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花嫁修業は思った以上に過酷
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ヴィルエイムに出会って、婚約者になった。
そんな怒涛の初日は終わりを迎え、新しい朝が始まった。
「おはようございます、ミネア様」
「朝食の用意が出来ております」
相も変わらず無愛想な二人のメイドに起こされ、ダイニングで朝食を摂る。
色んな事があったせいか、夜はぐっすりと眠れた。
あんなにふかふかなベットで眠りにつけるという贅沢を噛み締めようと思っていたが、その心地の良さに布団を被って一分も立たずミネアは夢の世界に誘われた。
ダイニングにはヴィルエイムの姿は見当たらない。
「あの、ヴィルエイム様は……?」
「ご主人様でしたら、既に仕事に務めております。」
「何か御用があるのでしたら、お呼びしますか?」
シトラとシーラのじーっという視線。
顔色一つ変えない二人の傍付きにミネアはどうしたらいいのか分からないでいた。
「あ、だ、大丈夫です!お仕事の邪魔は出来ませんから……。」
「左様ですか。それからミネア様。我々召使いに敬語は不要です。」
「ミネア様はご主人様の婚約者というお立場です。上下関係をはっきりさせないと下の者が調子に乗りかねないので、我々の為にもよろしくお願い致します。」
声色も変わらない。まるで生きているだけの人形のような佇まいにミネアは少しだけ取っ付きにくさを感じた。
とは言ってもまだ出会って二日目だ。
メイドから見ても、平民の婚約者というのはやはり気に入らないものなのだろうとミネアは自分自身に言い聞かせる。
「分かり……じゃなくて分かったわ。シトラ、シーラ。」
まるで写鏡のような二人。
片方の言いたいこと、やりたいことを完全に理解し互いに尊重し合っているようにも見える。
ミネアと二人のメイドの間にある壁はいつか壊す事が出来るのだろうか。
朝食を終え、ミネアは身支度を整える。
ここには普段着のドレスが色々あるが、どれも埃を被っていた。
シーラは、ミネアの体格に沿ってドレスの裾上げや袖の幅を合わせている。
どうやらシーラは手先が器用のようだ。
シトラは、ミネアのメイクやドレス選びに注力を注いでいるように見える。
シトラは案外、可愛い物好きなのかもしれない。
二人のお陰で手早く身支度を終わらせると、部屋の外にはヨーベルが待機していた。
「お初にお目にかかりますミネア様。私はこの屋敷にて執事長の任を任されておりますヨーベルと申します。以後、お見知りおきを。」
「初めまして、ミネアです!こ、こちらこそよろしくお願いします……!」
貫禄のある、素敵な執事長にミネアは頭を下げる。
「ミネア様。本日よりミネア様には我が主の婚約者として、様々な授業を受けて頂きます。まずは読み書きの授業からです。ささ、こちらにどうぞ。」
そう。今日からミネアはヴィルエイムの婚約者として各分野の先生から学びを得る。
学問的な部分は勿論のこと、社交界に出る為のマナーや婚約者としての振る舞い方なども教わる予定だ。
つまるところ——花嫁修業である。
初日は、一階にある勉強部屋で読み書きを教わる所からだ。
勉強部屋というだけあって、この部屋には黒板に生徒用の机。そして基礎知識を学ぶ為の本を纏めた本棚などが置いてある。
部屋に入ると、美しいジャケットを身にまとった人物がミネアに向かって頭を下げた。
「お初にお目にかかります、ミネア様。本日より家庭教師の座を拝命しました、ラクド・ネア・ゾルドリークと申します。」
茶色のくせっ毛の髪が印象的な男性だった。
ぴょん、と外側に跳ねた髪は鳥が飛び立つ為に両翼を広げているようだ。
