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第三章 第十三話
136 夢見た朝
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◇◇◇
『――――ミツ』
優しい声が聖月の身体を包んだ。こうやって『ミツ』と呼んでくれる二人はもう『この場所』にいない。
『ミツ……』
そっと、顔に触れる手は冷たくて…だけれど、どこか温かく感じられた。ずっと触れていてほしい。そう思っていたけど段々とその手が消えていってしまう。嫌だ、もっと触れていてほしい。叫びたくても声は出なかった。
『どうか幸せに』
聖月の耳にははっきりとそう聞こえた。
◇◇◇
「母さん…父さん…」
目を覚まし、先程まであった温かさの喪失感と共に白い天井が目に映る。
「……」
確かにあった二つ分のぬくもりを噛みしめ身体を強く抱きしめる。あの声はもうこの世にいない両親のものだった。自分の選択を信じたいための都合のいい夢だったのかもしれない。だけれど、あれは二人が聖月に会いに来てくれたのだとそう思わずにはいられなかった。
身体を起こし、周りを見渡すと、宗祐の姿が見えない。
宗祐のベットの上で寝ていた聖月の体は、すっかり良くなっていた。頭も痛くなく、身体も重くない。普段通りの体調に戻っている。
「――――ッ」
そして自分の格好を見て、赤面する。聖月はいつの間にかチェック柄のパジャマを着ていたからだ。こんなことを出来る人は、一人しかいない。パジャマに着替えさせられた理由を思い出し、さらに聖月の顔に熱が集まる。昨日、自分が『彼』に何をされたのか―――それをハッキリと思い出したからだ。
聖月は激情のまま慌ててドアを開き、他人の家だと言う事も忘れ廊下を走りリビングに出る。
「…あぁ、起きたのか。おはよう」
「―――――…おはようございます…」
目の前にYシャツに黒のスラックス姿で、身支度を整えている宗祐が立っている。口角を上げ、優しい笑みを浮かべる宗祐にさらに心臓が早くなる。ネクタイを締める姿が滑らかでついつい目がそちらに注目してしまった。
まさか朝のご支度シーン(?)を見れるとは思っていなかったので、聖月は宗祐の「おはよう」からかなり時間が経ってから朝の挨拶をする。オールバックのセットは完璧で、つい見惚れてしまう。黒髪の艶やかな髪は綺麗だった。
そんな聖月の考えていることが分かるのだろう、ククッと喉を鳴らすように宗祐は笑う。その姿は妖艶で、これが本当の彼の『素』なのだろうと何度目かの確認をする。
「申し訳ないが、これから仕事だからすぐに出る。テーブルにご飯置いといたから、食べておいてくれ」
彼がそう言いながら目線を送っている先のテーブルに美味しそうなパンが置いてある。「ありがとうございます」と言いたかったがこのまま宗祐が居なくなってもここに残っててもいいのか分からず、聖月は目をうろうろとさせる。
「…えっ、と、あの…」
やっとの事で言った言葉はあまりに小さかった。モゴモゴと口を動かしていると、宗祐はクスリと笑った。
「ここにここの住所と、電話番号書いたからいつでも来い」
「――――ッ」
渡された紙には、宗祐の字と思われるもので住所と電話番号、さらにはメールアドレスが書いてあり、聖月は言葉を失う。
―――つまり、そういうことでいいんだよね?
聖月の顔は喜びと泣きそうな表情に変わった。
「あ、ありがとうございますッ」
「………」
聖月のその手には抱きしめるように大切に抱くように紙が握られていた。お礼を言いながら大きくお辞儀をした聖月を、宗祐は無言で目を細めて見詰める。その顔には、仄かに昏い欲望が入り混じっていた。だが、それは聖月には届かない。そして―――。
「あと、これはココの鍵。帰るとき閉めてくれ」
「え?!」
さらに握りしめるように鍵を渡され、聖月は驚きすぎて間抜けな悲鳴を上げる。宗祐の手は大きく、聖月の手を力強く握りしめる。
瞬間、チャリン―――…、と音がした。
心臓がドクンと大きく鳴る。
「―――これは、聖月のモノだから。…無くすなよ? 出来るよな、いい子だから」
宗祐に間抜けな顔にさらに混乱させる言葉を言われ、聖月は思考も身体も石化した。
――――え?これが、俺のモノ? この鍵が?
