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その日、王は目覚める
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楽しい晩餐を終え、ヴィルエイムは幸せを抱いたまま、眠りについていた。
夜も深け、月の明かりは強くなっていく。
世界を見渡すかのように高く昇りつめた月光が、窓から差し込んだ。
「ん……お、みず……。」
晩餐で沢山はしゃいだせいか、喉が渇く。メイドが用意してくれたポットの中には水は残っていなかった。
こんな夜更けにメイドを起こす事も気が引ける。
何より、一つ歳を重ねて大人になったのだ。これくらい一人でも出来るようにならないと。
そう決めて、ヴィルエイムは静かにベットから降りた。
その瞬間、冷たい空気が走る。背筋がゾッと凍るような悪寒。
「うっ……や、やっぱりメイドに頼もうかな……?——ううん、僕は大きくなるって決めたんだ!ジル兄様みたいになる為に、これくらい一人で出来るようにならないと!」
それでもやっぱり夜の闇は怖い。
一人でやると決めても、心細さで胸がキュッとする。
そこでヴィルエイムが思い出したのは、ジルライムが与えたプレゼントだった。
剣は重たいし、歩きづらいけれどジルライムから貰ったこの銃ならば持ち歩く事が出来る。
ジルライムも護身用にと言っていたし、持っていれば恐怖を紛らわせられるかもしれない。
「大丈夫……キッチンから水を持って帰るだけ……。ぼ、僕なら出来る……!」
ジルライムから貰った銃を握りしめて、ヴィルエイムは寝室の扉を開けた。
廊下は寝室よりも一段と冷え込んでいた。
真っ暗な長い廊下は、見ているだけで不気味に思う。
あんなに昼間は賑やかだったのに今は足音一つも無い。
静寂がこんなにも恐ろしいものだったなんて、ヴィルエイムは知らなかった。
震える足で、ヴィルエイムは廊下を歩く。
「ど、どうしよう……やっぱり怖い……。でも父様や母様を起こす訳にもいかないし……。」
お化けも悪魔も信じてなどいないけれど、こうして何も無い廊下を歩いていると、この道に終わりが無いように感じてしまう。
大人になると決めたとはいえ、まだ十三の子供だ。
夜中に一人で歩くのが怖いのは当然だろう。
「挫けるもんか!僕だって立派な父様の息子なんだ!」
ヴィルエイムはしどろもどろになりながらも、一歩ずつ着実に前に進む。
そんな時だった。ふと、冷たい風が吹き抜けていくのを感じる。
「……あれ?あそこの部屋が開いてる?」
そこは、両親の寝室だった。
こんな夜更けまで仕事でもしていたのだろうか。
部屋の開いた隙間から、夜風が入ってきているのだろう。
もしまだ両親が起きているのならば、キッチンまで着いてきてもらおうか。
そんな安直な考えだった。
ヴィルエイムは静かに両親の寝室に向かう。
一歩踏み出した時、黒い霧が心臓を包み込むような感覚がした。
ぞくっと鳥肌が立ち、ヴィルエイムは扉を見つめる。
こういうものを本能と呼ぶのだろうか。
何故だか分からないけれど、これ以上あの部屋に近付いてはいけない気がする。
そう思う気持ちとは裏腹に足は着実に両親の寝室へと向かっていた。
銃を握りしめる手に力が入る。
心の中の不穏な気配を払拭出来ないまま、ヴィルエイムはゆっくりと扉の隙間から部屋を覗き込んだ。
刹那、時が止まる。
目の前に広がる光景に、ヴィルエイムは言葉を失った。
「——え?」
カーテンの隙間から差し込む、淡い月明かりに照らされているのは三つの影。
真っ白なシルクのシーツは、彼岸花が咲き誇ったかのように紅く染まっていた。
ベッドの下で倒れ込む母は髪が乱れ、目を見開いたまま息絶えている。
心臓を何か鋭い刃物のようなもので突き刺されたのか、血が胸元から華を咲かすように広がっていた。
