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少しずつ近付いてみてもいいんだよ
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シトラとシーラは、ミネアに全てを洗いざらい話した。
これまでミネアを試していた事。ブィリルを招き入れたのは自分達であり、ミネアが苦しんでいたのを知りながらただ傍観していた事。
ミネアはそれなりにショックを受けた。
まさかいつも近くで支えてくれていた二人がずっとそんな事を考えていたなんて。
けれど二人に対して怒りは湧かなかった。
寧ろ、そんな事をさせてしまった無力な自分に腹が立つ。
「ミネア様。私達の事を許してくださらなくても構いません。」
「そうです!どんな罰でも受けます!でも、今の私達は心の底からミネア様を守りたいって思ってます。」
シトラとシーラは揃って頭を下げる。
二人が本当に反省している事は、すぐに理解出来た。
ミネアは二人に対して罰するつもりはない。
二人はこの屋敷とヴィルエイムを思って行動したのだ。
寧ろ、何処の馬の骨とも知らない平民にここまで尽くしてくれた事に感謝すらしている。
ただ、二人の話を聞いてミネアはある疑問が浮かんでいた。
シトラとシーラの話では、ミネアの体調が崩れる事は想定されていた。
ミネアですら、どうしてあんな悪夢に魘されていたのか分からなかったというのに。
と、そこでつい先程の話を思い出す。
ハイ・ブィリルにはそれぞれ固有の特別な能力があるという。
もしかしてと、ミネアはシトラに尋ねてみる事にした。
「私がネガティブな事を考えていたのには、ハイ・ブィリルが関係しているの?」
シトラは、ミネアの見解にこくりと頷いた。
「その通りです。今回ミネア様を襲ったのはハイ・ブィリル。その能力は——精神汚染。」
シトラはミネアに、今回襲撃してきたハイ・ブィリルについて教えた。
駆除対象No.38、ハイ・ブィリル『フィリター』
固有能力は精神汚染。
対象者の心の弱点をついて汚染させ、悪夢を見せる。
悪夢から脱出する方法はほぼ無いに等しく、この精神汚染にかかった者は約100%の確率で悪夢の中で死に至る。
だが、悪夢から脱却する方法が決してない訳では無い。
現に、この精神汚染を受けても尚生存した人物がいる。
「それがヴィルエイム・ライ・グレーラビス公爵様です。」
「ヴィルエイム様が……!?」
祓魔師である以上、ヴィルエイムはブィリルから多くの恨みを買う。
それはハイ・ブィリルとて同じ事だ。
過去にヴィルエイムが精神汚染を受けた事を、シトラはミネアに話した。
ミネアはそれに対して、少し怯えながらシトラに尋ねる。
「それで、ヴィルエイム様は……?」
自分の事を思い出す。
あの精神汚染は危険な力だ。弱みがあればそこに付け込まれ、奈落の底に落ちていくような恐怖感に襲われる。
永遠にこのまま落ち続けるのでは無いか。もう光を見ることはないのではないか。
考えたくもない方向に思考が傾き、自我を保とうとしても制御が効かない。
思い出しただけでゾッとする。
ミネアの顔色を伺いながら、シトラは淡々とその時のヴィルエイムについて答えた。
「何もありませんでした。翌朝、何一つ変わらない顔でおはようと、声をかけて下さりました。」
それを聞いた時、ミネアはその時のヴィルエイムがどんな表情をしていたのか想像してみる。
きっといつものように笑って、穏やかな顔をしていたのだろう。
心が掴まれるような感覚を味わって、死ぬ事よりも恐ろしい悪夢を見せられて、それでも平然と笑っている。
それは、決して傷付いていない訳では無い。
傷付いていても、苦しくても、彼には助けを乞える者が居なかったのだ。
だから笑った。そうするしか無かったから。
——今なら、少しヴィルエイム様の心が分かるような気がする。
だって、その話を聞いたミネア自身がこんなにも心苦しい思いをしているのだから。
母親を失った後、誰にも頼る事が出来なかった自分によく似ている。
誰にも迷惑をかけたくなくて、気丈なフリをし続けて。いつの間にかそれが仮面となって張り付いてしまった。
そんな昔の自分とヴィルエイムが重なって見えた。
ミネアは涙腺が熱くなるのをぐっと堪える。
——私はまだ無力かもしれないけれど、少しでいいから貴方の役に立ちたいです。
