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ギャラリーの居ないダンス
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ミネアとヴィルエイムが婚約して約二月。
「はい、そこでターン!」
大きな室内で音楽と共に可憐に舞うミネアの姿があった。
今日は社交界でのダンスについて学んでいる。
教えてくれているのは、ヴィルエイムの知人でもあるアトラという女性だ。
アトラは男性役としてミネアの練習に付き添いながら、要所要所で的確なアドバイスをくれる。
ダンスの中でも最難関と言われているワルツの練習だが、どうも思うようにいかないらしくミネアは深くため息をついていた。
「またアトラ先生の足を踏んでしまいました……。」
ワルツの立ち回りは他のダンスに比べてもかなり難しく、ミネアは右と左が分からなくなってしまっていた。
そのせいで、何回もアトラの足を踏んでしまう。
今は練習用の靴だが、本番では高いヒールを履いて踊るという。
パートナーでもあるヴィルエイムの足を踏んでしまわないかと、今から気が気でないのだ。
「そう落ち込まないで下さい、ミネア様。この一週間でとても良く踊れるようになってますよ。これもひとえに、ミネア様の努力の賜物ですわ。」
そう励ましてくれてはいるものの、ワルツの上達は難しい。
この二ヶ月でミネアは様々な事を学んだ。
勉学もそうだが、テーブルマナーや社交界についての常識。令嬢達との付き合い方など、ヴィルエイムの婚約者として成長する為に数々の知識を身につけた。
とは言っても、全てはまだつけあきばに過ぎない。
もっと学ぶべき事は沢山ある。ヴィルエイムに恥じない婚約者になる為に。
レッスン室で、水を飲みながら軽く休憩をとる。
その間に、ラクドから出題された宿題の紙に目を通していた。
「ミネア様は本当に勉強熱心でいらっしゃいますのね。全く、息子にも見習って欲しいですわ」
「アトラ先生には息子さんが?」
「ええ!クルトと言ってね、歳はヴィルエイム様と同じくらい。今は旦那の代わりに当主代行として仕事をしているわ。そういえば……今夜はヴィルエイム様と会食をすると言っていたわね」
アトラは今年で四十六になる。貴族同士ならば政略結婚で十六くらいになったら嫁ぐ家も少なくない。
息子が当主代行を担っているというのならば、アトラも恐らく政略結婚をして子を身篭ったのだろう。
「あ、そういえば朝食の時に今夜は帰りが遅くなるとヴィルエイム様が仰ってました。理由は会食だったんですね」
朝、食事を取りながら今日何をするのかを話す。
ミネアは様々な授業、ヴィルエイムは家の雑務。
それぞれにエールを送り合う事も最近は増えてきた。
初めてヴィルエイムに出会った時の空気が嘘のように、今は色々な話をする。
「息子はまだまだ学ぶべき事が山のようにあるから、是非ともヴィルエイム様にはご教授願いたいものねぇ」
「ヴィルエイム様なら、きっとどんな話でも真剣に聞いてくれますよ!この前も私が分からなかった歴史書の部分を、丁寧に教えて下さったんです。フォークとナイフの持ち方も、ヴィルエイム様がちゃんと見てくれたんですよ!あと、それから……」
アトラは、楽しそうにヴィルエイムの話をするミネアの姿を見て微笑みを浮かべる。
ミネアが平民だと最初に聞いてはいたけれど、彼女はアトラが思っているよりも勤勉で努力家だ。
そんな彼女が顔色を明るくさせて、子犬が尻尾を振るように楽しげに笑っている姿は見ているだけで心が和む。
「——その辺りにしてくれないかい、レディー。このままだと私が恥ずかしさのあまりに倒れてしまいそうだ」
ミネアの口を止めたのは、扉に寄りかかるヴィルエイムだった。
手で顔を覆い隠し、少し俯きながら恥ずかしそうにミネアをチラリと見る。
「ヴィルエイム様!?いつからそこに!?」
ヴィルエイムの耳はほのかに赤く染まっていた。
そんな事も露知らず、ミネアは目を丸くさせながら彼に駆け寄る。
彼女の言葉には嘘も偽りも無い。
——まったく、だから困る。
心の中の焦りを悟られないように、静かに深呼吸をしてからヴィルエイムはいつものように作り笑いを見せた。
「ミネアがダンスレッスンをしていると聞いて様子を見に来たんだ。どうかな?捗っているかい?」
ミネアの長い髪にそっと触れながら、ヴィルエイムは尋ねた。
これはさっきの仕返しだ。
人の気も知らないで、あんなにベラベラと人を褒める君が悪い。
そんな悪い心で、ヴィルエイムはミネアの髪にそっと唇を近付けた。
「ヴィル、エイム様……!?!?あ、あの、か、顔が近い、です……!!」
「そうかな?これくらい婚約者同士のスキンシップの一環だと思うよ?」
ミネアの顔は一瞬で薔薇色に染まる。
こんな軽いスキンシップでも、すぐに動揺してしまうミネアを見てヴィルエイムは意地悪げに笑った。
「~~っ!お人が悪いです、ヴィルエイム様!」
「なんの事か、私にはさっぱりだけど……そうだな、それじゃあ君が一つお願い事を聞いてくれたらこの手を離してもいいよ?」
「お願い、ですか?」
そう、とヴィルエイムはミネアの髪から右手に指先を移動させる。
優しくミネアの右手を包みこんだヴィルエイムはそのままゆっくりと頭を下げた。
「——私と一曲踊って頂けますか、レディー?」
思わぬヴィルエイムの発言に、ミネアは口をぽかんと開ける。
つまりこれはダンスの誘いだ。
「で、ですが私はまだ上手に踊れなくて……!」
「それでいいよ。練習だと思って気軽に踊ってくれればいい。」
ヴィルエイムはミネアの緊張を解すように朗らかに笑った。
何度も足を踏んで、まだまだ失敗続きだけれど、どうしてかヴィルエイムの美しい瞳を見ていると断る気にはなれない。
ミネアは、恥じらいながら小さくこくりと頷いた。
ヴィルエイムのエスコートでレッスン室の中央まで移動する。
それを待ってましたとでも言わんばかりに、アトラは一歩下がった場所から二人を見守った。
「それじゃあ、行くよ?」
ヴィルエイムの動きに合わせてミネアも右に、左に身体を動かす。
ヴィルエイムの片手がミネアの腰を支え、その手のひらから暖かな温度を感じた。
身体が揺れる度、目の前にいる美しい男性の髪が靡く。
身体同士が密着するなんて恥ずかしくて仕方がないはずなのに、今のミネアにはただ一緒に踊ってくれている人の表情しか目に入らない。
ミネアの歩幅に合わせて、きちんとリードしてくれてるのが分かる。
アトラと踊った時は足を動かす事だけに意識を向けていたせいか、変に力んでいたのに今はその力がスっと抜けているのが分かる。
——ヴィルエイム様は、踊ってる時でも綺麗なのね
なんて、まるで自分だけ別の空間にいるような感覚に陥っていたミネアを現実に引き戻させたのは、ヴィルエイムの小さな声だった。
「いっ......」
「い?......あ。」
ゆっくりと足元を見ると、見事にミネアの踵がヴィルエイムのつま先を踏んづけていた。
「あー!!す、すみません!お怪我は......!?」
「大丈夫だよ、少し驚いただけだから。」
急に我に返ったミネアはその場で混乱してしまう。
——私の馬鹿ー!ヴィルエイム様になんて事を......!!
力が抜けていたとはいえ、これは抜けすぎだ。
ミネアにとってヴィルエイムといると変に気が緩んでしまうがまさかそれが、こんな弊害を引き起こすとは。
ミネアは涙目になりながら、ヴィルエイムの足を気遣う。
「痛かったですよね!?腫れてしまったらどうしよう......」
「落ち着いてミネア。練習靴だったし、本当に痛くはないよ。腫れもしないと思うし、安心して。」
「で、ですが......!」
自分が招いたこの怪我のせいで、ヴィルエイムの生活に支障が出たらと考えるだけでミネアの顔色は真っ青だ。
それだけ自分の事を本気で心配しているのだと、ヴィルエイムはそう感じた。
ヴィルエイムはゆっくりとミネアを抱き寄せて、彼女の後頭部を優しく手で撫でる。
ミネアの絹のようなサラサラの髪がヴィルエイムの手の動きに合わせてゆらりと揺らめいた。
「私はミネアと初めて踊れて楽しかったよ?ミネアは?楽しかった?」
大きくて、ゴツゴツしたヴィルエイムの手がミネアの頭に触れる。
彼の優しい息遣いが、ミネアの心臓の音を落ち着かせてくれた。
楽しかった、とヴィルエイムは言ってくれた。
ミネアはあの時、全てを忘れてただヴィルエイムと踊る事だけに夢中になっていた。
ならきっと、彼の問いに対する答えは......。
「——私も、楽しかったですヴィルエイム様!」
アトラ以外の人と踊るのは初めてだったけれど、その初めての相手がヴィルエイムでよかったと心の底からミネアは思った。
ヴィルエイムはミネアの満面の笑みと答えに、静かに身体を離す。
「次は、社交パーティーで踊ろうか。きっとミネアにはどんなドレスも似合うと思うよ。」
「それまでに、絶対に上達してみせます!」
社交パーティー。
ミネアにとっては未知の領域。
そこで踊るのは少し怖いけれど、ヴィルエイムと一緒ならきっと大丈夫なんて根拠の無い自信が湧いてくる。
やる気に満ち溢れるミネアを見て、ヴィルエイムはその手をゆっくりと彼女の額に動かした。
優しく前髪を退けて、柔らかな唇をミネアの額に密着させる。
「——楽しみにしているよ、ミネア。」
そう言って、ヴィルエイムはレッスン室を後にした。
その背中はとても軽々しく見えて、ミネアは自分が今何をされたのかを理解するのに数秒時間をかける。
自分の額が熱を帯びている。じんじんと熱く燃えるように。
ヴィルエイムが額にキスをしたのだと気が付いた時、ミネアの全身の血液が沸騰するかのように熱くなった。
彼の最後の笑顔は、意地悪をした子供のような無邪気で何処か悪魔的なものだった。
その顔を思い出して、ミネアは顔を真っ赤に染めながら思わず彼の名前を叫んだのだった。
「~~っ!ヴィルエイム様ー!!」
「はい、そこでターン!」
大きな室内で音楽と共に可憐に舞うミネアの姿があった。
今日は社交界でのダンスについて学んでいる。
教えてくれているのは、ヴィルエイムの知人でもあるアトラという女性だ。
アトラは男性役としてミネアの練習に付き添いながら、要所要所で的確なアドバイスをくれる。
ダンスの中でも最難関と言われているワルツの練習だが、どうも思うようにいかないらしくミネアは深くため息をついていた。
「またアトラ先生の足を踏んでしまいました……。」
ワルツの立ち回りは他のダンスに比べてもかなり難しく、ミネアは右と左が分からなくなってしまっていた。
そのせいで、何回もアトラの足を踏んでしまう。
今は練習用の靴だが、本番では高いヒールを履いて踊るという。
パートナーでもあるヴィルエイムの足を踏んでしまわないかと、今から気が気でないのだ。
「そう落ち込まないで下さい、ミネア様。この一週間でとても良く踊れるようになってますよ。これもひとえに、ミネア様の努力の賜物ですわ。」
そう励ましてくれてはいるものの、ワルツの上達は難しい。
この二ヶ月でミネアは様々な事を学んだ。
勉学もそうだが、テーブルマナーや社交界についての常識。令嬢達との付き合い方など、ヴィルエイムの婚約者として成長する為に数々の知識を身につけた。
とは言っても、全てはまだつけあきばに過ぎない。
もっと学ぶべき事は沢山ある。ヴィルエイムに恥じない婚約者になる為に。
レッスン室で、水を飲みながら軽く休憩をとる。
その間に、ラクドから出題された宿題の紙に目を通していた。
「ミネア様は本当に勉強熱心でいらっしゃいますのね。全く、息子にも見習って欲しいですわ」
「アトラ先生には息子さんが?」
「ええ!クルトと言ってね、歳はヴィルエイム様と同じくらい。今は旦那の代わりに当主代行として仕事をしているわ。そういえば……今夜はヴィルエイム様と会食をすると言っていたわね」
アトラは今年で四十六になる。貴族同士ならば政略結婚で十六くらいになったら嫁ぐ家も少なくない。