深い緑色の瞳は、自然と森林の風景を思い出させる。
「初めまして、ラクド様。私はミネアと申します。本日からどうぞよろしくお願い致します。」
この部屋に来る前に、ヨーベルがミネアにある仕草を教えた。
背をぴんと張り両手でドレスを軽くつまみ上げ、ゆっくりと頭を下げる。
これが貴族の挨拶の仕方だと言われた。
軽くヨーベルが手本を見せてくれたお陰で、ミネアも見よう見まねで披露する。
「ミネア様は平民だと伺ってましたが……とても綺麗なお辞儀をされるのですね。関心しました。それから、どうか僕の事はラクドと気軽に呼んで下さい。でないと、貴女の旦那様に怒られてしまう」
「ヴィルエイム様の事をご存知なのですか!?」
「ええ、まあ。腐れ縁ってやつですよ。僕は学問を選び、アイツは家を守る事を選んだ。道は違えても、僕は彼の友人でありたいと思っているのです。」
彼の言葉に、ミネアは感銘を受けた。
選んだ道が違くても、友で在りたいというラクドの心がとても真っ直ぐだったからだ。
そして、そんな素敵な考えを持つラクドからこれから勉学を学べる事にミネアは心の底から幸福を感じた。
「それでは早速ですがミネア様は読み書きは出来ますか?」
ミネア用の机の上には、紙と羽根ペン、インクが用意されていた。
その椅子に腰を下ろしながら、ミネアはラクドの質問に答える。
「基礎的な文字でしたら読む事も書く事も出来ます。母に幼い頃習いました。」
「お母様にですか……?それはまた……お母様は貴族出身の方なのですか?」
ラクドは不思議そうにミネアに尋ねる。
平民は基本、文字の読み書きは出来ない。貴族制度を採用しているこの国では貴族以上の子息、令嬢出ない限り学園への入学は許可されていないのだ。
だから、文字を書くことは愚か読む事さえ出来ない者も多い。
実際、ミネアが働いていたバーサムの店でもメニューは手描きのイラストがメインで作られていた。
ごく稀に文字を読む事が出来る平民もいるが、書くとなると殆どの平民には不可能だ。
その為、ミネアに読み書きを教えた母親が貴族だったのかと疑問を抱くのは当然の事。
ラクドの質問にミネアは真っ直ぐ答える。
「分かりません。母はあまり、昔の話をしたがらなかったもので……。それに私を一人で育てる為に母はいつも忙しそうでした。母は仕事の合間を縫って、読み書きを教えてくれました。」
ミネアの母は事故によって死んだ。
だからもう、母に直接尋ねることは出来ない。
思えばミネアの母親は謎が多い人だった。
ミネアがツィーピアだと知っていたのにも関わらず、それを自分の娘に話すことは無かったし、何より今ふと疑問に思ったのは。
——お母さんは一体、誰と結婚したの?
新しい謎が生まれる。
そしてその謎は、決して放置してはならないようなそんな気がした。
「……ともかく、文字の読み書きが出来るのでしたら授業の方も次の段階に進めそうですね。ミネア様、次は貴族社会には欠かせない魔力についてお勉強致しましょう。」
魔力。それはこの世界に存在する力。
誰しもが魔力を持っている、という訳ではなく限られた者のみが扱える特別な能力。
過去、魔力を持つ者達は恐ろしい力を持つ者として国民から忌み嫌われ、それによって国が滅びかけた事もあると言うが、ここ最近は魔力を持つ者への理解を深まり、これまでの非礼への詫びと彼らの持つ力への期待を込めて爵位が与えられた。
それから魔力を持つ者は貴族のみになり、平民はその恩恵を受けている。
これは国と魔力持ちとの間に交わされた、ある契約によるものだ。
魔力を持った貴族と、科学者の共同開発によりこの国の文明はまた一つ前に進む事となった。
——魔道具。
魔力を帯びた様々な道具の名称だ。
彼らはこの魔道具を開発し、魔力を持たない人間でもこの道具は扱えるようになった。
