74 / 271
1F-氾濫と供給
1F-10 撒き餌
しおりを挟む
四日目。救護所に顔を出したが、すでに商人ギルドと魔導師ギルドの人員で十分に回っていた。手伝いは不要とのこと。代わりにヘレナから「パラケルの指導に付き添ってほしい」と頼まれる。どうやら厳しすぎるらしい。
魔導師ギルドの生産室に入ると、蒸留装置を前にパラケル爺が怒鳴っていた。小型の実験器具を使い、ガウスとオルグが居残りで実習を受けている。
「だから言っているだろう、水蒸気から液体に変わる冷却器で成分と魔素を移すんだ!」
「そう言われても難しいのです」
熱水抽出によるポーション作りは終わり、及第点はもらったらしい。ギルド全体で千本を超える成果。今は蒸留による精油抽出に挑戦しているが、魔素の移動制御が難題となっている。
「魔術はイメージだ。水蒸気がブラックメンタを加熱し、成分と油を引き離す。その蒸気を冷却管で冷やすとき、水か油に分かれる。魔素と成分を細かい水に移すイメージを持て。油に取られると収率が下がる。すべて水に溶け込ませるように移動させろ」
何度も挑戦しているが、成果はいまひとつ。そこで自分が口を挟む。
「体内の魔力回路は血管の筋肉層にありますよね。血流を通すように魔素を動かす感覚です。腕を動かす筋肉と同じ。冒険者や騎士はそれを【肉体操作】と呼んでいます。目も同じです。焦点を合わせたり瞬きをするのに筋肉を使います。そこに魔力を通すのです。パラケル爺さんも視力強化で使っていますよね?」
「ああ、そうだな」
「魔力を集めて動かすと、魔素が見えるようになります。それが【物質鑑定】の基礎です」
オルグとガウスは集中し、目に魔力を集め始めた。
「どうですか、メンタの魔素は見えますか?」
「ああ、キラキラしたものが見える」
「それです。そのキラキラを蒸気中の水に移すイメージで」
「わかりやすい!」
「わかりやすいとはなんだ、だから言っているだろう!」
パラケル爺は怒鳴りつつも満足げだ。
魔力の経路は二系統――筋肉と神経。血管系の回路は魔力放出に、神経と筋肉の回路は肉体操作や視力強化に使われる。さらに脳の神経系を強化すれば【物質鑑定】などの高次スキルに至る。魔力は電気信号に似ており、増幅・強化だけでなく独自の作用を発揮する。
今回の素材は厳選されたブラックメンタの葉。普及品以下は出ない。オルグの蒸留は一級品に仕上がった。
「やった、だいぶ移ってきました!」
「もう少しだ。あと十回は繰り返せ」
「ひぃー、パラケル爺さんがオーガキングに見える……」
「誰がオーガキングだ! お前たちのためだ。ヘレナやエラスムスはもう習得して救護所に行っている。お前たちも早く加われ!」
ギルド長ウィザーリングは領主代行に付きっきりで不在。パラケル爺はその間に職員を徹底的に鍛えている。
「魔力・治癒、それぞれの濃縮ポーションができれば、行き着く先はハイポーションだ。国内で四カ所目の量産地になる。実績もつく。これ以上ない餌だろう?」
爺さんはニヤリと笑った。ハイポーションを餌に、魔導師ギルドを変えようとしているのだ。
魔導師ギルドの生産室に入ると、蒸留装置を前にパラケル爺が怒鳴っていた。小型の実験器具を使い、ガウスとオルグが居残りで実習を受けている。
「だから言っているだろう、水蒸気から液体に変わる冷却器で成分と魔素を移すんだ!」
「そう言われても難しいのです」
熱水抽出によるポーション作りは終わり、及第点はもらったらしい。ギルド全体で千本を超える成果。今は蒸留による精油抽出に挑戦しているが、魔素の移動制御が難題となっている。
「魔術はイメージだ。水蒸気がブラックメンタを加熱し、成分と油を引き離す。その蒸気を冷却管で冷やすとき、水か油に分かれる。魔素と成分を細かい水に移すイメージを持て。油に取られると収率が下がる。すべて水に溶け込ませるように移動させろ」
