巻き込まれた薬師の日常

白髭

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3E-状況と周知

3E-04 *渦巻きの香煙

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 休憩をとり、一刻後に取り出す。小僧を真似て時間を早めた。錬金スキルによる加速――十倍程度が限度だが、それでも十分に有用だ。経過魔法と呼ばれるこの術は、小僧に教えを請い、ようやく習得できたもの。すでに師弟の関係は解消し、今は共に研鑽する相手。己の誇りなど、この際は無駄なものである。

「物を見る限り、十分に乾燥していますね。早いです。通常なら一日はかかりますから」
「それでは時間がかかりすぎる。……おおっと。やはりマキルスが少ないと脆いな」
「マキルスを減らすのは半分くらいまでですね。三対七では固くならない。これでは強度が弱い。他は大丈夫そうです」

「うむ」
「火をつけてみます。ドラフトチャンバ内で失礼します」

 セシルが火魔法を行使する。流石はクリスティーヌの侍女、魔力制御は見事なものだ。なるほど、マキルスが多いと煙も多い。ドラフトチャンバの中では、煙が立ち上がり、見えぬ壁を抜けて消失していく。空気が手元から抜け、上へと流れる。何度見ても不思議な現象だが、この働きのおかげで空間の清浄は保たれるのだ。

「十対七対三のものがよさそうですね……配合は固定にして、後は仕上げの長さでしょうか?」
「うむ。配合比率は決定で良い。ちなみに十センチほどだと、どのくらいで燃え尽きる?」

「見た感じ三十分くらいでしょうか。今度は太さを変えてみます」
「理想は八時間ほど、ゆっくりと立ち上がるものを作りたい」

「八時間! 今の太さだと百六十センチになります!」
「それを調整するのだ。太さを変えれば、どの程度延長できるか」

 セシルの押し出し機構を真似、魔銀で改良。出口を六通り作り、順次試作する。
「試作機もあっという間に作成されるのですね」
「ここで時間をかけるのは無駄だろう。手本があるなら難しくもあるまい」

 ######
 ――線香延焼時間検討――
 配合比率:ピレトラム:マキルス:炭=10:7:3
 3mm×10cm 30分
 6mm×10cm 60分
 9mm×10cm 70分
 12mm×10cm 80分
 15mm×10cm 90分
 18mm×10cm 95分
 ######

「太さを変えても、燃焼時間は大きく伸びない……」
「同じ配合比率だからでしょうか。火元が大きくなる分、燃えも早いのかもしれません。後は煙の効果との比較でしょうか」
「そうだ、効果か! よし、鑑定の力を頼ろう」

 #######
 ――鑑定結果――
 3mm【ピレトラム香。棒状。インセクト忌避[燻煙時、範囲5m]】
 6mm【ピレトラム香。棒状。インセクト忌避[燻煙時、範囲10m]】
 9mm【ピレトラム香。棒状。インセクト忌避[燻煙時、範囲11m]】
 12mm【ピレトラム香。棒状。インセクト忌避[燻煙時、範囲12m]】
 15mm【ピレトラム香。棒状。インセクト忌避[燻煙時、範囲12m]】
 18mm【ピレトラム香。棒状。インセクト忌避[燻煙時、範囲12m]】
 #######

 うむ。錬金スキルが少し成長したようだ。小僧のように追記が出る。久方ぶりの成長に驚く。紙に書き起こし、セシルと共有する。

「……太くしても効果範囲は変わらん。六ミリが良いのではないか?」
「そうですね。太くしても時間は伸びず、効果範囲も変わらない。六ミリに落ち着きますね」

「十センチで六十分。単純に長さを決めると八十センチか」
「パラケル様、それでも長すぎます。随分と長い香になります」
「何か良い工夫があれば……」

 ガチャリと扉が開く。部屋主《レッド》が帰ってきたか。
「ん? あれ、パラケル師! セシルさんも! そうか、ピレトラムか!」
「レッドの部屋が、デンタータの良い香りになってる!」
「おお、小僧、帰ったか。リンネも。部屋を借りているぞ」

 小僧は冷乾魔導具とドラフトチャンバ、作業台を眺め、状況を察した。
「へぇ、ここまで。もう香の形になっている。懐かしいや。ピレトラムだから、『蚊取線香?』 それにしても長いですね。なぜ渦巻き型にしないんですか?」

 セシルと顔を見合わせ、驚く。
「渦巻き! 小僧! 詳しく!」
「そうです! レッド様、お願いします!」

「これから加工するのでは? 螺旋を描くようにぐるぐる巻く。蛇がとぐろを巻くように。パラケル師なら治具も作れるでしょう? 少しずつ段を付けて巻けば立体的になるし。あるいはシート状にして型で切り抜くとか。クルスを作ったときのように」

「くっ、最終形も初めから聞いておけばよかった」
「そうですね……私たちの苦労はいったい……」

 小僧に今日の経緯を話す。配合は小僧も知らぬとのこと。試行錯誤は無駄ではなかった。セシルも一度は落ち込んだが、小僧の言葉で再び立ち直った。これで開発の峠は越えたとみて良い。職人への移管条件は配合比率の決定。まさか形状まで解決できるとは。これで安心してアレクノ商会の職人に任せられる。


 くくっ。王都の商人も優秀なものだ。ウーゴはすでに現地生産の構想を練っていた。彼と職人との顔つなぎも無駄ではなかった。我らテオフラス商会が開発し、アレクノ商会が作る。販売はベルナル商会とアレクノ商会。小僧はベルナル商会の一員。我らは流動的な工房のみを持つ。ベルナル商会は南部に提携先を広げ、北と南の交流で特産も売りやすくなる。小僧め、商人どもを煽り、見事に誘導したものだ。
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