日常生活をより豊かにする魔道具が生み出され、貴族の中には魔道具を開発する為の会社を作る者も現れた。
魔道具は平民でも買える低価格から貴族専用の高額な物まで幅広く作られた。
今や、国道のライトは全て魔道具製となっており、日没のタイミングで勝手に明かりが付くようになった。
他にも、騎士団などの遠征部隊は松明の代わりに魔道具を持って夜道を照らしたり、野営ではわざわざ木をこすって火を起こす事も無くなった。
更に、宝石型の魔道具はとても持ち運びがしやすく、普通の魔道具よりも貴族に重宝されている。
今となっては日常の至る所で魔道具は使われ、人々の営みの手助けをしてくれている。
「最近特に貴族の中で話題になっているのがこの宝石型魔道具でね。ミネア様、手に持ってみるといいですよ。」
ラクドはズボンのポケットから水色に輝く宝石を取り出した。
大きな宝石がとても印象的なブレスレット。
ミネアはラクドに言われた通りにそれを受け取った。
「宝石型魔道具は、一見すると普通の宝石に見えます。しかし……ミネア様そのブレスレットを思い切り地面に叩きつけてみて下さい。大丈夫、危険なモノではありませんよ。」
ミネアはあまり魔道具の知識がない。
手にしたこの宝石が魔道具だと言われて、正直面食らっている所だ。
ラクドの言葉を信用し、ミネアは静かに立ち上がって大きく手を振りかざす。
「えいっ……!!」
手の中に収まったその宝石を思い切り地面に叩きつけると、宝石はバリンと割れた。
瞬間、ミネアの目の前が白く靄がかかる。
真っ白で何も見えず、驚きのあまり声すら出ない。
霧のような白いモクモクは数秒後にゆっくりと晴れていく。
どうやらただの煙幕のようなものだったらしく、靄を吸っても特に害は無いようだ。
ようやく霧が晴れ、ラクドの姿を視認する。
「ラクド先生、これは一体……!?」
ラクドはミネアの反応がとても面白かったのか、ニコニコと笑って立っていた。
混乱するミネアにラクドは改めて説明をする。
「先程ミネア様が割ったのは宝石型魔道具の一つです。最近は貴族の集まりなどで暗殺を企てる者が増えており、先程の魔道具はそんな敵の前で割る事で目眩しになります。このように、宝石型魔道具を護身用として持ち歩く貴族がここ最近は急激に増えているんです。」
ラクドの話によると煙幕の他に閃光弾のような役割を持つ宝石や、大きなブザー音が鳴る宝石など種類は多種多様のようだ。
宝石自体への加工は難しいが、この魔道具をアクセサリーとして最大限に生かせるように様々な工夫がされているらしい。
遠目から見ると、普通の宝石とこの魔道具を見極めるのは難しく、今は持っているだけてもかなりの役目を担っているという。
「需要がとても多い割に、一つ一つを作るのには普通の魔道具の四倍ほど時間がかかります。なので基本は、上級貴族が大金をはたいて手に入れていますね。割と争奪戦なんですよ?」
自分の知らない世界、知らない技術に思わず口をぽかんと開けてしまうミネア。
再び椅子に座って、粉々になった魔道具をちらりと見る。
「魔道具って凄いんですね……。私にとっては魔道具なんて高級な代物過ぎて、こうして自分の手で触れられるとは思ってもみなかったです……」
「貴族のご令嬢同士が集まったお茶会などでは、ごく稀に護衛を一人しか付けられない場所などもあります。そういった心細い時にこの宝石型魔道具があるとご令嬢方はかなり安心するらしいですよ。ミネア様もその内お茶会に呼ばれる事もあるでしょうし、今のうちからヴィルエイムに頼んでみては?」
思わぬラクドの提案に、ミネアは声を大きくする。
「そんな……!私は十分ですよ……!!それにその魔道具はかなり値が張るんですよね?私なんかには、手に余ってしまいます。」
平民の身で、そんな無茶な願いを口には出来ない。