そんな願いを胸に秘めて、ミネアは前を向く。
ヴィルエイムに会いたい。今、彼は一人で居るのだろうか。
屋敷に居ない彼を考えて、夜明けの空に思いを馳せる。
「ミネア様、私達はずっとミネア様を試してました。でもミネア様は私達に証明してくれた!ミネア様は、ブィリルの力に勝ってくれた!だから私達はこれからも命をかけてミネア様をお守りします!」
シーラはゆっくりミネアの手をとる。
彼女の温もりが、手のひらから伝わってくる。
嫌われていると思っていた。
疎まれていると。早く出ていって欲しいと思われていると。
でも違った。そうじゃなかった。
シーラが向ける笑顔も、シトラの熱い眼差しも。
全部本物だった。
平民だから、きっと歩み寄る事は出来ないと決めつけていたけれど。
少しずつ、彼女達に近付いてもいいのだろうか。
これ以上多くは望まない。
だって、こんなに幸福な事が重なればきっといつか、崩れた時に後悔してしまう。
……それでも、今は。
自分のエゴを神様に押し付けてしまおう。
どうか、あと少しだけこの暖かい時間が続きますようにと。
「それにしても、どうやってミネア様はあの精神汚染を解いたんですか?」
シーラはきょとんとした顔で、ミネアに尋ねる。
そういえば、シトラ達の話を聞いてばかりでミネアの話はしていない。
二人のメイドが、その事について気になるのは当然だろう。
しかし、当の本人であるミネアもあの時の事はよく覚えていないのだ。
顔も覚えていない少女が、酷く何かを後悔していた事は覚えている。
でも、それが何だったのかは思い出せないままだ。
あの時、光をくれたのはきっと顔も名前も知らない少女なのだろう。
その事について、シトラとシーラに話すと二人もまた首を傾げていた。
「つまりその人がミネア様を助けてくれたんですか?」
「多分そうだと思う……。でも、朧気にしか覚えていなくて……。」
「夢とはそういうものです。目を覚ましたら消えてしまう、蜃気楼のようなもの。ですが……ミネア様はツィーピアという特別な血を引いています。もしかしたら何か関係があるのかもしれませんね。」
ツィーピア。
英雄と呼ばれた一族であり、神から特別な権能を授かった者達。
思えば、ツィーピアについてはそれしか知らない。
そもそもツィーピアの一族とは何なのだろう。
どうして、ツィーピアは滅んだのだろう。
ミネアには知らない事が多すぎる。
その時だった。ふと、夢の事を思い出す。
『忘れないで、貴女のやるべき事。それは——』
あの悪夢から目を覚ます直前、少女が言っていた事。
貴女とは、誰の事だろう。
——もしかして、私の事?
だとしたら、やるべき事とは一体何の事だろう。
その言葉の続きを聞いたはずなのに、何も思い出せない。
きっとそれは凄く大切な事のはずだ。忘れてはいけない、重要な事。
ミネアはまだ何も知らない。でも、知らないままでいたくないと、そう思った。
シトラとシーラの事も、ヴィルエイムの事も、ブィリルの事も。
そして、ツィーピアの事も。
もっと沢山知っていこう。いや、きっと知らなくてはいけない。
この先もみんなと共に居る為に。
「シトラ、シーラ。私はヴィルエイム様の役に立ちたい。その為にだったら、何だってやってみせるわ。……こんな私だけど、着いてきてくれる?」
ミネアは椅子から立ち上がり、二人のメイドの瞳を真っ直ぐ見つめた。
窓から朝日が差し込む。
ミネアの美しい紫色の髪が、神々しく光り輝いている。
その美しい眼差しに、二人のメイドはゆっくりと膝を折りミネアの前に頭を下げた。
「どこまでもお供します、ミネア様。」
こうして、新しい朝はやってきた。
この三ヶ月間変わらなかった何かが変わって、少しずつ前に歩き出す。
その先で、ミネアを待っている者が同じ空の下でにたりと微笑んでいるとも知らずに。
「——ただいま戻りましたあ……はあ、死ぬかと思ったー!」
それはこの世界の何処かに存在する場所。
それはこの世界には存在しない場所。
永遠の闇が包み込む、虚構の世界。
ロウソクの光がゆらゆらと揺らいでいる。
赤髪のツインテールを揺らした少女は、はあとため息を漏らした。
「まさか祓魔師が他にも居たなんて……ちょー厄介なんですけどぉ。」
長く続く一本の廊下。
その先で、座して待っている者の元へと少女は向かう。
「まあ多少のアクシデントはあったけど、無事にツィーピアの顔は拝めたし、お仕事は達成だよねー?」
