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第三章 第十三話
145 アドレナリンと感覚麻酔
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
8月の某日。すっかり蒸し暑くなった夜の街。その一角のレストランの中で、あるお祝いが始まろうとしていた。
「それじゃあ、十夜の法科大学院入試合格を祝って…かんぱーい!」
「乾杯!」
「…乾杯」
衛の元気な声がレストランの中に響き渡る。聖月もそれに倣って大きくワイングラスを掲げた。主役である十夜は、気恥ずかしいのか、控えめにワイングラスを掲げる。十夜と衛にグラスを打ちあい、聖月は赤ワインを口に含んだ。そして舌に乗る味を確かめる。
―――うん、やっぱり苦い。
そんな事を考えてしまうのは、やはり自分がお子様だからだろうか。
「にしても、3人で集まったの卒業式以来じゃねえの」
十夜が感慨深そうに言って、二人は大きく頷いた。今日は弁護士を目指している十夜の3月に行われた『法科大学院入試』が合格が決まったのでお祝いのために3人は有名なフランス料理店集まったのだ。提案したのは衛、計画をしたのは十夜、予約をしたのは聖月という見事な連係プレー…でもなく、お互いが忙しかったのもあり中々日付が決まらず結局8月になってしまった会であった。
メールで連絡を取り合ってはいたが、就職をした衛と聖月と、大学院に進み勉学に忙しい十夜とでは大学卒業後中々予定も合わず会えずにいた。
今日は日曜日。華の休日最終日。煌びやかなレストランに3人席で腰かけたスーツ姿の男たちは懐かしい顔ぶれに話が止まらない。
「いや~、忙しかったからね。もう8月だし、時が経つのって早いよね~」
軽い調子の衛は、卒業式の時と何ら変わっていないように思える。金髪の鬣のような髪の毛に、ピアスがいっぱいついている耳も健在だ。Yシャツのスーツ姿が似合っているのは、細身のスタイルの良さであるからこそだろう。就職してもこんな髪型でいられるのは、ベンチャー企業でアパレル系で働いているからかもしれない。
「そうだよね。なんか、あっという間っていうか…」
衛の話に大きく頷く聖月もこの場所に合うようにスーツ姿であった。この今着ているスーツは、きりからプレゼントされたものだ。渡された時、あまりにいいものを貰ってしまい飛び上るぐらい驚いたことを昨日のように覚えている。聖月も分かる高級ブランドで、自分には勿体ないと受け取るのを躊躇してしまった。
だがきりに『君塚くんに似合うと思って…』と上目遣いで言われてしまえば受け取らないわけにもいかない。聖月も薄いピンク色のワンピースをその時きりにプレゼントしたので、聖月だけが貰わないわけにもいかなかったのだ。流石きりの見立てなのか、採寸通りでピッタリで、着やすいもので『ここぞ』というときに着させてもらっている。
十夜のお祝いが『ここぞ』だと思った聖月は、きりのスーツを着させてもらっている。
宗祐の家に移り住んでから、もう1年半が過ぎた。
懸念であった兄である清十郎の説得もすんなりと終わってしまったのは、宗祐の話術のたまものだろう。小向の知り合い、という嘘を言っていない微妙な立ち位置を、納得できる内容で一緒に住むことを了承をさせたのは宗祐でしかありえない。
清十郎はこの間会ったが、元気そうにやっていた。感慨深そうに『大人になったな』と言われて、ジーンとしてしまう。
23歳になったのだから当たり前だよ、と聖月が言うと『そうか』とゆっくり頷いたのを覚えている。宗祐の関係性はまだ話せていないが、いずれは話すことになるだろう。同性ではあるが宗祐であれば、きっと兄も受け入れてくれそうだ。
ディメントの面々も、ここ1年半で、少なからず変化はあったようだ。ケイとは今でも連絡を取り合っていて、彼が言うには、小向はディメントのオーナーのままらしい。神山も変わらず、小向にご執心とのことだった。変わったのは、やはり他のナンバー持ちだろう。
ナンバースリーである聖月がいなくなったので、ナンバースリーに蒼、ナンバーフォーにケイ、そしてなんとナンバーファイブにはイチがなっているらしい。前まではナンバー22だったのだから大出世だ。ナンバーワンは神山、ナンバーツーは美也のままだ。
