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三人の少女達の夜明け
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ブィリルは国から秘匿された存在であり、ブィリルを知るものは極小数だ。
ブィリルは夜行性で、夜になると獲物を探して街に繰り出す。
獲物を見つけると、催眠の効果で相手を硬直状態にし、動けなくなった獲物を喰らう。
ブィリルは獲物を喰らう事で力を得ていき、最初は原型も無かったブィリルは人の形をとる。
さらに力を得ると、ブィリルは特別な能力に目覚めるという。
その能力はブィリルによって異なり、人間に状態異常を促す能力や、ある特定の条件下で発動する能力など様々だ。
このような特殊な能力を得たブィリルの事は『ハイ・ブィリル』と呼ばれ、祓魔師の中では見つけたらすぐに倒すべき相手としてブィリルの中でも特に注意されている。
「ハイ・ブィリルの中最近目撃情報がよく挙がっている者がいるの。彼女の名前はスリーティー。駆除対象No.38の彼女の能力はヴィルエイム様もかなり警戒されているわ。」
シトラは、このスリーティーが最近目撃されている理由について考える。
十中八九、ツィーピアであるミネアを狙っているのだろう。
ツィーピアの血を飲めば、大いなる力を手に入れ、人間ブィリル関係無くこの世界の頂点に君臨する事ができると言われている。
ブィリルが彼女を狙わないわけが無い。
それを見越してヴィルエイムもミネアを婚約者として招き入れたのだから。
「ご主人様が不在の今日、屋敷を守っている結界は二割程威力を失うわ。ハイ・ブィリルなら、その結界を壊せるはず。」
「だから今日にするって言ってたのねー!私達はいつも通りのメイドを演じる。後はミネア様がどうするのかを見守るだけ。」
ミネアがレッスン室でダンスの稽古を受けている間、シトラとシーラは淡々と準備を進めていた。
普段通り布団を干し、掃除をしながらミネアにバレないように作戦を考える。
今日はヴィルエイムと共に執事長も外出する予定ということもあり、この屋敷は夜になるとブィリルにとって格好の獲物になる。
逃すはずはないだろう。
「後は、夜になるのを待つだけ。それで全てが終わるわ。」
そしてその日の夕食の時。
シトラとシーラは、ミネアの顔色を見てすぐに理解した。
——予定は順調に遂行されている。
今にも倒れそうな真っ青な顔、あまり進まない食事の手。
彼女が苦しんでいる事は分かっていた。
けれどあえて何もせず、普段通りのメイドであり続けた。
そうしないと意味が無い。
ミネアはみるみるうちに体調を崩していく。
ふらついた足、今にも倒れそうになりながら自分の部屋に戻っていく。
シトラはそれを廊下から闇夜に隠れて観察していた。
数分して、ミネアは眠りについた。
「シーラ。ここからが本番よ。」
「分かってるってばー。私達はブィリルが近付かないようにここで見守っていればいいんでしょー?」
ミネアの寝室の前で、シトラとシーラは彼女の様子を覗く。
ベットの上で、悪夢に魘されているミネアを見ながら二人は眉をピクリとも動かさずに監視していた。
「うっ……ううっ……!」
魘されているミネアの額には汗が滲んでいる。
彼女が今どんな夢を見ているのかは分からない。
それでも、その悪夢と戦わなければ彼女は死ぬだろう。
シトラとシーラはそれだけは分かっていた。
何故ならその悪夢は……。
——その時だった。
閉まっていたはずの寝室の窓がばんと開く。
夜風と共に、この世界で異物の空気が流れ込む。
その影は、苦しんでいるミネアを見てにたりと笑った。
「なあーんだ、ツィーピアでもこの力には勝てないのねー?英雄の末裔って言うからにはもっと手こずると思ってたけど……期待はずれだったみたい」
シトラとシーラは息を殺して気配を消す。
ついに来た。
そう二人は心の中で唱えた。
