巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1E-蒸留と羊油

1E-02 金貨の価値

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 爺さんから借りた教本『治薬作成法2』を読み進めていた。そこにはハイポーションの存在が記されていたが、肝心の製法は載っていない。出版は十年前。当時、王国内で生産できたのは四つのギルドだけ。爺さんによれば、今もなお王都と三つの魔導師ギルドしか作れていないらしい。十年経っても拠点が増えていない事実に驚いた。

「教本では存在を記しているが、作り方は秘匿だ。効能は抜群だが、生産量は少ない。積極的に作っていない」
「なぜですか?」
「期限が短い。たった一週間で通常のポーション並みに落ちてしまう」

 やはりここでも品質期限の問題か。改善はされていないらしい。魔導具化した外箱で時間遅滞をかける方法はあるが、遺構由来でべらぼうに高価だという。

「それにしても、水蒸気蒸留が鍵だったとはな。アルテミをいくら濃縮してもできなかった理由がわかった」
「偶然の産物です。芳香水が得られれば御の字、程度の気持ちでした」

 爺さんは渋い顔をして言った。
「これは秘匿すべきだ。領主に相談する必要がある。匂いが村に広がっているのもまずい。噂になっている」

 爺さんは店の展示物から魔導具を取り出し、作業部屋に設置した。風魔法で空気を吸い込み、水に臭気を溶かす仕組みらしい。作動させると、あっという間にメンタとアルテミの匂いが消えた。

「さて、次は濃縮ポーションと濃縮魔力ポーションの配合だな」

 主剤は濃縮ポーション、補剤は濃縮魔力ポーション。予想を立て、瓶に入れて鑑定を繰り返す。


 ##ハイポーション配合試験(抜粋)###
 濃縮ポーション:濃縮魔力ポーション:水
 5:0:5【*5倍濃縮ポーション・特級品・効果30。治癒効果有。中間製品。液量1/10】
 5:1:4【*ハイポーション・特級品・効果60。治癒効果有。液量1/10】
 5:2:3【*ポーション+・特級品・効果33。治癒効果有。液量1/10】
 #####

「……5:1:4の割合で『ハイポーション』の表記が出たか」
 鑑定の便利さを改めて実感する。水はスライム浄水をさらに魔力で純度を上げたものを使用した。割合を外すと効果は極端に落ち、魔力ポーションを混ぜる意味がなくなる。

「まったく、贅沢な試験だな。都市の魔導師どもが見たら卒倒するぞ」
「これでも節約して1/10量にしましたよ」

 完成したハイポーションは、ポーション五本分と魔力ポーション一本分で効果十倍。見た目は普通のポーションと変わらない。鑑定がなければ区別はつかない。

【*ハイポーション。特級品。治癒効果60。大抵の外傷治癒が可能】

 爺さんは磁器瓶を振りながら言った。
「ちなみにこれは普及品でも金貨十枚で取引される。しかも期限は一ヶ月だ」
「金貨十枚……常人には手が届かないでしょう?」

「ハイポーションは外傷をほとんど修復できる。ただし欠損部位の再生はできん。だが切断された部位があれば結合は可能だ。高ランクの冒険者パーティーは万が一に備えて持つ。だが特級品は外に出ることはまずない」

 各ギルドでは受注生産か、時間遅滞の魔導具箱に入れて厳重に管理しているらしい。
「これはあまりに良すぎる。秘匿は必須だ。たとえ特級品を普及品に偽装してでも、な。領主に報告するにしても、そのままは危険だ」

 保存性について問うと、爺さんは頷いた。
「磁器瓶が魔素を遮断するのは濃縮ポーションで実証済みだ。ハイポーションも同じだろう。検証は必要だがな。だが、これをそのまま放出すれば魔導師ギルドと全面戦争だ」

 アルテミからのポーション、ブラックメンタからの魔力ポーション。濃縮品からのハイポーション。そしてオイルは化粧品への応用。


 金の匂いが、確かに漂ってきていた。
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