誰が、どうして、何のために。ヴィルエイムの思考は停止する。
これ以上考えることを頭が拒む。
けれど、そんなヴィルエイムの思考とは裏腹に、目の前に突きつけられる現実はあまりに残酷だった。
誰が見るまでもなく、犯人は明白だった。
何故なら今この瞬間も、その人物はヴィルエイムの父の首を絞めあげているのだから。
ベッドの上でゆらゆらと父親の影が揺れる。
力なく、無気力のまま垂れ下がる手足。
そんなヴィルエイムの父親の首を掴んでベッドに立っているのは……。
「——ジル、兄様……?」
そう名前を口にした瞬間、蒼月の髪が淡く輝く。
そこには、ヴィルエイムの知る優しい兄の姿は無かった。
黄金に輝く不気味な瞳。その瞳に見詰められたヴィルエイムは、足元が竦んで動けない。
「……ああ、ヴィルか。こんな夜更けにどうしたんだい?」
ジルライムはいつものように優しく笑いかける。けれどその目は光を失い、仮面を貼り付けたような笑顔をしていた。
ヴィルエイムは本能的に悟る。
——逃げなくちゃ、殺される。
けれど震え上がった足は、言うことをきかない。
動かさなくちゃいけないのに、その瞳に捕えられると指一本も動かせない。
「……あ……う、あ……っ!」
ジルライムは片手で持ち上げていた実の父をゴミのようにぽいっとベッドに投げ捨てる。
既に父は息をしていない。
ジルライムの頬には返り血らしきものが付着していた。
恐らく母親を殺したのもジルライムなのだろう。
「ど、うし……て……」
「ん?どうして?……ああ、どうして二人を殺したのかって?」
月の明かりが、ジルライムを照らす。
スポットライトを浴びたジルライムは、人を殺したというのにいつもと変わらず、余裕綽々とした態度でヴィルエイムに近付いた。
彼の黄金の瞳は強い光を放ち、ジルライムをより輝かせる。
まるで、人とは思えないほどに。
ヴィルエイムの心臓は、そんな兄の姿を捉えると動きを速めていく。
それは警告の音のようで、ジルライムが一歩ずつ近付いて来る度に音は大きくなっていた。
ジルライムの纏う空気は、穢れてくすんだ闇の色をしている。
ふと、ヴィルエイムはジルライムを見て思う。
今の兄は本当に、人間なのかと。
「——ヴィル、俺は選ばれたんだ。この世界を壊す、ブィリルの王に。」
そうジルライムが告げた瞬間、空が沈黙を破る。
大きな雷鳴と共に、地に走る閃光。
その光が、ジルライムの背中を照らした。
その先に映し出された影は、ぐにゃりと形を歪ませる。
「ブィリル……?な、何を言ってるの……?」
「まだ知らなくてもいいよ。ヴィル、俺がこの人達を殺したのは、この人達が生きるに値しない人間だったからだ。」
ジルライムはヴィルエイムの前に立つ。
暗く、どこまでも深い影がヴィルエイムを覆い隠す。
「いいかい、ヴィル。この世界は力のある人間のみが生き残れる。力のない弱い人間は、強者に殺される。これは自然の摂理なんだ。だからね、ヴィル——」
ガタガタと肩を震わせ、青ざめた顔をするヴィルエイムの頬に、ジルライムはそっと触れる。
血がべっとりとついた手で、ジルライムはヴィルエイムの頬を撫でながら、鋭い眼光でこう告げた。
「強い人間になれ。お前が強くなって、俺を殺しに来い。もしもそれに値しないと俺が判断すれば——俺がお前を殺してやるよ。」
その声は、ずっと尊敬してやまない兄の声。
その手は、ずっと憧れてやまない兄の手。
その微笑みは、ずっと愛してやまない兄の微笑み。
その瞳は、初めて見る王の瞳。
どうして。なんで。弱いから両親を殺した?弱いから両親を殺してもいい?
平然とした、清々しい顔で、ヴィルエイムを見るジルライム。
返り血を浴びて、それでも尚笑っているこの人は本当に自分の兄なのだろうか?
——いや、違う。この人は……コイツは人殺しだ!