何度も挑戦しているが、成果はいまひとつ。そこで自分が口を挟む。
「体内の魔力回路は血管の筋肉層にありますよね。血流を通すように魔素を動かす感覚です。腕を動かす筋肉と同じ。冒険者や騎士はそれを【肉体操作】と呼んでいます。目も同じです。焦点を合わせたり瞬きをするのに筋肉を使います。そこに魔力を通すのです。パラケル爺さんも視力強化で使っていますよね?」
「ああ、そうだな」
「魔力を集めて動かすと、魔素が見えるようになります。それが【物質鑑定】の基礎です」
オルグとガウスは集中し、目に魔力を集め始めた。
「どうですか、メンタの魔素は見えますか?」
「ああ、キラキラしたものが見える」
「それです。そのキラキラを蒸気中の水に移すイメージで」
「わかりやすい!」
「わかりやすいとはなんだ、だから言っているだろう!」
パラケル爺は怒鳴りつつも満足げだ。
魔力の経路は二系統――筋肉と神経。血管系の回路は魔力放出に、神経と筋肉の回路は肉体操作や視力強化に使われる。さらに脳の神経系を強化すれば【物質鑑定】などの高次スキルに至る。魔力は電気信号に似ており、増幅・強化だけでなく独自の作用を発揮する。
今回の素材は厳選されたブラックメンタの葉。普及品以下は出ない。オルグの蒸留は一級品に仕上がった。
「やった、だいぶ移ってきました!」
「もう少しだ。あと十回は繰り返せ」
「ひぃー、パラケル爺さんがオーガキングに見える……」
「誰がオーガキングだ! お前たちのためだ。ヘレナやエラスムスはもう習得して救護所に行っている。お前たちも早く加われ!」
ギルド長ウィザーリングは領主代行に付きっきりで不在。パラケル爺はその間に職員を徹底的に鍛えている。
「魔力・治癒、それぞれの濃縮ポーションができれば、行き着く先はハイポーションだ。国内で四カ所目の量産地になる。実績もつく。これ以上ない餌だろう?」
爺さんはニヤリと笑った。ハイポーションを餌に、魔導師ギルドを変えようとしているのだ。
165
あなたにおすすめの小説
精霊に愛された錬金術師、チートすぎてもはや無敵!?
あーもんど
ファンタジー
精霊の愛し子で、帝国唯一の錬金術師である公爵令嬢プリシラ。
彼女は今日もマイペースに、精霊達と楽しくモノ作りに励む。
ときどき、悪人を断罪したり人々を救ったりしながら。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
◆三人称視点で本格的に書くのは初めてなので、温かい目で見守っていただけますと幸いです◆
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
奪う人たちは放っておいて私はお菓子を焼きます
タマ マコト
ファンタジー
伯爵家の次女クラリス・フォン・ブランディエは、姉ヴィオレッタと常に比較され、「控えめでいなさい」と言われ続けて育った。やがて姉の縁談を機に、母ベアトリスの価値観の中では自分が永遠に“引き立て役”でしかないと悟ったクラリスは、父が遺した領都の家を頼りに自ら家を出る。
領都の端でひとり焼き菓子を焼き始めた彼女は、午後の光が差す小さな店『午後の窓』を開く。そこへ、紅茶の香りに異様に敏感な謎の青年が現れる。名も素性も明かさぬまま、ただ菓子の味を静かに言い当てる彼との出会いが、クラリスの新しい人生をゆっくりと動かし始める。
奪い合う世界から離れ、比較されない場所で生きると決めた少女の、静かな再出発の物語。
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる