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1A-遭難と保護
1A-07 *息子との再逢
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♢♢
自分はホーミィー村の商人、サルタンという。
先代から受け継いだ小さな商店を、家族で細々と営んでいる。
村の人口は三百~四百ほど。麦の生産と馬・羊の育成が主な産業だ。
店ではポーション、石鹸、布地、鍋、馬具など、日用品から金属製品まで幅広く扱っている。
村内だけでは商売が成り立たないため、城郭都市への仲卸も兼ねている。
家族は四人。妻のジーナ、息子のレッド、娘のマリン。
自分は仕入れ担当、妻は接客。
仕入れ先は城郭都市や周辺の街村で、時には王都まで足を運ぶこともある。
最近、息子レッドが初等教育を終え、見習い商人として働き始めた。
この国では十二歳になると職業登録を行い、見習いとして実地訓練に入る。
レッドは七歳の登録儀式で「商人」の職業を得て、「話術」のスキルを授かった。
親バカだが、聡明な子だ。将来の商店と一族の発展を託すに足ると信じている。
これまで何度か買い入れの練習を共にしてきたが、今回は初めての単独往来。
城郭都市の商人ギルドから物品を受け取るだけの簡単な業務だ。
ギルド口座を使うため、現金の持ち運びも最小限。
魔の森が近いとはいえ、都市の防壁と魔導具の警戒がある。
一頭引きの荷馬車を託し、送り出した。
「城郭都市までは一日の行程だ。いつも通りにやれば問題ない。自信を持って行ってこい」
「わかりました父さん。無事に勤めを果たしてきます」
それが、最後の言葉になるとは思いもしなかった。
レッドが失踪した。
出発から7日が経過しても戻らない。
往復でも最大4日。商人や冒険者が2日に1回は行き来する道だ。
常連の商人や冒険者にも声をかけ、手を尽くしたが、音沙汰はなかった。
妻のジーナの強い要望もあり、村長に捜索依頼をした。
金貨一枚を支払い、領内全域に捜索を広げてもらう。
だが、城郭都市の門の通行記録にはレッドの名はなかった。
「村長、通行記録がないということは、確実に行方不明です。捜索届をお願いします」
「ああ、わかった。残念だが、届を出そう。金貨一枚で済むだろう。領主に捜索を依頼する」
身分石は、魔力の波長によって個人を識別できる。
我が家では、誕生時に先祖代々の黒石を与える習わしがある。
レッドも7歳で職業登録を済ませ、領主の戸籍に記録されている。
最悪、遺品として身分石だけでも手元に残したい――
そう口にしたら、ジーナとマリンに怒られた。
それからの日々は辛かった。
妻と娘は日に日に落ち込み、店も家庭も沈んだ空気に包まれた。
近所からは慰めの言葉をもらい、客からは同情された。
自分も村長に何度も進捗を確認したが、進展はなかった。
「どうして一人で行かせたのよ!」
妻と娘の責める言葉が胸に刺さった。
一カ月が経過した頃、ようやく心が少しずつ回復し始めた。
そんなとき、村長が店に駆け込んできた。
「ここにいたか! サルタン、ジーナ、マリンも。レッドが見つかったぞ」
「よかった…」
「あなた、奇跡よ。一カ月も経って無事だなんて…」
捜索届と外見が一致し、身分石も本人と確認された。
ベンベルク南門で保護されたという。
力が抜けて椅子に座り込む。
ジーナとマリンは涙を流しながら喜んでいた。
「ははは…気が抜けて立てないよ」
「サルタン、しっかりして。ほら、早く」
「ジーナ…そうだな。家長として、しっかりしないと。村長、連絡ありがとうございます。準備をしなければ」
「まあ待て。保護はされたが、往来にはまだ危険がある。護衛を頼んでも問題ないだろう。留置場で保護されているから、護衛を待ってから出発するがよい」
