巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1C-試行と結果

1C-18 磁器と商会

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 会議が終わり、ピレネ村とマーロ村の村長たちは付き添いの人々と共に、実に嬉しそうな顔をしていた。
 無理もない。村営の窯業が始まるのだ。村民に安定した仕事を与えられる。これまで眠っていた陶石の採掘もようやく日の目を見る。絵付けの技術指導も入り、最終製品まで作れるようになる。窯元として利益を安定して得られる――それは村にとって大きな喜びだろう。

 我がベルナル商店にとっても好機だ。商人ギルドでのランクが上がり、発言力も増す。城郭都市に住む一族の販路を安定して持つことができ、商売の活性化につながる。領主にとっても、これまで他領に流れていた資金を領内で循環させられる。魔物素材以外の文化的な商品で稼げるようになるのだ。
 そして自分にとっても、生きる術が増えた。それが何よりの収穫だった。

「パラケル。自慢していた弟子を改めて紹介する必要があるんじゃないのか?」
 領主代行のホフマンが、気さくにパラケル爺さんへ声をかけた。二人は盟友だと聞いている。

「ここではいらない話だろう」
 爺さんはそう言いながらも、仕方なさそうに自分を紹介してくれた。

「ベルナル商店のレッドです。先ほどの会議では失礼しました」
 自分は軽く頭を下げた。

「お前がサルタンの息子のレッドか。ずいぶんと聡明な受け答えをしていたな。年回りは孫と同じくらいだが、驚いたぞ。会議では大人たちの間で堂々と渡り合っていた。魔術の習得の速さ、観察力――魔術師連中とは違うと聞いている。独創的な着眼点があるようだな。パラケルが自慢するだけのことはある」

「小僧はすでに四属性に加え、光と闇の魔法も習熟している。物質鑑定もできる。魔導具作りはこれからだがな」
 爺さんが補足する。

「この年でそれだけできれば十分すぎる。うちの孫は属性魔法で難儀している」
 ホフマン代行は苦笑した。
「今は学院だったな。当主が見えないのは王都に入り浸りか」
「孫二人とも学院に行っているからな。オリヴィエも付き添いで王都暮らしだ」
「代行が現役で魔物を狩っているから当主も楽だろうよ」

「……それよりも少年のほうだ。レッドという名、覚えたぞ。サルタンの子ということは、商人ギルド長の孫か。彼には都市の運営で手助けしてもらっている。城郭都市に来たときには気軽に寄れ。すぐに面会できるようにしてやろう。オレは城郭都市で気ままに魔物狩りをしている」
「ありがとうございます。その際には頼りにさせてもらいます」

「それと報酬の件はまだだったな。期待していい。パール家でしっかり考えておく。進学と金銭面の支援になるだろう。ポーション代は別途ギルドに支払っておくから、パラケルと両親と相談しておけ」
「ありがとうございます。ありがたく頂戴いたします」
「ああ、これからも励めよ」

 そう言い残し、ホフマン代行はパラケル爺さんと少し言葉を交わした後、騎士二人を連れて去っていった。
 言葉は社交辞令かもしれない。だが今回は顔つなぎとして十分な成果だった。
 馬車が見えなくなるまで、全員で見送った。

 ピレネ、マーロの村長たちはパラケル爺さんと父と今後の流れを確認していた。技術支援を随時行うようだ。満足した返答をもらった一行は、それぞれ帰路についた。



「反省会だ、パラケル爺」
 父は会議が終わるや否や、すぐに頭を切り替えた。

「ああ、レッドも入れてな。これからもう少し詰めていくぞ」
 そう言って、父とパラケル爺さんと自分の三人で会議室に残り、進捗を話し合うことになった。

「領主から各村での広域事業の承認は下りた。発注も出た。あとは関係各所に連絡して連携を取るだけだ。ベルナル商店だけでは到底流通は追いつかないだろう」
 父が切り出す。