赤髪の少女は、大きな扉の前で足を止める。
彼女の身長を遥かに超える大扉。
そこから放たれる威圧感は、中で待つ者の存在を語っていた。
この扉の先にいる者。
全ての虚飾、虚構、虚妄を受け入れ、この世界を支配する真の王。
決して誰も背くことの出来ない、王としての気迫は、いつ見ても息を飲む。
少女はそんな人物の為に扉を押し上げた。
ギィィという重く鈍い音が部屋の中に響く。
赤髪の少女はレットカーペットを歩き、階段の前で跪いた。
「報告致します、我らが王。無事、ツィーピアを発見し接触に成功しました。しかし、私の精神汚染は無効化され、相手側には見知らぬ祓魔師の姿を確認。速やかに撤退の判断を取らせて頂きました。」
無言で、その人物は少女を見下す。
漆黒の玉座に座るその人物は、少女の報告をただ聞いていた。
頬杖をし、退屈そうな顔をしていたが、少女の話を聞いた王はにたりと笑う。
「そうか。ご苦労だったな。次の指令を下すまでは休んでいるといい。次期、俺達は動く。——この世の理を変えるために。」
それは王にとって待ちわびていた日がもうすぐ到来する事の知らせだった。
ずっと願っていた願望が、ついに成就する。
そう思うだけで、笑いが止まらない。
少女は王の愉悦げな笑みを見て、全てを悟る。
もう間もなく、ブィリルが世界を壊し、世界を変えるのだと。
目の前の玉座に座る、この偉大なる王と共に。
それは全てのブィリルの悲願だった。
赤髪の少女はそれを知りながら、ただ頭を垂れる事しか出来ない。
何故ならこの世の全ては彼の為に存在するのだから。
今更ブィリルも人間も、足掻いた所でこの御方には勝てる訳が無い。
そう。全ては……。
「全ては我が王——ジルラルム・ライ・グレーラビス様の為に。」
一つに束ねた蒼月の髪。黄金に光り輝く瞳。
長いまつ毛はその瞳に闇をもたらす。
——ジルラルム・ライ・グレーラビス
彼こそ、全てのブィリルを頂点に君臨するブィリルの王であり、駆除対象No.1のハイ・ブィリル。
そして……ヴィルエイム・ライ・グレーラビスの実の兄である。
これまでミネアを試していた事。ブィリルを招き入れたのは自分達であり、ミネアが苦しんでいたのを知りながらただ傍観していた事。
ミネアはそれなりにショックを受けた。
まさかいつも近くで支えてくれていた二人がずっとそんな事を考えていたなんて。
けれど二人に対して怒りは湧かなかった。
寧ろ、そんな事をさせてしまった無力な自分に腹が立つ。
「ミネア様。私達の事を許してくださらなくても構いません。」
「そうです!どんな罰でも受けます!でも、今の私達は心の底からミネア様を守りたいって思ってます。」
シトラとシーラは揃って頭を下げる。
二人が本当に反省している事は、すぐに理解出来た。
ミネアは二人に対して罰するつもりはない。
二人はこの屋敷とヴィルエイムを思って行動したのだ。
寧ろ、何処の馬の骨とも知らない平民にここまで尽くしてくれた事に感謝すらしている。
ただ、二人の話を聞いてミネアはある疑問が浮かんでいた。
シトラとシーラの話では、ミネアの体調が崩れる事は想定されていた。
ミネアですら、どうしてあんな悪夢に魘されていたのか分からなかったというのに。
と、そこでつい先程の話を思い出す。
ハイ・ブィリルにはそれぞれ固有の特別な能力があるという。
もしかしてと、ミネアはシトラに尋ねてみる事にした。
「私がネガティブな事を考えていたのには、ハイ・ブィリルが関係しているの?」
シトラは、ミネアの見解にこくりと頷いた。
「その通りです。今回ミネア様を襲ったのはハイ・ブィリル。その能力は——精神汚染。」
シトラはミネアに、今回襲撃してきたハイ・ブィリルについて教えた。
駆除対象No.38、ハイ・ブィリル『フィリター』
固有能力は精神汚染。
対象者の心の弱点をついて汚染させ、悪夢を見せる。
悪夢から脱出する方法はほぼ無いに等しく、この精神汚染にかかった者は約100%の確率で悪夢の中で死に至る。
だが、悪夢から脱却する方法が決してない訳では無い。
現に、この精神汚染を受けても尚生存した人物がいる。
「それがヴィルエイム・ライ・グレーラビス公爵様です。」
「ヴィルエイム様が……!?」
祓魔師である以上、ヴィルエイムはブィリルから多くの恨みを買う。
それはハイ・ブィリルとて同じ事だ。