その後、村長は自宅へ戻り、護衛の手配を進めてくれた。
「にーには帰ってくる?」
「マリン、そうだ。レッドは無事だ。明後日には帰ってくるぞ」
「にーには大丈夫なの?」
「ああ、怪我もなく、自力で城郭都市に行ったそうだ」
「マリンも向こうで会える?」
「駄目だ。まだ往来には注意が必要だ。マリンは母さんと待っていよう」
「じゃあ、ママとご飯作って待ってる」
「そうしてくれ。レッドの好きなものを作って歓迎しよう」
家の中はようやく落ち着きを取り戻した。
村長に面会し、護衛の手配が済んだことを確認。
料金は村長が立て替えてくれるという。村の存続に関わることだから、と。
翌朝、護衛の冒険者と共に荷馬車で城郭都市へ向かう。
荷物がない分、速度は出せた。門を通過し、留置場へ向かう。
「父さん、すみません。馬も荷馬車も失ってしまいました」
「命が助かっただけで十分だ。しばらく休みなさい」
面会した息子は、まるで別人のようだった。
服は同じだが、痩せていて、顔つきも硬い。
目には隈があり、寝不足の様子だった。
事情聴取によると、城郭都市へ向かう途中で人攫いに遭い、野盗に監禁され、一か月にわたって奴隷商人に連れ回されたという。
途中で逃げ出し、ようやく都市に辿り着いたらしい。
兵士の報告では、頭を打った痕跡もある。
記憶の混乱も影響しているのだろう。
今までのレッドでは考えられない行動だ。
十二歳という年齢もあり、動転していたのだろう。
時間が経てば、聡明な息子が戻ってくると信じたい。
まずは、五体満足で帰ってきたことを祝おう。
詰所、門番兵士、役所の役人に挨拶を済ませる。
レッドは普段通りの愛想を見せていたが、荷馬車に乗った途端に眠り込んだ。
冒険者の紹介にも反応が薄く、よほど疲れていたのだろう。
荷馬車で休むよう指示を出す。
帰宅後も、レッドは眠り続けていた。
その姿に、心から安堵した自分がいた。
自分はホーミィー村の商人、サルタンという。
先代から受け継いだ小さな商店を、家族で細々と営んでいる。
村の人口は三百~四百ほど。麦の生産と馬・羊の育成が主な産業だ。
店ではポーション、石鹸、布地、鍋、馬具など、日用品から金属製品まで幅広く扱っている。
村内だけでは商売が成り立たないため、城郭都市への仲卸も兼ねている。
家族は四人。妻のジーナ、息子のレッド、娘のマリン。
自分は仕入れ担当、妻は接客。
仕入れ先は城郭都市や周辺の街村で、時には王都まで足を運ぶこともある。
最近、息子レッドが初等教育を終え、見習い商人として働き始めた。
この国では十二歳になると職業登録を行い、見習いとして実地訓練に入る。
レッドは七歳の登録儀式で「商人」の職業を得て、「話術」のスキルを授かった。
親バカだが、聡明な子だ。将来の商店と一族の発展を託すに足ると信じている。
これまで何度か買い入れの練習を共にしてきたが、今回は初めての単独往来。
城郭都市の商人ギルドから物品を受け取るだけの簡単な業務だ。
ギルド口座を使うため、現金の持ち運びも最小限。
魔の森が近いとはいえ、都市の防壁と魔導具の警戒がある。
一頭引きの荷馬車を託し、送り出した。
「城郭都市までは一日の行程だ。いつも通りにやれば問題ない。自信を持って行ってこい」
「わかりました父さん。無事に勤めを果たしてきます」
それが、最後の言葉になるとは思いもしなかった。
レッドが失踪した。
出発から7日が経過しても戻らない。
往復でも最大4日。商人や冒険者が2日に1回は行き来する道だ。
常連の商人や冒険者にも声をかけ、手を尽くしたが、音沙汰はなかった。
妻のジーナの強い要望もあり、村長に捜索依頼をした。
金貨一枚を支払い、領内全域に捜索を広げてもらう。
