巻き込まれた薬師の日常

白髭

文字の大きさ
220 / 259
3C-分取と教育

3C-01 *正位との交信

しおりを挟む
♢♢

 私はベンベルクへの道を急いでおりました。トーマス領主はとてもお忙しい方でいらっしゃいますし、領主様が長くお留守となるのは領内にとっても決して望ましくありません。私もできるだけ早く目的を果たし、アクティアの森へ戻らなければならないのです。同行する騎士に、現在の状況を尋ねました。

「イアン。城郭都市までは、あとどのくらいかしら。森を抜ければ、もう近いと思うのだけれど」

「ルーナ様! ただいま鎮守の森を通過し、緩衝地帯の草原に入りました。あと少しで到着いたします!」

 窓の外に目を向けますと、騎士の言葉どおり、遠くに大きな城壁が見えてまいりました。ベンベルクを守る兵士たちが厳しく警戒をしております。私たちの馬車は順番待ちの列を抜け、先頭に進み出ました。申し訳なく思いながらも、今回は優先させていただきます。

「ここはパール領ベンベルク南門です。貴族馬車とお見受けいたします。所属をお示しください!」

「神殿騎士イアンと申す。この馬車はヘルメス教団本部の所有である」
「教団関係でございますか。許可証などはございますか?」

「御領主トーマス辺境伯より頂いた書簡がある。ご確認を」
 ディーンが手紙を差し出すと、兵士は丁寧に目を通し、深く頷きました。

「確かに領主の直筆でございます。兵士レオンが先導いたします。しばしお待ちください」
 兵士に導かれ、馬車は街中へと進みます。ベンベルクは迷路のように入り組んだ都市と聞いておりましたが、広場までは一直線の道でした。

「ルーナ様。迷路は外敵防衛のためでございます。お聞きになったのは北の町域でしょう。南門から広場までは直線でございます」

 侍女のフェデリカが説明してくれました。彼女はカンティア出身で、何度もベンベルクを訪れたことがあるそうです。

 人口一万ほどの都市は、思ったより大きくはありません。商店が並ぶ道を抜け、広場に出ますと、領主邸が姿を現しました。さらに城壁に囲まれ、要塞のような威容を誇っております。先導のおかげで、私たちはすんなりと通されました。

「教団本部からのお客様です。後の対応をお願いいたします。私は門へ戻ります」
「おお、レオン君、ありがとう」

 屋敷の人々に案内され、談話室へと通されました。
「おお、これはルーナ様」
「お久しゅうございます、トーマス様、ホフマン様。御言葉に甘え、参上いたしました」

「わざわざ辺境まで。ご職務も大変でございましょう」
「いえ、アクティフォーリア様とヘルメス様の御心のままに。ホーミィー村への伝手を頂きたく存じます」
「屋敷に一泊してからでもよいのでは? 強行軍と聞いております」

「お気遣い感謝いたします。ですが直接のご厄介はできません。我ら教団は世俗と隔たるのが習わし。教会に寄宿いたします」

「そうか、残念だ。では明朝、教会に向かえばよいか?」
「恐れ入りますが、ご同行いただけると助かります」

「トーマス、今回は私が出よう。ホーミィー村なら私と村長が近い」
「父上、よろしくお願いします」
「では明日、ご足労願おう」

 広場には教会が設けられておりました。領主邸の向かいに立つその教会の責任者はマティアス。本部で親しく語らった仲でございます。

「マティアス司祭。厄介になります」
「ルーナ様。アクティアの森からご足労とは……我が信仰力の不足を悔やみます」

「この距離では仕方ありません。これからもヘルメス様との繋がりを高めなさい。正位様との交信は私の役目。ここは神域が狭く、像の出力もごく最小限なのです」

「魔の森の恵みと共に生きるのが領主の代々の指示。近くに迷宮もあり、抑えるには御鎮座が必要かと」

「そうですね。各正位から最も遠い位置。迷宮の干渉もあります。新しい像が乱れを生まねばよいのですが」

「同僚シュリッター司祭とテトラフィーラ様の関係は良好。今のところ異変はございません」
「明日、直接ホーミィー村へ参ります。禊所を使わせてください。身を清めます」
「はっ。教団騎士より先触れがあり、準備は整っております」

 旅の穢れを祓い、神像の前に座しました。アクティフォーリア様に到着を報告せねばなりません。術紙を挟み、両手を合わせ、祈りを捧げます。

「デウス・ネクスゥム・アンゲロス」

 魔素を神力へと変換し、ヘルメス様の御力を借りる。神聖魔法の奥義。ここベンベルクにある像を経由し、アクティフォーリア様へと繋がります。

『おお、ルーナか』
『アクティフォーリア様。ご無沙汰しております』
『北の都市に到着したか』
『はい。明日、対峙いたします。ご準備をお願いいたします』
『うむ。明日、体を借り受けるぞ。テトラフィーラの像とやら、見てやろう。体は万全か?』

『はい。今晩で旅の疲れを癒し、御降臨に備えます』
『うむ、それならよい』

 繋がりが途切れ、私は片手を床につき息を整えました。汗が止まりません。神域への繋がりは、自らの魔素を消費して為されるのです。魔力ポーションを含み、補わなければなりません。

「ルーナ様、大丈夫ですか?」
「ええ、落ち着きました」

「マティアス司祭。魔力ポーションを補充したいのです。もちろん寄進はいたします」
「いくらでも可能でございます。領の案件にてご足労を願っておりますから、金銭は不要。補給は潤沢にございます。これは魔導師ギルドの改善の成果によるものです」

「……そういえば、震源地はここでしたわね」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。 「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。 だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに! サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...