巻き込まれた薬師の日常

白髭

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3D-道筋と察知

3D-12 晶の反転

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 藤月九日。
 試験機の製造は予定通りに進んだ。昨日は十リットル規模の装置を組み、抽出を実施。中間産物となる硫酸クイニンの粗精製を経て、さらに【再結晶】の工程を加えた結果、最終的に三十グラムの純物質を得ることができた。漸くここまで辿り着いたのだ。

「次の操作は、この研究室において秘匿を最高度に高めたい。本来ならパール邸で行いたいところだが……学院での実績としたいから、ここで行う必要がある。『ドラフトチャンバ』では側面から見えてしまう。ここは自分の『アイソレータ』を使おう。こっちに来て」

「えっ? それ程変わらないと思ったけど……」
 自分は界面を展開し、アイソレータを起動する。アイテムボックスを開くときは界面を垂直面に出し、手を差し入れる。ドラフトチャンバも同様に界面を広げるが、透明な膜として展開し、黒い部分は枠組みだけとなる。

 一方で、アイテムボックスで大きな物を出すときは底面の境界を利用する。術者の想像力次第で界面の形は変わる。術者の想像力次第で界面の形は変わる。その自由度を与えた結果、アイソレータという形に昇華した。


 このスキルは差し入れたものに界面を連動させることができる。活性化した界面は、まるで透明なゴム手袋をはめたような感覚を与える。隙間は一ミリ程度。制御の限界と効率の均衡点だった。

「この前見せたアイソレータのスキル。界面に手を入れると膜のような感覚があるだろう? 界をまたぐ違和感が無いはずだ」

「確かに……。アイテムボックスやドラフトチャンバは差し入れると違和感があるのに、これは不思議」

 自分はさらに説明を続ける。ドラフトチャンバは臭気や有毒物の拡散を防ぐために必須のスキルだが、術者自身はリスクを負う。一方でアイソレータは界面そのものを活性化させ、魔空間との間に完全な遮断を作り出す。

「匂いが移らないのはいいわ。魔空間にあるフラスコに触れると、服の上から触っているような感覚がする」
 リンネが腕を動かし、違和感を確かめる。
「もう少し昇華させたいところだが、十分だろう。没入感が良いのが利点だね」

 準備を整え、いよいよ核心に入る。

「事の発端は、ヴィレッジ・シュライン・ノワールを用いたエリクシールの作成の時だ。神酒が無くなり、どうしようかと考えていた時に思いついた。純度の高い酒精に魔石を落としたら、魔素が移ったんだ。結果は魔素酒精。純度が鍵だと確信した」

「そんな単純なこと……今まで誰も気づかなかったの?」

「現象自体は新規ではなかったのだろう。ただ、極めて純な物質でなければ起きない。だから誰も再現できなかった」

 自分は純なる硫酸クイニンの結晶を取り出す。光を反射して白く輝く針状結晶。そこにスライム由来の黒色魔石を押し当てた。

“ジュー”という音と共に黒い靄が発生し、結晶に吸い込まれていく。魔石は透明な石へと変化した。次々と魔石を追加し、同じ操作を繰り返す。

 三十一個目の魔石を消費したその時――白色結晶が突如として黒色結晶へと反転した。
「えぇー? 黒くなった!」
「魔素を含むと植物も鉱物も黒く変化する。結晶も同じなのだろう……」

 液体ではなく固体における突然の変化。反転、堕天とも言える現象。この【魔纏化】と呼ばれる反応を直接観察できたのは、大きな収穫だった。



【*硫酸クイニン。特級品。苦味有。魔素有。対ウオルク熱特効薬[錬金・製薬原料。エーテル密度100Te/g。Rp:15.0mg,p.c.,t.i.d.,*5td,Pu;0.3mg/kg]】
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