過去にヴィルエイムが精神汚染を受けた事を、シトラはミネアに話した。
ミネアはそれに対して、少し怯えながらシトラに尋ねる。
「それで、ヴィルエイム様は……?」
自分の事を思い出す。
あの精神汚染は危険な力だ。弱みがあればそこに付け込まれ、奈落の底に落ちていくような恐怖感に襲われる。
永遠にこのまま落ち続けるのでは無いか。もう光を見ることはないのではないか。
考えたくもない方向に思考が傾き、自我を保とうとしても制御が効かない。
思い出しただけでゾッとする。
ミネアの顔色を伺いながら、シトラは淡々とその時のヴィルエイムについて答えた。
「何もありませんでした。翌朝、何一つ変わらない顔でおはようと、声をかけて下さりました。」
それを聞いた時、ミネアはその時のヴィルエイムがどんな表情をしていたのか想像してみる。
きっといつものように笑って、穏やかな顔をしていたのだろう。
心が掴まれるような感覚を味わって、死ぬ事よりも恐ろしい悪夢を見せられて、それでも平然と笑っている。
それは、決して傷付いていない訳では無い。
傷付いていても、苦しくても、彼には助けを乞える者が居なかったのだ。
だから笑った。そうするしか無かったから。
——今なら、少しヴィルエイム様の心が分かるような気がする。
だって、その話を聞いたミネア自身がこんなにも心苦しい思いをしているのだから。
母親を失った後、誰にも頼る事が出来なかった自分によく似ている。
誰にも迷惑をかけたくなくて、気丈なフリをし続けて。いつの間にかそれが仮面となって張り付いてしまった。
そんな昔の自分とヴィルエイムが重なって見えた。
ミネアは涙腺が熱くなるのをぐっと堪える。
——私はまだ無力かもしれないけれど、少しでいいから貴方の役に立ちたいです。
そんな願いを胸に秘めて、ミネアは前を向く。
ヴィルエイムに会いたい。今、彼は一人で居るのだろうか。
屋敷に居ない彼を考えて、夜明けの空に思いを馳せる。
「ミネア様、私達はずっとミネア様を試してました。でもミネア様は私達に証明してくれた!ミネア様は、ブィリルの力に勝ってくれた!だから私達はこれからも命をかけてミネア様をお守りします!」
シーラはゆっくりミネアの手をとる。
彼女の温もりが、手のひらから伝わってくる。
嫌われていると思っていた。
疎まれていると。早く出ていって欲しいと思われていると。
でも違った。そうじゃなかった。
シーラが向ける笑顔も、シトラの熱い眼差しも。
全部本物だった。
平民だから、きっと歩み寄る事は出来ないと決めつけていたけれど。
少しずつ、彼女達に近付いてもいいのだろうか。
これ以上多くは望まない。
だって、こんなに幸福な事が重なればきっといつか、崩れた時に後悔してしまう。
……それでも、今は。
自分のエゴを神様に押し付けてしまおう。
どうか、あと少しだけこの暖かい時間が続きますようにと。
「それにしても、どうやってミネア様はあの精神汚染を解いたんですか?」
シーラはきょとんとした顔で、ミネアに尋ねる。
そういえば、シトラ達の話を聞いてばかりでミネアの話はしていない。
二人のメイドが、その事について気になるのは当然だろう。
しかし、当の本人であるミネアもあの時の事はよく覚えていないのだ。
顔も覚えていない少女が、酷く何かを後悔していた事は覚えている。
でも、それが何だったのかは思い出せないままだ。
あの時、光をくれたのはきっと顔も名前も知らない少女なのだろう。
その事について、シトラとシーラに話すと二人もまた首を傾げていた。
「つまりその人がミネア様を助けてくれたんですか?」
「多分そうだと思う……。でも、朧気にしか覚えていなくて……。」
「夢とはそういうものです。目を覚ましたら消えてしまう、蜃気楼のようなもの。ですが……ミネア様はツィーピアという特別な血を引いています。もしかしたら何か関係があるのかもしれませんね。」
ツィーピア。
英雄と呼ばれた一族であり、神から特別な権能を授かった者達。
思えば、ツィーピアについてはそれしか知らない。
そもそもツィーピアの一族とは何なのだろう。
どうして、ツィーピアは滅んだのだろう。
ミネアには知らない事が多すぎる。
その時だった。ふと、夢の事を思い出す。
『忘れないで、貴女のやるべき事。それは——』
あの悪夢から目を覚ます直前、少女が言っていた事。
貴女とは、誰の事だろう。
——もしかして、私の事?