ツインテールをゆらゆらと揺らし、悠々自適にミネアの元まで近付くその影は、にたりと不気味な笑みを浮かべる。
「ブィリルがいるのにまだ寝てるなんて、不用心ですよー?……あはっ!なーんてね、起きるわけ無いか!」
自分をブィリルだと認めたツインテールの女は、ミネアの頬をそっと撫でる。
静かにベットの上に上がって、ミネアの上に跨った。
「あー、可哀想。夢の中で苦しんで、だーれも助けてくれないまま死ぬなんて。でもこれでツィーピアの血は私達のモノ。あの方も喜んでくれるわ!だから……」
楽しげに声を弾ませて、ブィリルはミネアの首元にそっと手を伸ばす。
人を殺すという行為に躊躇いは無く、寧ろ愉悦に浸るような笑顔を浮かべていた。
ツィーピアの血を手に入れる事は、ブィリルにとっては極上の食を手に入れる事と同義だ。
ブィリルである彼女が溢れんばかりの笑みを浮かべるのも無理は無い。
——このままでは、ミネアは死ぬ。
シトラとシーラは分かっていた。
「どうするの、シトラ。このまま放っておくつもり?」
「もう少し様子を見ていたかったけれど……仕方ないわね。」
ミネアの命が奪われたとなれば、ヴィルエイムはシトラとシーラを殺すかもしれない。
それならば、永遠に眠りから覚めなくとも心臓が動いている彼女の方が利用価値はあるだろう。
ツィーピアとして息をしていれば、それだけでミネアを狙うブィリルは数え切れない程いる。
もう二度と目を覚まさず、永久に悪夢の中に囚われ続ける事になるが、致し方ない。
——貴女はこの壁を越えられなかったのです、ミネア様。
本当は信じていたかった。
けれど目の前の現実は、無情にもシトラの心を捻り潰す。
時間は待ってはくれない。ミネアがこれ以上目を覚まさないのなら、それまでだ。
そう思いながら、シトラが隠し持っていた対ブィリル用の短剣に手を伸ばしたその時だった。
「——ブィリル!?」
聞き慣れた声がシトラ達の頭に響く。
少し掠れた声だったけれど、シトラとシーラは一斉に声のする方へ目線を逸らした。
そこには目を覚まし、目の前に現れたブィリルに対して困惑しているミネアの姿があった。
……目を覚ました?自力で?
幻覚などでは無い。しっかりとミネアはその大きな瞳を開いている。
シトラは思わず数秒間立ち尽くした。
本当に、目を覚ますなんてと目の前の光景に頭が真っ白になる。
「……ラ!……シトラ!!」
「えっ?」
「シトラ、ミネア様が起きたよ!もうこれ以上隠れている必要は無いんだよね!?」
シーラは真っ直ぐシトラの顔を見る。
その顔は、ミネアが自力で目を覚ました事に対する喜びと、今すぐにでも彼女の窮地を救いたいという焦りが混ざっていた。
シーラは最後まで信じていたのだ。
シトラのように、最後に斬り捨てるという判断をせずに、ミネアは必ず目を覚ますと信じて待っていた。
そんなシーラの知らない一面に少し驚きながら、シトラはこくんと頷いた。
「私達の負けよ、シーラ。ミネア様を助けましょう。」
この三ヶ月間、ミネアの前で無表情なメイドのフリをし続けてきた。
それは確かに彼女を試す為でもあったけれど、段々と意地を張って意固地になっていたのかもしれない。
シトラの中で何かのプライドがポキッと折れる音が聞こえた。
完膚なきまでに負けた。でも敗北に対する嫉妬や嫌悪感は何一つも無い。
寧ろ何処か清々しい気分だ。
これでもう何も隠すこと無く、ミネアに仕える事が出来る。
初めは彼女に対して疑心暗鬼になっていたはずなのに、今は仕えられるという事実がこの上なく嬉しくてたまらない。
「行きましょう、シーラ。私達の主を守るわよ。」
「……!!うん!」
そうして、二人のメイドは部屋の中に飛び出す。
これまであった沢山の葛藤を捨てて、新しい自分に生まれ変わったかのような気分で、ブィリルに立ちはだかる。
「——そこまでです、ブィリル。それ以上ミネア様に触れる事は許しません。」
それは、分厚い暗雲から少しだけ月の光が指す夜の事だった。