「……うわあああああああああ!!!!!!!」
ヴィルエイムは、手に持っていた銃を目の前にいる兄に向けて発砲した。
錯乱していたのだろう。混乱していたのだろう。
現状を理解出来ず、真意を知らず、何も分からない無垢な子供のまま。
——それでも確かに、そこに殺意はあった。
ヴィルエイムは泣き叫びながら、引き金を引く。
パン!と勢いよく噴射された銃弾は、ジルライムの頬をかすりそのまま窓ガラスを粉砕した。
まさか、兄から貰ったプレゼントをこんな形で使う事になるだなんて。
ヴィルエイムの指先はまだ震えていた。
銃を撃った感覚、銃を撃った反動か、指先からジンジンと伝わってくる。
ヴィルエイムはそのまま力なく床にへたり混んだ。
つい数時間前まであんなに楽しかったのに。あんなに幸せだったのに。
どうしてこんな事になったのだろう。
ヴィルエイムは遠のいていく意識の中でそんな事を考えた。
もう、引き金を引く力すら残っていない。今のヴィルエイムは、あまりにも無力だ。
そんなヴィルエイムを見て、満足気に笑ったジルライムは、くるりと彼に背を向ける。
「流石はヴィル。俺の弟だ。お前はそれでいい、それでこそお前を生かす価値がある。」
ジルライムは、ヴィルエイムが破壊した窓に飛び乗り静かに振り返る。
「——俺は待っているよ、お前が俺を殺しにくるその日を。」
そう言って、ジルライムはヴィルエイムの前から姿を消した。
約束したのに。守ってくれると、言ってくれたのに。
「うっ……あっ……うわあああ!!!」
追いかける事すら出来なかった。
ただ目の前でジルライムが人で無くなる瞬間を見ている事しか。
なんて無力なんだ。なんて弱いんだ。
なんの力も無い、こんな自分をヴィルエイムは呪った。
そしてこの夜から、ヴィルエイムに生きる理由が出来た。
——ジルライムを殺す。
全ての始まりである、あの男を殺す。
それは復讐と呼ぶべき行為なのかもしれない。
でも、あの日に見た光景は十年経った今でも尚鮮明に覚えている。
忘れる事の出来ない悪夢。それに囚われ続けている哀れな男。
全てを精算する為にも、ヴィルエイムが選んだ道はただ一つだけ。
こうしてヴィルエイムは、祓魔師になった。
——全ては、ブィリルの王ジルライムをこの手で殺す為に。
夜も深け、月の明かりは強くなっていく。
世界を見渡すかのように高く昇りつめた月光が、窓から差し込んだ。
「ん……お、みず……。」
晩餐で沢山はしゃいだせいか、喉が渇く。メイドが用意してくれたポットの中には水は残っていなかった。
こんな夜更けにメイドを起こす事も気が引ける。
何より、一つ歳を重ねて大人になったのだ。これくらい一人でも出来るようにならないと。
そう決めて、ヴィルエイムは静かにベットから降りた。
その瞬間、冷たい空気が走る。背筋がゾッと凍るような悪寒。
「うっ……や、やっぱりメイドに頼もうかな……?——ううん、僕は大きくなるって決めたんだ!ジル兄様みたいになる為に、これくらい一人で出来るようにならないと!」
それでもやっぱり夜の闇は怖い。
一人でやると決めても、心細さで胸がキュッとする。
そこでヴィルエイムが思い出したのは、ジルライムが与えたプレゼントだった。
剣は重たいし、歩きづらいけれどジルライムから貰ったこの銃ならば持ち歩く事が出来る。
ジルライムも護身用にと言っていたし、持っていれば恐怖を紛らわせられるかもしれない。
「大丈夫……キッチンから水を持って帰るだけ……。ぼ、僕なら出来る……!」
ジルライムから貰った銃を握りしめて、ヴィルエイムは寝室の扉を開けた。
廊下は寝室よりも一段と冷え込んでいた。
真っ暗な長い廊下は、見ているだけで不気味に思う。
あんなに昼間は賑やかだったのに今は足音一つも無い。
静寂がこんなにも恐ろしいものだったなんて、ヴィルエイムは知らなかった。
震える足で、ヴィルエイムは廊下を歩く。
「ど、どうしよう……やっぱり怖い……。でも父様や母様を起こす訳にもいかないし……。」