コウは下位から中間に落ち着き、キダは相も変わらず同じ位置にいるらしい。みんな、取り敢えずは元気らしいので、なんとなくほっとした。蒼も最後に会えなかったが、たまに電話で『お前の家に行っていい?』と聞いてくるので断り続けている。
聖月の立場が分かっているのか分かっていないのか、そんな事を言うのでげんなりする。
ライブラもこの間訪れたが、特に変わりはないようだった。黒川も宝条も聖月がディメントを辞めたと聞いて喜んでくれていた。あの二人は感謝してもしきれない恩がある。
「聖月、どうした?」
十夜に問われ、自分が違う事を考えていたことに気づき、慌てる。十夜に申し訳ない気持ちですぐに聞き返した。
「ごめん、何?」
「いや、お前が営業職につくなんてビックリだなって話。しかも、めっちゃ大手玩具メーカーじゃん。どんな魔法使ったわけ?」
「――――あ、ええと」
聖月は、目を泳がせる。手に持っていたワインを見詰めながら、なんて言おうか悩んだ。
十夜が『魔法』と揶揄するのも無理はない。それは、自分でもびっくりしていることだからだ。聖月が就職したのは大手玩具メーカー――――…、宗祐の会社だ。自分が営業職に就くなんて思ってもみなかったが、やってみると大変だが好きな製品について語れるのは愉しい。受かるはずもない、と思いつついちよう就職活動中応募したが、採用通知が来て度肝を抜かれた。
通知が届いたその日の宗祐はとてもニコニコしており上機嫌だったので、コネな気がしてならないが。
「コネ………かな」
ごまかすのも悪いと思って素直に聖月が言うと、二人は顔を見合わせた。そして、声を立てて笑いだす。
「あははは、コネって…、聖月が? ありえねぇ~っ」
「ミツ、マジで言ってんの? それはすごいよ。逆にっ」
信じられない、と言う二人に聖月は顔を真っ赤にする。
し、信じられていない――――。
「まあでも、聖月って妙にマナーしっかりしてるし、姿勢もよくなったし前より表情良くなったから実力ってやつじゃないの?」
「ありがとう。…褒められてもなんも出ないけど…」
予想外に褒められて聖月は頭を掻く。そんな聖月の反応に十夜と衛は顔を見合わせて笑っている。その笑みは心を癒し、温めてくれた。それから3人は昔話に花を咲かせた。もちろん、今の話も、くだらないことだって何だって話した。美味しい料理と、かけがえのない友達。聖月は幸せだった。ほんの2年前は今にも死んでしまいそうだったのに、あの時死ななかったのはこの二人が居てくれたからだろう。
結局ディメントで稼いだお金は全て、親のいない子供たちを支援する団体へ寄付した。これで、ほんの少しでも、ディメントで働くような子供たちが居なくなることを心の底から祈っている。これが聖月に出来る唯一の事だと思った。
色々な話をしているとあっという間に時間は過ぎるものでラストオーダーの時間になっていた。
「なぁ、これからどうする?」
時刻は21時。すっかり外は暗くなっていた。帰るため身支度を整えながら聞かれた言葉に、待ったをかける。
「あ、ちょっと待って」
十夜に言われて、聖月は携帯を確認する。メールと着信が1件入っていた。どちらも同じ人物からだ。メールの文面を見て、聖月は驚いた。聖月は二人を見つめて問う。
「ごめん。今、外で、車の中で待ってるって言われた。二人も駅まで送ってくって」
聖月の言葉に二人は目を丸くする。
「へえ、ミツの恋人さんが?」
と、衛が問う。そうハッキリ言われると恥ずかしいような気がして顔をほんのりと赤く染める。二人には、男と付き合っていると伝えてある。その人と同居をしていることも。初めは言うのが躊躇いがあったが、衛は聖月に『同性の恋人』が居る事実を受け入れてくれた。十夜はもっと伝えづらかったが、優しい笑顔で受け入れてくれた。本当にそれが嬉しかった。
ディメントで働いていたことは衛には結局伝えられはしなかったが、宗祐の事は話せたのだと。
「う、うん…」
「いいじゃん。乗せてもらおう。な、待たせちゃ悪いし早くいこうぜ」
十夜は楽しそうな笑みを浮かべて、聖月と衛の腕を引っ張る。会計を済ませ、店を出たところで黒の高級車が止まっているのが見えた。窓を開けて顔を覗かせたのは、宗祐だった。宗祐は笑みを浮かべたが、十夜を見ると驚いた顔をする。だが、すぐにその顔を微笑ませる。それは十夜も同じだったが、聖月には気づかなかった。
「…お待たせ」
「あぁ、大丈夫。そこまで待ってないから。…こんばんは。ほら、二人とも後ろに乗って」
「こんばんは~。初めまして、今回はありがとうございますっ」
