巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1F-氾濫と供給

1F-09 氾濫収束の兆し

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 陶器と振動の話題の中で、ふと歴史を思い出した。清から西欧へ陶器を運ぶ際には茶葉を緩衝材に使ったこと。日本からの輸出では、浮世絵の廃棄紙を紙緩衝材にしたこと。皿そのものよりも、その紙が西洋に与えた影響の方が大きかったともとされている。

 陶器を運ぶには衝撃を吸収するものが必要だ。魔術での補強にも限界がある。紙は量産できるが、この世界ではまだ貴重だ。布も同様。ならば自然物を使うしかない。

 まず思いついたのは薬草の乾燥物。茶葉と同じように使えるが、魔素が拡散してしまうため保存が難しい。次に考えたのはメンタ草。至る所に生え、虫除け効果もある。魔素を含まないものは草木灰に使われ、釉薬作りに欠かせない。陶器の生産地には必ずあるはずだ。乾燥させて皿の間に敷き詰めれば、衝撃を吸収できる。さらに箱に乾燥付与を施せば品質保持もできる。開封後は蒸留してメンタオイルを取ることも可能だ。

「陶器の破損は運搬時の振動で起きます。陶器同士や箱に当たったときですね」
「固いもの同士を重ねれば壊れるのは当然だ」
「馬車の改良や箱の付与だけでは不十分です。柔らかいものを間に挟むべきです」
「そんな都合の良いものがあるのか?」
「釉薬用に収穫した草を乾燥させ、皿の間に敷くのです」
「なるほど、それは良い」
「紙や布は不足しています。ですがメンタ草なら豊富です」
「虫も寄らないし、匂いも悪くない。良い案だ」

 祖父はその場で立ち上がり、商人に通達を出すため出て行った。叔父も後を追う。
「これで懸案だった輸送の問題は片付いたな」
「商売ですからね。荷馬車の改良や道路補修の話も出ていたのはそのためか」
「街道は領主案件だ。陶磁器は領主の念願の事業だし、今回は念入りに整備されるだろう」

 磁器の生産と輸送の問題は解決した。自分にできることは終わっただろう。
 夕暮れ、パラケル爺がぽつりと呟いた。
「あと三日だな」
「氾濫のことですか?」
「そうだ。森の主の入れ替わりが起きるなら頃合いだ。だが観測魔導具の記録では、今回は荒れは小さい。オークの長程度で収束するだろう」
「そんなことまでわかるんですね」
「その魔導具を作ったのはワシだからな」
 日が暮れ、今日の仕事は終わった。魔術ギルドと商人ギルドに顔を出し、一日の締めくくりとした。
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