ブィリルは夜行性で、夜になると獲物を探して街に繰り出す。
獲物を見つけると、催眠の効果で相手を硬直状態にし、動けなくなった獲物を喰らう。
ブィリルは獲物を喰らう事で力を得ていき、最初は原型も無かったブィリルは人の形をとる。
さらに力を得ると、ブィリルは特別な能力に目覚めるという。
その能力はブィリルによって異なり、人間に状態異常を促す能力や、ある特定の条件下で発動する能力など様々だ。
このような特殊な能力を得たブィリルの事は『ハイ・ブィリル』と呼ばれ、祓魔師の中では見つけたらすぐに倒すべき相手としてブィリルの中でも特に注意されている。
「ハイ・ブィリルの中最近目撃情報がよく挙がっている者がいるの。彼女の名前はスリーティー。駆除対象No.38の彼女の能力はヴィルエイム様もかなり警戒されているわ。」
シトラは、このスリーティーが最近目撃されている理由について考える。
十中八九、ツィーピアであるミネアを狙っているのだろう。
ツィーピアの血を飲めば、大いなる力を手に入れ、人間ブィリル関係無くこの世界の頂点に君臨する事ができると言われている。
ブィリルが彼女を狙わないわけが無い。
それを見越してヴィルエイムもミネアを婚約者として招き入れたのだから。
「ご主人様が不在の今日、屋敷を守っている結界は二割程威力を失うわ。ハイ・ブィリルなら、その結界を壊せるはず。」
「だから今日にするって言ってたのねー!私達はいつも通りのメイドを演じる。後はミネア様がどうするのかを見守るだけ。」
ミネアがレッスン室でダンスの稽古を受けている間、シトラとシーラは淡々と準備を進めていた。
普段通り布団を干し、掃除をしながらミネアにバレないように作戦を考える。
今日はヴィルエイムと共に執事長も外出する予定ということもあり、この屋敷は夜になるとブィリルにとって格好の獲物になる。
逃すはずはないだろう。
「後は、夜になるのを待つだけ。それで全てが終わるわ。」
そしてその日の夕食の時。
シトラとシーラは、ミネアの顔色を見てすぐに理解した。
——予定は順調に遂行されている。
今にも倒れそうな真っ青な顔、あまり進まない食事の手。
彼女が苦しんでいる事は分かっていた。
けれどあえて何もせず、普段通りのメイドであり続けた。
そうしないと意味が無い。
ミネアはみるみるうちに体調を崩していく。
ふらついた足、今にも倒れそうになりながら自分の部屋に戻っていく。
シトラはそれを廊下から闇夜に隠れて観察していた。
数分して、ミネアは眠りについた。
「シーラ。ここからが本番よ。」
「分かってるってばー。私達はブィリルが近付かないようにここで見守っていればいいんでしょー?」
ミネアの寝室の前で、シトラとシーラは彼女の様子を覗く。
ベットの上で、悪夢に魘されているミネアを見ながら二人は眉をピクリとも動かさずに監視していた。
「うっ……ううっ……!」
魘されているミネアの額には汗が滲んでいる。
彼女が今どんな夢を見ているのかは分からない。
それでも、その悪夢と戦わなければ彼女は死ぬだろう。
シトラとシーラはそれだけは分かっていた。
何故ならその悪夢は……。
——その時だった。
閉まっていたはずの寝室の窓がばんと開く。
夜風と共に、この世界で異物の空気が流れ込む。
その影は、苦しんでいるミネアを見てにたりと笑った。
「なあーんだ、ツィーピアでもこの力には勝てないのねー?英雄の末裔って言うからにはもっと手こずると思ってたけど……期待はずれだったみたい」
シトラとシーラは息を殺して気配を消す。
ついに来た。
そう二人は心の中で唱えた。
ツインテールをゆらゆらと揺らし、悠々自適にミネアの元まで近付くその影は、にたりと不気味な笑みを浮かべる。
「ブィリルがいるのにまだ寝てるなんて、不用心ですよー?……あはっ!なーんてね、起きるわけ無いか!」
自分をブィリルだと認めたツインテールの女は、ミネアの頬をそっと撫でる。