お化けも悪魔も信じてなどいないけれど、こうして何も無い廊下を歩いていると、この道に終わりが無いように感じてしまう。
大人になると決めたとはいえ、まだ十三の子供だ。
夜中に一人で歩くのが怖いのは当然だろう。
「挫けるもんか!僕だって立派な父様の息子なんだ!」
ヴィルエイムはしどろもどろになりながらも、一歩ずつ着実に前に進む。
そんな時だった。ふと、冷たい風が吹き抜けていくのを感じる。
「……あれ?あそこの部屋が開いてる?」
そこは、両親の寝室だった。
こんな夜更けまで仕事でもしていたのだろうか。
部屋の開いた隙間から、夜風が入ってきているのだろう。
もしまだ両親が起きているのならば、キッチンまで着いてきてもらおうか。
そんな安直な考えだった。
ヴィルエイムは静かに両親の寝室に向かう。
一歩踏み出した時、黒い霧が心臓を包み込むような感覚がした。
ぞくっと鳥肌が立ち、ヴィルエイムは扉を見つめる。
こういうものを本能と呼ぶのだろうか。
何故だか分からないけれど、これ以上あの部屋に近付いてはいけない気がする。
そう思う気持ちとは裏腹に足は着実に両親の寝室へと向かっていた。
銃を握りしめる手に力が入る。
心の中の不穏な気配を払拭出来ないまま、ヴィルエイムはゆっくりと扉の隙間から部屋を覗き込んだ。
刹那、時が止まる。
目の前に広がる光景に、ヴィルエイムは言葉を失った。
「——え?」
カーテンの隙間から差し込む、淡い月明かりに照らされているのは三つの影。
真っ白なシルクのシーツは、彼岸花が咲き誇ったかのように紅く染まっていた。
ベッドの下で倒れ込む母は髪が乱れ、目を見開いたまま息絶えている。
心臓を何か鋭い刃物のようなもので突き刺されたのか、血が胸元から華を咲かすように広がっていた。
誰が、どうして、何のために。ヴィルエイムの思考は停止する。
これ以上考えることを頭が拒む。
けれど、そんなヴィルエイムの思考とは裏腹に、目の前に突きつけられる現実はあまりに残酷だった。
誰が見るまでもなく、犯人は明白だった。
何故なら今この瞬間も、その人物はヴィルエイムの父の首を絞めあげているのだから。
ベッドの上でゆらゆらと父親の影が揺れる。
力なく、無気力のまま垂れ下がる手足。
そんなヴィルエイムの父親の首を掴んでベッドに立っているのは……。
「——ジル、兄様……?」
そう名前を口にした瞬間、蒼月の髪が淡く輝く。
そこには、ヴィルエイムの知る優しい兄の姿は無かった。
黄金に輝く不気味な瞳。その瞳に見詰められたヴィルエイムは、足元が竦んで動けない。
「……ああ、ヴィルか。こんな夜更けにどうしたんだい?」
ジルライムはいつものように優しく笑いかける。けれどその目は光を失い、仮面を貼り付けたような笑顔をしていた。
ヴィルエイムは本能的に悟る。
——逃げなくちゃ、殺される。
けれど震え上がった足は、言うことをきかない。
動かさなくちゃいけないのに、その瞳に捕えられると指一本も動かせない。
「……あ……う、あ……っ!」
ジルライムは片手で持ち上げていた実の父をゴミのようにぽいっとベッドに投げ捨てる。
既に父は息をしていない。
ジルライムの頬には返り血らしきものが付着していた。
恐らく母親を殺したのもジルライムなのだろう。
「ど、うし……て……」
「ん?どうして?……ああ、どうして二人を殺したのかって?」
月の明かりが、ジルライムを照らす。
スポットライトを浴びたジルライムは、人を殺したというのにいつもと変わらず、余裕綽々とした態度でヴィルエイムに近付いた。
彼の黄金の瞳は強い光を放ち、ジルライムをより輝かせる。
まるで、人とは思えないほどに。
ヴィルエイムの心臓は、そんな兄の姿を捉えると動きを速めていく。
それは警告の音のようで、ジルライムが一歩ずつ近付いて来る度に音は大きくなっていた。
ジルライムの纏う空気は、穢れてくすんだ闇の色をしている。
ふと、ヴィルエイムはジルライムを見て思う。
今の兄は本当に、人間なのかと。
「——ヴィル、俺は選ばれたんだ。この世界を壊す、ブィリルの王に。」
