巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1H-鎮守と毒性

1H-12 「美味」の証明

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 自分の操作で鑑定結果から無毒化まで持っていくことはできた。では、三人のエルフはどうだろう。まずはパラケル爺さんに相談してみる。

「パラケル爺さん。今作ったこのサゴは、どのように【物質鑑定】できていますか?」
「【*サゴ。サイカスの実。可食可。美味】だな。ワシの鑑定では」
「私の結果でも同じね」
「……自分の結果も同様です」
 シエサが少し動揺したように答える。

 なるほど。自分の鑑定では「澱粉質を含む」などの詳細が出るが、他者の鑑定では省略される。これが鑑定者による結果の差異なのだろう。
「鑑定結果に[美味]が出ることが、一つの指標になりそうです。それぞれが[美味]が出るまで実施してみましょう」
「よし、ワシがまずやってみるか」

 パラケル爺さんが一番に乗り出した。殻を割り、サゴを砕く。慣れた手つきだ。水を加え、かき混ぜながら魔素を剥がすように魔力操作を行う。沈殿を待ち、やがて沈殿を待ち、上澄みを捨てた。

「ああ、なるほどな。これはポーションの時と大差ない。これで魔素を含んだ水を捨てれば良いのか?」

「はい。同じ操作をあと二回です」
 パラケル爺さんは二度、三度と繰り返す。魔力の通りを見ると、ほとんど魔素は残っていない。

「このくらいでもう良いのではないか?」
「はい、大丈夫です。念のため、もう一度すすいでください」

 三回目の水晒しを終え、【物質鑑定】を行ったパラケル爺さんが満足げに頷く。
「[美味]が出たな。小僧の鑑定でも同じか?」
「はい。自分の鑑定でも[美味]、さらに[無毒]と出ています。問題ないと判断できます」

「はあ……長い間やってきたが、解決する時はあっという間だな」
 パラケル爺さんが天を仰いでため息をつく。その背中に、長年の苦労が滲んでいた。

 次いで加工所のエルフたちも鑑定を行う。パラケル爺さんが作ったサゴでも[美味]が見えたようだ。彼らは驚愕し、そして震えた。リーダーのシエサが試食の許可を求め、エリスが頷く。

「……っ!」
喉を通ると同時に、彼の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。声にならない嗚咽が漏れ、長年押し殺してきた感情が一気に溢れ出した。

「エリス様!これ……これです!」
震える声で叫ぶ。

「向こうの森で食べた懐かしい味。何にでも合う、我らの主食……!」

 その声に、残りの二人も器を手に取り、口に運んだ。

「……ああ……!」

一人は両手で顔を覆い、嗚咽を堪えきれずに膝をついた。
もう一人は口を押さえ、涙を流しながら必死に笑おうとした。


エリスもつられて口にする。
「!?……はぁ。これよ。優しい味。懐かしい……シエサ、よかったわね」
彼女の声も震え、目尻に光るものが浮かんでいた。

「はい。長年の苦しみが解放された気がします」
「もうポーションを飲まなくても良いのか」
「パラケル殿ができるなら、我々も……」

 三人のエルフは、言葉を交わすたびに涙を流し、嗚咽を漏らしながら食べ続けた。器を持つ手は震え、涙がサゴに落ちて混じる。それでも彼らは止められなかった。

 ――試食と休憩を終え、次は彼ら自身が作業を行う番だ。
「次は皆さんで行ってみてください」
「よし、懐かしい味を食べられたし、やるか!」
「さあ、自分たちの番だ!」
「ああ!」
 三人はサゴを砕き、水を入れてかき混ぜる。手をかざし、水中の魔素を把握する。

「なるほど……これはポーションの時と感覚は同じだ」
「むしろ、剥がすのは楽なくらいだ」
「なぜ今まで気づかなかったのだろう?」
「水に溶けやすいものを移すのは、比較的容易だからでしょう」
 三人は魔素を剥がし、上澄みを捨てる。さらに二度繰り返す。

「魔力の通りを見るに、もうほとんど残っていない」
「オレも同じだ」
「毒魔素の効果は強い。取りこぼしがないように」
「了解した。おい、一つも残すなよ」
「はい、リーダー」
「わかりました」
 三度の抽出を終え、それぞれが鑑定する。自分も確認する。

【*サゴ。サイカスの子実を集めたもの。澱粉質を含む。可食可。美味[加工品;無毒。澱粉・酒の材料として各種料理に用いる]】

「……よし」
 三人も鑑定結果を見て試食を始めた。

「リーダー、自分たちでも作れました!」
「うう……美味い。自分で作ったものは格別だ」
「お前ら、泣くな。まだ乾燥させていないぞ」

 三人のエルフは、言葉を交わすたびに涙を流し、嗚咽を漏らしながら食べ続けた。器を持つ手は震え、涙がサゴに落ちて混じる。それでも彼らは止められなかった。

 張り詰めていた加工場の空気が、次第に変わっていった。重苦しい沈黙と不安に満ちていた場は、涙と笑みが入り混じる温かな空気に包まれていく。

シエサは深く息を吐き、震える声で言った。
「……ようやく、我らの里に未来が見えた気がする」
その言葉に、他の二人も頷き、涙を拭いながら笑みを浮かべる。

エリスもまた、安堵の表情を浮かべ、静かに目を閉じた。

 
 リーダーも涙を堪えながら作業を続ける。最後に天日干しを行う。
「乾燥しなくても無毒化はできていますが、念には念を入れましょう」
「わかった。お前ら、天日干しだ」

 ――翌日。乾燥を経たサゴも実証した。結果は同じく無毒化。しかし、これは一本の木の実での結果に過ぎない。森に自生する木々では毒素や魔素の含有量に揺らぎがあるため、工程には余裕を持たせる必要がある。天日干しを省くことは、将来の安全を損なう恐れがある。


「毒魔素の除去に柔軟に対応するため、操作者の力量差に備えるためにも、最初の天日干しを挟む加工を提案します」


「ああ、理解した。必ず天日干しと終了後の【物質鑑定】を実施する。[美味]が出なければ食さない。一定の魔力操作と鑑定魔法を持つ者が加工を担う。それを確約しよう。あとは族長への報告だな」

 シエサと握手を交わし、互いの健闘を称え合った。

「ようやく族長に良い報告ができそうね……」

 絶望から希望へ。重苦しさは消え、代わりに「これからは変えられる」という確信が広がっていた。
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