巻き込まれた薬師の日常

白髭

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3B-学院と植物

3B-02 入学の儀

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 バルサムさんが御者を務める馬車に揺られ、学院へ向かう。今日は学院に通う三人に加え、クリスティーヌ様、エリスさん、そしてパラケル師も同行していた。驚いたのはパラケル師の姿だ。いつもの魔導師ローブではなく、髭を整え、貴族らしい衣服を纏っている。しっかりとした装いをするだけで、あの頑固な師が品のある老貴族に見えるのだから不思議だ。

 自分は学院から支給された制服を着ていた。マーカー様は黒を基調とした騎士の装い。領主課程は兼務が必要で、騎士か魔導師の衣装を選ぶらしい。コーネリア様は領主課程と魔術師課程を兼ねているため、自分と同じ黒ローブ姿だった。二人の胸には二つのバッジが輝いている。

「これは領主課程と騎士課程のバッジだ。コーネリアは魔術師のものだ」
「レッド君は魔導師と魔導院のバッジね。院生・研究生共通よ」

 なるほど、バッジで課程と立場を分けているのか。今さらながら気づかされた。リンネはクリスティーヌ様の計らいで、女性執事用のロングコートを着ていた。
「小僧の学院を見に来たわけではないぞ。式典後に財団の理事会があるのだ」
「そこは弟子の晴れ舞台を見に来た、と言っておきなさいな」

「な、なに。そ、それも理由の一つだ」

 学院は王都の東に広がり、三つの区画を占有していた。三つの専門塔が立ち並び、下層は管理棟で繋がっている。端には全体集合用のホールがあり、式典はそこで行われる。馬車は天蓋付きの玄関へと誘導された。

「父兄は二階、生徒と院生は一階、使用人は控室へ」

 職員に促され、マーカー様とコーネリア様と共にホールへ入る。四階分の吹き抜けの広間。天井から光が差し込み、明るく荘厳な空間だった。すでに多くの学生が集まっている。

「レッド君。我々は在校生だから後ろだ。君は入学者だから前へ」
「ありがとうございます」

 コーネリア様は意味深に笑っていたが、理由は後で分かるだろう。
 職員の誘導で右側の院生席へ向かうと、一度止められた。

「君は課程の生徒だろう?……あ、魔導院のバッジか。失礼した」
 院生席に座ると、周囲は成人した冒険者上がりのような者ばかり。院生は四人、研究生は自分一人だった。

「小僧? 場所を間違えているぞ」
「研究生だと?」
 ざわめく声に、教員が確認に来て、バッジを見て納得した。

 やがて式が始まる。学院長ミューラーが壇上に立ち、黒ローブの裾を揺らしながら祝辞を述べる。声は澄み渡り、魔導具の拡声器を通して会場全体に響いた。

「新入生の諸君、入学おめでとう。学院長のミューラー=フェルディナントです。ここボローニャ・アカシア学院は、国内唯一の領主教育の場であり、同時に騎士・魔導師を育成する場でもあります。合格したということは、諸君の優秀さが国から高く評価された証です。通常の在籍期間は3年。領主を志す者は国の制度を学び、騎士を志す者は戦術と剣術を磨き、魔導師を志す者は世の理を探究します。それぞれ志は異なりますが、3年間で学ぶのは基礎から応用までの幅広い知識です。
 学びを深めたい、さらに高度の研究を行いたいときは、当然、先の過程も用意されています。魔術過程においては、魔導院が。騎士課程においては、軍研究部への研修。領主過程については、王宮への研修の用意があります。それぞれ学院に所属しながら、専門的な知識と経験を身に着けることができましょう。騎士課程、領主過程では担当教員、魔術過程では、研究室が相談の窓口となり、諸君らの希望、相談に親身になって受けてくれることでしょう。
  我々学院では、先人達の努力により、各分野に指導的な役割を担う人材を輩出してきました。ここでの出会い、人脈は卒業してからも続きます。各生徒が切磋琢磨し、より己の高みを目指していくことを期待します」


