巻き込まれた薬師の日常

白髭

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3B-学院と植物

3B-03 知識の集積所

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「俺は講師のフランコという。教授の門下に属する教員の一人だ。よろしくな、レッド君」

 そう名乗ったのは、二十代ほどの若い男性だった。細身の体に教員専用の黒ローブを纏い、まだ学生の面影を残している。学院を卒業し、そのまま残った――そんな雰囲気を漂わせていた。

 フランコさんに軽く断りを入れ、二階に移動してリンネと合流する。パラケル師たちは理事会に出席する予定があるらしく、ここで別行動となった。

「おお、この子が手紙にあった専属助手か。やるなぁ」
「フランコ、レッドを頼むぞ」

「はっ、パラケル教授! お久しぶりです。了解しました!」

 式典ホールを出て、魔導塔へ向かう。途中、フランコさんが歩きながら話を続けた。

「レッド君、思っていたより小柄だな。悪い意味じゃない。我々は情報が乏しく、ゲオルク教授からも具体的な話はほとんどなかった。噂ばかりが先行していて、“ベンベルクからの刺客”だとか“パラケル師の再来”だとか……」

「ゲオルク教授とのやり取りは、学院長の契約動物を通してでした。私は学院長も教授も、まだ直接お姿を拝見していません。向こうからは動物の目を通して見ていたようですが」

「なるほど、学院長の使役獣を用いたのか。あの方の術は軍部からも依頼が来るほどで、国境線の偵察にまで活用されている。学院長は正位様と巫女の関係を研究し、それを動物との同調に応用している。ご本人は“神聖魔法ではなく劣化同調魔法だ”と謙遜していたがな」

 使役獣と魔力波長を同調させる……空間魔法を併用して繋がりを維持しているのか。奥義のような技術だ。

「習得は難しそうですね」
「適性がはっきり出るらしい。今のところ成功者は五人。最近、院生の一人が繋がりを得て“調教師”の職を得たと聞いた。彼は教員として残れると喜んでいたよ。ただ、学院長のように複数人を経由させるのは到底無理だろう」

 学院長の研究室は、やはり高度な技能を求められるらしい。
「そういえば、ゲオルク教授の研究は植物が題材と聞きました。自分の進めたい方向性と似ていたので、ここを選びました」

「その通りだ。研究室全体の仕事は植物の集積と基礎研究。各地から集めた植物を鑑定し、『マテリア・ハーバル』を編纂するのが我々の役目だ。有益な効果を持つ植物を後世に残す。地味だが、学院の歴史と共に続いてきた伝統ある研究だ。ただ、応用まで辿り着けていないのが現状だな」

 胸が高鳴る。ここに植物が集積し、鑑定結果がまとめられているのか。古方薬経を研究していたのも、この系譜かもしれない。

「『マテリア・ハーバル』! それは自由に閲覧できますか?」

「可能だ。原著は三つ。研究室、図書室、王宮にある。写本は自由に閲覧できる」

 管理棟を抜けると、広いロビー兼談話スペースに出た。高い天井に光が差し込み、石造りの床が冷たく輝いている。正面には円形の魔導塔がそびえ、階段が見えていた。

「過去の魔導師令で、我々の研究は“香草学”に押し込められた。今では薬として認められていない。七年前の魔導師試験改編で、魔導具試験を受けていない者は段を落とされ、魔術師に格下げされた。錬金科、特にこの研究室の門下には痛手だった。今はアルテミポーションが全盛。香草店は廃れ、他のポーションは駆逐された。残念ながら、我が門下の魔導商も作っていない」

 カンティアのマーブル香草店を思い出す。薬ではなく香草。アルテミポーションが万能薬として扱われる現状。

「アルテミポーションは即効性があるが、体への負担も大きい。我々はそれを補うものを探している。香草学こそが答えだと信じている」

 同士がここにいた。細々とでも研究を続けているのは心強い。
「あそこの階段を上るぞ」

 魔導塔は外から見ると円筒形。管理棟の石造りとは異なり、灰色の打ちっぱなし――まるでコンクリートのような質感をしていた。

「この三塔は建国当初からある建物だ。むしろ、この塔があったからこそ首都がここに定められたのだろう。塔自体が魔導具として機能している。地中から魔素を汲み上げ、塔を維持し、供給している。塔そのものが迷宮であり古代の遺構なのだ」

 正面の階段に近づくと、左が上り、右が下りと矢印が刻まれていた。すると次の瞬間、階段が動き始めた。

「これは……!」
「ふふ、移動階段だ。学生は皆驚く。レッド君は随分落ち着いているな」

「驚いていますよ。表情に乏しいだけです」
「初めて見たわ! こんな大きな魔導具!」とリンネが声を上げる。

「学院は設立当初、三塔だけだった。管理棟は後に増築された。移動階段の解析は最近完了し、複製もできた。君の師匠とフリード教授の成果だ。王宮にも複製品が設置されている。感知機能は再現できなかったが、充分役立っている」

「へえ……これが三塔すべてに。上下に移動する箱型のものもあるのですか?」
「!! 昇降機のことか。知っていたか。説明しようと思っていたのに」

 エスカレーターにエレベーター。発想は同じだ。
「すみません、先回りしました」

「生徒用は今は停止中だ。式のために生徒がいないからな。稼働するまで楽しみにしておけ。塔の教室は一フロア一室。標識もあるから迷うことはない」


 ######
 <魔導塔フロア配置>
 12.屋上
 11.ホール/会議室
 10.職員・生徒食堂
 9.空室
 8.フリード研究室/討論室7
 7.ミューラー研究室/討論室6
 6.アントニ研究室/討論室5
 5.レノック研究室/討論室4
 4.ムカージ研究室/討論室3
 3.ゲオルク研究室/討論室2
 2.アルナル研究室/討論室1
 1.ロビー・管理 <現在位置>
 ######

 十二階建ての塔。高台に建っているため、王都のどこからでも見えるという。移動階段に揺られながら、一階ずつ上がっていく。三階――そこが、自分の配属されるゲオルク研究室だった。
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