巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1F-氾濫と供給

1F-10 撒き餌

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 四日目。救護所に顔を出したが、すでに商人ギルドと魔導師ギルドの人員で十分に回っていた。手伝いは不要とのこと。代わりにヘレナから「パラケルの指導に付き添ってほしい」と頼まれる。どうやら厳しすぎるらしい。

 魔導師ギルドの生産室に入ると、蒸留装置を前にパラケル爺が怒鳴っていた。小型の実験器具を使い、ガウスとオルグが居残りで実習を受けている。

「だから言っているだろう、水蒸気から液体に変わる冷却器で成分と魔素を移すんだ!」
「そう言われても難しいのです」

 熱水抽出によるポーション作りは終わり、及第点はもらったらしい。ギルド全体で千本を超える成果。今は蒸留による精油抽出に挑戦しているが、魔素の移動制御が難題となっている。

「魔術はイメージだ。水蒸気がブラックメンタを加熱し、成分と油を引き離す。その蒸気を冷却管で冷やすとき、水か油に分かれる。魔素と成分を細かい水に移すイメージを持て。油に取られると収率が下がる。すべて水に溶け込ませるように移動させろ」

 何度も挑戦しているが、成果はいまひとつ。そこで自分が口を挟む。
「体内の魔力回路は血管の筋肉層にありますよね。血流を通すように魔素を動かす感覚です。腕を動かす筋肉と同じ。冒険者や騎士はそれを【肉体操作】と呼んでいます。目も同じです。焦点を合わせたり瞬きをするのに筋肉を使います。そこに魔力を通すのです。パラケル爺さんも視力強化で使っていますよね?」
「ああ、そうだな」
「魔力を集めて動かすと、魔素が見えるようになります。それが【物質鑑定】の基礎です」

 オルグとガウスは集中し、目に魔力を集め始めた。
「どうですか、メンタの魔素は見えますか?」
「ああ、キラキラしたものが見える」
「それです。そのキラキラを蒸気中の水に移すイメージで」
「わかりやすい!」
「わかりやすいとはなんだ、だから言っているだろう!」

 パラケル爺は怒鳴りつつも満足げだ。
 魔力の経路は二系統――筋肉と神経。血管系の回路は魔力放出に、神経と筋肉の回路は肉体操作や視力強化に使われる。さらに脳の神経系を強化すれば【物質鑑定】などの高次スキルに至る。魔力は電気信号に似ており、増幅・強化だけでなく独自の作用を発揮する。

 今回の素材は厳選されたブラックメンタの葉。普及品以下は出ない。オルグの蒸留は一級品に仕上がった。

「やった、だいぶ移ってきました!」
「もう少しだ。あと十回は繰り返せ」
「ひぃー、パラケル爺さんがオーガキングに見える……」
「誰がオーガキングだ! お前たちのためだ。ヘレナやエラスムスはもう習得して救護所に行っている。お前たちも早く加われ!」

 ギルド長ウィザーリングは領主代行に付きっきりで不在。パラケル爺はその間に職員を徹底的に鍛えている。

「魔力・治癒、それぞれの濃縮ポーションができれば、行き着く先はハイポーションだ。国内で四カ所目の量産地になる。実績もつく。これ以上ない餌だろう?」

 爺さんはニヤリと笑った。ハイポーションを餌に、魔導師ギルドを変えようとしているのだ。
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