そうジルライムが告げた瞬間、空が沈黙を破る。
大きな雷鳴と共に、地に走る閃光。
その光が、ジルライムの背中を照らした。
その先に映し出された影は、ぐにゃりと形を歪ませる。
「ブィリル……?な、何を言ってるの……?」
「まだ知らなくてもいいよ。ヴィル、俺がこの人達を殺したのは、この人達が生きるに値しない人間だったからだ。」
ジルライムはヴィルエイムの前に立つ。
暗く、どこまでも深い影がヴィルエイムを覆い隠す。
「いいかい、ヴィル。この世界は力のある人間のみが生き残れる。力のない弱い人間は、強者に殺される。これは自然の摂理なんだ。だからね、ヴィル——」
ガタガタと肩を震わせ、青ざめた顔をするヴィルエイムの頬に、ジルライムはそっと触れる。
血がべっとりとついた手で、ジルライムはヴィルエイムの頬を撫でながら、鋭い眼光でこう告げた。
「強い人間になれ。お前が強くなって、俺を殺しに来い。もしもそれに値しないと俺が判断すれば——俺がお前を殺してやるよ。」
その声は、ずっと尊敬してやまない兄の声。
その手は、ずっと憧れてやまない兄の手。
その微笑みは、ずっと愛してやまない兄の微笑み。
その瞳は、初めて見る王の瞳。
どうして。なんで。弱いから両親を殺した?弱いから両親を殺してもいい?
平然とした、清々しい顔で、ヴィルエイムを見るジルライム。
返り血を浴びて、それでも尚笑っているこの人は本当に自分の兄なのだろうか?
——いや、違う。この人は……コイツは人殺しだ!
「……うわあああああああああ!!!!!!!」
ヴィルエイムは、手に持っていた銃を目の前にいる兄に向けて発砲した。
錯乱していたのだろう。混乱していたのだろう。
現状を理解出来ず、真意を知らず、何も分からない無垢な子供のまま。
——それでも確かに、そこに殺意はあった。
ヴィルエイムは泣き叫びながら、引き金を引く。
パン!と勢いよく噴射された銃弾は、ジルライムの頬をかすりそのまま窓ガラスを粉砕した。
まさか、兄から貰ったプレゼントをこんな形で使う事になるだなんて。
ヴィルエイムの指先はまだ震えていた。
銃を撃った感覚、銃を撃った反動か、指先からジンジンと伝わってくる。
ヴィルエイムはそのまま力なく床にへたり混んだ。
つい数時間前まであんなに楽しかったのに。あんなに幸せだったのに。
どうしてこんな事になったのだろう。
ヴィルエイムは遠のいていく意識の中でそんな事を考えた。
もう、引き金を引く力すら残っていない。今のヴィルエイムは、あまりにも無力だ。
そんなヴィルエイムを見て、満足気に笑ったジルライムは、くるりと彼に背を向ける。
「流石はヴィル。俺の弟だ。お前はそれでいい、それでこそお前を生かす価値がある。」
ジルライムは、ヴィルエイムが破壊した窓に飛び乗り静かに振り返る。
「——俺は待っているよ、お前が俺を殺しにくるその日を。」
そう言って、ジルライムはヴィルエイムの前から姿を消した。
約束したのに。守ってくれると、言ってくれたのに。
「うっ……あっ……うわあああ!!!」
追いかける事すら出来なかった。
ただ目の前でジルライムが人で無くなる瞬間を見ている事しか。
なんて無力なんだ。なんて弱いんだ。
なんの力も無い、こんな自分をヴィルエイムは呪った。
そしてこの夜から、ヴィルエイムに生きる理由が出来た。
——ジルライムを殺す。
全ての始まりである、あの男を殺す。
それは復讐と呼ぶべき行為なのかもしれない。
でも、あの日に見た光景は十年経った今でも尚鮮明に覚えている。
忘れる事の出来ない悪夢。それに囚われ続けている哀れな男。
全てを精算する為にも、ヴィルエイムが選んだ道はただ一つだけ。
こうしてヴィルエイムは、祓魔師になった。
——全ては、ブィリルの王ジルライムをこの手で殺す為に。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
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