「ありがとうございます。失礼します。―――よろしくお願いします」
二人はお礼を言いつつ、車に乗り込んだ。衛は「うわ、おっきい~、広い~」と初めて乗る高級車にテンションが高めだ。聖月もこの車に乗せてもらった時、緊張したことを思い出した。雨で濡れることすら申し訳なかった。やっと慣れてきた聖月に対して、衛ははしゃぎ、十夜は特に緊張もしていなさそうだ。「いい車ですね」と十夜がほめるのだから、相当いい車だろう。
いつも乗っているこの車に、友人が乗っていることは新鮮だった。普段の日常的なものが、突然非現実になっていっているような―――そんな気がした。聖月が助手席に乗り込み、シートベルトをしたところで、車はゆっくりと発進する。
3人でなんの話をしていればいいのだろう、と考えていたけれど、社交的な十夜が宗祐に話しかけている。その内容は、宗祐の仕事や、自分たちの事だった。聖月も衛も会話に加わり、和気あいあいと話が盛り上がっていく。そんな中、十夜が聖月のスーツを指さした。
「聖月の今着てるスーツって誰かから貰ったんだろ?」
「え?」
「だってブランド物だし、お前それ着たの卒業式以来じゃねえの?」
お前が買ったとは思えない―――、と十夜に言われよく思わずミラーで十夜の事をまじまじと見てしまう。十夜は本当に人を見ている。十夜の言う通り、このスーツはきりから貰ったプレゼントだった。卒業式で着たのを覚えている十夜の記憶力が凄いと思う。
「へえ、そうなんだ」
優し気な声を聞いて、聖月は隣にいる宗祐を見上げた。にこやかに運転しているが、聖月には雰囲気で分かる。こういう雰囲気の彼は『怒っている』のだ。聖月は今着ているスーツがきりのプレゼントであることは宗祐には伝えていないことを思い出す。
「聖月に似合ってるよねぇ、それ!」
「…今日めちゃくちゃ褒めるね。ありがとう…」
衛に後ろからバシバシと肩を叩かれるながら褒められて聖月は顔を赤くする。結局話は逸れて誰から貰ったかは有耶無耶になった。聖月は駅まで届けた二人を見送ったあと、なんて説明しようか静かになった車内で悶々と考えることになった。
一方その頃。宗祐に駅まで届けられた二人は駅のホームに向かっていた。
「ねえ~。わざとああ言ったんでしょ。意地悪だねぇ。ミツかわいそ~、あれは家で彼氏さんに怒られるよ」
「―――…、」
衛の言葉に、十夜は目を丸くする。思わずその場で立ち止まり、衛の顔をまじまじと見た。全てを見透かす衛の目線に耐えきれなくなり、十夜は珍しく人の目を逸らす。―――十夜は衛の言う通り、わざとあの場で『スーツ』の事を言った。渡しているところを見たから、誰があのスーツを送ったのかも知っていた。
聖月には友人のふりをしているが、まだ十夜は恋心を諦めてきれていなかった。男の恋人がいる、そう聞いたとき笑顔で「おめでとう」と言えたのも不思議なくらいだ。しかも、相手が面識のある『羽山宗祐』だったなんて―――。父親と懇意にしており、たまに顔を合わせていたので先程会った時はずいぶん驚いた。
聖月が大手玩具メーカーに入社出来た理由も分かった。それほどまでに、宗祐は聖月を愛しているのだと思い知らされた。聖月の幸せを望んでいるが、車で向かいに来ると聞いたとき、魔が差した。車で話しているうちに、劣等感を抱き、スーツの事を言ってしまった。貴方が聖月に対して知らないことを自分は知っているのだと、優越感に浸ってしまった。
「っていうか、まだ諦めてなかったの?」
「―――な、」
何で、知って―――、と言いかけて宗祐は口を紡ぐ。それを言ったら認めることになる。やはり衛は、十夜の気持ちを知っていた。それを気づいていながらも、友人を続けてくれていたのは本当に有難い。
「今日はうちで飲もうよ」
「…俺はいいけど、彼女はいいのか」
「大丈夫。理解あるから。あ、言ってなかったけど、来月俺たち入籍するんだ」
「へえ…。――――え?」
衛の言葉に、十夜はあんぐりと口を開ける。思わぬ報告に十夜の驚きの声が駅のホームに響いた。おめでたい報告をさらりと報告する衛は楽しそうに笑っていた。十夜は先程までの憂鬱感が吹き飛び「聖月にも言ってやれよ」と衛に笑いかける。衛は「今日はやめとく」と楽し気に笑った。
二人は衛の家に向かうため、楽し気に会話をしながら人の雑踏に消えていった。
―――衛と十夜がお酒を飲みあっている中、聖月は緊張の中に居た。二人は終始無言のまま家に着いた。そのまま寝室に入っていく宗祐を追いかけ、薄暗い部屋を明るくするため照明のスイッチを押す彼の大きな背中を見詰める。部屋が明るくなると、ベットのサイドテーブルに置かれているスノードームがキラキラと輝く。
宇宙のような淡い色合いのスノードームは、ディメントでの最終日にコウとイチがくれたものだった。見るたびに美しくキラキラと雪が落ちていくスノードームは、聖月の心を癒してくれている。だが、今の状況では、スノードームで緊張を和らぐような状況ではない。
聖月は勇気を出して怒りのオーラを放つ宗祐に声をかけた。
「えっと、ごめんなさい…。これ、友達から貰ったスーツで…、隠してるつもりはなかったんだけど…」
言葉を紡ぐと、どうしても言い訳めいてしまう。あたふたとしていると、ふいに身体に衝撃が走る。ドンッ―――。すぐ近くに宗祐の顔があり、やっと自分がベットに押し倒されたのだと分かった。目をパチパチとさせて驚いていると、宗祐は口角を上げた。紳士的な微笑み、というには邪悪な感情が混じっていた。そんな表情を見ると、背中がゾクゾクとしてしまう。甘い痺れが身体に走る。
「…俺のあげたスーツは気に入らなかったのか。それとも、友達から貰ったスーツの方が好みだったのか?」
「そういうわけじゃ、ない……んっ」
聖月は声を上げようとして、口を塞がれてしまう。宗祐と唇が重なり、突然の事に息が出来なくなる。好きな人とキスをすることは幸福で、するたびに胸が痛くなるぐらいに感動する。頭がぼんやりとしていくのも、何度やっても変わらない。宗祐からは様々なプレゼントをされ、スーツも貰ったことがある。だが、あまり着られていないのは、まだ袖を通す勇気が出ないからだ。
宗祐は怒っている。黙っていたことも、きりに貰ったスーツを優先したとことも、多分十夜の事も、衛の事もきっと怒っている。やっと唇が離れ、聖月は息を乱しながら、宗祐に訴える。
「まだ、宗祐さんのは着る勇気が出なくて……っ、だけど、次は、絶対に着ますっ」
「――――…あぁ、そうして欲しい」
はっきりと宣言した聖月に、宗祐は微笑む。それは怒っていないもので、ほっとする。だが、その笑みのまま宗祐は聖月の両腕をネクタイで拘束する。それはいつの間にかほどいていた聖月のネクタイによるものだった。普通の人だったら、普通の恋人同士だったら、文句を言う場面だろう。だが、この二人は違う。聖月は受け入れ、そして…―――表面上は認めていないが確かに興奮していた。
宗祐は、聖月に嫌がることはしなかった。本格的な縛りはまだ早いのだと、宗祐は知っているからだ。ソフトな縛りであれば、聖月も受け入れ、段々とそれが快感になっていることも彼は知っていた。ギャグボールも長時間は無理だが、受け入れるようになってきた。それは、宗祐の手腕によるものだろう。そして、聖月の宗祐を受け入れたい、喜ばせたいという純粋でひたむきな思いが宗祐の『いびつな性癖』を受け止めたのだ。
真っ暗になる視界に、聖月は不安になる。だが、聖月はすぐに気づく。布状のもので目隠しをされたのだと。一気に淫猥な空気になる寝室に聖月の心臓は早鐘を打つ。
「今日は聖月の可愛い声を聞いて愉しもうか」
「あ…っ」
宗祐のくすくすと笑う声が、耳朶に響く。聖月の耳は宗祐の唇に翻弄された。大きな彼の手がスーツ越しに胸を撫でる。それだけで聖月の身体は敏感に跳ねた。―――昔のように、感覚はなくならない。そのことに感情が溢れ、聖月は呻くように愛を叫ぶ。
「宗祐さん…っ、好き……」
「…あぁ。俺もだ、聖月。愛してる」
唇が、愛おしそうに―――聖月の首筋に落とされる。
お母さん、お父さん―――。
目の前に両親が居るような気がして、聖月は涙を流した。その涙は宗祐の唇に吸い取られる。聖月は縛られたまま宗祐にしがみつこうとするが前が見えないためうまくいかない。それに気づいた宗祐はそっと腕を掴み背中に触れさせてくれた。
―――幸せだ。これが、歪な関係だとしても。きっとこれから自分は、戻れない場所にいくのかもしれない。だけれど聖月は後悔なんてしない。目の前にいる紳士が聖月を救い出してくれたのだから。宗祐の事を愛しているのだから。麻酔を受けたように、身体が堕ちていく。聖月は真っ暗な視界を閉じるため瞼を閉じる。
これからの二人の明るい未来を描きながら―――。
◇アドレナリンと感覚麻酔 END◇
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
感想があれば嬉しいです!