何度反芻しても理解できず、未だに状況が掴めていない聖月を面白そうに笑う宗祐は、とても愉しそうだった。やっとその意味を理解したが幸福感と混乱で聖月は笑っていいか、泣いていいのか、喜んでいいのか、分からなくなってくる。人間はキャパオーバーになるとただただ何もできず顔が赤くなってしまうらしい。
どうしていいか分からない、そんな純粋な反応を見せる聖月に宗祐はサディストの笑みを浮かべた。
「じゃあ、いってくる」
「ッ~」
聖月が言葉にならない叫びをあげる。頬に感じた唇の感触は、間違えなく宗祐のものだった。呆然とする聖月に、宗祐はくすくすと意地悪く笑いながら、部屋を出ていった。
この家の持ち主が消え、一気に静寂になった部屋で聖月の心臓の音がより一層聞こえてくる。
「…夢…?」
あまりに都合のいい出来事で、聖月は夢うつつ…ぼんやりとした様子で呟いた。都合のいい夢だったらずっと覚めないでほしい。好きな人に今まで知らなかった住所を教えて貰って、電話も、メールアドレスも教えてくれて、あまつさえ合鍵を貰って。最後にはいってきますのキスまでされて。
「――――――…っ」
ロマンチックすぎる今までの思い出たちに、聖月は何度も何度も交互に合鍵と紙を見詰めてしまう。
聖月は拒絶されなかった、その事実を噛みしめるため何度も書いてもらった住所を見詰めた。そして忘れないように、震える手でケータイに電話番号とメールアドレスを打ち込む。
そして、夢じゃないことを確かめるため、テーブルに置いてあったパンを食べつつ
『君塚聖月です。色々とありがとうございます。邪魔にならないように、もう少しで出ていきます。カギはちゃんと閉めます。また来てもいいですか?』
と、打ち込んでメールをした。
この作業でさえ緊張してしまい、30分ぐらいかかってしまった。
やっとの事で送信し(これまた送るだけでいつもの10倍は時間がかかった)、食べ終わったお皿を洗っているとケータイが震えた。
慌てて聖月がケータイを開くと…。
『メールとかで確認しなくても勝手に家に来ていい。好きにしろ。カギは閉めないと、お前を閉じ込めるから覚悟しとけ』
「ええっ?!」
前半にも驚いたが、後半の文章にも驚いて思わずケータイを落としてしまう。聖月は急いでケータイを拾う。落とした衝撃で、壊れていなくてほっとした。聖月も、すぐに返事を書き、送信する。
『分かりました』
なんて書こうか迷っていたら、結局無難なものになってしまった。
「何が「分かった」んだよ、俺…」
馬鹿みたいなことを言った感じがして、一人でツッコミを入れる。項垂れているとすぐに返信がきた。
『宜しく』
「何が宜しくなんだ…?」
宗祐の返信の意味がよく分からなくて聖月は首を傾げる。
変な会話してるなぁ、と素直に思ってしまう。初めてした宗祐とのメールに嬉しくて、だけれど妙に恥ずかしかった。聖月はこれ以上メールを送ったら迷惑になるだろうと思い、メールの返信はやめておいた。忙しいだろう宗祐がすぐに返信をしてもらって申し訳なく思いつつも、顔は緩んでしょうがなかった。
それからやっと宗祐の言葉の意味が分かり、聖月はさらに顔を赤くした。
部屋を綺麗にして、『また来ます』とメモ用紙に書いてテーブルに置いて、部屋から出ていく。
まさか自分がこんなに晴れやかな気分でこの場所から出ていけるなんて思っていなかった。外はすっかり晴れ、道には昼の陽の光が水たまりに反射しキラキラと煌めいていた。
『――――ミツ』
優しい声が聖月の身体を包んだ。こうやって『ミツ』と呼んでくれる二人はもう『この場所』にいない。
『ミツ……』
そっと、顔に触れる手は冷たくて…だけれど、どこか温かく感じられた。ずっと触れていてほしい。そう思っていたけど段々とその手が消えていってしまう。嫌だ、もっと触れていてほしい。叫びたくても声は出なかった。