ミネアにとって、今この瞬間でさえも沢山のものを貰っているというのに。
その上、こんな高価なものを強請るなんてなんて身の程知らずだろう。
「そうですか?ミネア様がおねだりすれば彼はきっと喜んで用意すると思いますよ?」
「私はもう色々なものを頂いてますし……。これ以上ヴィルエイム様のご迷惑になるような事はしたくありませんから。」
ふかふかのベット。沢山の洋服。溢れんばかりのジュエリー。頬が落ちそうなほど美味しくて暖かい料理。
これ以上何を望むと言うのか。
それにミネアはただ、ヴィルエイムの役に立ちたい。
今、ミネアが抱く願いはただそれだけなのだ。
小さくとも、大きな願い。一つだけなのに、それが無限に広がっていくようなそんな望み。
「——私としては、それくらいの我儘は言って欲しいのだけどね、レディー?」
その子慣れた声に、ミネアはパッと後ろを振り返る。
そこには、扉に寄りかかってニコリと微笑むヴィルエイムの姿があった。
「ヴィルエイム様!?どうしてここに……!?」
「仕事が一段落してね。愛しの婚約者は何をしているのかと覗いてみれば、悲しい事を口にしているときた。宝石型魔道具だけではなくて、君の欲しいモノは何でも用意させるつもりだよミネア。」
ミネアが勢い良く立ち上がると、ヴィルエイムはそっと彼女に近付いた。
ヴィルエイムの言葉にミネアは思わず絆されそうになる。
甘く甘美な響きは、まるで悪魔の囁きだ。
「私は、ヴィルエイム様にご迷惑をおかけしたくないんです」
「うーん、私としては寧ろ迷惑をかけて欲しい所なのだけれど……。それなら——」
ニコッと口角を上げたヴィルエイムはミネアにグイッと近付き、静かに両手を伸ばす。
次の瞬間、ミネアの身体はふわりと空気を含むように宙に浮いた。
ヴィルエイムの肉付きのいい、硬い腕がミネアの足を持ち上げる。
風に舞うミネアの長い髪が、羽のように広がって、光を纏った。
行き場を失った手は、自然とヴィルエイムの肩に回る。
「——ヴィルエイム様!?」
軽々とミネアを両手で持ち上げたヴィルエイムは彼女の困惑した表情を見て満足気に笑った。
そんなヴィルエイムとは対照的にミネアは突然の出来事に混乱しているようだった。
「それなら、私の我儘を聞いてもらおうかなミネア?」
ヴィルエイムの顔が近い。
首を伸ばせばその頬に触れてしまいそうで、ミネアは思わず息を止める。
彼の息遣いが鮮明に耳の奥で響く。
その吸い込まれそうな瞳に、自分の姿が写っている事がむず痒くて今すぐに目を逸らしたいのに、どうしてかそれが出来ない。
「ヴィルエイム!今は授業中で……」
「残念ながら間もなく休憩の時間だ。それに午後のミネアは既に先約があってね。そういう訳だから今日は帰っていいぞ、ラクド。」
「なっ……全く、お前ってやつは……。」
頭を抱えるラクドを見て愉悦そうに笑いながら、ヴィルエイムは視線を上に向けた。
「それじゃあ行こうか、ミネア?」
平民であるミネアに拒否権などある訳も無く、ヴィルエイムの腕の中でただ縮こまるように大人しくする。
当のヴィルエイムが楽しそうなので、反論する事も出来ないままミネア達はラクドを残して部屋を後にした。
これももしかしたら花嫁修行の一環なのだろうか。
一日目からなんて難しい修行をするのだろうと、ミネアは先の事を考えて目を回す。
花嫁修行にもっと勤しめば、この心のドキドキは収まるのだろうか。
もしそうなら、もっと勉強しよう。
そうじゃないと身が持ちそうにない。
顔が熱いのも、脈が早くなるのも、彼の顔を見る事ができないのも。
——きっと全部、修行不足のせい。
そんな怒涛の初日は終わりを迎え、新しい朝が始まった。
「おはようございます、ミネア様」
「朝食の用意が出来ております」