8月の某日。すっかり蒸し暑くなった夜の街。その一角のレストランの中で、あるお祝いが始まろうとしていた。
「それじゃあ、十夜の法科大学院入試合格を祝って…かんぱーい!」
「乾杯!」
「…乾杯」
衛の元気な声がレストランの中に響き渡る。聖月もそれに倣って大きくワイングラスを掲げた。主役である十夜は、気恥ずかしいのか、控えめにワイングラスを掲げる。十夜と衛にグラスを打ちあい、聖月は赤ワインを口に含んだ。そして舌に乗る味を確かめる。
―――うん、やっぱり苦い。
そんな事を考えてしまうのは、やはり自分がお子様だからだろうか。
「にしても、3人で集まったの卒業式以来じゃねえの」
十夜が感慨深そうに言って、二人は大きく頷いた。今日は弁護士を目指している十夜の3月に行われた『法科大学院入試』が合格が決まったのでお祝いのために3人は有名なフランス料理店集まったのだ。提案したのは衛、計画をしたのは十夜、予約をしたのは聖月という見事な連係プレー…でもなく、お互いが忙しかったのもあり中々日付が決まらず結局8月になってしまった会であった。
メールで連絡を取り合ってはいたが、就職をした衛と聖月と、大学院に進み勉学に忙しい十夜とでは大学卒業後中々予定も合わず会えずにいた。
今日は日曜日。華の休日最終日。煌びやかなレストランに3人席で腰かけたスーツ姿の男たちは懐かしい顔ぶれに話が止まらない。
「いや~、忙しかったからね。もう8月だし、時が経つのって早いよね~」
軽い調子の衛は、卒業式の時と何ら変わっていないように思える。金髪の鬣のような髪の毛に、ピアスがいっぱいついている耳も健在だ。Yシャツのスーツ姿が似合っているのは、細身のスタイルの良さであるからこそだろう。就職してもこんな髪型でいられるのは、ベンチャー企業でアパレル系で働いているからかもしれない。
「そうだよね。なんか、あっという間っていうか…」
衛の話に大きく頷く聖月もこの場所に合うようにスーツ姿であった。この今着ているスーツは、きりからプレゼントされたものだ。渡された時、あまりにいいものを貰ってしまい飛び上るぐらい驚いたことを昨日のように覚えている。聖月も分かる高級ブランドで、自分には勿体ないと受け取るのを躊躇してしまった。
だがきりに『君塚くんに似合うと思って…』と上目遣いで言われてしまえば受け取らないわけにもいかない。聖月も薄いピンク色のワンピースをその時きりにプレゼントしたので、聖月だけが貰わないわけにもいかなかったのだ。流石きりの見立てなのか、採寸通りでピッタリで、着やすいもので『ここぞ』というときに着させてもらっている。
十夜のお祝いが『ここぞ』だと思った聖月は、きりのスーツを着させてもらっている。
宗祐の家に移り住んでから、もう1年半が過ぎた。
懸念であった兄である清十郎の説得もすんなりと終わってしまったのは、宗祐の話術のたまものだろう。小向の知り合い、という嘘を言っていない微妙な立ち位置を、納得できる内容で一緒に住むことを了承をさせたのは宗祐でしかありえない。
清十郎はこの間会ったが、元気そうにやっていた。感慨深そうに『大人になったな』と言われて、ジーンとしてしまう。
23歳になったのだから当たり前だよ、と聖月が言うと『そうか』とゆっくり頷いたのを覚えている。宗祐の関係性はまだ話せていないが、いずれは話すことになるだろう。同性ではあるが宗祐であれば、きっと兄も受け入れてくれそうだ。
ディメントの面々も、ここ1年半で、少なからず変化はあったようだ。ケイとは今でも連絡を取り合っていて、彼が言うには、小向はディメントのオーナーのままらしい。神山も変わらず、小向にご執心とのことだった。変わったのは、やはり他のナンバー持ちだろう。
ナンバースリーである聖月がいなくなったので、ナンバースリーに蒼、ナンバーフォーにケイ、そしてなんとナンバーファイブにはイチがなっているらしい。前まではナンバー22だったのだから大出世だ。ナンバーワンは神山、ナンバーツーは美也のままだ。
コウは下位から中間に落ち着き、キダは相も変わらず同じ位置にいるらしい。みんな、取り敢えずは元気らしいので、なんとなくほっとした。蒼も最後に会えなかったが、たまに電話で『お前の家に行っていい?』と聞いてくるので断り続けている。
聖月の立場が分かっているのか分かっていないのか、そんな事を言うのでげんなりする。