『どうか幸せに』
聖月の耳にははっきりとそう聞こえた。
◇◇◇
「母さん…父さん…」
目を覚まし、先程まであった温かさの喪失感と共に白い天井が目に映る。
「……」
確かにあった二つ分のぬくもりを噛みしめ身体を強く抱きしめる。あの声はもうこの世にいない両親のものだった。自分の選択を信じたいための都合のいい夢だったのかもしれない。だけれど、あれは二人が聖月に会いに来てくれたのだとそう思わずにはいられなかった。
身体を起こし、周りを見渡すと、宗祐の姿が見えない。
宗祐のベットの上で寝ていた聖月の体は、すっかり良くなっていた。頭も痛くなく、身体も重くない。普段通りの体調に戻っている。
「――――ッ」
そして自分の格好を見て、赤面する。聖月はいつの間にかチェック柄のパジャマを着ていたからだ。こんなことを出来る人は、一人しかいない。パジャマに着替えさせられた理由を思い出し、さらに聖月の顔に熱が集まる。昨日、自分が『彼』に何をされたのか―――それをハッキリと思い出したからだ。
聖月は激情のまま慌ててドアを開き、他人の家だと言う事も忘れ廊下を走りリビングに出る。
「…あぁ、起きたのか。おはよう」
「―――――…おはようございます…」
目の前にYシャツに黒のスラックス姿で、身支度を整えている宗祐が立っている。口角を上げ、優しい笑みを浮かべる宗祐にさらに心臓が早くなる。ネクタイを締める姿が滑らかでついつい目がそちらに注目してしまった。
まさか朝のご支度シーン(?)を見れるとは思っていなかったので、聖月は宗祐の「おはよう」からかなり時間が経ってから朝の挨拶をする。オールバックのセットは完璧で、つい見惚れてしまう。黒髪の艶やかな髪は綺麗だった。
そんな聖月の考えていることが分かるのだろう、ククッと喉を鳴らすように宗祐は笑う。その姿は妖艶で、これが本当の彼の『素』なのだろうと何度目かの確認をする。
「申し訳ないが、これから仕事だからすぐに出る。テーブルにご飯置いといたから、食べておいてくれ」
彼がそう言いながら目線を送っている先のテーブルに美味しそうなパンが置いてある。「ありがとうございます」と言いたかったがこのまま宗祐が居なくなってもここに残っててもいいのか分からず、聖月は目をうろうろとさせる。
「…えっ、と、あの…」
やっとの事で言った言葉はあまりに小さかった。モゴモゴと口を動かしていると、宗祐はクスリと笑った。
「ここにここの住所と、電話番号書いたからいつでも来い」
「――――ッ」
渡された紙には、宗祐の字と思われるもので住所と電話番号、さらにはメールアドレスが書いてあり、聖月は言葉を失う。
―――つまり、そういうことでいいんだよね?
聖月の顔は喜びと泣きそうな表情に変わった。
「あ、ありがとうございますッ」
「………」
聖月のその手には抱きしめるように大切に抱くように紙が握られていた。お礼を言いながら大きくお辞儀をした聖月を、宗祐は無言で目を細めて見詰める。その顔には、仄かに昏い欲望が入り混じっていた。だが、それは聖月には届かない。そして―――。
「あと、これはココの鍵。帰るとき閉めてくれ」
「え?!」
さらに握りしめるように鍵を渡され、聖月は驚きすぎて間抜けな悲鳴を上げる。宗祐の手は大きく、聖月の手を力強く握りしめる。
瞬間、チャリン―――…、と音がした。
心臓がドクンと大きく鳴る。
「―――これは、聖月のモノだから。…無くすなよ? 出来るよな、いい子だから」
宗祐に間抜けな顔にさらに混乱させる言葉を言われ、聖月は思考も身体も石化した。
――――え?これが、俺のモノ? この鍵が?