相も変わらず無愛想な二人のメイドに起こされ、ダイニングで朝食を摂る。
色んな事があったせいか、夜はぐっすりと眠れた。
あんなにふかふかなベットで眠りにつけるという贅沢を噛み締めようと思っていたが、その心地の良さに布団を被って一分も立たずミネアは夢の世界に誘われた。
ダイニングにはヴィルエイムの姿は見当たらない。
「あの、ヴィルエイム様は……?」
「ご主人様でしたら、既に仕事に務めております。」
「何か御用があるのでしたら、お呼びしますか?」
シトラとシーラのじーっという視線。
顔色一つ変えない二人の傍付きにミネアはどうしたらいいのか分からないでいた。
「あ、だ、大丈夫です!お仕事の邪魔は出来ませんから……。」
「左様ですか。それからミネア様。我々召使いに敬語は不要です。」
「ミネア様はご主人様の婚約者というお立場です。上下関係をはっきりさせないと下の者が調子に乗りかねないので、我々の為にもよろしくお願い致します。」
声色も変わらない。まるで生きているだけの人形のような佇まいにミネアは少しだけ取っ付きにくさを感じた。
とは言ってもまだ出会って二日目だ。
メイドから見ても、平民の婚約者というのはやはり気に入らないものなのだろうとミネアは自分自身に言い聞かせる。
「分かり……じゃなくて分かったわ。シトラ、シーラ。」
まるで写鏡のような二人。
片方の言いたいこと、やりたいことを完全に理解し互いに尊重し合っているようにも見える。
ミネアと二人のメイドの間にある壁はいつか壊す事が出来るのだろうか。
朝食を終え、ミネアは身支度を整える。
ここには普段着のドレスが色々あるが、どれも埃を被っていた。
シーラは、ミネアの体格に沿ってドレスの裾上げや袖の幅を合わせている。
どうやらシーラは手先が器用のようだ。
シトラは、ミネアのメイクやドレス選びに注力を注いでいるように見える。
シトラは案外、可愛い物好きなのかもしれない。
二人のお陰で手早く身支度を終わらせると、部屋の外にはヨーベルが待機していた。
「お初にお目にかかりますミネア様。私はこの屋敷にて執事長の任を任されておりますヨーベルと申します。以後、お見知りおきを。」
「初めまして、ミネアです!こ、こちらこそよろしくお願いします……!」
貫禄のある、素敵な執事長にミネアは頭を下げる。
「ミネア様。本日よりミネア様には我が主の婚約者として、様々な授業を受けて頂きます。まずは読み書きの授業からです。ささ、こちらにどうぞ。」
そう。今日からミネアはヴィルエイムの婚約者として各分野の先生から学びを得る。
学問的な部分は勿論のこと、社交界に出る為のマナーや婚約者としての振る舞い方なども教わる予定だ。
つまるところ——花嫁修業である。
初日は、一階にある勉強部屋で読み書きを教わる所からだ。
勉強部屋というだけあって、この部屋には黒板に生徒用の机。そして基礎知識を学ぶ為の本を纏めた本棚などが置いてある。
部屋に入ると、美しいジャケットを身にまとった人物がミネアに向かって頭を下げた。
「お初にお目にかかります、ミネア様。本日より家庭教師の座を拝命しました、ラクド・ネア・ゾルドリークと申します。」
茶色のくせっ毛の髪が印象的な男性だった。
ぴょん、と外側に跳ねた髪は鳥が飛び立つ為に両翼を広げているようだ。
深い緑色の瞳は、自然と森林の風景を思い出させる。
「初めまして、ラクド様。私はミネアと申します。本日からどうぞよろしくお願い致します。」
この部屋に来る前に、ヨーベルがミネアにある仕草を教えた。
背をぴんと張り両手でドレスを軽くつまみ上げ、ゆっくりと頭を下げる。
これが貴族の挨拶の仕方だと言われた。
軽くヨーベルが手本を見せてくれたお陰で、ミネアも見よう見まねで披露する。
