巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1B-修練と改良

1B-04 魔素の可能性

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 しばらくポーション作業を眺めたのち、パラケル爺さんに一礼してベルナル商店へ戻る。
 両親はちょうど客足が途切れたところで、雑談をしていた。

「パラケル爺さんに魔術教授のお願いをしました。引き受けてくれたのですが、時間を割いて習ってもいいですか?」

 父サルタンは少し考えた後、うなずいた。

「盗賊のアジトがある以上、森への立ち入りは警戒が必要だ。城郭都市へ行く際も、冒険者を雇って護衛をつけたい。子供が森に入るのは控えるべきだ。魔術修練は、ちょうど良いだろう」

 母ジーナも同意する。

「防衛手段は必要よ。剣術も習ってほしいけど、この村では難しいわ。魔術なら、パラケル爺が適任ね」

 こうして、午前中は店の手伝い、午後は魔導具店での修練という日課が決まった。
 両方の掛け持ちになるが、それも仕方ない。
 魔術を学び、護身の術を身につけることは、レッド君の願いでもあった。
 それを叶えることができたのは、良い判断だったと思う。



 自室に戻り、一人で考察を始める。
 レッド君の生活範囲は、村内と商店街が中心だったようだ。
 今日の両親、妹、爺さんとのやり取りからも、彼が村にうまく溶け込んでいたことが感じ取れる。
 レッド君の精神とは、会話が難しくなりつつある。
 今では、意識の波形パターンとして伝わってくるだけだ。
 もう少しすれば、彼の意識も完全に自分に吸収されるかもしれない。
 その波形が、静かに言葉を紡ぐ。
『その時は、よろしく。家族を頼んだよ…』
『ああ、任せておけ。お前の家族は俺が守る。そのための訓練だ』



 明日から始まる魔術修練。
 おそらく、職場内訓練――OJT(On the Job Training)形式になるだろう。
 教材がない環境では、仕事を通じて教えるのが最も効率的だ。
 パラケル爺さんのような職人肌の魔導具店なら、なおさらだ。

 今日の作業を見る限り、ポーション作りが魔力操作の初歩として適しているように思える。
 魔素の流れを感じ取り、抽出し、形にする。
 その工程は、魔術の基礎そのものだ。

 この村で、爺さんから薫陶を受けながら、生きる術を身につけていきたい。
【スキル】への適性があることを、心から願う。



 先ほど爺さんが作っていたポーション。
 飲んでも、振りかけても効果がある。
 外傷なら、ほとんど何でも治してしまうという。
 両親から聞いた話だが、まるで万能治療薬のようだった。

 毒消しも同様。
 どんな毒でも解除できるという。
 こちらの世界では、魔素という概念があらゆるものに影響しているらしい。

 このポーションがあれば、薬師は不要ではないか――
 ふと、そんな考えがよぎる。

 ポーションを作れる魔術師がいれば、専門の薬を調合する薬師は必要ない。
 病気も外傷も、一本で治るなら、数万種の薬剤など不要だ。
 薬剤師の存在すら、意味を失う。

 だが、こちらに降りてきた自分の職業は【薬師】だった。
“剤”が抜けていることから、こちらの世界には「薬剤」の概念がないのかもしれない。

 これからどうすればいいのか。
 自問する。
 まずは、ポーションの作成と魔術の習得。
 それを足がかりに、これからの生活を築いていきたい。


 城郭都市では、薬草の採取を冒険者が行い、ギルドが買い取っている。
 その薬草は魔導師ギルドへ卸され、水で薬効成分を抽出し、液体ポーションとして販売される。
 レッド君の記憶も、その流れをよく理解していた。

 ベルナル商店では、村民から薬草を買い取り、パラケル爺さんに卸している。
 爺さんは買い取り業務を面倒がっており、すべて商店に任せている。
 彼が加工した高級ポーションは、再び商店に戻り、城郭都市へ流通する。
 つまり、爺さんの魔導具店は、ベルナル商店にとって重要な取引先なのだ。



 ホーミィー村の薬草は、鎮守の森の浅い場所で採れる。
 村民なら誰でも知っている情報だ。
 子供たちの小遣い稼ぎにもなっており、レッド君も何度か採取に出かけていた。
 
 薬草。
 植物学や生薬学を学んだ自分にとっては、謎すぎる存在だ。

 レッド君の記憶を参照すると、形態はほぼヨモギ。
 城郭都市へ向かう途中に見た黒いヨモギが、それだったらしい。

 こちらでは、成長速度も生命力も異常に高い。
 外傷を治す効果も、向こうの世界では
 民間療法で止血や利尿に使われる程度だ。

 確か、外国のヨモギで傷口に使われた例や、アイヌの止血薬としての使用もあった。だが、それらは医薬品としての効果とは程遠い。

 この世界では、魔素という力が、植物の内部に働きかけ、自己修復力を補完している。魔素の力が、物質の限界を超えているのだ。




 もしかすると、魔力と生薬的な力が一致すれば、さらに効果が高まるのではないか。効果の薄いヨモギですら、ここでは万能薬になる。

 ならば、魔素と薬理の融合は、未知の可能性を秘めている。
 今後、検証と実験ができれば――


 この世界での「薬師」としての道が、見えてくるかもしれない。
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