12 / 259
1B-修練と改良
1B-04 魔素の可能性
しおりを挟む
しばらくポーション作業を眺めたのち、パラケル爺さんに一礼してベルナル商店へ戻る。
両親はちょうど客足が途切れたところで、雑談をしていた。
「パラケル爺さんに魔術教授のお願いをしました。引き受けてくれたのですが、時間を割いて習ってもいいですか?」
父サルタンは少し考えた後、うなずいた。
「盗賊のアジトがある以上、森への立ち入りは警戒が必要だ。城郭都市へ行く際も、冒険者を雇って護衛をつけたい。子供が森に入るのは控えるべきだ。魔術修練は、ちょうど良いだろう」
母ジーナも同意する。
「防衛手段は必要よ。剣術も習ってほしいけど、この村では難しいわ。魔術なら、パラケル爺が適任ね」
こうして、午前中は店の手伝い、午後は魔導具店での修練という日課が決まった。
両方の掛け持ちになるが、それも仕方ない。
魔術を学び、護身の術を身につけることは、レッド君の願いでもあった。
それを叶えることができたのは、良い判断だったと思う。
自室に戻り、一人で考察を始める。
レッド君の生活範囲は、村内と商店街が中心だったようだ。
今日の両親、妹、爺さんとのやり取りからも、彼が村にうまく溶け込んでいたことが感じ取れる。
レッド君の精神とは、会話が難しくなりつつある。
今では、意識の波形パターンとして伝わってくるだけだ。
もう少しすれば、彼の意識も完全に自分に吸収されるかもしれない。
その波形が、静かに言葉を紡ぐ。
『その時は、よろしく。家族を頼んだよ…』
『ああ、任せておけ。お前の家族は俺が守る。そのための訓練だ』
明日から始まる魔術修練。
おそらく、職場内訓練――OJT(On the Job Training)形式になるだろう。
教材がない環境では、仕事を通じて教えるのが最も効率的だ。
パラケル爺さんのような職人肌の魔導具店なら、なおさらだ。
今日の作業を見る限り、ポーション作りが魔力操作の初歩として適しているように思える。
魔素の流れを感じ取り、抽出し、形にする。
その工程は、魔術の基礎そのものだ。
この村で、爺さんから薫陶を受けながら、生きる術を身につけていきたい。
【スキル】への適性があることを、心から願う。
先ほど爺さんが作っていたポーション。
飲んでも、振りかけても効果がある。
外傷なら、ほとんど何でも治してしまうという。
両親から聞いた話だが、まるで万能治療薬のようだった。
毒消しも同様。
どんな毒でも解除できるという。
こちらの世界では、魔素という概念があらゆるものに影響しているらしい。
このポーションがあれば、薬師は不要ではないか――
ふと、そんな考えがよぎる。
ポーションを作れる魔術師がいれば、専門の薬を調合する薬師は必要ない。
病気も外傷も、一本で治るなら、数万種の薬剤など不要だ。
薬剤師の存在すら、意味を失う。
だが、こちらに降りてきた自分の職業は残念ながら【薬師】だった。
“剤”が抜けていることから、こちらの世界には「薬剤」の概念がないのかもしれない。
これからどうすればいいのか。
自問する。
まずは、ポーションの作成と魔術の習得。
それを足がかりに、これからの生活を築いていきたい。
城郭都市では、薬草の採取を冒険者が行い、ギルドが買い取っている。
その薬草は魔導師ギルドへ卸され、水で薬効成分を抽出し、液体ポーションとして販売される。
レッド君の記憶も、その流れをよく理解していた。
ベルナル商店では、村民から薬草を買い取り、パラケル爺さんに卸している。
爺さんは買い取り業務を面倒がっており、すべて商店に任せている。
彼が加工した高級ポーションは、再び商店に戻り、城郭都市へ流通する。
つまり、爺さんの魔導具店は、ベルナル商店にとって重要な取引先なのだ。
ホーミィー村の薬草は、鎮守の森の浅い場所で採れる。
村民なら誰でも知っている情報だ。
子供たちの小遣い稼ぎにもなっており、レッド君も何度か採取に出かけていた。
薬草。
植物学や生薬学を学んだ自分にとっては、謎すぎる存在だ。
レッド君の記憶を参照すると、形態はほぼヨモギ。
城郭都市へ向かう途中に見た黒いヨモギが、それだったらしい。
こちらでは、成長速度も生命力も異常に高い。
外傷を治す効果も、向こうの世界では全くない。
民間療法で止血や利尿に使われる程度だ。
確か、外国のヨモギで傷口に使われた例や、アイヌの止血薬としての使用もあった。だが、それらは医薬品としての効果とは程遠い。
この世界では、魔素という力が、植物の内部に働きかけ、自己修復力を補完している。魔素の力が、物質の限界を超えているのだ。
もしかすると、魔力と生薬的な力が一致すれば、さらに効果が高まるのではないか。効果の薄いヨモギですら、ここでは万能薬になる。
ならば、魔素と薬理の融合は、未知の可能性を秘めている。
今後、検証と実験ができれば――
この世界での「薬師」としての道が、見えてくるかもしれない。
両親はちょうど客足が途切れたところで、雑談をしていた。
「パラケル爺さんに魔術教授のお願いをしました。引き受けてくれたのですが、時間を割いて習ってもいいですか?」
父サルタンは少し考えた後、うなずいた。
「盗賊のアジトがある以上、森への立ち入りは警戒が必要だ。城郭都市へ行く際も、冒険者を雇って護衛をつけたい。子供が森に入るのは控えるべきだ。魔術修練は、ちょうど良いだろう」
母ジーナも同意する。
「防衛手段は必要よ。剣術も習ってほしいけど、この村では難しいわ。魔術なら、パラケル爺が適任ね」
こうして、午前中は店の手伝い、午後は魔導具店での修練という日課が決まった。
両方の掛け持ちになるが、それも仕方ない。
魔術を学び、護身の術を身につけることは、レッド君の願いでもあった。
それを叶えることができたのは、良い判断だったと思う。
自室に戻り、一人で考察を始める。
レッド君の生活範囲は、村内と商店街が中心だったようだ。
今日の両親、妹、爺さんとのやり取りからも、彼が村にうまく溶け込んでいたことが感じ取れる。
レッド君の精神とは、会話が難しくなりつつある。
今では、意識の波形パターンとして伝わってくるだけだ。