「ミネア様は平民だと伺ってましたが……とても綺麗なお辞儀をされるのですね。関心しました。それから、どうか僕の事はラクドと気軽に呼んで下さい。でないと、貴女の旦那様に怒られてしまう」
「ヴィルエイム様の事をご存知なのですか!?」
「ええ、まあ。腐れ縁ってやつですよ。僕は学問を選び、アイツは家を守る事を選んだ。道は違えても、僕は彼の友人でありたいと思っているのです。」
彼の言葉に、ミネアは感銘を受けた。
選んだ道が違くても、友で在りたいというラクドの心がとても真っ直ぐだったからだ。
そして、そんな素敵な考えを持つラクドからこれから勉学を学べる事にミネアは心の底から幸福を感じた。
「それでは早速ですがミネア様は読み書きは出来ますか?」
ミネア用の机の上には、紙と羽根ペン、インクが用意されていた。
その椅子に腰を下ろしながら、ミネアはラクドの質問に答える。
「基礎的な文字でしたら読む事も書く事も出来ます。母に幼い頃習いました。」
「お母様にですか……?それはまた……お母様は貴族出身の方なのですか?」
ラクドは不思議そうにミネアに尋ねる。
平民は基本、文字の読み書きは出来ない。貴族制度を採用しているこの国では貴族以上の子息、令嬢出ない限り学園への入学は許可されていないのだ。
だから、文字を書くことは愚か読む事さえ出来ない者も多い。
実際、ミネアが働いていたバーサムの店でもメニューは手描きのイラストがメインで作られていた。
ごく稀に文字を読む事が出来る平民もいるが、書くとなると殆どの平民には不可能だ。
その為、ミネアに読み書きを教えた母親が貴族だったのかと疑問を抱くのは当然の事。
ラクドの質問にミネアは真っ直ぐ答える。
「分かりません。母はあまり、昔の話をしたがらなかったもので……。それに私を一人で育てる為に母はいつも忙しそうでした。母は仕事の合間を縫って、読み書きを教えてくれました。」
ミネアの母は事故によって死んだ。
だからもう、母に直接尋ねることは出来ない。
思えばミネアの母親は謎が多い人だった。
ミネアがツィーピアだと知っていたのにも関わらず、それを自分の娘に話すことは無かったし、何より今ふと疑問に思ったのは。
——お母さんは一体、誰と結婚したの?
新しい謎が生まれる。
そしてその謎は、決して放置してはならないようなそんな気がした。
「……ともかく、文字の読み書きが出来るのでしたら授業の方も次の段階に進めそうですね。ミネア様、次は貴族社会には欠かせない魔力についてお勉強致しましょう。」
魔力。それはこの世界に存在する力。
誰しもが魔力を持っている、という訳ではなく限られた者のみが扱える特別な能力。
過去、魔力を持つ者達は恐ろしい力を持つ者として国民から忌み嫌われ、それによって国が滅びかけた事もあると言うが、ここ最近は魔力を持つ者への理解を深まり、これまでの非礼への詫びと彼らの持つ力への期待を込めて爵位が与えられた。
それから魔力を持つ者は貴族のみになり、平民はその恩恵を受けている。
これは国と魔力持ちとの間に交わされた、ある契約によるものだ。
魔力を持った貴族と、科学者の共同開発によりこの国の文明はまた一つ前に進む事となった。
——魔道具。
魔力を帯びた様々な道具の名称だ。
彼らはこの魔道具を開発し、魔力を持たない人間でもこの道具は扱えるようになった。
日常生活をより豊かにする魔道具が生み出され、貴族の中には魔道具を開発する為の会社を作る者も現れた。
魔道具は平民でも買える低価格から貴族専用の高額な物まで幅広く作られた。
今や、国道のライトは全て魔道具製となっており、日没のタイミングで勝手に明かりが付くようになった。
他にも、騎士団などの遠征部隊は松明の代わりに魔道具を持って夜道を照らしたり、野営ではわざわざ木をこすって火を起こす事も無くなった。