息子が当主代行を担っているというのならば、アトラも恐らく政略結婚をして子を身篭ったのだろう。
「あ、そういえば朝食の時に今夜は帰りが遅くなるとヴィルエイム様が仰ってました。理由は会食だったんですね」
朝、食事を取りながら今日何をするのかを話す。
ミネアは様々な授業、ヴィルエイムは家の雑務。
それぞれにエールを送り合う事も最近は増えてきた。
初めてヴィルエイムに出会った時の空気が嘘のように、今は色々な話をする。
「息子はまだまだ学ぶべき事が山のようにあるから、是非ともヴィルエイム様にはご教授願いたいものねぇ」
「ヴィルエイム様なら、きっとどんな話でも真剣に聞いてくれますよ!この前も私が分からなかった歴史書の部分を、丁寧に教えて下さったんです。フォークとナイフの持ち方も、ヴィルエイム様がちゃんと見てくれたんですよ!あと、それから……」
アトラは、楽しそうにヴィルエイムの話をするミネアの姿を見て微笑みを浮かべる。
ミネアが平民だと最初に聞いてはいたけれど、彼女はアトラが思っているよりも勤勉で努力家だ。
そんな彼女が顔色を明るくさせて、子犬が尻尾を振るように楽しげに笑っている姿は見ているだけで心が和む。
「——その辺りにしてくれないかい、レディー。このままだと私が恥ずかしさのあまりに倒れてしまいそうだ」
ミネアの口を止めたのは、扉に寄りかかるヴィルエイムだった。
手で顔を覆い隠し、少し俯きながら恥ずかしそうにミネアをチラリと見る。
「ヴィルエイム様!?いつからそこに!?」
ヴィルエイムの耳はほのかに赤く染まっていた。
そんな事も露知らず、ミネアは目を丸くさせながら彼に駆け寄る。
彼女の言葉には嘘も偽りも無い。
——まったく、だから困る。
心の中の焦りを悟られないように、静かに深呼吸をしてからヴィルエイムはいつものように作り笑いを見せた。
「ミネアがダンスレッスンをしていると聞いて様子を見に来たんだ。どうかな?捗っているかい?」
ミネアの長い髪にそっと触れながら、ヴィルエイムは尋ねた。
これはさっきの仕返しだ。
人の気も知らないで、あんなにベラベラと人を褒める君が悪い。
そんな悪い心で、ヴィルエイムはミネアの髪にそっと唇を近付けた。
「ヴィル、エイム様……!?!?あ、あの、か、顔が近い、です……!!」
「そうかな?これくらい婚約者同士のスキンシップの一環だと思うよ?」
ミネアの顔は一瞬で薔薇色に染まる。
こんな軽いスキンシップでも、すぐに動揺してしまうミネアを見てヴィルエイムは意地悪げに笑った。
「~~っ!お人が悪いです、ヴィルエイム様!」
「なんの事か、私にはさっぱりだけど……そうだな、それじゃあ君が一つお願い事を聞いてくれたらこの手を離してもいいよ?」
「お願い、ですか?」
そう、とヴィルエイムはミネアの髪から右手に指先を移動させる。
優しくミネアの右手を包みこんだヴィルエイムはそのままゆっくりと頭を下げた。
「——私と一曲踊って頂けますか、レディー?」
思わぬヴィルエイムの発言に、ミネアは口をぽかんと開ける。
つまりこれはダンスの誘いだ。
「で、ですが私はまだ上手に踊れなくて……!」
「それでいいよ。練習だと思って気軽に踊ってくれればいい。」
ヴィルエイムはミネアの緊張を解すように朗らかに笑った。
何度も足を踏んで、まだまだ失敗続きだけれど、どうしてかヴィルエイムの美しい瞳を見ていると断る気にはなれない。
ミネアは、恥じらいながら小さくこくりと頷いた。
ヴィルエイムのエスコートでレッスン室の中央まで移動する。
それを待ってましたとでも言わんばかりに、アトラは一歩下がった場所から二人を見守った。
「それじゃあ、行くよ?」
ヴィルエイムの動きに合わせてミネアも右に、左に身体を動かす。
ヴィルエイムの片手がミネアの腰を支え、その手のひらから暖かな温度を感じた。
身体が揺れる度、目の前にいる美しい男性の髪が靡く。
身体同士が密着するなんて恥ずかしくて仕方がないはずなのに、今のミネアにはただ一緒に踊ってくれている人の表情しか目に入らない。
ミネアの歩幅に合わせて、きちんとリードしてくれてるのが分かる。
アトラと踊った時は足を動かす事だけに意識を向けていたせいか、変に力んでいたのに今はその力がスっと抜けているのが分かる。
——ヴィルエイム様は、踊ってる時でも綺麗なのね
なんて、まるで自分だけ別の空間にいるような感覚に陥っていたミネアを現実に引き戻させたのは、ヴィルエイムの小さな声だった。
「いっ......」
「い?......あ。」
ゆっくりと足元を見ると、見事にミネアの踵がヴィルエイムのつま先を踏んづけていた。
「あー!!す、すみません!お怪我は......!?」
「大丈夫だよ、少し驚いただけだから。」
急に我に返ったミネアはその場で混乱してしまう。
——私の馬鹿ー!ヴィルエイム様になんて事を......!!
力が抜けていたとはいえ、これは抜けすぎだ。
ミネアにとってヴィルエイムといると変に気が緩んでしまうがまさかそれが、こんな弊害を引き起こすとは。
ミネアは涙目になりながら、ヴィルエイムの足を気遣う。
「痛かったですよね!?腫れてしまったらどうしよう......」
「落ち着いてミネア。練習靴だったし、本当に痛くはないよ。腫れもしないと思うし、安心して。」
「で、ですが......!」
自分が招いたこの怪我のせいで、ヴィルエイムの生活に支障が出たらと考えるだけでミネアの顔色は真っ青だ。
それだけ自分の事を本気で心配しているのだと、ヴィルエイムはそう感じた。
ヴィルエイムはゆっくりとミネアを抱き寄せて、彼女の後頭部を優しく手で撫でる。
ミネアの絹のようなサラサラの髪がヴィルエイムの手の動きに合わせてゆらりと揺らめいた。
「私はミネアと初めて踊れて楽しかったよ?ミネアは?楽しかった?」
大きくて、ゴツゴツしたヴィルエイムの手がミネアの頭に触れる。
彼の優しい息遣いが、ミネアの心臓の音を落ち着かせてくれた。
楽しかった、とヴィルエイムは言ってくれた。
ミネアはあの時、全てを忘れてただヴィルエイムと踊る事だけに夢中になっていた。
ならきっと、彼の問いに対する答えは......。
「——私も、楽しかったですヴィルエイム様!」
アトラ以外の人と踊るのは初めてだったけれど、その初めての相手がヴィルエイムでよかったと心の底からミネアは思った。
ヴィルエイムはミネアの満面の笑みと答えに、静かに身体を離す。
「次は、社交パーティーで踊ろうか。きっとミネアにはどんなドレスも似合うと思うよ。」
「それまでに、絶対に上達してみせます!」
社交パーティー。
ミネアにとっては未知の領域。
そこで踊るのは少し怖いけれど、ヴィルエイムと一緒ならきっと大丈夫なんて根拠の無い自信が湧いてくる。
やる気に満ち溢れるミネアを見て、ヴィルエイムはその手をゆっくりと彼女の額に動かした。
優しく前髪を退けて、柔らかな唇をミネアの額に密着させる。
「——楽しみにしているよ、ミネア。」
そう言って、ヴィルエイムはレッスン室を後にした。
その背中はとても軽々しく見えて、ミネアは自分が今何をされたのかを理解するのに数秒時間をかける。
自分の額が熱を帯びている。じんじんと熱く燃えるように。
ヴィルエイムが額にキスをしたのだと気が付いた時、ミネアの全身の血液が沸騰するかのように熱くなった。
彼の最後の笑顔は、意地悪をした子供のような無邪気で何処か悪魔的なものだった。
その顔を思い出して、ミネアは顔を真っ赤に染めながら思わず彼の名前を叫んだのだった。
「~~っ!ヴィルエイム様ー!!」
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※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
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