もう少しすれば、彼の意識も完全に自分に吸収されるかもしれない。
その波形が、静かに言葉を紡ぐ。
『その時は、よろしく。家族を頼んだよ…』
『ああ、任せておけ。お前の家族は俺が守る。そのための訓練だ』
明日から始まる魔術修練。
おそらく、職場内訓練――OJT(On the Job Training)形式になるだろう。
教材がない環境では、仕事を通じて教えるのが最も効率的だ。
パラケル爺さんのような職人肌の魔導具店なら、なおさらだ。
今日の作業を見る限り、ポーション作りが魔力操作の初歩として適しているように思える。
魔素の流れを感じ取り、抽出し、形にする。
その工程は、魔術の基礎そのものだ。
この村で、爺さんから薫陶を受けながら、生きる術を身につけていきたい。
【スキル】への適性があることを、心から願う。
先ほど爺さんが作っていたポーション。
飲んでも、振りかけても効果がある。
外傷なら、ほとんど何でも治してしまうという。
両親から聞いた話だが、まるで万能治療薬のようだった。
毒消しも同様。
どんな毒でも解除できるという。
こちらの世界では、魔素という概念があらゆるものに影響しているらしい。
このポーションがあれば、薬師は不要ではないか――
ふと、そんな考えがよぎる。
ポーションを作れる魔術師がいれば、専門の薬を調合する薬師は必要ない。
病気も外傷も、一本で治るなら、数万種の薬剤など不要だ。
薬剤師の存在すら、意味を失う。
だが、こちらに降りてきた自分の職業は残念ながら【薬師】だった。
“剤”が抜けていることから、こちらの世界には「薬剤」の概念がないのかもしれない。
これからどうすればいいのか。
自問する。
まずは、ポーションの作成と魔術の習得。
それを足がかりに、これからの生活を築いていきたい。
城郭都市では、薬草の採取を冒険者が行い、ギルドが買い取っている。
その薬草は魔導師ギルドへ卸され、水で薬効成分を抽出し、液体ポーションとして販売される。
レッド君の記憶も、その流れをよく理解していた。
ベルナル商店では、村民から薬草を買い取り、パラケル爺さんに卸している。
爺さんは買い取り業務を面倒がっており、すべて商店に任せている。
彼が加工した高級ポーションは、再び商店に戻り、城郭都市へ流通する。
つまり、爺さんの魔導具店は、ベルナル商店にとって重要な取引先なのだ。
ホーミィー村の薬草は、鎮守の森の浅い場所で採れる。
村民なら誰でも知っている情報だ。
子供たちの小遣い稼ぎにもなっており、レッド君も何度か採取に出かけていた。
薬草。
植物学や生薬学を学んだ自分にとっては、謎すぎる存在だ。
レッド君の記憶を参照すると、形態はほぼヨモギ。
城郭都市へ向かう途中に見た黒いヨモギが、それだったらしい。
こちらでは、成長速度も生命力も異常に高い。
外傷を治す効果も、向こうの世界では全くない。
民間療法で止血や利尿に使われる程度だ。
確か、外国のヨモギで傷口に使われた例や、アイヌの止血薬としての使用もあった。だが、それらは医薬品としての効果とは程遠い。
この世界では、魔素という力が、植物の内部に働きかけ、自己修復力を補完している。魔素の力が、物質の限界を超えているのだ。
もしかすると、魔力と生薬的な力が一致すれば、さらに効果が高まるのではないか。効果の薄いヨモギですら、ここでは万能薬になる。
ならば、魔素と薬理の融合は、未知の可能性を秘めている。
今後、検証と実験ができれば――
この世界での「薬師」としての道が、見えてくるかもしれない。
328
あなたにおすすめの小説
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。
三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。
……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」
その言葉は、もう何度聞いたか分からない。
霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。
周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。
同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。
――俺だけが、何もできない。
反論したい気持ちはある。
でも、できない事実は変わらない。
そんな俺が、
世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて――
この時は、まだ知る由もなかった。
これは――
妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ダンジョン学園サブカル同好会の日常
くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。
まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。
しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。
一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。
【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~
夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。
「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。
だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに!
サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる