入ってくる。これが一番やっかいだ。他人の妄想なら別に何もないが、俺に対しての妄想だともう最悪だ。まるで目の前で起きているように感じるから、たまに錯覚しそうになる。
しかもさも厄介なことに、これが栗須の妄想のパターンだから困っている。
まるで本当にあるように妄想してくるから、神経をつかうし、何より内容が内容だけに現実では反応も許されない。
まさか本人に文句も言えない。本当に内容が内容なだけに―――。
俺がこんな能力じゃなかったなぁ…。
自分がもし普通に空が飛べる、とかそういうのだったら、栗須の妄想なんて入ってこないし普通に友達としてやっていけただろう。
本当にそれぐらい栗須はいいやつだし、友達としては最高だ。
でもなんで俺なんか…―――?
と思ってならない。もっと女の子っぽい男なら、たとえばそう西島みたいなやつとか。
俺の容姿は平々凡々で、いかにも普通って感じなのに。それに、俺は男だし。普通の高校2年生だし。
栗須はガタイもよくて、武骨な印象を受けるけど、クラスの女子にモテている。モテてるんだから、女子のことでどうせなら妄想してほしかった。
栗須の能力は知らない。栗須だけじゃなくて、クラスの半分ぐらいの人数は能力を名乗ったりはしていない。だから、俺も名乗っていない。もちろん西島だって言ったら友達が減るタイプの能力だから言ってない。
俺も能力をいったらきっと今まで仲良く話してくれる人も、話してくれなくなってしまうかもしれない。
たとえば自慢できる能力だったらよかった。
人の妄想を覗き見る能力なんて、あまり日常生活に役立ったことはない。むしろ障害だらけだ。
だが、政府からは『もし危険な思考をしている人物がいたらおしえてくれ』という通達がきており、月一回報告する義務が俺にはある。だが、俺は危険人物なんて報告は一切していない。いつも「異常なし」と報告するだけだ。
アブノーマルの妄想をしていても、それを実際するかは限りなく確率が低い。
だから俺は、人の人生を踏み潰すことはしたくなかった。人の心は、何を考えてたっていいじゃないか。
「…とは思うんだけどな」
「ん~?」
俺たちは教室につくと、まず頭の中に妄想のイメージが沸き起こる。
『ねむい~。帰りたい』
『げ! きょうの現文あたるじゃん。あ~地震とかおきてほし~』
さまざまな声が入ってきて、俺は少し目を細める。でも、西島は俺よりつらいはずだ。人の心を読めるんだから、俺の妄想だけ声が聞こえるのはましなほうだろう。
「おはよ」
俺は自分の席の後ろに座っている栗須に話しかける。
机に荷物をおいていると、栗須も挨拶をした。
「ああ。おはよ」
仏頂面の栗須の顔は、なかなかに整っていると思う。
今日の授業は妄想しないでくれよ…。
俺の願いは、あっさりと席に座った瞬間覆された。
「――――――っ!」
手にぬめりとした感覚。慌ててみると、手に白い液体がついていた。その感触は精液そのものだった。慌てて首をふると、それは現実ではなかったらしく、手には何もついてなかった。
マジかよ…もうかよ…。
まだ授業中じゃないのに、もう栗須は俺で妄想している。まだHRも始まってもないぞ?!
朝から何妄想してるんだよ…―――。
俺はいまだに、この妄想が栗須のものだとは信じられないでいた。あまりに普段とのギャップが激しすぎるのだ。
「起立~」
担任の男の先生が来て、号令がかかり俺は慌ててたって頭をさげた。みんなもけだるそうに頭をさげる。
「なんだ~? みんな元気ないぞ~? 今日の知らせは…」
先生の話を聞きながら、俺は手に汗を感じていた。一向に頭に入ってこないのは、うなじを舐められている感覚があったからだ。
お願いだ、妄想はやめてくれ…。
そう思っていても、栗須には届くはずもない。ただ彼は好き勝手に妄想しているだけだ。
「今日は修学旅行の班員メンバーを決めてもらうぞ~。男女混合で、まあ…男だけがいいってならそれでいいし、まあ友達と相談して決めてくれ。決まんなかったら勝手にくじで決めちゃうぞ」
「え~。先生やめてよ、俺たち班員決めたいし」
「一人あまるのはやめろよ。みんなで協力してな」
先生の声に、は~いとみんなから声があがった。
俺は先生のお知らせなんて頭に入ってこなかった。
いつの間にか現文の先生が入ってきて、俺は慌てて教科書を出した。シャーペンを持つ手が震えた。
…集中しろ……。
俺は自分に言い聞かせるように、ノートを開き、先生の話を聞いた。だが、現文の先生は授業が進むと、脱線して雑談に入る。俺は先生のことをにらみたくなった。なんで一時目から、妄想する時間を与えるんだ?!
授業を進めてくれよ…―――。
そんな俺の願いはかなうこともなく、先生は作者の経歴をぺらぺら話始める。案の定、みんなは暇になって妄想し始めた。頭の中にたくさんの願望が入ってくる。
『早くおわんねーかなー、今日ミライちゃんのCD発売日だからな』
『あぁ…角川くんかっこいい…。結婚したい…』
みんなの願望はもっともなことで、俺はそうだよなと思う。
栗須の妄想は、こんな願望は一切心にはない。ただ、俺のことを犯したいという妄想を延々としているのだ。思春期だからってこんなに妄想しなくてもいいじゃないかと思ってしまうぐらいに。
なんでだよ…―――と悪態をついていると、いつの間にか俺はベットの上で全裸になっていた。はあ?と思うが、すぐに栗須の妄想だとわかる。俺はこうなってしまうと、何もできない。彼の妄想だから、俺はされるがままだし、なにより現実世界では見ていると知られると困るので声もあげられない。
『今日も可愛いな。今日はどこを責めてほしい?』
背中から、指をなでるように触られて俺は震えた。手のつめたさも、全裸の肌の寒さも、栗須の声の声音も何もかもがリアルだった。
『……ち、くび』
俺、んなこと思ったこともないけど?!
思わず声をあげそうになるが、栗須の妄想なので文句も言えない。
『乳首? 俺に前に触れたのが気持ちよかったんだ』
『…う、ん』
俺は恥ずかしそうに顔をうつむかせている。普段の俺だったら絶対にしないものだった。
目の前の栗須はくすりと笑った。その笑顔は昏い光を宿していた。
『うんと気持ちよくあげるからな』
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