「陶石の運搬は我が一族を含め、商人ギルドも巻き込む。薬草の買い取りをした後は、工房と人員の確保も必要だな」
 パラケル爺さんが続ける。

「我々だけで抱え込めば不平不満を生む。買い取りは冒険者ギルド、保管と販売は商人ギルドを巻き込むべきだ。独占は良くない。代行の話にもあったが、城郭都市は一致団結して取り組むようだな」
「そうなると魔導師ギルドも必要だが、どうする?」と父。

「ウィザーリングの扱いが面倒だが、代行が間に入るから何とかなるだろう。本音を言えば、下のギルド員さえ協力してくれれば十分だ」
「下のギルド員は把握しているからな、教授殿」
「その称号はやめてくれ。もう捨てた」

 二人のやり取りを聞きながら、自分はただ感心していた。領主一族からの指名を受け、音頭を取るのはこの二人。貴族が興味を持っているのは磁器の生産と元売り販売であり、ポーションは付属にすぎない。

「今回設立する工房は二つの役割を持たせる。一つは磁器の技術支援。ポーション用の磁器瓶の作成と各村の支援事業だ。これは領主が期待している事業。もう一つは薬草の処理とポーションを作成する事業。これは我々の希望だ。磁器瓶の生産は事業が軌道に乗り次第、各村に委ねていく方針で考えている」

「ポーション事業は必須だな。金は出させてもらう。領主側の大量発注を呼び水にしよう」

「ベルナル商店でも出資しておきたい。領主も各ギルドに出資を募るだろう。魔導師ギルドにも……副ギルド長に話をすればよいか?」

「ああ、そのくらいでよい。最悪、魔導師の派遣程度でも構わない」
「よほど魔導師ギルドからポーションの作成を奪いたいようですね」
「そのくらいしないと専売の特権に胡坐をかき、進歩が止まるのだ」
「確かにその通りですね……製造と販売を分ける、か」
「一定品質のポーションは工房で作る。販売は商人ギルドと魔導師ギルドに任せればよい。従来品が必要なら、魔導師ギルドが従来通り扱えばよい」

 パラケル爺さんは魔導師ギルドに不満があるらしい。言葉は辛辣だが、確かに理にかなっている。

「それでは、私は商人ギルドを担当します。陶石の流通、工房の確保を進め、併せて冒険者ギルドと商人ギルドへの折衝も行います」
「頼んだ。ワシは領主との顔つなぎと各村への技術指導を担おう」
 二人は矢継ぎ早に次々と工房の設立と役割分担を決めていく。これがこの界の商人の話し合いか――自分にとっては学ぶことばかりだった。

「レッド。お前は発注されたポーションの作成だな。あとはホーミィー村の焼成窯で磁器の試作を続けろ。ジュアンとの釉薬研究も担当してくれ」
 父から仕事を任される。

「具体的な課題は、備蓄用の大甕瓶の作成と、焼成窯での白磁作成条件の詰めだ。大甕用の魔術回路は紙に書いておいた。刻んで試してみろ」
 パラケル爺さんが補足する。

「保存用の大甕ですね。了解です」
「白磁の作成は当然、魔力を使わない方向でだ。ジュアンは大いに役立つだろう。並行して絵付けに使う釉薬をジュアンと研究してくれ。材料を供給しながら脱線しないよう見てやればよい。帰ってきたらワシも合流する。合間に領主に依頼されたポーションもいつものように作ってくれ。アルテミ草の確保は村長に頼んである」
「了解しました」

「領主代行の話は本当だぞ。金は当然として、金銭面の後押しを付けた留学はかなり推してくるだろう。期待してしっかり励め。もっとも、今回の案件は成功する未来しか見えない」

 その日のうちに、父サルタンは母と話を済ませ、城郭都市へ向かった。
 パラケル爺さんは大甕の作成を待ってから、遅れて都市へ向かうらしい。


 自分は残された課題に取り組む。
 ――この村から始まった事業が、やがて領を動かす。
 その中心に自分がいるのだと、胸の奥で静かに実感していた。
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