だが、城郭都市の門の通行記録にはレッドの名はなかった。
「村長、通行記録がないということは、確実に行方不明です。捜索届をお願いします」
「ああ、わかった。残念だが、届を出そう。金貨一枚で済むだろう。領主に捜索を依頼する」
身分石は、魔力の波長によって個人を識別できる。
我が家では、誕生時に先祖代々の黒石を与える習わしがある。
レッドも7歳で職業登録を済ませ、領主の戸籍に記録されている。
最悪、遺品として身分石だけでも手元に残したい――
そう口にしたら、ジーナとマリンに怒られた。
それからの日々は辛かった。
妻と娘は日に日に落ち込み、店も家庭も沈んだ空気に包まれた。
近所からは慰めの言葉をもらい、客からは同情された。
自分も村長に何度も進捗を確認したが、進展はなかった。
「どうして一人で行かせたのよ!」
妻と娘の責める言葉が胸に刺さった。
一カ月が経過した頃、ようやく心が少しずつ回復し始めた。
そんなとき、村長が店に駆け込んできた。
「ここにいたか! サルタン、ジーナ、マリンも。レッドが見つかったぞ」
「よかった…」
「あなた、奇跡よ。一カ月も経って無事だなんて…」
捜索届と外見が一致し、身分石も本人と確認された。
ベンベルク南門で保護されたという。
力が抜けて椅子に座り込む。
ジーナとマリンは涙を流しながら喜んでいた。
「ははは…気が抜けて立てないよ」
「サルタン、しっかりして。ほら、早く」
「ジーナ…そうだな。家長として、しっかりしないと。村長、連絡ありがとうございます。準備をしなければ」
「まあ待て。保護はされたが、往来にはまだ危険がある。護衛を頼んでも問題ないだろう。留置場で保護されているから、護衛を待ってから出発するがよい」
その後、村長は自宅へ戻り、護衛の手配を進めてくれた。
「にーには帰ってくる?」
「マリン、そうだ。レッドは無事だ。明後日には帰ってくるぞ」
「にーには大丈夫なの?」
「ああ、怪我もなく、自力で城郭都市に行ったそうだ」
「マリンも向こうで会える?」
「駄目だ。まだ往来には注意が必要だ。マリンは母さんと待っていよう」
「じゃあ、ママとご飯作って待ってる」
「そうしてくれ。レッドの好きなものを作って歓迎しよう」
家の中はようやく落ち着きを取り戻した。
村長に面会し、護衛の手配が済んだことを確認。
料金は村長が立て替えてくれるという。村の存続に関わることだから、と。
翌朝、護衛の冒険者と共に荷馬車で城郭都市へ向かう。
荷物がない分、速度は出せた。門を通過し、留置場へ向かう。
「父さん、すみません。馬も荷馬車も失ってしまいました」
「命が助かっただけで十分だ。しばらく休みなさい」
面会した息子は、まるで別人のようだった。
服は同じだが、痩せていて、顔つきも硬い。
目には隈があり、寝不足の様子だった。
事情聴取によると、城郭都市へ向かう途中で人攫いに遭い、野盗に監禁され、一か月にわたって奴隷商人に連れ回されたという。
途中で逃げ出し、ようやく都市に辿り着いたらしい。
兵士の報告では、頭を打った痕跡もある。
記憶の混乱も影響しているのだろう。
今までのレッドでは考えられない行動だ。
十二歳という年齢もあり、動転していたのだろう。
時間が経てば、聡明な息子が戻ってくると信じたい。
まずは、五体満足で帰ってきたことを祝おう。
詰所、門番兵士、役所の役人に挨拶を済ませる。
レッドは普段通りの愛想を見せていたが、荷馬車に乗った途端に眠り込んだ。
冒険者の紹介にも反応が薄く、よほど疲れていたのだろう。
荷馬車で休むよう指示を出す。
帰宅後も、レッドは眠り続けていた。
その姿に、心から安堵した自分がいた。
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