更に、宝石型の魔道具はとても持ち運びがしやすく、普通の魔道具よりも貴族に重宝されている。
今となっては日常の至る所で魔道具は使われ、人々の営みの手助けをしてくれている。
「最近特に貴族の中で話題になっているのがこの宝石型魔道具でね。ミネア様、手に持ってみるといいですよ。」
ラクドはズボンのポケットから水色に輝く宝石を取り出した。
大きな宝石がとても印象的なブレスレット。
ミネアはラクドに言われた通りにそれを受け取った。
「宝石型魔道具は、一見すると普通の宝石に見えます。しかし……ミネア様そのブレスレットを思い切り地面に叩きつけてみて下さい。大丈夫、危険なモノではありませんよ。」
ミネアはあまり魔道具の知識がない。
手にしたこの宝石が魔道具だと言われて、正直面食らっている所だ。
ラクドの言葉を信用し、ミネアは静かに立ち上がって大きく手を振りかざす。
「えいっ……!!」
手の中に収まったその宝石を思い切り地面に叩きつけると、宝石はバリンと割れた。
瞬間、ミネアの目の前が白く靄がかかる。
真っ白で何も見えず、驚きのあまり声すら出ない。
霧のような白いモクモクは数秒後にゆっくりと晴れていく。
どうやらただの煙幕のようなものだったらしく、靄を吸っても特に害は無いようだ。
ようやく霧が晴れ、ラクドの姿を視認する。
「ラクド先生、これは一体……!?」
ラクドはミネアの反応がとても面白かったのか、ニコニコと笑って立っていた。
混乱するミネアにラクドは改めて説明をする。
「先程ミネア様が割ったのは宝石型魔道具の一つです。最近は貴族の集まりなどで暗殺を企てる者が増えており、先程の魔道具はそんな敵の前で割る事で目眩しになります。このように、宝石型魔道具を護身用として持ち歩く貴族がここ最近は急激に増えているんです。」
ラクドの話によると煙幕の他に閃光弾のような役割を持つ宝石や、大きなブザー音が鳴る宝石など種類は多種多様のようだ。
宝石自体への加工は難しいが、この魔道具をアクセサリーとして最大限に生かせるように様々な工夫がされているらしい。
遠目から見ると、普通の宝石とこの魔道具を見極めるのは難しく、今は持っているだけてもかなりの役目を担っているという。
「需要がとても多い割に、一つ一つを作るのには普通の魔道具の四倍ほど時間がかかります。なので基本は、上級貴族が大金をはたいて手に入れていますね。割と争奪戦なんですよ?」
自分の知らない世界、知らない技術に思わず口をぽかんと開けてしまうミネア。
再び椅子に座って、粉々になった魔道具をちらりと見る。
「魔道具って凄いんですね……。私にとっては魔道具なんて高級な代物過ぎて、こうして自分の手で触れられるとは思ってもみなかったです……」
「貴族のご令嬢同士が集まったお茶会などでは、ごく稀に護衛を一人しか付けられない場所などもあります。そういった心細い時にこの宝石型魔道具があるとご令嬢方はかなり安心するらしいですよ。ミネア様もその内お茶会に呼ばれる事もあるでしょうし、今のうちからヴィルエイムに頼んでみては?」
思わぬラクドの提案に、ミネアは声を大きくする。
「そんな……!私は十分ですよ……!!それにその魔道具はかなり値が張るんですよね?私なんかには、手に余ってしまいます。」
平民の身で、そんな無茶な願いを口には出来ない。
ミネアにとって、今この瞬間でさえも沢山のものを貰っているというのに。
その上、こんな高価なものを強請るなんてなんて身の程知らずだろう。
「そうですか?ミネア様がおねだりすれば彼はきっと喜んで用意すると思いますよ?」
「私はもう色々なものを頂いてますし……。これ以上ヴィルエイム様のご迷惑になるような事はしたくありませんから。」
ふかふかのベット。沢山の洋服。溢れんばかりのジュエリー。頬が落ちそうなほど美味しくて暖かい料理。