ライブラもこの間訪れたが、特に変わりはないようだった。黒川も宝条も聖月がディメントを辞めたと聞いて喜んでくれていた。あの二人は感謝してもしきれない恩がある。
「聖月、どうした?」
十夜に問われ、自分が違う事を考えていたことに気づき、慌てる。十夜に申し訳ない気持ちですぐに聞き返した。
「ごめん、何?」
「いや、お前が営業職につくなんてビックリだなって話。しかも、めっちゃ大手玩具メーカーじゃん。どんな魔法使ったわけ?」
「――――あ、ええと」
聖月は、目を泳がせる。手に持っていたワインを見詰めながら、なんて言おうか悩んだ。
十夜が『魔法』と揶揄するのも無理はない。それは、自分でもびっくりしていることだからだ。聖月が就職したのは大手玩具メーカー――――…、宗祐の会社だ。自分が営業職に就くなんて思ってもみなかったが、やってみると大変だが好きな製品について語れるのは愉しい。受かるはずもない、と思いつついちよう就職活動中応募したが、採用通知が来て度肝を抜かれた。
通知が届いたその日の宗祐はとてもニコニコしており上機嫌だったので、コネな気がしてならないが。
「コネ………かな」
ごまかすのも悪いと思って素直に聖月が言うと、二人は顔を見合わせた。そして、声を立てて笑いだす。
「あははは、コネって…、聖月が? ありえねぇ~っ」
「ミツ、マジで言ってんの? それはすごいよ。逆にっ」
信じられない、と言う二人に聖月は顔を真っ赤にする。
し、信じられていない――――。
「まあでも、聖月って妙にマナーしっかりしてるし、姿勢もよくなったし前より表情良くなったから実力ってやつじゃないの?」
「ありがとう。…褒められてもなんも出ないけど…」
予想外に褒められて聖月は頭を掻く。そんな聖月の反応に十夜と衛は顔を見合わせて笑っている。その笑みは心を癒し、温めてくれた。それから3人は昔話に花を咲かせた。もちろん、今の話も、くだらないことだって何だって話した。美味しい料理と、かけがえのない友達。聖月は幸せだった。ほんの2年前は今にも死んでしまいそうだったのに、あの時死ななかったのはこの二人が居てくれたからだろう。
結局ディメントで稼いだお金は全て、親のいない子供たちを支援する団体へ寄付した。これで、ほんの少しでも、ディメントで働くような子供たちが居なくなることを心の底から祈っている。これが聖月に出来る唯一の事だと思った。
色々な話をしているとあっという間に時間は過ぎるものでラストオーダーの時間になっていた。
「なぁ、これからどうする?」
時刻は21時。すっかり外は暗くなっていた。帰るため身支度を整えながら聞かれた言葉に、待ったをかける。
「あ、ちょっと待って」
十夜に言われて、聖月は携帯を確認する。メールと着信が1件入っていた。どちらも同じ人物からだ。メールの文面を見て、聖月は驚いた。聖月は二人を見つめて問う。
「ごめん。今、外で、車の中で待ってるって言われた。二人も駅まで送ってくって」
聖月の言葉に二人は目を丸くする。
「へえ、ミツの恋人さんが?」
と、衛が問う。そうハッキリ言われると恥ずかしいような気がして顔をほんのりと赤く染める。二人には、男と付き合っていると伝えてある。その人と同居をしていることも。初めは言うのが躊躇いがあったが、衛は聖月に『同性の恋人』が居る事実を受け入れてくれた。十夜はもっと伝えづらかったが、優しい笑顔で受け入れてくれた。本当にそれが嬉しかった。
ディメントで働いていたことは衛には結局伝えられはしなかったが、宗祐の事は話せたのだと。
「う、うん…」
「いいじゃん。乗せてもらおう。な、待たせちゃ悪いし早くいこうぜ」
十夜は楽しそうな笑みを浮かべて、聖月と衛の腕を引っ張る。会計を済ませ、店を出たところで黒の高級車が止まっているのが見えた。窓を開けて顔を覗かせたのは、宗祐だった。宗祐は笑みを浮かべたが、十夜を見ると驚いた顔をする。だが、すぐにその顔を微笑ませる。それは十夜も同じだったが、聖月には気づかなかった。
「…お待たせ」
「あぁ、大丈夫。そこまで待ってないから。…こんばんは。ほら、二人とも後ろに乗って」
「こんばんは~。初めまして、今回はありがとうございますっ」
「ありがとうございます。失礼します。―――よろしくお願いします」
