巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1B-修練と改良

1B-03 爺と魔道具店

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家業の取引先のひとつ、魔導具店を訪ねる。
ここは、かつて冒険者として名を馳せたパラケル爺さんの店だ。
引退後、故郷に戻り、趣味で魔導具店を開いたという。
レッド君の記憶にもたびたび登場していた人物だ。

魔導具の製作だけでなく、ポーションの調合も手がけているらしい。
学院出の経歴を持ち、村の相談役も務めている。
そのせいか、村民からは「頑固で気難しい」と敬遠されがちだが、レッド少年は家業の関係で頻繁に出入りしており、数少ない“気を許された相手の一人”だったようだ。

その関係を活かし、今回は頼みごとがある。
魔導具と実践的な魔術の修練をお願いしたい。
以前、レッド君が頼んだときは断られたらしいが、
拉致被害に遭った今なら、同情もあって引き受けてくれるかもしれない。

この王国の「学院」は、貴族や裕福な家の子弟が通う高等教育機関だ。
ベルナル家では、レッド君の祖父が唯一の卒業生らしい。
学院を出れば、爵位の授与資格を得ることもあるという。
庶民は教会で初等教育を終えると、十一歳から家業を手伝い始め、十五歳で成人扱いとなる。
つまり、自分はあと三年、この家族と共に生きる必要がある。

パラケル爺さんの店は、村では“趣味の店”として知られている。
作りたいものを自由に作っているため、実用性に乏しい品が並ぶ。
白布をかぶせられた謎の物体が並ぶ様子は、村人の間でも話題だ。
魔導具は基本的に受注生産。
定番商品は少なく、注文や商店からの依頼で製作される。
唯一、定期的に販売されているのが、ポーションだ。
これは我が家にも卸されており、わざわざ店に来る客は少ない。

「こんにちは」
店内に入ると、ピロピロと音が鳴るが、返事はない。
店主は奥にいることが多く、カウンターのベルを鳴らさなければ出てこない。
不用心に見えるが、備え付けの防犯用魔導具が作動しており、すでにこちらの存在は把握されているようだった。

慣れた足取りで、売り物とは思えない品々を通り過ぎ、カウンター横の作業スペースへと進む。
作業衣姿のパラケル爺さんが、薬草の抽出作業に没頭していた。
ポーションの調合中らしく、抽出器具の香りが鼻をくすぐる。
しばらくして作業を終えると、くるりとこちらを向き、目を見開いた。

「久しぶりだな、少年。拉致されたと聞いたが、大丈夫なのか?」
「パラケル爺さん、ご心配おかけしてすみません。頭を怪我したようですが、もう塞がっています。一日寝たら、ほとんど影響はありません」

「災難だったな。ここらは治安も悪くないはずなんだが…」
「たまたま、運が悪かったんだと思います」
「ワシも注意していたが、見落としがあったか。…で、今日は何の用だ?」
「はい。今回の件で、自分の未熟さを痛感しました。
自分を守れなかったのが、悔しくて。
魔法か防御のスキルを身につけたいんです。
しばらくは城郭都市への買い付けも、森への立ち入りも制限されてしまいましたし…」

レッド君が、何度も作業風景を眺めていた記憶が蘇る。
本当は、魔術を学びたかったのだろう。
その想いも背負って、強気に押してみる。

「まあ、そうなるだろうな。村長もサルタンも、気を張っているだろう。見つかるまではな」

「父さんからも言われました。自衛の力が足りないって」

「そうじゃな。今回のことは、肝が冷えただろう。
ワシでよければ、魔法の“コツ”くらいは教えてやろう。
駄賃は、ワシの作業中の午後の労働だな」

思いのほか、あっさりと承諾された。
しかも、向こうからの提案だった。
拉致事件の重さが、ここまで影響しているとは思わなかった。
労働の申し出も、こちらからしようとしていたのに。

「ありがとうございます!午前中は店の手伝いがあるので、午後ならちょうどいいです。両親にも、ちゃんと許可を取っておきます」

「ああ、勝手に引き受けると、サルタンもジーナも困るからな」

パラケル爺さんは再び作業に戻った。
薬草を刻み、加熱し、抽出。
土魔法でポーション瓶を成形し、完成品を詰めていく。
その一連の流れを、レッド君は何度も見ていた。
今は、自分がその続きを引き継ぐ番だ。
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