巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1G-酒精と層菓

1G-09 整理された記憶

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 昨夜はパラケル爺さんに捕まって、蒸留の話に付き合わされた。話題は当然、葡萄酒の蒸留についてだ。基本は『ロセアスティル』と同じ二回蒸留の工程。単式蒸留で規定された地方酒の製法を、自分の知る限り説明した。

「ほう、アクアヴィーテといっても原料はいろいろなのだな」
「そうです。蒸留酒という括りですから。ロセアスティルはエールから、今回は葡萄酒から作る方法です」

 1段目の蒸留では、初留をテット、回収部分をブルイ、最後の廃棄部分をクーと呼ぶ。ブルイは酒精度20~30%、液量は1/3ほど。これを3回ほど繰り返し、集めたブルイを2段目に回す。2段目ではさらに分留し、テット、クール、スゴンド、クーに分ける。最も酒精度の高いクールを熟成樽に入れる。スゴンドは再蒸留に回すこともできる。結果として酒精度は70%前後に落ち着く。

「今回は画分が厳密に区分されているのだな」
「そうです。向こうでは細かい規定がありました」

 朝食はそのままパラケル家で。妖精のルプラとローセアも一緒だ。食器が足りないので一枚の皿を分け合っている。

「やけに酒に詳しいね。蒸留工程を説明するのも大変だろう?」
「前に調べていたんです。飲むのが好きで、作り方も気になって」

 エールの製法は知っていたが、葡萄酒は未知の領域だった。だがエルフの族長や主も強い関心を持っているらしい。

 裏庭に移動し、昨日とは別の蒸留器を造形する。魔銀を粘土のように操り、装置を組み上げる自分を見て、妖精たちは感心していた。

 ふと、ローセアに尋ねる。
「昨日の祝福って、あれは何だったの?」

 頭の中が妙にクリアで、知識がすんなり引き出せるのが気になっていた。
「小僧、それは長所を伸ばす妖精スキルの一種だろう」

「そう。レッド――いや、自分の頭を整理して、【製薬】スキルをもっと使いやすくしたの」

 確認して驚いた。今まで雲に覆われていた記憶が、きれいに整理されている。自分の記憶像は樹木のようで、枝葉の先に記憶の引き出しがある。絡まり合って掴めなかった枝が、今はすっと手に届く。忘れかけた知識までよみがえった。

「さらに奥に、知識の辞典みたいなものがあったからスキルと繋げてみたよ。薬詩というものと」
「薬詩!」

 薬詩――pharmacopoea。薬局方だ。薬の規格や試験法を定めた公定書。自分が仕事で散々見てきた本だ。USP、EP、日局……三極が揃っている。
「どう使うかは任せるよ。レッドなら使いこなせる」
「ありがたい。知識があるのと無いのとでは大違いです」

 薬詩と製薬スキル。表裏一体。ようやく自分にとっての「武器」を手に入れた実感があった。


*R7.10.13大幅改稿し、シュリンクしました。***
原文は pharmacopoea。文節は、pharmaco-poeaで切れます。pharmcoは薬・薬局。poeaは詩。薬局の詩。即ち、業界用語で薬局方。薬の公定書です。

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