これ以上何を望むと言うのか。
それにミネアはただ、ヴィルエイムの役に立ちたい。
今、ミネアが抱く願いはただそれだけなのだ。
小さくとも、大きな願い。一つだけなのに、それが無限に広がっていくようなそんな望み。
「——私としては、それくらいの我儘は言って欲しいのだけどね、レディー?」
その子慣れた声に、ミネアはパッと後ろを振り返る。
そこには、扉に寄りかかってニコリと微笑むヴィルエイムの姿があった。
「ヴィルエイム様!?どうしてここに……!?」
「仕事が一段落してね。愛しの婚約者は何をしているのかと覗いてみれば、悲しい事を口にしているときた。宝石型魔道具だけではなくて、君の欲しいモノは何でも用意させるつもりだよミネア。」
ミネアが勢い良く立ち上がると、ヴィルエイムはそっと彼女に近付いた。
ヴィルエイムの言葉にミネアは思わず絆されそうになる。
甘く甘美な響きは、まるで悪魔の囁きだ。
「私は、ヴィルエイム様にご迷惑をおかけしたくないんです」
「うーん、私としては寧ろ迷惑をかけて欲しい所なのだけれど……。それなら——」
ニコッと口角を上げたヴィルエイムはミネアにグイッと近付き、静かに両手を伸ばす。
次の瞬間、ミネアの身体はふわりと空気を含むように宙に浮いた。
ヴィルエイムの肉付きのいい、硬い腕がミネアの足を持ち上げる。
風に舞うミネアの長い髪が、羽のように広がって、光を纏った。
行き場を失った手は、自然とヴィルエイムの肩に回る。
「——ヴィルエイム様!?」
軽々とミネアを両手で持ち上げたヴィルエイムは彼女の困惑した表情を見て満足気に笑った。
そんなヴィルエイムとは対照的にミネアは突然の出来事に混乱しているようだった。
「それなら、私の我儘を聞いてもらおうかなミネア?」
ヴィルエイムの顔が近い。
首を伸ばせばその頬に触れてしまいそうで、ミネアは思わず息を止める。
彼の息遣いが鮮明に耳の奥で響く。
その吸い込まれそうな瞳に、自分の姿が写っている事がむず痒くて今すぐに目を逸らしたいのに、どうしてかそれが出来ない。
「ヴィルエイム!今は授業中で……」
「残念ながら間もなく休憩の時間だ。それに午後のミネアは既に先約があってね。そういう訳だから今日は帰っていいぞ、ラクド。」
「なっ……全く、お前ってやつは……。」
頭を抱えるラクドを見て愉悦そうに笑いながら、ヴィルエイムは視線を上に向けた。
「それじゃあ行こうか、ミネア?」
平民であるミネアに拒否権などある訳も無く、ヴィルエイムの腕の中でただ縮こまるように大人しくする。
当のヴィルエイムが楽しそうなので、反論する事も出来ないままミネア達はラクドを残して部屋を後にした。
これももしかしたら花嫁修行の一環なのだろうか。
一日目からなんて難しい修行をするのだろうと、ミネアは先の事を考えて目を回す。
花嫁修行にもっと勤しめば、この心のドキドキは収まるのだろうか。
もしそうなら、もっと勉強しよう。
そうじゃないと身が持ちそうにない。
顔が熱いのも、脈が早くなるのも、彼の顔を見る事ができないのも。
——きっと全部、修行不足のせい。
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※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
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2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
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