巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1D-窯業と産業

1D-06 釉薬と転写

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 自分がタンクの作成と改修をしている間、ジュアンさんは同じ場所で釉薬の研究を続けていた。森から集めた草木灰や金属、魔石を組み合わせて配合を試し、さらに版による転写にも興味を持ったのか、木彫りや銅板まで転がしている。材料の一部は領主経由で供給されているらしく、研究に必要なものは豊富に揃っていた。

「代行のホフマンさんから材料をいただいています。一般的な草灰のほか、金属素材や魔物由来の品も。おかげで、この陶土の傾向がだいぶ掴めてきました」

 こちらで使う釉薬は草灰を基盤に、ガラス成分を多く含む岩石を加えるのが基本だ。ただ、発色はぼやけたものが多く、先日作ったポーション磁器瓶のような鮮やかさはなかなか出ない。もっとも、この辺境では素材に困ることはない。魔石や魔銀、魔鉄、魔銅といった魔素に影響を受けた素材も手に入る。

「レッド少年とパラケルさんが使ったのは、草木灰に加えて三種類でしたね。銅粉末、魔石を使った絵付け薬、そしてポーション瓶用のガラス釉薬。白い炎で焼成して、あの鮮やかな青の紋様が出た。しかも魔導回路としても機能する」

 そう言って、ジュアンさんは試作窯で焼いた皿を十枚ほど見せてくれた。色味はそれぞれ異なっている。

「草木灰と銅粉末、魔石の組み合わせを変えてみましたが、君たちが作ったものが一番鮮やかでした。職人としては悔しいですね」

 自分は内心で苦笑した。釉薬の組成は魔力実験と【物質鑑定】で研究済みだ。陰で試行錯誤した甲斐があった。先を越されたのが不満なのだろう。

「磁器を作るときにいろいろ試しましたからね。魔導回路の効率と発色を優先しただけで、偶然の産物ですよ」
「金属を外すと発色が落ちることがわかりました。少し加えるだけで色味が変わり、魔石がさらに発色を補うようです」

 彼はさらに試作品を十枚ずつ並べ、金属と魔石の量を変えた結果を示した。銅は緑から青、黒へと変化し、ようやく成果が出たらしい。

「あとは銅粉末を鉄や銀に変えたものです」
 鉄は赤、銀は黒。鉄は量によって黄から茶、黒へと変化するが、銀は黒一色だった。
「銀は駄目でした。もう少し研究が必要です。材料が届き次第、金も試します」

 おそらく還元焼成が必要なのだろう。空気の供給を制限する焼き方だ。現状の窯では難しい。魔力で再現できるかもしれないが、ここは黙っておいた。

「ここまでやっているのなら、銅と鉄で進めたほうが良いのではないでしょうか」
 研究の幅を広げすぎないよう、方向性を誘導する。まずは完成を目指すべきだ。研究より実務を優先――父やパラケル爺さんが最も危惧している点でもある。

「そうですね……領主代行からも頼まれていますし、まずは完成を目指します。鉄と銅で絵付けを進めてみます」
 納得しきれていない様子だったが、流れはできた。そこで話題を紋様に移す。

「版画のほうはどうですか? 銅板も使ったようですが」
「そうなんだよ、レッド少年。最初はポーション回路用の版画インクを試したが、転写が難しかった。皿に使うにはもっと繊細さが必要だ。インクの粘度や余分なインクの除去に気をつければ、銅板に刻むほうがはるかに良い。細い線でインクの盛り上がりもできるし、銅板から写した紙は素地に載せやすい。複雑な紋様も描ける。今はいろんな紋様を考えているところだ」

 版画は諦め、銅板転写法に気づいたようだ。このまま任せてしまおう。

「貴族の紋章なども印刷、転写できそうですね」
「そうなんだ。複雑なものは転写で、あとは手書きで絵付けを考えている」
「魔石を使うので魔導回路としても利用可能です。問題はありますか?」
「貴族は自分のカトラリーを持参する。自慢したいのだよ。特に問題はないだろう。晩餐会用には一般的な紋様にして、回路と疑われないようにするしかない。もちろん、稼働させたいという希望が出るかもしれないがな」

 そう言って、代行に判断を委ねるような口ぶりだった。
 これでジュアンさんは絵付けに集中できるだろう。

 自分は彼に任せ、再び自分の作業へと戻った。
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