静かにベットの上に上がって、ミネアの上に跨った。
「あー、可哀想。夢の中で苦しんで、だーれも助けてくれないまま死ぬなんて。でもこれでツィーピアの血は私達のモノ。あの方も喜んでくれるわ!だから……」
楽しげに声を弾ませて、ブィリルはミネアの首元にそっと手を伸ばす。
人を殺すという行為に躊躇いは無く、寧ろ愉悦に浸るような笑顔を浮かべていた。
ツィーピアの血を手に入れる事は、ブィリルにとっては極上の食を手に入れる事と同義だ。
ブィリルである彼女が溢れんばかりの笑みを浮かべるのも無理は無い。
——このままでは、ミネアは死ぬ。
シトラとシーラは分かっていた。
「どうするの、シトラ。このまま放っておくつもり?」
「もう少し様子を見ていたかったけれど……仕方ないわね。」
ミネアの命が奪われたとなれば、ヴィルエイムはシトラとシーラを殺すかもしれない。
それならば、永遠に眠りから覚めなくとも心臓が動いている彼女の方が利用価値はあるだろう。
ツィーピアとして息をしていれば、それだけでミネアを狙うブィリルは数え切れない程いる。
もう二度と目を覚まさず、永久に悪夢の中に囚われ続ける事になるが、致し方ない。
——貴女はこの壁を越えられなかったのです、ミネア様。
本当は信じていたかった。
けれど目の前の現実は、無情にもシトラの心を捻り潰す。
時間は待ってはくれない。ミネアがこれ以上目を覚まさないのなら、それまでだ。
そう思いながら、シトラが隠し持っていた対ブィリル用の短剣に手を伸ばしたその時だった。
「——ブィリル!?」
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少し掠れた声だったけれど、シトラとシーラは一斉に声のする方へ目線を逸らした。
そこには目を覚まし、目の前に現れたブィリルに対して困惑しているミネアの姿があった。
……目を覚ました?自力で?
幻覚などでは無い。しっかりとミネアはその大きな瞳を開いている。
シトラは思わず数秒間立ち尽くした。
本当に、目を覚ますなんてと目の前の光景に頭が真っ白になる。
「……ラ!……シトラ!!」
「えっ?」
「シトラ、ミネア様が起きたよ!もうこれ以上隠れている必要は無いんだよね!?」
シーラは真っ直ぐシトラの顔を見る。
その顔は、ミネアが自力で目を覚ました事に対する喜びと、今すぐにでも彼女の窮地を救いたいという焦りが混ざっていた。
シーラは最後まで信じていたのだ。
シトラのように、最後に斬り捨てるという判断をせずに、ミネアは必ず目を覚ますと信じて待っていた。
そんなシーラの知らない一面に少し驚きながら、シトラはこくんと頷いた。
「私達の負けよ、シーラ。ミネア様を助けましょう。」
この三ヶ月間、ミネアの前で無表情なメイドのフリをし続けてきた。
それは確かに彼女を試す為でもあったけれど、段々と意地を張って意固地になっていたのかもしれない。
シトラの中で何かのプライドがポキッと折れる音が聞こえた。
完膚なきまでに負けた。でも敗北に対する嫉妬や嫌悪感は何一つも無い。
寧ろ何処か清々しい気分だ。
これでもう何も隠すこと無く、ミネアに仕える事が出来る。
初めは彼女に対して疑心暗鬼になっていたはずなのに、今は仕えられるという事実がこの上なく嬉しくてたまらない。
「行きましょう、シーラ。私達の主を守るわよ。」
「……!!うん!」
そうして、二人のメイドは部屋の中に飛び出す。
これまであった沢山の葛藤を捨てて、新しい自分に生まれ変わったかのような気分で、ブィリルに立ちはだかる。
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※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
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