二人はお礼を言いつつ、車に乗り込んだ。衛は「うわ、おっきい~、広い~」と初めて乗る高級車にテンションが高めだ。聖月もこの車に乗せてもらった時、緊張したことを思い出した。雨で濡れることすら申し訳なかった。やっと慣れてきた聖月に対して、衛ははしゃぎ、十夜は特に緊張もしていなさそうだ。「いい車ですね」と十夜がほめるのだから、相当いい車だろう。
いつも乗っているこの車に、友人が乗っていることは新鮮だった。普段の日常的なものが、突然非現実になっていっているような―――そんな気がした。聖月が助手席に乗り込み、シートベルトをしたところで、車はゆっくりと発進する。
3人でなんの話をしていればいいのだろう、と考えていたけれど、社交的な十夜が宗祐に話しかけている。その内容は、宗祐の仕事や、自分たちの事だった。聖月も衛も会話に加わり、和気あいあいと話が盛り上がっていく。そんな中、十夜が聖月のスーツを指さした。
「聖月の今着てるスーツって誰かから貰ったんだろ?」
「え?」
「だってブランド物だし、お前それ着たの卒業式以来じゃねえの?」
お前が買ったとは思えない―――、と十夜に言われよく思わずミラーで十夜の事をまじまじと見てしまう。十夜は本当に人を見ている。十夜の言う通り、このスーツはきりから貰ったプレゼントだった。卒業式で着たのを覚えている十夜の記憶力が凄いと思う。
「へえ、そうなんだ」
優し気な声を聞いて、聖月は隣にいる宗祐を見上げた。にこやかに運転しているが、聖月には雰囲気で分かる。こういう雰囲気の彼は『怒っている』のだ。聖月は今着ているスーツがきりのプレゼントであることは宗祐には伝えていないことを思い出す。
「聖月に似合ってるよねぇ、それ!」
「…今日めちゃくちゃ褒めるね。ありがとう…」
衛に後ろからバシバシと肩を叩かれるながら褒められて聖月は顔を赤くする。結局話は逸れて誰から貰ったかは有耶無耶になった。聖月は駅まで届けた二人を見送ったあと、なんて説明しようか静かになった車内で悶々と考えることになった。
一方その頃。宗祐に駅まで届けられた二人は駅のホームに向かっていた。
「ねえ~。わざとああ言ったんでしょ。意地悪だねぇ。ミツかわいそ~、あれは家で彼氏さんに怒られるよ」
「―――…、」
衛の言葉に、十夜は目を丸くする。思わずその場で立ち止まり、衛の顔をまじまじと見た。全てを見透かす衛の目線に耐えきれなくなり、十夜は珍しく人の目を逸らす。―――十夜は衛の言う通り、わざとあの場で『スーツ』の事を言った。渡しているところを見たから、誰があのスーツを送ったのかも知っていた。
聖月には友人のふりをしているが、まだ十夜は恋心を諦めてきれていなかった。男の恋人がいる、そう聞いたとき笑顔で「おめでとう」と言えたのも不思議なくらいだ。しかも、相手が面識のある『羽山宗祐』だったなんて―――。父親と懇意にしており、たまに顔を合わせていたので先程会った時はずいぶん驚いた。
聖月が大手玩具メーカーに入社出来た理由も分かった。それほどまでに、宗祐は聖月を愛しているのだと思い知らされた。聖月の幸せを望んでいるが、車で向かいに来ると聞いたとき、魔が差した。車で話しているうちに、劣等感を抱き、スーツの事を言ってしまった。貴方が聖月に対して知らないことを自分は知っているのだと、優越感に浸ってしまった。
「っていうか、まだ諦めてなかったの?」
「―――な、」
何で、知って―――、と言いかけて宗祐は口を紡ぐ。それを言ったら認めることになる。やはり衛は、十夜の気持ちを知っていた。それを気づいていながらも、友人を続けてくれていたのは本当に有難い。
「今日はうちで飲もうよ」
「…俺はいいけど、彼女はいいのか」
「大丈夫。理解あるから。あ、言ってなかったけど、来月俺たち入籍するんだ」
「へえ…。――――え?」
衛の言葉に、十夜はあんぐりと口を開ける。思わぬ報告に十夜の驚きの声が駅のホームに響いた。おめでたい報告をさらりと報告する衛は楽しそうに笑っていた。十夜は先程までの憂鬱感が吹き飛び「聖月にも言ってやれよ」と衛に笑いかける。衛は「今日はやめとく」と楽し気に笑った。
二人は衛の家に向かうため、楽し気に会話をしながら人の雑踏に消えていった。
―――衛と十夜がお酒を飲みあっている中、聖月は緊張の中に居た。二人は終始無言のまま家に着いた。そのまま寝室に入っていく宗祐を追いかけ、薄暗い部屋を明るくするため照明のスイッチを押す彼の大きな背中を見詰める。部屋が明るくなると、ベットのサイドテーブルに置かれているスノードームがキラキラと輝く。