 続いて壇上に立ったのはエーベルス国王。金糸で縁取られた衣を纏い、背筋を伸ばした姿は威厳に満ちていた。

「国王のエーベルスである。ボローニャ・アカシア学院の入学者諸君、入学おめでとう。皆も知るように、ヨシュア大陸には四つの国が存在する。我が国を含め、すべての国は創造主ヘルメス様の御配下、正位四柱の庇護を受けている。創造主をはじめとする神々は、創世の時代から我々の生活を見守ってきた。さらに各地に散らばる下位の神格者は、地上に災いが起きぬよう、魔気の乱れを正す重要な役割を担っている。これらの話は、出席者の中には、親をはじめ、知識人からの教授もあったことだろう。
 我が国の最初の王は、我の祖ゴーフとなるのは皆も知っているだろう。南の地を管理するアクティフォーリア正位より直接封地を賜ったのがゴーフであり、アカシア王国の始まりだ。ゴーフ建国王は広大な封地を管理するため、各人に土地を貸与し、管理を任させた。それが貴族の始まりとなる。その管理を学ぶための組織が学院となろう。その学院の学びは、年を重ねるうち、貴族だけでなく、国民にも開放する運びとなった。
 ここ、ボローニャ・アカシア学院は、国の成り立ちと共に、両輪となり歩んできた歴史ある学院だ。一人でも多い優秀な人物を輩出するため、設立された意義を実感してほしい。
 我1人では広い国土を統治しきれぬ。貴族の皆の誠実な領経営が領民の生活を支え、国を成り立たせる。優秀な貴族は多ければ、国は富み、無能な貴族によれば、国の勢いがそがれるのは当然のことだ。過去にも土地の管理もできず、没落した貴族もいたのは、過去の歴史が物語っている。
 我々王宮、各候の貴族は人材を欲している。領民の個の実力も侮れぬ。君らの中には、冒険者での実績を買われ、入学してきた者もいるだろう。特に今年の推薦者は、もいるだろう。その芽を発見するのは貴族の役割だ。この学院はその芽を育て、国の為になる人材を増やす。それは直接でも間接的にでも構わぬことだ。当然、君らには各貴族の思惑と期待を肩に背負う。出資者、推薦者である各貴族の顔をつぶさぬよう、努力を重ねてほしい。
 学院で学び、成長し、領の運営もさることながら、貴族に徴用されるのもよし、国に貢献するのも良いだろう。在野に下り活動するのもよい。また、個人の偉業を達成するための手段としてもよいだろう。一つだけ忘れないで欲しい。ここで学んだことを下地として、必ず次代に繋げて欲しいのだ。そのことがこの国をより強くする土台となる。学院と国は、常に人材を求めている。共に成長し、研鑽をしてくれることを切に願う」

 ――特別な者もいるだろう。
 その言葉と共に、王の視線が自分を射抜いた。鑑定妨害の指輪が熱を帯びる。魔力を込めた視線を受け止め、なんとかやり過ごす。これが国王の力か。


 そして――。
「生徒会長、マーカー=パール君」
 壇上に立ったのはマーカー様だった。まさか生徒会長とは。コーネリア様の笑みの理由がようやく分かった。

「生徒会長のマーカー=パールです。まずは新入生の皆、入学おめでとう。ここアカシア学院は、領主、騎士、魔術師課程に分かれ、我々は同じ建物で3年間学ぶことになる。学院は、建国当初より国の成り立ちと共に過ごしてきた。先人の活躍もあり、この学院を卒業した暁には、世間には卒業生として評価されると思う。その先人に恥じぬよう、何が自分に足りないのかを常に考え行動してほしい。我々、生徒会は自主性を重んずる。今年は、前例に無い新入学生もいる。優秀な生徒も数多く入学したと聞いている。健全な学生生活を送れるよう、生徒側から積極的に風紀を正し、皆でよい学院を作っていこう。また、生徒会に入りたい学生も追加で募集する。積極的に学院の運営に参加し、より良い学生生活を送れるように協力してほしい」

 ――姿は堂々としており、同じ屋根裏で語り合った青年とは思えないほど立派だった。

 式典が終わり、在校生は解散。新入生は講習会へ。研究生と院生は研究室の呼び出しを待つ。
「レッド君。こちらへ。魔導塔へ案内する。ゲオルク研究室にいくぞ」
 研究室の関係者に声をかけられ、いよいよ自分の新たな学び舎へと歩みを進めた。


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