だとしたら、やるべき事とは一体何の事だろう。
その言葉の続きを聞いたはずなのに、何も思い出せない。
きっとそれは凄く大切な事のはずだ。忘れてはいけない、重要な事。
ミネアはまだ何も知らない。でも、知らないままでいたくないと、そう思った。
シトラとシーラの事も、ヴィルエイムの事も、ブィリルの事も。
そして、ツィーピアの事も。
もっと沢山知っていこう。いや、きっと知らなくてはいけない。
この先もみんなと共に居る為に。
「シトラ、シーラ。私はヴィルエイム様の役に立ちたい。その為にだったら、何だってやってみせるわ。……こんな私だけど、着いてきてくれる?」
ミネアは椅子から立ち上がり、二人のメイドの瞳を真っ直ぐ見つめた。
窓から朝日が差し込む。
ミネアの美しい紫色の髪が、神々しく光り輝いている。
その美しい眼差しに、二人のメイドはゆっくりと膝を折りミネアの前に頭を下げた。
「どこまでもお供します、ミネア様。」
こうして、新しい朝はやってきた。
この三ヶ月間変わらなかった何かが変わって、少しずつ前に歩き出す。
その先で、ミネアを待っている者が同じ空の下でにたりと微笑んでいるとも知らずに。
「——ただいま戻りましたあ……はあ、死ぬかと思ったー!」
それはこの世界の何処かに存在する場所。
それはこの世界には存在しない場所。
永遠の闇が包み込む、虚構の世界。
ロウソクの光がゆらゆらと揺らいでいる。
赤髪のツインテールを揺らした少女は、はあとため息を漏らした。
「まさか祓魔師が他にも居たなんて……ちょー厄介なんですけどぉ。」
長く続く一本の廊下。
その先で、座して待っている者の元へと少女は向かう。
「まあ多少のアクシデントはあったけど、無事にツィーピアの顔は拝めたし、お仕事は達成だよねー?」
赤髪の少女は、大きな扉の前で足を止める。
彼女の身長を遥かに超える大扉。
そこから放たれる威圧感は、中で待つ者の存在を語っていた。
この扉の先にいる者。
全ての虚飾、虚構、虚妄を受け入れ、この世界を支配する真の王。
決して誰も背くことの出来ない、王としての気迫は、いつ見ても息を飲む。
少女はそんな人物の為に扉を押し上げた。
ギィィという重く鈍い音が部屋の中に響く。
赤髪の少女はレットカーペットを歩き、階段の前で跪いた。
「報告致します、我らが王。無事、ツィーピアを発見し接触に成功しました。しかし、私の精神汚染は無効化され、相手側には見知らぬ祓魔師の姿を確認。速やかに撤退の判断を取らせて頂きました。」
無言で、その人物は少女を見下す。
漆黒の玉座に座るその人物は、少女の報告をただ聞いていた。
頬杖をし、退屈そうな顔をしていたが、少女の話を聞いた王はにたりと笑う。
「そうか。ご苦労だったな。次の指令を下すまでは休んでいるといい。次期、俺達は動く。——この世の理を変えるために。」
それは王にとって待ちわびていた日がもうすぐ到来する事の知らせだった。
ずっと願っていた願望が、ついに成就する。
そう思うだけで、笑いが止まらない。
少女は王の愉悦げな笑みを見て、全てを悟る。
もう間もなく、ブィリルが世界を壊し、世界を変えるのだと。
目の前の玉座に座る、この偉大なる王と共に。
それは全てのブィリルの悲願だった。
赤髪の少女はそれを知りながら、ただ頭を垂れる事しか出来ない。
何故ならこの世の全ては彼の為に存在するのだから。
今更ブィリルも人間も、足掻いた所でこの御方には勝てる訳が無い。
そう。全ては……。
「全ては我が王——ジルラルム・ライ・グレーラビス様の為に。」
一つに束ねた蒼月の髪。黄金に光り輝く瞳。
長いまつ毛はその瞳に闇をもたらす。
——ジルラルム・ライ・グレーラビス
彼こそ、全てのブィリルを頂点に君臨するブィリルの王であり、駆除対象No.1のハイ・ブィリル。
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