宇宙のような淡い色合いのスノードームは、ディメントでの最終日にコウとイチがくれたものだった。見るたびに美しくキラキラと雪が落ちていくスノードームは、聖月の心を癒してくれている。だが、今の状況では、スノードームで緊張を和らぐような状況ではない。
聖月は勇気を出して怒りのオーラを放つ宗祐に声をかけた。
「えっと、ごめんなさい…。これ、友達から貰ったスーツで…、隠してるつもりはなかったんだけど…」
言葉を紡ぐと、どうしても言い訳めいてしまう。あたふたとしていると、ふいに身体に衝撃が走る。ドンッ―――。すぐ近くに宗祐の顔があり、やっと自分がベットに押し倒されたのだと分かった。目をパチパチとさせて驚いていると、宗祐は口角を上げた。紳士的な微笑み、というには邪悪な感情が混じっていた。そんな表情を見ると、背中がゾクゾクとしてしまう。甘い痺れが身体に走る。
「…俺のあげたスーツは気に入らなかったのか。それとも、友達から貰ったスーツの方が好みだったのか?」
「そういうわけじゃ、ない……んっ」
聖月は声を上げようとして、口を塞がれてしまう。宗祐と唇が重なり、突然の事に息が出来なくなる。好きな人とキスをすることは幸福で、するたびに胸が痛くなるぐらいに感動する。頭がぼんやりとしていくのも、何度やっても変わらない。宗祐からは様々なプレゼントをされ、スーツも貰ったことがある。だが、あまり着られていないのは、まだ袖を通す勇気が出ないからだ。
宗祐は怒っている。黙っていたことも、きりに貰ったスーツを優先したとことも、多分十夜の事も、衛の事もきっと怒っている。やっと唇が離れ、聖月は息を乱しながら、宗祐に訴える。
「まだ、宗祐さんのは着る勇気が出なくて……っ、だけど、次は、絶対に着ますっ」
「――――…あぁ、そうして欲しい」
はっきりと宣言した聖月に、宗祐は微笑む。それは怒っていないもので、ほっとする。だが、その笑みのまま宗祐は聖月の両腕をネクタイで拘束する。それはいつの間にかほどいていた聖月のネクタイによるものだった。普通の人だったら、普通の恋人同士だったら、文句を言う場面だろう。だが、この二人は違う。聖月は受け入れ、そして…―――表面上は認めていないが確かに興奮していた。
宗祐は、聖月に嫌がることはしなかった。本格的な縛りはまだ早いのだと、宗祐は知っているからだ。ソフトな縛りであれば、聖月も受け入れ、段々とそれが快感になっていることも彼は知っていた。ギャグボールも長時間は無理だが、受け入れるようになってきた。それは、宗祐の手腕によるものだろう。そして、聖月の宗祐を受け入れたい、喜ばせたいという純粋でひたむきな思いが宗祐の『いびつな性癖』を受け止めたのだ。
真っ暗になる視界に、聖月は不安になる。だが、聖月はすぐに気づく。布状のもので目隠しをされたのだと。一気に淫猥な空気になる寝室に聖月の心臓は早鐘を打つ。
「今日は聖月の可愛い声を聞いて愉しもうか」
「あ…っ」
宗祐のくすくすと笑う声が、耳朶に響く。聖月の耳は宗祐の唇に翻弄された。大きな彼の手がスーツ越しに胸を撫でる。それだけで聖月の身体は敏感に跳ねた。―――昔のように、感覚はなくならない。そのことに感情が溢れ、聖月は呻くように愛を叫ぶ。
「宗祐さん…っ、好き……」
「…あぁ。俺もだ、聖月。愛してる」
唇が、愛おしそうに―――聖月の首筋に落とされる。
お母さん、お父さん―――。
目の前に両親が居るような気がして、聖月は涙を流した。その涙は宗祐の唇に吸い取られる。聖月は縛られたまま宗祐にしがみつこうとするが前が見えないためうまくいかない。それに気づいた宗祐はそっと腕を掴み背中に触れさせてくれた。
―――幸せだ。これが、歪な関係だとしても。きっとこれから自分は、戻れない場所にいくのかもしれない。だけれど聖月は後悔なんてしない。目の前にいる紳士が聖月を救い出してくれたのだから。宗祐の事を愛しているのだから。麻酔を受けたように、身体が堕ちていく。聖月は真っ暗な視界を閉じるため瞼を閉じる。
これからの二人の明るい未来を描きながら―――。
◇アドレナリンと感覚麻酔 END◇
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