何度反芻しても理解できず、未だに状況が掴めていない聖月を面白そうに笑う宗祐は、とても愉しそうだった。やっとその意味を理解したが幸福感と混乱で聖月は笑っていいか、泣いていいのか、喜んでいいのか、分からなくなってくる。人間はキャパオーバーになるとただただ何もできず顔が赤くなってしまうらしい。
どうしていいか分からない、そんな純粋な反応を見せる聖月に宗祐はサディストの笑みを浮かべた。
「じゃあ、いってくる」
「ッ~」
聖月が言葉にならない叫びをあげる。頬に感じた唇の感触は、間違えなく宗祐のものだった。呆然とする聖月に、宗祐はくすくすと意地悪く笑いながら、部屋を出ていった。
この家の持ち主が消え、一気に静寂になった部屋で聖月の心臓の音がより一層聞こえてくる。
「…夢…?」
あまりに都合のいい出来事で、聖月は夢うつつ…ぼんやりとした様子で呟いた。都合のいい夢だったらずっと覚めないでほしい。好きな人に今まで知らなかった住所を教えて貰って、電話も、メールアドレスも教えてくれて、あまつさえ合鍵を貰って。最後にはいってきますのキスまでされて。
「――――――…っ」
ロマンチックすぎる今までの思い出たちに、聖月は何度も何度も交互に合鍵と紙を見詰めてしまう。
聖月は拒絶されなかった、その事実を噛みしめるため何度も書いてもらった住所を見詰めた。そして忘れないように、震える手でケータイに電話番号とメールアドレスを打ち込む。
そして、夢じゃないことを確かめるため、テーブルに置いてあったパンを食べつつ
『君塚聖月です。色々とありがとうございます。邪魔にならないように、もう少しで出ていきます。カギはちゃんと閉めます。また来てもいいですか?』
と、打ち込んでメールをした。
この作業でさえ緊張してしまい、30分ぐらいかかってしまった。
やっとの事で送信し(これまた送るだけでいつもの10倍は時間がかかった)、食べ終わったお皿を洗っているとケータイが震えた。
慌てて聖月がケータイを開くと…。
『メールとかで確認しなくても勝手に家に来ていい。好きにしろ。カギは閉めないと、お前を閉じ込めるから覚悟しとけ』
「ええっ?!」
前半にも驚いたが、後半の文章にも驚いて思わずケータイを落としてしまう。聖月は急いでケータイを拾う。落とした衝撃で、壊れていなくてほっとした。聖月も、すぐに返事を書き、送信する。
『分かりました』
なんて書こうか迷っていたら、結局無難なものになってしまった。
「何が「分かった」んだよ、俺…」
馬鹿みたいなことを言った感じがして、一人でツッコミを入れる。項垂れているとすぐに返信がきた。
『宜しく』
「何が宜しくなんだ…?」
宗祐の返信の意味がよく分からなくて聖月は首を傾げる。
変な会話してるなぁ、と素直に思ってしまう。初めてした宗祐とのメールに嬉しくて、だけれど妙に恥ずかしかった。聖月はこれ以上メールを送ったら迷惑になるだろうと思い、メールの返信はやめておいた。忙しいだろう宗祐がすぐに返信をしてもらって申し訳なく思いつつも、顔は緩んでしょうがなかった。
それからやっと宗祐の言葉の意味が分かり、聖月はさらに顔を赤くした。
部屋を綺麗にして、『また来ます』とメモ用紙に書いてテーブルに置いて、部屋から出ていく。
まさか自分がこんなに晴れやかな気分でこの場所から出ていけるなんて思っていなかった。外はすっかり晴れ、道には昼の陽の光が水たまりに反射しキラキラと煌めいていた。
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