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1A-遭難と保護
1A-03 都市ベンベルク
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歩きながら、レッド君から【スキル】についてのレクチャーを受ける。
『【アイテムボックス】は、たぶん僕のもの。でも君の分も合わさって、容量が増えた気がする。みんな持ってるから、君も持ってたはずだよ。容量は人それぞれだけどね』
『人によって違うのか?』
『うん。適性と職業によるかな。商人なら運べる量が増える。今入ってるのは周辺で拾ったものだけだけど。あ、そうだ。前に着てた服もあるよ。奴らが僕を綺麗にして売るつもりだったみたい』
『服があるのは助かるな。どうも…この《貫頭衣》は慣れなくて』
森の小川で、貫頭衣と下着を洗う。ついでに髪と体ももう一度洗った。
『アイテムボックスから出すときは、出したい物をイメージしてみて。僕も少し支援できるから』
何もない空間に小さな黒い窓が現れた。手を伸ばすと、レッド君の平服が取り出せた。
手順はこうだ――黒い窓を出現させ、手を入れ、欲しい物をイメージし、掴んで取り出す。これがアイテムボックスの基本操作らしい。替えの下着も出せた。操作は問題なさそうだ。
濡れたレッド君の体に平服を着せる。心の中の彼は少し恥ずかしがっていたが、同性だし気にしない。自分はもう割り切っている。
『この先はどうなってるんだ?』
アイテムボックスの黒い窓を指しながら尋ねる。
『わからない。父さんは、似た環境になってるかもって言ってた』
『生き物は渡れるのか?』
『無理。魔法と魔導具なら届くって聞いた』
『なるほど。使い方次第か』
『何に使うかわからないから、全部拾っておいて。出すときと同じように』
レッド君は焦っていた。夜になると森の状況が読めないらしい。
馬車の周囲に散らばった物を片っ端から収納する。黒い石も忘れずに放り込む。
その瞬間、胸に焼けるような違和感が走った。
『能力を使ったとき、チリっとくるでしょ? それが魔力だよ』
『なるほど、これが魔力か…』
後で検証が必要だ。今は森からの脱出が最優先。
水と食料は確保できた。道案内の相棒もいる。
ただし、この場所はレッド君にもわからないという。
逆に体調は万全に近い。踏破の制限時間は8時間。太陽は10時付近。余裕はない。
『うーん。あそこの間なら、往来は2日に1回くらい。8時間もかからないと思う。
でも、道を外したらと魔獣が出るかも』
人の気配があるならば、大概の魔獣は近寄らないらしい。
『ここで待つより、進んだほうがいいな』
人里を目指すことにした。左右両方に馬車の轍が残っている。頻繁に通っているらしく、草が生えていない。舗装されていない農道のようだ。
『ごめん。森の中だから場所がわからない。捕まってから外が見えなかったし…』
残念ながら、相棒も遭難状態。だが道があるなら、どちらに進んでも人里に辿り着けるはず。
左の道を選び、子供の足になった体で歩き始めた。
一時間、二時間と歩く。森は深く、約10キロほど進んだところで、ようやく開けた草原が見えてきた。
日差しは穏やかで、気温も快適。まるで散歩日和のような気候だ。
太陽は真上から少し外れた位置。地球で言えば、正午過ぎだろう。
『ジロウ君! あれ! ベンベルクだよ!』
地平線の先に、人工的な壁が見える。今歩いている道は、ベンベルクという都市へ続く支線の一つだったらしい。
草原の植生は見覚えがあるが、どこか違和感がある。森と同様、黒い色が混ざる植物がある。
『その黒い草は薬草に使えるよ。アルテミ草かな』
『隣の植物も同じ葉形だと思うけど、同じもの?』
『うん。魔素を含むと黒く変色するんだ』
『魔素って何だ?』
『魔法の源かな。食べ物や空気から取り込んでると思う。アイテムボックスも、体に溜めた魔素を魔力に変えて使ってるんだ。薬にも使えるよ。隣のパラケル爺さんが、魔素を集めて薬を作ってる』
『薬に魔素が入ってるのか?』
『歩きながら話そう。日が暮れちゃうし』
レッド君の助言に従い、再び歩きながら話を続ける。
魔素とは、すべての物に存在するエネルギー。
大気中や地中にも含まれていて、地下の地脈や龍穴から湧き出す。
その影響を受けた植物は黒く変色することがある。
魔素は地下から地上へ、地上から大気へと流れ、動植物がそれを吸収する。
人間も例外ではない。魔力を使うには魔素を摂取する必要がある。
ただし、摂りすぎは害になる。
植物は生育地によって魔素の濃度が異なる。
魔素が多い植物は危険なものが多く、注意が必要だ。
通常の食事では、魔素の少ないものを選ぶのが基本。
植物の魔素は時間を置けば自然に抜ける。
一方、動物は魔力器官に魔素を蓄積する。
死後、その器官は魔石と呼ばれる結晶になる。
そんな話を聞きながら、草原を三時間ほど歩いた。
途中、水を飲み、御者の干し肉を食べて休憩を挟みつつ、アイテムボックスの操作にも慣れていく。
城壁までの距離は約15キロ。時速4キロで、おおよそ4時間。
道標を立て、歩幅から距離を測ると、だいたいそのくらいだ。
『そうそう。よくわかるね。そのくらいの距離だよ』
地平線の位置から、天体の大きさも推測できた。この世界の星も、地球と似たサイズらしい。
『そんなことも分かるんだね。すごいね』
もう一度休憩を挟み、ようやく城壁の門に到着した。
高さは約5m。土と石を混ぜた構造で、周囲を囲んでいるようだ。
目視では一辺が2キロほど。体が小さくなったせいか、すべてが大きく見える。
日はすでに傾き始めていた。
野宿せずに済んだことに、少しだけ安堵した。
『【アイテムボックス】は、たぶん僕のもの。でも君の分も合わさって、容量が増えた気がする。みんな持ってるから、君も持ってたはずだよ。容量は人それぞれだけどね』
『人によって違うのか?』
『うん。適性と職業によるかな。商人なら運べる量が増える。今入ってるのは周辺で拾ったものだけだけど。あ、そうだ。前に着てた服もあるよ。奴らが僕を綺麗にして売るつもりだったみたい』
『服があるのは助かるな。どうも…この《貫頭衣》は慣れなくて』
森の小川で、貫頭衣と下着を洗う。ついでに髪と体ももう一度洗った。
『アイテムボックスから出すときは、出したい物をイメージしてみて。僕も少し支援できるから』
何もない空間に小さな黒い窓が現れた。手を伸ばすと、レッド君の平服が取り出せた。
手順はこうだ――黒い窓を出現させ、手を入れ、欲しい物をイメージし、掴んで取り出す。これがアイテムボックスの基本操作らしい。替えの下着も出せた。操作は問題なさそうだ。
濡れたレッド君の体に平服を着せる。心の中の彼は少し恥ずかしがっていたが、同性だし気にしない。自分はもう割り切っている。
『この先はどうなってるんだ?』
アイテムボックスの黒い窓を指しながら尋ねる。
『わからない。父さんは、似た環境になってるかもって言ってた』
『生き物は渡れるのか?』
『無理。魔法と魔導具なら届くって聞いた』
『なるほど。使い方次第か』
『何に使うかわからないから、全部拾っておいて。出すときと同じように』
レッド君は焦っていた。夜になると森の状況が読めないらしい。
馬車の周囲に散らばった物を片っ端から収納する。黒い石も忘れずに放り込む。
その瞬間、胸に焼けるような違和感が走った。
『能力を使ったとき、チリっとくるでしょ? それが魔力だよ』
『なるほど、これが魔力か…』
後で検証が必要だ。今は森からの脱出が最優先。
水と食料は確保できた。道案内の相棒もいる。
ただし、この場所はレッド君にもわからないという。
逆に体調は万全に近い。踏破の制限時間は8時間。太陽は10時付近。余裕はない。
『うーん。あそこの間なら、往来は2日に1回くらい。8時間もかからないと思う。
でも、道を外したらと魔獣が出るかも』
人の気配があるならば、大概の魔獣は近寄らないらしい。
『ここで待つより、進んだほうがいいな』
人里を目指すことにした。左右両方に馬車の轍が残っている。頻繁に通っているらしく、草が生えていない。舗装されていない農道のようだ。
『ごめん。森の中だから場所がわからない。捕まってから外が見えなかったし…』
残念ながら、相棒も遭難状態。だが道があるなら、どちらに進んでも人里に辿り着けるはず。
左の道を選び、子供の足になった体で歩き始めた。
一時間、二時間と歩く。森は深く、約10キロほど進んだところで、ようやく開けた草原が見えてきた。
日差しは穏やかで、気温も快適。まるで散歩日和のような気候だ。
太陽は真上から少し外れた位置。地球で言えば、正午過ぎだろう。
『ジロウ君! あれ! ベンベルクだよ!』
地平線の先に、人工的な壁が見える。今歩いている道は、ベンベルクという都市へ続く支線の一つだったらしい。
草原の植生は見覚えがあるが、どこか違和感がある。森と同様、黒い色が混ざる植物がある。
『その黒い草は薬草に使えるよ。アルテミ草かな』
『隣の植物も同じ葉形だと思うけど、同じもの?』
『うん。魔素を含むと黒く変色するんだ』
『魔素って何だ?』
『魔法の源かな。食べ物や空気から取り込んでると思う。アイテムボックスも、体に溜めた魔素を魔力に変えて使ってるんだ。薬にも使えるよ。隣のパラケル爺さんが、魔素を集めて薬を作ってる』
『薬に魔素が入ってるのか?』
『歩きながら話そう。日が暮れちゃうし』
レッド君の助言に従い、再び歩きながら話を続ける。
魔素とは、すべての物に存在するエネルギー。
大気中や地中にも含まれていて、地下の地脈や龍穴から湧き出す。
その影響を受けた植物は黒く変色することがある。
魔素は地下から地上へ、地上から大気へと流れ、動植物がそれを吸収する。
人間も例外ではない。魔力を使うには魔素を摂取する必要がある。
ただし、摂りすぎは害になる。
植物は生育地によって魔素の濃度が異なる。
魔素が多い植物は危険なものが多く、注意が必要だ。
通常の食事では、魔素の少ないものを選ぶのが基本。
植物の魔素は時間を置けば自然に抜ける。
一方、動物は魔力器官に魔素を蓄積する。
死後、その器官は魔石と呼ばれる結晶になる。
そんな話を聞きながら、草原を三時間ほど歩いた。
途中、水を飲み、御者の干し肉を食べて休憩を挟みつつ、アイテムボックスの操作にも慣れていく。
城壁までの距離は約15キロ。時速4キロで、おおよそ4時間。
道標を立て、歩幅から距離を測ると、だいたいそのくらいだ。
『そうそう。よくわかるね。そのくらいの距離だよ』
地平線の位置から、天体の大きさも推測できた。この世界の星も、地球と似たサイズらしい。
『そんなことも分かるんだね。すごいね』
もう一度休憩を挟み、ようやく城壁の門に到着した。
高さは約5m。土と石を混ぜた構造で、周囲を囲んでいるようだ。
目視では一辺が2キロほど。体が小さくなったせいか、すべてが大きく見える。
日はすでに傾き始めていた。
野宿せずに済んだことに、少しだけ安堵した。
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