巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1E-蒸留と羊油

1E-01 村に広がる香

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 父が帰ってきてから二、三日後、パラケル爺さんがホーミィー村に戻ってきた。魔導師ダミアンと護衛の騎士たちも一緒だ。

「ダミアン、御苦労。相談役に荷物運びまでさせて済まぬな。作業所の裏手の小屋に入れてくれ」
「ああ、あそこですね」

 ダミアンは騎士たちを引き連れ、アイテムボックスから陶石を取り出して小屋に運び込む。爺さんと合わせると馬車一台分ほどの量になった。彼らは一礼して帰っていった。

「レッドよ、店番ありがとな。魔術の修練は進んでいるか?」
「四属性に加えて、光と闇も取得済みです。闇は覚えましたが、イメージが難しくてゆっくりですね」
「闇まで覚えればアイテムボックスも広大になる。商人としても働けるが……魔術師の方が適性はありそうだな」
「どうでしょうか。比べる相手が爺さんなので、よく分かりかねます」

「まあいい。この話は両親と一緒にするとしよう。それより店の様子は?」
「お客さんは来ませんでした。経営は大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、ほとんどが受注生産だ。貴族からの依頼が多いから心配はいらん」
「自分が外出したときは、ベルナル商店に行くよう札を貼っていました。日中は作業所を借りていました」

 留守中の報告をすると、爺さんは頷いた。だが、客が来なくても成り立つ経営というのは不思議に思えた。
「周囲に香水の匂いが漂っていたと聞いたぞ。還流装置でも使ったか?」
「はい。還流ではなく、蒸留できるように組み直して抽出しました」
「匂いが広がるほどとは……随分やったな。成果は?」
「川のそばにメンタが群生していたので、妹たちと採取してメンタオイルを取りました」
「なるほど、だから噂になっていたのか」
「さらにブラックメンタも蒸留しました。ポーション瓶に入れたら、濃縮魔力ポーションと鑑定されました」
「なんと! 濃縮魔力ポーションだと。現物はあるか?」

 アイテムボックスから取り出して渡すと、爺さんは唸りながら鑑定した。
「……本当に十倍濃縮魔力ポーションだ。ハイポーションの原料ではないか!」
「アルテミも濃縮できるのか?」と問われ、答える。
「まだ検証していません。安定性の試験を優先しました」
「そうか……ギルド秘匿の技術をここで見るとはな。検証はこれからか」
 爺さんは満足そうに笑った。

 その後、これまでの検証を報告した。メンタとアルテミの熱水抽出と蒸留、水蒸気蒸留による品質の違い、希釈後の鑑定結果、魔力を使う場面の検証。魔力を最小限に抑えても特級品を確保できたが、収率は半分に落ちた。オイルとウォータに魔素が分かれるためだ。だがオイルにも薬効があることが判明し、化粧品などへの応用が期待できる。成果物は磁器瓶で保存可能で、保存期間も遮光試験で確認中だ。

「特級が魔導師なしで作れるとは!」
「まだ水の清浄度が足りません。スライム浄水を使っても特級には及びません」
「スライム浄水?」

 そこで、スライムの貪食作用を利用した浄水の仕組みを説明した。さらに、死んだスライムを乾燥・粉砕した「スライム樹脂」が吸着剤として使えるのではないかという仮説も話した。

「なるほどな。仮説か。実物を見に行こう」
 二人で陶芸場へ向かい、水タンクと魔法陣を眺める。爺さんは深く息を吐いた。
「はあ、目を離した隙にやりたい放題だな。もう出来上がっているではないか。魔導師ギルドがこれを見たら卒倒するぞ。俺らを潰しにかかっている、と言い出しかねん


 結局、村の各所にタンク用の容器を作ることになったのは、当然の成り行きだった。
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